前作はこちら「浄化編」
液化したガスで満たされた水槽のなかに巨漢のモンゴロイドが沈んでいる。その男はテロリストの爆弾を身に受けたせいで激しく損傷しており、通常なら性器がある部位より下の体は治療のため敢えて切断されていた。上半身にも大小の裂傷が見て取れる。
瞳に湛えた涙をこすりながらその様子を心配そうに見守る人物がいる。体つきはまだ子供といっても差支えのない華奢な肢体に、黒い衣装を着せられた妖しく美しい人形のような佇まいだ。
「仁科さん、いつ治るのかな…」
再生槽に取り付けられているモニターにチカチカと文字が浮かび上がっている。それは男がみている夢の断片なのかもしれない。
「今日もお見舞いに来たのナイン、毎日感心だこと。あら泣いてるの?」
長い黒髪を一本に編みこんだ白衣姿の女性が入ってきて、心配そうに満身創痍の男を見つめていた人物に声をかけた。
「グズっ。泣いてなんか、ないですよ女王様。別に全然心配もしてないですし。まあその、仁科さんまだ身体半分くらいしかなくって、この先どうなるんだろうとは思ってますけど…一応ボクのペットですから」
この国の支配者であり卓越した科学者でもある女王は自分が生み出した目の前の合成人間が示す情操に驚いた。精子はもちろん卵子すら使わず人工的に合成した胚から創られた人形が、失いたくないと思う程に大切な他者を認識して頬を濡らしていたからだ。生まれながらに性別がない合成人間たちは生殖に対する感性が特殊で、去勢を遊びのように楽しむ嗜虐性があるなど製作者の女王でもその育成は手探りだ。
「ごめなさいねナイン、貴方がその大事なペットと一緒にミュンヘンの市民去勢会場で起きたテロの被害を最小限にしてくれたのにね。そのクローンの治療にはまだ少し時間を頂戴」
「大丈夫です、女王様が治してくださるのを待ちます。ずっとこうしてもいられないですね、クローン工場でフォーのお手伝いをすることになってるのでボクもう行きます」
続けて言葉をかける暇もなく合成人間がパタパタと駆け出していったので、女王はやれやれと肩を上下させてから作業に取り掛かった。
ナインはクローン生産施設に向かう途中で去勢工場にも顔を出す。昨夜搬入されたプロスポーツ選手たちを去勢して、彼らの睾丸を持ってきてほしいとお使いを頼まれていたからだ。去勢工場ではラグビーチームの選手たちが自分たちの境遇を理解できずに混乱状態だ。彼らの所属するリーグ最下位のクラブチームは、スポンサーからの出資を打ち切られた為に選手のあずかり知らないところで所属会社が勝手に売り払われていた。
四本足の上に箱がのったような奇妙な物体に既に裸で腰を取り込まれた選手たちは、本来なら試合の遠征先に向かうはずだった。しかし、飛行機が降り立ったのはこの得体のしれない去勢工場がある都市国家だった。彼らはここが何処なのか、自分の身にこれから何が起こるかもわかっていない。チームが所属する会社のCEOは、無情な人身売買の契約書に提示された目もくらむような金額に、迷うことなくサインをしてしまった。
「おい見ろ、あそこに子供がいるぞ。 おーい、そこの君!こっちへきてくれないかー」呼び止められた合成人間は何事だろうと思いながら近づいていく。
「どうしたのオジサン、ボクに何か用?」
「怖がらないでくれよ、厳ついやつらばっかりでゴメンな。君はラグビーって知ってるかい? 俺たちその試合に行く途中なんだ。なのに、ここがどこかもさっぱりわからんし、すごく困ってるんだ」
「うんうん、オジサンたちは困ってる」
「そうそう、そうなんだよ。なあ君、だれか大人のひとを呼んできてほしいんだ」
「この近くいるのは女王様ぐらいだけど、まさかオジサンたちに会ってはくれないと思うよ。それにボクはオジサンたちの睾丸を持ってきてほしいって頼まれてるからさ、悪いけどあんまり相手をしてあげる時間ないんだ」
「へっ? 俺らのタマをどうするって…」
ナインが補助脳から信号を発信すると、オートマチック去勢ユニットである人工生命たちは、選手たちを乗せたまま縦一列に合体を始めた。ナインと話した男を先頭に、クラブチーム23人がひとつになって奇妙なスクラムを組まされる。
>>精巣摘出ヲ実行
>>連結パック出力
「痛っ。この変な奴、なかでキンタマ触ってやがる」
「イテテ、何だこりゃ俺もだ。あーっ!」
「ひゃっ、キンタマの袋がちょっと裂けたんじゃねえか!?」
去勢ロボットたちは並列起動して筐体内にぶら下がる男たちの陰嚢縫線を数センチだけ切開した。ユニットを構成する組織が根元から下へと玉の入った袋を絞っていくと、選手たちは激痛を伴って股の間で何かがポンと飛び出していく感触を味わうことになる。
「がはあっ! ななな、なんだあ!?」
「ぐあっ!たた、タマが、俺のタマがっ」
「ヒイっやめろ、やめろっ、痛っ、痛っ、イぃだだだだ!」
あれよという間に精索も絞り切られて採取された選手たちの睾丸は、連結したオートマチック去勢ユニットの内部で、長い一枚につながった透明なシートの上に一組ずつ並べられる。すると23組46個の睾丸は調剤薬局で一包化された薬のように、一包ごとにミシン目の入ったひと続きのパッケージになって、いちばん前のユニットから続々と出力されてくる。
「出てきた、出てきた。ほらみて、これがオジサンたちの金玉だよ。ひとつづりだけど、ちゃんと一人分ずつ分けて包装してみたんだ。上手くできてるでしょ?」
「そそそ、それ…ゴクっ…俺たちのキンタマ…なの…かよ」
「うん、そうだよ。これでボクの用事は済んだからもう行くね、バイバーイ」
翌朝のニュースではラグビーのクラブチームが遠征に向かう途中、飛行機ごと行方不明になって未だ消息がわからないと報道されることになる。子供のような姿の人物が自分たちの大切な金玉を抱えて忙しそうにどこかへ走り去ってしまう。選手たちが手を伸ばして待ってくれと大声で叫び訴える声が、去勢工場に虚しくこだました。
お使いを済ませたナインが両手にたくさんの玉を抱えてひょっこりクローン工場にやってきた。取り扱い注意の札がついた男性器が保存溶液に浸されて幾つも陳列されている。それらの本来の持ち主は既に処分されているのに、残された生殖器はコンディションを保つために電気信号を送られて毎日朝勃ちすら起こす。なぜ大切に管理されているかといえば、クローンのコピー元になるマスターだからだ。そこから採取した細胞を使い、核を抜いた未受精卵に移植して複製作業が行われているのだ。クローンに使われている遺伝情報は、この国にあるオートマチック去勢工場で捕虜の職業軍人やスポーツ選手など身体能力の高い男から睾丸を抜き取とって研究されている。
工場の端が見えないほどに空間を埋め尽くしている人工羊水のカプセルには、細胞分裂が始まったばかりの胚から成人まで、兵士になるために生み出される男たちがへその緒に繋がったまま浮かんでいる。中にはわざと容姿を老化させた司令官仕様の個体まである。
彼らの口と鼻、性器や肛門など穴という穴にはチューブが繋がっており、筋肉を鍛えるための低周波装置が全身の皮膚に貼られている。頭部に埋め込まれたコントロールチップに接続されたプローブを通して、クローンたちは夢の中で仮想の生活を過ごしている。そこで圧縮された教育を受け、架空の記憶すら焼き付けられるのだ。現実世界の軍宿舎で目を覚ますまで、彼らの人生は全てこの人工子宮のなかの出来事だ。
「おーいフォー、手伝いに来たよ。えっとこれなんだっけ、そうそう頼まれてたラグビー選手の金玉ね。この冷蔵庫に入れておけばいいのかな」勝手知ったるという感じでナインは取れたてホヤホヤの睾丸を工場の冷蔵設備に保管した。
「…あ、ありがとナイン助かるヨ…じゃあ早速で悪いけどコレお願いネ…」
銀色の前髪で片目が隠れ、うつむいたままボソッと区切って話す人物は作業データをナインの補助脳に直接転送する。この者もまた女王謹製の合成人間であり、もれなくその相貌は人形のごとく秀麗だ。
「えーっとナニナニ、非破壊タイプの去勢をすればいいんだね、フムフム」
クローンたちは兵士に高い適正があるといっても、生物としてはごく単純にヒトのオスであり生殖能力もある。筋骨逞しい体格を維持するために、餌さえ与えれば勝手にテストステロンを作り続ける睾丸は低コストなオスの標準装備品だ。作戦行動と演習、そして基地内の訓練以外は眠っている彼らは箱入りで一生童貞のため原則精巣の除去は行わない。しかし、基地外で市民と触れ合う業務を任せるオーダーがはいった場合は、念のため精子をつくれなくする処理を施していた。
「…住民の去勢制度を実施してる国へ…会場の警備兵として出荷する子たちなんだヨ…」
「よく知ってるよ欧州連邦でしょ。ボクこの前そこでひどい目にあったからね」
羊水が排液され人工子宮の揺り籠を外されてしまった300人の男たちが、生まれたままの姿でステンレスの寝台に横たわる。顔つきはランダムになるよう設計されているが、首から下のボディは全で同じだ。ずらっと並んだ全く同じ形のペニスが300本、同じ大きさの睾丸が600個。
「…この装置を陰嚢にセットして吸引用のカテーテルに付け替えたら、あとは自動だからサ…」
「えっ、300個もこれをタマタマに着けて回れっていうのフォー? カテの抜去と付け替えも!? めんどくさっ。オートマチック工場の看板に偽り在りじゃないか」
「…そこはひとつ今回は家内制手工業ってことでネ…装置の効果は実証されてるけど工場システムはまだ開発中なんだ…ねぇ手伝ってよナイン」
ナインは仕方なしに睾丸がすっぽり収まるサイズの非破壊型去勢デバイスを一人ずつ男たちに被せていった。300人の戦士は生まれてすぐオスとしての存在理由を否定される運命だ。ナインは華奢だが成人男性の何倍もの筋肉密度を誇る腕をまくり、排尿用カテーテルを抜きまくっては半ばやけくそに吸引用に差し替え尿道にねじ込んでいく。
「ふぅ、ひいっ、産業革命はまだか、疲れたぁ」
>>“おーい、このオニイチャンたちの照射準備できたよ”
>>“…わかった、じゃあ…はじめるね”
合成人間の二人は補助脳の通信機能を介して作業経過の報告をしあう。フォーはまずクローンの脳に刺さっているプローブを通じて彼らに淫夢をみせる。すると彼らは仮想現実のなかで架空のパートナーから猥らな誘いを受けるのだ。
―入営前の最後の休日、買い物に付き合った後に青年は彼女の住むアパートメントを訪れる。階段を上り部屋のドアを開ける前から二人は甘く長いキスを交わした。こらえきれずなだれ込んだベッドルームで、シャワーも浴びずに服を脱ぎ捨て熱く交わる。ピルを飲んでいるから大丈夫と彼女はスキンなしで挿入させてくれる。温かく柔らかい膣に熱く硬いペニスが包まれる。
「今日はえらく積極的なんだな、俺の天使さんは…」
「だって暫くは会えないでしょ、私の愛しいKuchelbär」
仮想世界の情交が盛りあがっても、現実世界では装着された非破壊型去勢デバイスの超音波と放射線によって、睾丸の精原細胞が殺されているところだ。丁度良い縊り具合が分かるまでに何人もの捕虜が実験で犠牲になったが、クローンたちの精巣は最適化された周波数とシーベルトで、形は保ったままゆっくりと茹でられて、子孫繁栄の道具としては使い物にならなくされている。
まぼろしの中で騎乗位になった彼女はペニスを貪るようにしめつけて、捻じりまわすように腰を動かす。青年は快感にのけぞって漏らさないように耐えるので精一杯だ。こらえるのも限界になったとき、うつつではカテーテルを挿入された300本のペニスが直前まで装っていた平静が嘘のように、急激に膨らみ反りかえって射精しはじめる。それは夢精が起こす独特の挙動だった。クローンたちが夢のなかで子宮の奥へ植え付けるように彼女を下から突き上げると、現実でも彼らは腰をヘコヘコと情けなく浮かせるのだった。
「もっと奥の突き当りを責めてっ、もっと」
「イッタばっかりだから無理だよ、ハアっ、ハアっ」
「ダーメ、今日はたっぷり搾り取ってあげるんだからね」
「こんな調子じゃ俺らのベイビーが出来ちまうぜ」
架空世界の彼女に搾り取られると、実在世界の男から吸引した精液はすぐに精子の数や運動量を解析される。1回目の測定からほとんどのクローンたちが既に瀕死の精子しか射精できず、妊娠させることは難しい状態だ。このあと数日間にわたり非破壊型去勢デバイスの超音波と放射線によって男たちの精巣は種を生み出すことを完全にやめるまで静かに嬲られ続ける。無作為に選ばれた数人のクローンだけは陰嚢を切開され直接精巣から細胞のサンプルを採取されるが、きちんと治療が施される。無作為サンプルの無精子が顕微鏡により最終確認されると出荷準備が整う。
クローンたちが毎晩夢で見るストーリーは、年月とともに進展して結婚や子供の誕生まで経験できる高性能な仮想現実だ。いつか子供をつくって幸せな家庭を築くんだと将来を描く300人の若いクローンたちは、その600個の睾丸から精子をつくる細胞を死滅させられたことも知らずに眠ったまま梱包された。
完成したクローンの識別表記には【倉科型ゲルマンタイプE2××:陸士用】との記載に【種ナシ】と追記された。
所変わって仁科の再生槽の前では、女王が出涸らしのティーバッグをお湯に浸したかろうじて色のついた液体を啜りながら頭を抱えていた。研究者の顔であるとき彼女は度が過ぎるぐらいに質素な暮らしを望む。仁科の脳に接続されたインジケーターは彼の記憶が混濁する値を示し続けている。
「何度記憶の強制リフレッシュをかけても架空の子供の記憶にナインが勝手に上書きされていく。忘れないわけだ、ナインの存在はもう家族としてこの男の安定に繋がっているのだもの。私の設計ミスでバイオハザード寸前の壊れクローン、ほんとに治してよいものか」
【仁科型モンゴロイドタイプA001:海佐仕様:complete castration:hold for disposal】
海軍用として販売されたクローン兵士の初期ロット。顧客の極東連合に合わせてアジア人種で製造。詰め込み過ぎた遺伝設計に不良があり性格や素行に破綻の兆候在り。勤務する護衛艦ごと鹵獲して回収。精液サンプルを採取のうえ完全去勢。その後処分される予定であったが特例で飼育中。電子カルテにはそう記載されている。
「自爆テロの爆風を受けて腸が飛び出しても生きてるなんてあり得ない。化物になってしまう危険な兆候だわ。でも今更処分するなんて言ったらナインは悲しむだろうし…貴重な合成人間の精神まで壊れるのも困るな」
女王は苦慮の末に、バイオハザードを抑制する薬とその効果を持続させるための仕組みを開発することにした。薬剤を定期的に全身に送り届けるための女性器のような開口部を男の股に設けるのだ。仁科のペニスを切り取って造られていた躾用の鞭には、バイオハザードの抑制剤を注入できる機能とペニスパンツに形状変化する機構を追加する。
「こんなところかな。さて、新しい下半身をつくってあげましょう」
分裂をはじめた細胞が水槽のなかでゆっくりと形作られていく。一月もすれば股間に割れ目のある下半身が出来上がるだろう。
―俺は誰かに身体を揺すられているのを感じた。やめてくれ、なんだか知らないがすげえ疲れてる。まだ寝かせろと俺はそいつの手を払う。どうせナインだろう、妙に久しぶりな気はするが毎朝あの子は首輪を着けにきて俺を散歩に付き合わせやがる。あの子?まあガキみたいなもんだ。偉そうにしてるが俺が守ってやらなきゃいけねえ。ああもうだめだって、今日はパスさせてくれよ。全然あきらめねえな、包まっている毛布まではがしてくる。
「ふがっ。うぅぅーもぉぉ、っだあ! 起きりゃあいいんだろうチクショウ」
観念して上半身を起こすと、目の前にはショートカットの赤髪をさっちょこ立てた子供が頬をふくらませて怒っている。エプロン姿で左手にはお玉を、右手には俺のチンポで造った忌々しい鞭を持って。可愛らしい顔立ちや体つきはナインとそっくりだ。
「あれ、髪の毛そんな派手な色にしてグレたのかよナイン、似合ってな…」
「ない」と言い切る前に俺はペニスウィップで吹き飛ばされて空中に浮いてから地面に叩きつけられる。ドスーン。自分のチンポでしばかれることはここの暮らしじゃ珍しくもないが、目覚ましにしては酷い扱いだ。
「ボクはナインじゃない、サードだ。一緒にするな犬、さっさと顔でもあらって餌を食え。あと相手の髪を褒めないとかオスとして失格だぞオマエ」
どうやらこいつはナインと同じ合成人間だ。遠目では何度か見かけたこともある。匂いにつられて食卓を見れば、味噌汁と炊き立ての白飯が湯気をあげ、大根おろしの添えられた出汁巻き卵に醤油の小皿、小分けパックの海苔とふりかけまで置いてある。椅子に座って机で食べられるとかありがてえな。
「ほらワンコ、オマエのいた極東の餌をちゃんと調べて作ったんだぞ。ありがたく食え」
俺は飛び上がって茶碗にガツガツとかぶりつき、フーフー味噌汁を冷ましながら真っ赤な顔ですする。白だしの風味が出汁巻きから溢れ出てほっぺたが落ちそうだ。
「うううう、うめぇえええ!沁みるっ」
「そうだろう、そうだろう。女王様によればオスの扱いは胃袋をつかむのが何より大事らしいからな。ありがたくもっと食え、おかわりもあるぞ」
サードと名乗るちょっとぶっきらぼうな合成人間によるとナインはドイツに出張中らしい。そういえば俺はいつの間にミュンヘンから帰ってきたのだろうか、いつものように記憶は霞が掛かったように曖昧だ。
「ふー、食った食った。流石にもう起き抜けに2合はキツイ。歳だな」
サードは食器の後片付けをてきぱきこなしエプロンを脱ぐと、おもむろに手錠を取り出して腹をさする俺の両腕にはめている。
「ほえ?、いやいや、ん? どこからどう見てもこりゃあ手錠じゃないか」
サードは呟く俺を無視してペニスウィップをぐにゃぐにゃと変形させるとペニパンになったそれを自分に装着しはじめた。
「いやいや、だから爽やかな朝になんでペニパンなんだよ。俺をからかってんのかコラ。なんでお前らはすぐそういう展開になるんだ」
「からかってなどいないぞ間抜けな顔をしたそこの大型犬。餌の後は薬の時間だろう。ボクは大真面目だぞ、女王様にちゃんと世話をするよう言われてるんだからな」
サードは俺の両腕をバンザイさせ頭の後ろに回すと、椅子を蹴ってそのまま床に押し倒した。バッターン。背中がついた勢いで後頭部を軽く打ち付けられ眩暈がする。薬の時間とペニパンが共存する概念がどこの世界にあるんだよっ!
真顔の合成人間は華奢な見た目とは大違いの怪力で抵抗する俺を押さえてつけてパンツを脱がしてくる。だいぶ慣れたとはいえチンポが付いてない股間を見られるのは男としてかなり恥ずかしい。サードは俺の腰下に慣れた手つきでクッションまで入れてきやがる。どこで習うんだこんなこと。
「薬を注入してやるからさっさと力を抜けセント・バーナード」
「抜けるかアホ!さっきからイヌ、イヌ言いやがって。意地でもケツの穴締めてやる。俺は男だ、カマを掘られるのだけはぜっったいにダメだっ!」
ナインにちょん切られた俺のチンポで造られた鞭にも相当プライドを削られてきたが、今度はそれがペニパンになって俺の中にズッポリ挿入されようとしている。その屈辱はきっと俺の矜持を跡形なく崩してしまうだろう。男としての危機が迫ったからなのか、俺のなかで何か種が発芽するようなイメージが沸き、熱い血潮が股間に渦巻いた。
綺麗な顔をした小娘のようなサードは、俺の両足をピンと閉じた状態で天井に向けて軽々と持ち上げる。四十八手の「深山」なんて何で知ってるんだよ!必死で抵抗したがついに俺は情けなくも自分のペニスで深々と奥まで犯されてしまう。いったいペニパンチンポがどこに刺さってるのかわからねえが、突かれるごとに経験したこともない衝撃が脳天までブチ上がって頭が真っ白になる。
「なんじゃこりゃあああああ!?」
―ボクが抑制薬の注入をはじめようとすると、さっきまで呑気に餌を食べていたでっかいクローンは目の色を変えて暴れはじめる。下腹部の皮膚が異様に波打ち変形しはじめた。これが女王様の言っていたバイオハザードの兆候かもしれない。
急いで薬を股間の専用スリットに差し込んで身体の奥まで注入しないとダメだ。クローンはお尻の穴がどうした、こうしたと訳の分からないことを叫んでいるようだが時間がない。焦りながらも眼球内に搭載さてるカメラで撮影もしつつ、なんとか押さえつけ両足を閉じさせて持ち上げた。妙に強い、明らかにクローンのスペックを超えた筋力だ。ペニスは切り取られて平らなはずの股間にサイの角みたいな突起が盛りあがってくる。ダメだ、薬が効いてないのか!? 次の瞬間、衝撃がはしったようにのけ反ったクローンが叫んだ。
「ナンジャコリャアアアアア!?」
仁科の股間に現れた角のような突起は元の平らな皮膚に戻っていった。
>>ピピッ、回線確立
>>“NC3、カメラの映像はみていたわ。大丈夫?”
>>“なんとか変身はおさまりました女王様。抑制剤が効いたようです”
>>“もしかしたら、ナインの不在が影響したのかもしれないわね”
>>“もうこんな危ないクローンは処分したほうが良いですよ。それにナインにだけペットを飼わせたりして依怙贔屓です”
>>“それは貴方の言う通りなのだけれど…なんとなく生かしておいたほうがいいって感じるのよ、そういうカンは大事にしたいの”
「ちぇっ、ナインばっかりズルいや」
納得のいかない赤髪の合成人間は、仁科を金属繊維の特殊な帯できつく縛り上げてから、ずるずると引きずって女王様のもとへと運ぶのだった。
暫くしてナインがその任務を終えて本国へ戻ってきたあと。サードとともに去勢工場でよもやま話に花を咲かしている。
「ええっ! 仁科さんに新しいおちんちんが生えかけたの!?」
「そうなんだよナイン、全部取られてツルツルテンなはずのあのクローンの股間から急に突起物が生えはじめたんだ。まあ、場所が場所だけにちんちんみたいってだけでね、本当にペニスなのかどうかまではわからないけどさ」
サードは出張から帰国したナインに、飼い主の留守中に起こった仁科の身体変形騒ぎについて話していたのだ。昼下がりの去勢工場、優雅にマイセンのティーセットで午後の紅茶を嗜む二人の合成人間の後ろでは、憐れな男たちが生殖器をオートマティックに引きちぎられているところだ。
ギュムムムム、ギュウウウウウ…
「ああ、あああ!やめろ、そんな強くチンポひっぱるなあああ!」
…ブチンッ!
「ちっ、ちぎっ、ちぎれ、ちぎれたあああ!」
ブツンッ!ギュポンッ!
「がはっ、いてええっ!いてえよおおお」
「ぐっ、うっ、チンポ、おれのチンポが中でひっぱられて…」
ギュウウウウ…
「ぐああああああ!」
「やめてくれ、それ以上は無理だ、そんなにひっぱったら、頼む、頼むううう、やめろおお…」
ギュムムムム、ギュウウウウウ…
「もうだめだあああああ!」
ブチンっ!ギュポンッ!
「がああああああああ!」
美しい人形のような少年の姿をした二人の合成人間が優雅に時をすごす側で、男たちはオスとみれば去勢するようにプログラムされた珪素生命に下半身を拘束され、無惨にそして次々と陰茎を引き抜かれる阿鼻叫喚を繰り広げている。しかし、耽美な合成人間たちはそんな男たちの叫び声などまったく意に介さない。この国の去勢工場では日常的に繰り広げられるありふれたことなのだ。
「ふうっ、やっぱり良い磁器で淹れるとお茶も美味しく感じるねサード。君の料理とお茶を淹れる腕はスゴイよ。この小さなサンドイッチも最高」
ナインは瀟洒なつくりのケーキスタンドに段々に飾られたサンドイッチやスコーン、そしてペストリーケーキをアフタヌーンティーの作法にしたがって順に頬張る。作り手のサードはナインが無邪気に喜んでいるのをみて胸をなでおろしたようだ。
「…でね、ナイン…そんなことがあったもんだからさ、女王様は結局あの出来損ないのクローンを育成ポッドに漬けたままなんだよ。大事なペットに会えなくて淋しいかもしれないけど」
「それは仕方ないよ。ありがとうサード、ボクの出張中に仁科さんのお世話をしてくれたんだね」
「いや…礼にには及ばないさ。女王様の言いつけだもの。ボクもあのクローンには興味あったしね」
サードと呼ばれる赤髪の少年は短く刈り上げた髪の毛を居心地が悪そうに掻いて顔をそむける。何の落ち度も、ましてや責任も無いのだが、飼い主の留守中に預かったペットに何かあるというのはどこかバツの悪いものなのだ。
「ところでナイン、今日去勢しているこの男たちは君が出張先から連れて帰ってきたんだろ?なんだかちょっと珍しいやり方で処理してるね」
「そう、女王様に言われてね。欧州連邦でピックアップしてきたオニイサンやオジサンたちだよ」
「欧州連邦はもうすっかり女王様の傀儡だろ?市民レベルで去勢政策も順調に根付いてるし、君がわざわざ捕まえて本国の去勢工場までこの男たちを連れて来ることはないんじゃない?」
工場で今まさに処理されている男たちは女王勅命の実験に使われている。去勢ユニットたちも特別なプロトコルが与えられているようだ。男たちのペニスには何らかの薬剤が注射器で注入されたあと、変幻自在の人工珪素生命で構成された去勢ユニットたちが内部で男たちのペニスを思い切り引き延ばすように牽引する。薬剤のせいだろうか、ことのほか柔軟になった男たちの陰茎組織は容赦のない力で引っ張られてもしばらくは耐える。だが、結局は海綿体組織を繋ぎとめる筋がはじけてしまい、男性のシンボルは股間から無理やり引き剝がされるように抜き取られてしまうのだ。
「ぐぎゃああああっ!」
「がああああああっ!」
「ひぎゃああああっ!」
引き千切られた男根は適当なところで1cmほどの輪切りにされ研究用サンプルになる。残りの肉棒はゴウンゴウンと低音を響かせて回転するミキサーに百本以上がまとめて放り込まれて挽肉にされていく。有機転換装置によって捕虜や飼育中の男に食べさせるレーションの材料にするのだ。
泣き叫ぶ男たちをよそに、陰茎を処理し終えた各去勢ユニットはその内部で睾丸の抜去にとりかかる。珪素組織は掃除機の吸飲口のようにノズル型に変形すると、キュポンキュポンと男たちの大切なキンタマに吸い付いつき、すこしだけ陰嚢の皮膚に裂け目をつけるやいなや、強烈な陰圧をかけてあっと言う間に二つの精巣を抜き取ってしまうのだ。自分たちの存在理由をあっけなく吸い取られた瞬間、男たちの間抜けた顔があちこちで口を半開きにさせる。
ペニスを引き千切られるときの大声とは違って、彼らは男ではなくなったその一瞬、目を大きく見開いて言葉を失うのだ。睾丸は女王の研究ラボに回すために洗浄してからユニット内で滅菌パッケージされる。各去勢ユニットからは二玉一組の精巣パックが排出され、運搬用ラインに乗せられていく。
サードはベルトコンベアに流れて来るパックからをひとつ取り上げて抜き取られたばかりの精巣をまじまじと眺めてみる。
「…とくに、なんの変哲もない男たちの精巣にみえるけどな、コレ」
ナインも精巣パックをひとつ取り上げたものの特に興味なさげに言う。
「そうだよ、ごく一般的な男性の精巣だよ。選別ピッキングしたのは女王様だから何かあるのかもしれないけど」
「それにしても、どうしてわざわざ君が?」
「どうしてもこうしてもないさサード。それがボクたちの仕事だもの、いくら去勢政策が根付いた欧州連邦でも自発的に性器切断に協力したがらない男はたくさんいるしね。ただ…たぶん女王様はボクと仁科さんをすこしの間だけでも離してみたかったんじゃないかな…」
「豊かになった」
「えっ?なあに?」
「感情が豊かになったって、女王様が君のことをそう言ってたんだ」
「ボクの感情が?」
「そう、あの仁科とかいうペットと過ごすようになってからね。ナイン、君はすごく楽しそうなんだもの。兄弟はみんな言ってるよ『うらやましい』ってね」
仁科との関係を兄弟たちから嫉妬のような目で見られていたことに初めて気付いたナインは驚いて顔を赤らめる。
「ほらね、赤くなった。豊かな感情の証拠だよ、それもね。ボクたちはおよそ生命体の恩寵から見捨てられたような存在だ。女王様によって胚すら人工的に造られ、生まれながらにして性別すら無い」
赤髪の美少年は憂いた表情をみせる。
「サードのそういう淋しそうで悲しそうな、でもどこかそれを受け止めているようなお顔も豊かな感情の証なんじゃないの?」
ナインは銀髪の前髪が流れる隙間から翠色の光彩をたたえた瞳を閏わせて微笑んだ。
「ナイン、その微妙な表情は『微笑』っていうんだろ?やっぱり感情が成長しているんだよ君は」
よしてよ照れるじゃないかとはぐらかしてくる兄弟を諫めようとしたナインは、ついつい力がはいってしまい持っていた精巣パックを握りしめてしまう。丈夫だが薄く透明なプラスチックシートのなかで、先ほど去勢されて存在価値を失った男の睾丸は合成人間の剛力で潰されて本当に無意味な肉塊になった。
所変わって女王の研究室。
いつものようにインスタントのティーパックの出涸らしをさらに煮出した「少々色の付いたお湯」をすする女王。彼女は研究モードのときはことのほか質素なのだ。先ほどの工場で引き抜かれ輪切りになったペニスの組織サンプルを調べていた彼女は頭を抱えていた。
「あゝ、やっぱりそう簡単に再現できないわね。仁科型の壊れクローンに起こった股間の変化をもう一度安全に観察したいのだけれど」
女王の眼前にある巨大な水槽にはガス状の液体のなかでチューブに繋がれて浸かる全裸の男たちが数百体と浮かんでいる。去勢ユニットによって引き千切られたはずの股間では、様々な形に隆起したペニスもどきが生えかけては崩壊していく。どれもたいていは奇形で、紐のように細くまた湾曲していたりと、異様な生成を繰り返しては崩れていく不安定さだ。
「急場しのぎの遺伝子操作でモルモットにした男たちの股間をいじったところで、あの仁科型の壊れクローンと同じようにはいかないか。でも、私の推測が正しければ、この遺伝子操作で男には新たな利用価値を見出せるかもしれないのよね…」
女王は男たちのなかから股間に生える突起物の生成が最も安定する被検体を選び出した。水槽から引き揚げてステンレス台の上に寝かせる。男の意識が回復する前に手足と腰をしっかりと拘束せねばらない。大の字に張り付けられるように横たわる男は一般人にしては体格が良い。腕白な健康優良児がそのまま大人になったような童顔と立派な体が不釣り合いな二十歳前後の体育会大学生という相貌だ。
「ずんぐりむっくりして、偉そうにアゴ髭まではやしているのに、幼い顔をした子ね。ラグビーでもやってる学生かしら。まあ、そんなことはどうでも良いのだけれど」
ぶつくさと呟いても女王の手は動いている。レーザー測定による3Dデジタルノギスで男の股間に伸びた新たな突起物を計測する。
「ふむふむ、股間突起物の成長も大きさも今回の被検体のなかでは比較的安定しているわね。ナインにはある程度目星をつけておいたY染色体上の特定因子を保有する男ばかりを捕まえてきてもらったけれど、この子の因子は求めていたパターンにかなり近い…あとで抜き取った精巣もよく調べないといけないわ」
そうこうするうちに若い男の意識が回復する。
「…うう、ここはいったい」
「あら、お目覚めね坊や。貴方は自分がどうやってここに来たか覚えているかしら?」
「ココ? ココはどこ…僕は街で知らない少年に声をかけられて、それでえっと…わあっ!僕真っ裸じゃないですか、それに…そうだ!さっき変な生き物みたいに動く機械に捕まって、変な薬を注射されたり、チンチンをおもいっきり引っ張られたり…」
「ええそうね、残念だけどあなたのペニスはミンチにされた後ブロック型の固形食糧に有機転換されていると思うわよ」
「そそ、そんな、で、でも、ちゃんとあるじゃないですか、ほらっ、ま、股の間にちゃんと、男の突起物が」
「あなたが言っているのはこの粗末な肉棒のこと?」
女王は手袋をはめた手で鉗子を持ち男の股に生えたモノを持ち上げる。栄養不良なうえに冷蔵後でほったらかされて萎びてしまったニンジンを思わせる。そんな粗末な代物の先端がつまみ上げられた。若い男が不自由な身体で首を曲げれば十分見える程度の長さではあったのだ。
「ひやああああっ、ななな、なんですかそれは、ぼぼぼ、僕のチンチンはどこにいったんです!? そんなの僕のチンチンじゃないっ」
「そうよ、何度も言わせないで頂戴。貴方のペニスはもう無味乾燥な保存用の携帯食料になってるわよ。貴方の股に生えてるコレはね、こうして使うためのもの、よく見ててね」
女王は鉗子でつまんだ若い男の股の出っ張りをそのままひき上げていく。するとどうだろう、埋もれていた腹腔内のペニスの根が引きずり出されているかのようにズルズルと肉棒は伸びていくではないか。
「な、なんですかそれはあああ!」
ズブズブ、ズルズルズル、ジュブジュブジュブジュブ、シュポンッ!
自分の股間から得体のしれないモノが引きずり出されていくおぞましい感覚。無理やり去勢ユニットにペニスを引きちぎられたときとはまた少し違う、まるで最初からそうやって抜けるように設計されているみたいに彼の股に生えた突起物が抜去された。それは、見ようによってはナイフのように鋭利な様態をしていた。
「コレ? コレはね、生体変形武器の試作品のそのまた試作品ってところかな。男の遺伝子に備わっている陰茎を発生させるプロセスを利用するの。足長蜂って貴方ご存知?メスだけしか針を持ってないの。彼女たちの毒針はね、卵管を進化させたものなの。生殖器官を武器にするって発想は生物界にちゃんとお手本があるのよ」
そう淡々と説明されても若い男が納得も理解もできるはずがない。
「ううう、うそだあっ、僕のチンチンがそんな、そんなああああ」
「嘘じゃないわよ。ほら、抜いた後からまた生えてきたわよ、見て」
先ほどの突起物ほどではないが、もっと出来損ないの萎びた胡瓜のような肉棒が情けなくまたムニムニと生えて来るのだ。
「わあああ!もどしてえええっ、僕のチンチンもとに戻してよおお」
「もう、聞き分けのない煩い子ね。やっぱり口枷はしておきましょうか」
「う、ぐっ、モゴ、モゴモゴ…」
「これから貴方の遺伝子をよーく解析させてもらうわね。貴方から抜き取った睾丸も私の手元に届けさせているところだから」
と言うのもつかの間、元気な声で合成人間が入って来る。
「女王さまー、ご要望の精巣パッケージはこちらですかー?」
溌溂と研究ラボに入って来たのはナインだ。お使いのついでに仁科の様子を見舞おうという魂胆だ。
「あら、私はフォーにお願いしたのだけれど。ナインが届けてくれたのね」
「ええ、その、フォーは輸出用クローン兵の調整で忙しそうなのでボクが代わりにきました(本当は頼み込んで代わってもらった)。どうぞ女王様、これがその若い男の睾丸です」
「ありがとうナイン、じゃあついでにその精巣を分析用のスライサーにかけて頂戴な」
「了解です女王様っ」
ナインは大きな声で返事をしつつラボのあちこちに目を配る。仁科の姿を探すために。
「ナイン、手元が狂うとあなたの指まで薄切りになるわよ」
「だ、大丈夫ですよ女王様。僕よそ見なてしませんから…アハハハ」
分析器にかけられた若い男の睾丸は自動で数十枚の薄い切片にスライスされていく。ステンレス台の上で拘束され口枷もはめられて声も上げられなくなった若い男にもその様子は見て取れた。
「モゴモゴ!、オオオ、オオオオオ、オオオオオオ!」
「あれ、その若い男、なんか叫んでるんじゃないです?女王様」
「自分の精巣が輪切りになるのがつらいのでしょうね。オスにしてみれば叫びたくもなるのでしょう。自分で腰をふって子孫を残したいのがオスでしょうから」
「うーん、合成人間で生まれつき性別のないボクですけど、最近は少しそういう男たちの気持ちもちょっと想像できるような気もします…仁科さんやっぱりチンチンとタマタマとられて悲しそうだから」
「…あの仁科型のクローンに逢いに来たのねナイン」
「えっ、はい、その…ハイ逢いたいです女王様。でも暴走しちゃったらしいし当分はダメですよね…」
「そうね、逢わせるわけにはいかないかな。私としても心苦しいけれどね」
「分かりました女王様、ボク我儘は言いません。仁科さんがもどって来るのを待ってます」
本心は今すぐにでも逢いたいであろうナインを諭して帰したあと、被検体の精巣を切り刻む女王は気もそぞろになって作業が手につかない。ステンレス台の上で泣き続けている可哀そうな若い男が鼻ですすり泣く声も気になってくる。普段ならオスたちのどんな悲痛な叫びや嗚咽も関係なく研究に没頭できるというのに。
「私としたことが…命や兵器を扱う研究者が自分の作った人工生命やクローンのことでこんなに心を煩わされるなんて。情けない話だわ」
彼女はもう今日の作業を諦めることにした。泣き続ける若い被検体の男には『ラストリソート』と名付けた女王特製の安楽物質を投与し、口枷もはずしてやる。
「あっ、あっ、あっ、う、うう、イク、イクイク、あうう、あううううう…」
「お疲れ様。貴方にはご褒美よ、永遠に続く射精感のなかで眠り続けなさい」
若い男の腰はカクカクと痙攣し続ける。やがて、何もかも全て奪われた股間を天井に向けて一度だけ大きく浮かした後、一気に脱力した彼は静かに目を閉じるのだった。
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投稿:2022.11.10更新:2023.03.22
オートマチック去勢工場 覚醒編
著者 心丹様 / アクセス 2380 / ♥ 10