宅配便ドライバーの制服を着た男が自分の寝室でベッドに縛り付けられている。どこで誰の恨みを買ったのか、この男が今日の仕事相手だ。私は携帯のメールをひらき去勢のオーダーを最後にもう一度だけ確認してから、彼のズボンのチャックを下げ男性器を引き出した。
男の自宅は1DKの古いマンション。表紙の折れた少年漫画の単行本が散らかり、ほこりをかぶったアメコミヒーローのフィギアが適当に飾られている。ボトルコーヒーが注がれたマグカップから廉価な薫りが漂う。
皮被りのペニスにカテーテルを差し込まれ、尿道の内側が管で擦られる痛みに男は顔を歪める。ズボンを尻までずらし股間を丁寧に剃毛してやる。皮を被った小ぶりの男性器が性毛を失うとまるで子供のようだ。私は仕事道具の鞄から家畜用の去勢器具を取り出し、男根の元から1㎝のところにプラスチックバンドをきつく嵌めこんだ。ペニスへの血流はほとんどせき止められ、食い込んだ部分より先の感覚はひどく鈍っていくだろう。
男のスマホに着信が鳴る。留守電に切り替わると電話口の向こうから酒盛りのざわめきが微かに聞こえてくる。男の知り合いから飲みの誘いだ。猿轡からなんとか声をだそうと男はくぐもった息を漏らすが何も届きはしない。相手は来れそうなら折り返してくれと吹き込んで通話を切った。
私は部屋に掛けてあった男の上着のポケットからアメスピの箱を拝借した。キッチンのコンロで火をつける。煙をふかしながらペニスの血の気が後戻りできないところまで引いていくのを眺めて待つことにした。アメスピはやたら燃焼が長い煙草だ。ナイフを用意し、医療用のスクラブを着こみ、ゴム手袋をはめてからもう一本フィルターをちぎって吸った。男は自分の性器がもはや使い物にならないのが分かるのだろう、すすり泣いて駄々をこねるように腰を震わす。
雄の先端を握って伸ばしナイフを左右に細かくスライドさせる。男は顔を横に激しくふってやめてくれと懇願する。刃の進みはやわらかく十秒程でペニスはほとんど体から切り離された。男はあと皮一枚のところまでくると暴れだしたが、切り取られたのがわかると途端にベッドに沈み込むように脱力した。
私は切り取ったペニスを腹の上にそっと置いてやった。男のへそのうえで呼吸に合わせてしぼんだ蕾のような肉棒が上下する。男は唸りながら鼻で短い息を繰り返し、目を見開いて切られた男根を凝視しているうちに気を失った。その姿を写真に収めてから男をほどきマンションを後にする。
男は1㎝だけの切り株になった。この先一生まともに射精は出来ない。
ゆったりと通りを歩き、目についた純喫茶に座る。珈琲を啜りながら男の写真を依頼元に送信し仕事の完了を報告した。玉を残すことは顧客のたっての希望らしい。ペニスでは満たされなくなった男の性欲はいったいどこにいくのだろう。男などただでさえ出来損ないの生き物なのに。
結局男の部屋から頂戴してしまったターコイズブルーの煙草の箱から、最後の一本を取り出して吸う。着信が鳴り2本目の準備が整ったと知らせが入る。数時間後には切り取られてしまう男性器の運命を確認した私は、去勢の手順を組み立てながら次の仕事場に向かった。
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投稿:2022.09.19更新:2022.09.20
男の切り株
著者 ほねっこ様 / アクセス 11212 / ♥ 52