《1》『狩人の営み』
広大な銀河のなかにひとつ、生命が豊かに繫栄する惑星が浮かんでいる。地球と酷似したその星で奇しくもホモサピエンスと全く同様の進化を遂げていた人類は、あるとき男が生まれる数と確率に突如激しい変化を起こした。男だけが異常に増え始めたのだ。無意味で歪な人口構造は様々な問題を起こした。
我々の地球でも2.5%ほど男のほうが生まれやすいが、その星の人類はそんな僅かな差ではおさまらない不可逆的で深刻な事態に陥った。女児がひとり生まれるにつき男児は6匹も生まれてしまうからだ。幾多の争いや紆余曲折を経て歴史は増えすぎる男を文明から排除することを選んだ。人間社会から追い出され野生にもどった男たちはやがて狩られる獣になりはてた。
混乱する世界で人々は古き神に救いを求めた。人類共通の精神的支柱となったその堕胎を認めない神の教義は法律にすら深く根付き、母体保護ではない理由の中絶は禁止された。教えは説いた、男は果てしなく増えそれゆえ狩られるのが原罪であり、女は男を屠り喰らって永遠に命を生み育てなくてはならないと。そして、その生命のサイクルこそが贖罪であると。
男を排除した社会で重い負担を背負った女性たちは経済を回しながら社会全体で子育てを分担できる仕組みを粘り強く作り上げていった。男は生まれてすぐ飼育施設に引き取られて乳離れするまでは育てられるが、物心がつかない内に群れが棲む山に捨てられる運命だ。
野生の男たちはことのほか子煩悩で男児を見つければ必ず群れに迎え入れる。森に還す際には将来の狩りのために男児の陰嚢に発信機のチップを埋め込む。許容範囲の体温を感知している間だけ作動するそのチップは男の個体数管理にも役立てられている。
男狩りは女にとって妊活も含めた当然の嗜みであり、最も人気のある娯楽であり、社会的なステータスにもなった。どこの家でもペニスで造った剥製が一本は飾られているのがあたりまえだ。
男の肉は硬く臭いので家畜やペットの飼料にしかならないが、ペニスと睾丸だけは教義との兼ね合いもあって珍味として好まれている。酒の肴といえば男の生殖器料理というのが晩酌や居酒屋の定番だ。
三年ごとに女児の成長を祝う儀式ではペニスの剥製にかぶった埃を払うと将来女の子に恵まれるという言い伝えがあり、お祝いの席で少女たちは大人に手を取られハタキで陰茎の穢れを払い陽物と成すのが習わしだ。
若い娘たちの一番の関心事といえば種男探しだろう。初めて銃を持った娘が目指すのは丈夫で賢そうな男を文字通り射止めてその種を搾り尽くすことなのだから。種男狩りはオールシーズンで許可されている。捕まえて気に入らなければリリースすればよいのだ。どんな家でもペニストロフィーがある理由のひとつは苦労して捕まえた種男のいちもつを記念に保存する者が多いからだろう。
都会ではスタイリッシュなオブジェとして選りすぐったペニスを飾るのがトレンドだが、田舎の旧家などは先祖代々が捕まえた種男のいちもつがずらっと居間の壁に飾られている。天井を向き今にも射精しそうな瞬間で時間を止められたペニスたちの雄姿と本数は、地方によればその家系の格にすら結びつくと言われている。
こうして「文明と野生」「人間と獣」に分かれた女と男は奇妙ではあるが関係性を築き直して同じ星で共存しているのだった。
青く晴れわたる空に刷毛で描いたような白い雲が広がっている。狩猟解禁を目前にして農家の畑では根菜類が収穫時期を迎え、おこぼれに預かろうと畑を荒らす野良男たちが山を下りて来る。女狩人はノコノコとやって来た害獣を捕まえるために電磁ライフルの照準を覗き狙いを定めているところだ。
地面に埋め込んでおいたワイヤートラップに足首を縊られた男が三匹、体力を温存しているのか大人しく地べたに座っている。薬品を使うと肉質に影響するので捕獲には罠と電気式のショック弾をセットで使う。一匹目は背中に、驚いて立ち上がった二匹目と三匹目は尻に打ち込んでやった。男たちは電気ショックの強烈な痛みと衝撃でしばらくのたうちまわったあと、地面に大の字になって転がり気を失った。
女狩人は噛みつき防止の二の腕まで覆える厚く長い手袋をはめ、ナイフを手に注意深く近づく。刃で突っついても反応がないので手始めに黒いガムテープで男の両目を巻く。視界を奪っておくだけでも意識がもどったとき扱いが楽になるからだ。
両足首をロープできつく縛り、手首には吊り上げ用フックとセットになった金属製の丈夫な手枷をはめる。軽トラの鳥居につけたウインチで男たちを荷台に巻き上げればとりあえずひと段落だ。こうすれば男たちは腕をバンザイして荷台に腰をついた状態で晒しものになるしかない。
狩りの成果を見せに軽トラを運転して母屋に戻ると農家の女主が謝礼を持って出てきた。この三匹にはかなりの被害を被ったので清清したと彼女は胸を撫でおろしている。確かに三匹ともよく太って筋肉の付きもいい。群れには持って帰らずこっそり自分たちだけでつまみ食いを楽しんでいた不届きな奴らかもしれない。
女主は夕飯でも一緒に食べていかないかと誘って来る。女狩人は丁重に断りを申し出ていたが、珍しい酒があると言われるや是非ご相伴にあずかりたいとすぐに手の平を返した。彼女は酒とそのつまみには目がないのだ。
唐揚げをつくるので男たちの睾丸を抜いてくれないかと女主はボウルを差し出す。どうやら最初から料理の腕をふるうつもりは満々だったらしい。任しておいてと女狩人はナイフを手に荷台に昇る。発信機のスキャナーを玉袋に当てチップから識別データを読み取る。誰によっていつ捕獲されたのか役所のデータベースに自動で照合される仕組みだ。
白子の唐揚げをソースにディップして食べるのを想像するとヨダレが出て来るのを我慢しながら、男の陰嚢を戸渡りから伸びる縫い目にそってサックリと切り開く。プリプリとした新鮮な白い玉が湯気を上げてあらわれた。痛みで目を覚ましたのか男が寝ぼけながら体を動かしはじめたが、女狩人はそんなことは気にせずさっと筋を切っては女主の持つボウルに睾丸を投げ入れていく。
男は三匹ともキツイ訛でうわごとでも言うように呻きはじめた。標準語からは絶望的に乖離してしまった男たちの言葉はもはや獣の鳴き声にしか聞こえない。声がうるさくなった頃にはとっくに三匹の玉抜きは済んでいた。なかなか育ちのいい鶏卵大の睾丸を6つ抱えて農場の女主は母屋へ帰っていった。
キッチンに戻った女主は男たちの睾丸の表面に切れ目をいれてからその薄皮をグイグイと引張って剥がす。一度冷凍したものを溶かしてからの方が剥きやすいのだが、彼女は慣れた手つきで男の証が纏った最後の褌を器用に脱がせ奪い取った。無防備になったやわらかい精巣は輪切りにされ、可哀そうなことにさらに麵棒で叩かれ伸ばされていく。
下茹でして玉の臭みを抜いている間に、ケチャップに刻んだ玉ねぎとタバスコ、レモン汁を混ぜてカクテルソースが手際よく作られる。湯から揚げて水切りした金玉のスライスに塩コショウをふれば下ごしらえは完了だ。
次に小麦粉にガーリックパウダーとコーンミルを混ぜたものを輪切りの金玉にまぶしていく。それを牛乳に浸してはまたまぶし、ワインに浸してさらにまぶしと衣が十分厚くなるまで繰り返していく。揚げたてを食べるためにも衣付けされた輪切りの金玉は暫く寝かせられることになった。
男たちの睾丸が調理されている間に、荷台の上で狩人の女は三匹のペニスをしごいて勃起時の大きさ形を確かめていた。不思議なもので平常時からは想像がつかないほどの膨張率を誇るいちもつもあるからだ。大きさは足りなくても形が良ければペニストロフィーの蒐集品に加えてもよい。
三匹のなかでは一番毛深くてジャガイモのような顔をした男が意外と整ったペニスをしていた。亀頭のエラの張り出し方や表面のテカリ具合が良く、筒の太さとのバランスがとれている。勃起したときに真っすぐ上反りなところも評価のポイントだ。もしかすると市民コンクールぐらいなら入賞できるかもしれない。ヒクヒクと切なそうに脈動する芋男のペニスをくり抜くことにした女狩人は母屋を訪ねて保存用のクーラーボックスに氷を入れてもらった。
ペニストロフィー愛好家のため品ぞろえの良いホームセンターには切り株を残さないよう比較的手軽に陰茎を切断できる器具が売られている。家畜の搾乳機のような筒状の装置をペニスに被せ下腹におしつけてから取っ手を一気に押し込むと、合わさればミサイルの先端のようになる四分割された刃が食い込んで海綿体ごと根こそぎ抜去できる。俗に竿抜き器と言われている。
何かをペニスにあてがわれた芋男は危機を察したらしく、大声をあげて鳴きはじめた。横にいた二匹も仲間の異常な叫びに驚いて心配そうだ。既に玉無になっているのだから竿を切られたところで今更と女狩人は思うが、男にとれば竿のあるなしでもかなり違うようなのだ。
ペニスをすっぽりと覆った竿抜き器の取っ手が勢いよく押し込まれた。すると器の中には鼻水を垂らして泣き叫ぶ芋男の肉棒がポロリと収納される。男の去勢などあっけないものだ。女狩人はそれを氷水をはったクーラーボックスのなかに放り込んだ。芋男は空の袋だけが残った股間で腰をよじらせて、小豚でもいるのかと思うくらい情けない声をあげている。
残った二匹のペニスは亀頭が先細りだったり竿が右曲りだったりと形がよくないが平常時でもそれなりにふてぶてしく長さもあった。女狩人は刺身にするかラップで作る簡単なソーセージにするかを迷う。野良男の生肉料理を他人に食べさせるのも良くないと思いソーセージ用のひき肉にすることに決めた。肉汁の滴るジューシーな手作りソーセージを想像しながら竿抜き器の取っ手をシュトンシュトンと二回押し込めば、残り二匹のペニスもくり抜かれてしまった。男から奪い取った三本の肉棒を手土産にして狩人は揚々と母屋の調理場へ向かった。
氷でキンキンに冷えた先細りと右曲がりのペニスを取り出し縦に割ってからよく揉み洗いする。ジューシーにするには下処理で余分な熱を与えないのが肝心だ。摩擦熱の出る電動ブレンダーなどは使わず包丁で手早く荒めのみじん切りにする。氷水にあてたステンレスボウルのなかでペニスのひき肉に、パセリ、塩と粗びき黒こしょう少々、ナツメグを加えて練らないようにさっと混ぜる。ラップで包み腸詰のように形を整えれば準備完了だ。
女主も寝かしておいた衣付きの金玉スライスを出してきて揚げ油の用意をする。女二人して横にならび、一人はフライパンでこんがり焼き色のついたペニスソーセージをつくり、もう一人はきつね色に仕上がった睾丸の唐揚げをつくった。
冷やしておいたジョッキにビールを注いでいざ乾杯。睾丸の唐揚げをひと口噛めば何重ものクリスピーな衣のなかに白子独特のねっとりとしたコクがひろがる。それに比べて自分の作った即席ソーセージなど恥ずかしいかぎりだと女狩人は思うのだが、女主からは肉汁感がすばらしいと褒めてもらえた。お世辞だと分かっていてもうれしいものだと照れる。
酒を片手に年頃の娘を育てる母親同士、種男の初狩りをどこでするか、そもそも狩猟免許をちゃんと取れるのか教習所選びでも迷っているなど共通の悩みで盛り上がる。女主が娘を妊娠したときの種男のペニストロフィーを鑑賞しながらワインを飲み、互いに若かりし頃の男狩りの思い出話にふけった。古いアルバムを開き、種男の睾丸でお食い初めをする娘の写真を見ては子供の成長に思いをはせて涙を流したりもした。
翌朝、酔ってソファーで寝てしまっていた女狩人は挽きたての珈琲の匂いで目が覚める。農場の女主が睾丸唐揚げの残りで作ってくれたサンドウィッチでブランチをすませ、おもてなしのお礼を何度も伝えてから軽トラに乗りこむ。
荷台のうえで衰弱しきった男たちを市の管理センターまで運ばなければならない。そこは狩られた男の処理を総合的に請け負っている施設だ。獲物を持ち込めば個人では難しいこともやってくれるし、利用可能な部位についてはポイントで買い取ってくれる。
三匹の畑荒らしを引き渡したあと、女狩人は種男の搾精会場へ足をのばしてみた。若い娘たちが苦労して狩った運命の男から精子を受け取る場所だ。娘たちは女狩人のようなベテランとバディーを組んで男狩りをする。産みの母とは違う狩りの母というメンターに導かれて女の子は大人の女性へと人生の階段をのぼる。
各窓口のブースごとに男を吊り下げるレーンがついており、順番に呼び出されて席に座れば消毒と剃毛をされすっかり清潔になった男がぶら下がったまま運ばれてくる。目の前で種男の搾精作業をしてくれるのだ。ここでも陰嚢に埋め込まれたチップがスキャナで読み取られ男に施された処置が記録されていく。
吊るされている種男の尿道には吸引用カテーテルが、肛門には前立腺周囲を強制収縮させる家畜用の電気射精装置が差し込まれる。勃起もさせてもらえないまま電気ショックだけで金玉が空になるまで精液を吸い取られ続ける男の横で、記念のペニストロフィーやお食い初め用睾丸の缶詰など各種の手続きと説明が淡々と行われる。そのあいだ男たちは激痛を伴う射精の拷問に終わりも見えず苦しみ続ける。
やっとのことで搾精がおわり精も根も尽き果てた男たちがレーンに吊り下げられたままバックヤードの処理場へと消えていく。用済みになった男たちはそこで即去勢される。申請内容のオーダーどおりに切断されたペニスはプラスチネーションが施され、抜き取られた睾丸は油でじっくり茹でられて缶詰になっていくのだ。女児が生まれたときのみこれらはお祝いとして自宅に届けられる。男児の場合は事前申請で希望していない限り廃棄扱いとなる。実際には公が認めた横流し品として企業が廉価な商品に加工して販売しているそうだ。
もう一人娘が欲しい。男を仕留めた若い娘たちの輝く瞳にほだされた女狩人は突然雷に打たれたようにそう思った。彼女は何かに突き動かされるように足早にセンターの建物から出ると軽トラに飛び乗った。相棒の電磁銃を携えて男狩りの山へとただ本能の赴くままに走り出す。そんな彼女に見初められて今日のうちに狩られてしまう見事な巨根を持つ男は、自分の生殖器が獰猛な肉食獣のようなハンターに狙われているなどつゆ知らず、森のなかで呑気に自慢の息子をしごいて最後の自慰に勤しむのだった。
《2》『獣たちの末路』
儂は群れの若い衆がコソコソと女たちの里へ下りる段取りを話すのを聞いてしまった。イノキとシカオのやんちゃコンビだ。こいつらはまだ下の毛も生えていないチョウヤを連れまわして危ないことばっかりしやがる。
「こらっ!お前らまた女の里に下りるつもりか。命がいくつあっても足りんぞ」
「やっべぇ、クマ親父に聞かれた」
案の定、夜中に二匹だけで里におりて旨い芋を食いに行こうと相談をしていたらしい。若い連中は秋になると度胸試しのように女の里になる芋を採りに行くので困ったもんだ。心配なのでチョウヤは置いていくように言いつけ、群れの長である儂がついていくことにした。冬がくるまえに子供やケガ人に精がつく芋でもとってきてやろうと思ったからだ。
「なあシカオ、おまえのチンポいつみても右に曲がってないか?ションベンがこっちまで飛んでくるんだよ、もっとあっちいけっ」
「言うなよぉ、僕も自分で気にしてんだからさ。イノキのなんて皮かぶったままだし、亀の頭が細くて貧相じゃないか」
「うっせえなあ、おまえのと違ってションベンちゃんと前に飛ぶぜ」
若い二匹の男は暗い草むらにむかって立小便をしながら互いにいちもつの形をけなし合っている。
「待たせたな。儂も連れションに混ぜてくれ」
芋のように無骨で泥臭い見た目のクマ親父も入ってきて男三匹が連れ立ち放尿する。彼らは鹿の毛皮でつくった腰巻の前を片手でめくり、もう片方の手でペニスを摘まんでいる。
「若い衆のチンポは何食ったらそんなひょろ長くなるんだか。いちもつの形なんざどうでもいいけどよ」
群れの長といっても30歳ぐらいの男は若者二人よりは小ぶりないちもつだったが、亀頭の大きさと雁の高さで自然と皮も剥けておりバランスがとれた理想的な形をしていた。三匹はペニスをブルンブルンとふって先っぽに残った小便を落とすと月明かりを頼りにケモノ道を下っていった。
群れの長は道々で若い衆に女の里から命からがら逃げてきた少年の話をしてやる。子供を怖がらせるために聞かせるおとぎ話だ。筋書は簡単で芋につられて里に下りた少年が女に金玉を抜かれチンポまでちょん切られそれを焼いて喰われてしまう。なんとか隙を見て森に逃げ帰ったその子は恐怖のあまり爺様のような白髪になって死んでしまったという。
「そんな怖い話やめてよ親父様、チンポが縮こまるよ」
「子供だましの話でビビるようなチンポなら山なんか下りるんじゃねえって言ってんだよ儂は」
そんなビビリのシカオが言うには棘のある縄が切れて忍び込みやすい場所があるらしい。確かに案内された柵には触れると痺れが走る縄がはっていない。
「うわぁっ!」
「どうしたシカオ!?」
若い衆の一人が地面の穴にはまったかと思うとその足首は硬く切れない縄で縛られていた。
「親父様、罠につかまっちまったよぉ…」
「この馬鹿野郎がっ!」と言って駆け寄ったクマ親父とイノキもバカだった。
そのわざと隙をみせた柵の前には罠がたっぷり仕掛けられていたのだ。若い男たちがよほど何度も盗みを働いて女どもを怒らせたに違いない。どんなにあがいても身動きが取れずただ皮がむけて血が出るだけだ。三匹は抵抗することに疲れてうずくまり、いつしか夜が明けてしまった。
「親父様、もう俺たち女に喰われちまうんだな」
「イノキ!おまえ怖いこと言うなよぉ」
「そうだな、若いお前らには申し訳ないが覚悟はしとけ」
「親父様までそんなこと言って、僕はやだよぉ」
「儂らも鹿や猪の肉を喰うだろ、それと一緒だ」
先代の親父も、その前の爺様も強い男だったが森で女に捕まって二度と帰ってはこなかった。何が気に入らないのかたまに捕まえた男を逃がすこともあるが、芋泥棒が助かった話など聞いたことがない。
「ぐあっ! あががががががががが」
クマ親父の背中に何かが刺さる。毒虫に刺されたときの何倍もの痛みとシビレで思うように動けない。地面に大の字で倒れて明るくなった空を仰ぎ見る。イノキとシカオもやられたのか近くで若い衆の呻き声も聞こえてくる。目の中に映る青いはずの空が夜みたいに真っ暗になって消えた。
股ぐらが痛い。キンタマが痒いときに下手をこいて袋に掻き傷をつけちまったみたいに。いや違う、そんなちんけな痛みじゃない、もっと大変なことが起こってる。目も見えないし手も動かない。ヤバい僕だけか? 親父様とイノキは大丈夫なのか?
ザクッ、サクサクサク。
「ひいゃああああ!やめて、痛いよ、痛いよ、ちぎらないで、ちぎらな…ぎゃあああああ、うわああああ!」
俺は耳に入って来た叫び声で一気に目が覚めた。何も見えない、目玉を潰されたのか。さっきの声は幼なじみだと思う。
「ええっ!?シカオか?そこにいるのか?おい、おおい」
「目が覚めたかイノキ、儂もさっきシカオの叫び声で、うぐっ!」
ザクッ、サクサクサク
「おああっ、があああああ!?」
ナイフの刃がクマ親父の陰嚢を会陰から竿の付け根まで、後ろから前にぐるっと引き裂いていく。
「親父様!? いったいどうしたんっすか、俺ら何されてるんっすか」
「ハアっ、ハアっ、誰かが儂の玉袋を縦に割って…イテテテテテ!」
「袋ってキンタマっすか親父様、なんで…」
「あぎゃあああ、痛てえ、ちくしょう、痛てえええ。ひいっ、やめろ儂の玉をひっぱるなああ、やめろおおお」
パツンっ「ふぎいいいいい!」
パツンっ「いぎいいいいい!」
「アヒャヒャヒャ、親父様もキンタマ切られちゃったか?ヒヒヒ」
「なんだよシカオか?おいお前しっかりしろ!」
「ヒヒっ、次は、ヘヘっ、イノキじゃね?」
「シカオお前、頭イカレちまって…」
ザクっ「!?」
サクサク「うぎっ、痛っイツツツ」
狂ってしまった幼なじみが予想したとおり、若い男の会陰にナイフの刃が突き刺さる。その切っ先はかつて胎児の頃に染色体によって男と決定づけられたせいで、縫い合わされ袋になったものを再び切り開いていく。
サクサクサク、ザクっ!
「ひいい、裂けるっ、さけるううう! タマがこぼれちまう!」
グニュ、グニュ。
「袋のなかほじくってるのか!? がはっ、やめろっ、タマをひっぱるなあああ」
パツンっ「げはあああああ! 切りやがった、こいつ俺のタマのすじ切りやがった」
グニュ、グニュ。
「やめろやめろ、取らないでくれ!俺のキンタマとらないでくれえええ!」
パツンっ「いやだああああ!」
男たちがどんなに叫んでもナイフの持ち主の耳には畑を荒らす害獣のオスが鳴き声をあげているにすぎない。三匹の睾丸は6つとも狩人に抜き取られてしまったのだ。睾丸の去勢を終えた狩人は三匹のペニスを手に取る。握ったり伸ばしたり、手のひらですくってポンポンと上にはじいたりして大きさ形の検分をはじめた。竿を弄ぶ細い指がたくみに雁や裏筋など快感のスポットを責める。タマを抜かれた痛みがかえってオスの本能をくすぐったのか、三匹のペニスは狩人の前で恥ずかしげもなく勃起してしまう。
「アヒー、この指スゲエ、キモチイイー」
「ハアっ、ハアっ、親父様なんですかこれ、俺もうイっちまいそうだ」
「わからんっ。儂もこんなのは、うおっ、初めてで…うっ」
狩人の指はオスたちが射精しそうな素振りをみせれば絶頂の数歩手前で巧みに寸止めする。睾丸もなくしているというのに三匹のペニスは我慢汁をたらして切なく縦に揺れる。狩人はただ切り取ったペニスを剥製にするため姿かたちのよい竿かどうか品定めをしているだけなのだ、射精して萎えてしまっては困る。しばらくして狩人は芋のような顔をした毛むくじゃらのオスのいちもつを剥製にすることに決めたようだ。切断するための竿抜き器を用意しはじめた。後でシリコンがよく染み込むように切断の直前まで血管を広げておくのが剥製を自作する狩人のこだわりだった。
「ふうっ、ひいっ、イカせてくれ、もうイカせてくれ!儂はもう、もうぉ…」
群れの長は無骨な顔を歪めては切ない鳴き声をあげ、縛られた不自由な体でもなんとか腰を持ち上げて限界まで怒張したいちもつから射精しようとする。それがもはや種のない汁であったとしても。しかし、頃合いだとみた狩人は何度も焦らされて猛り勃ついちもつに竿抜き器を被せた。
「うっ? なんだコリャ」
「親父様どうしたんだ?」
「なんてこった、こいつは…ちちち、チンポ切りだ!」
群れの長は森の中で狩人に捕まった仲間が竹筒のようなものをいちもつに被されてくり抜かれる様子をみたことがあったのだ。
「俺たちチンポも切られるのかよおぉ」
「ヒャヒャヒャ、チョッキン、チョッキン、チョンボリチョロリ」
狂った方の若いオスは調子よく歌い始める。
「ちくしょう! あとちょっとで出せるのに…せめて最後に一発ぶっぱなしてえ、もう一回でいいからしごいてくれよ、儂のチンポしごいてくれ、イかせてくれえええ!」
狩人は寸止めしたオスが最後には懇願するように暴れるのには慣れていた。何の問題もなく竿抜き器の取っ手をオスの下腹に押し込む。
ジョキンっ!「がはああああ! 儂のチンポが、チンポがあああ」
器から取り出された肉棒が氷水のなかに放り投げられた音がチャポンと響く。群れをまとめあげてきたボスのペニスは最後の射精を永遠にお預けされたまま切り取られてしまった。
「チャポン?何の音だ? へへへ、チャポン、チャポン」
「こええ、助けてくれ、俺はもう芋なんて盗らないから許してくれええ」
ボスがいちもつを切られる断末魔を聞いた若いオスは、恐怖のあまり自分も幼なじみのように狂ってしまいたいとさえ思った。狩人はもれなく二匹の若いオスにも竿抜き器を被せる。二匹のペニスは先細りや右曲がりで形が悪く剥製にはむいてないが晩酌の肴にでもしようと思ったのだ。
「もうしません、もうしません! いやだ、切らないでくれええ!俺のチンポ切らないでくれええ」
ジョキンっ!「チョヘエエエ!チョヘエエエ!」
先に切られたのは気が狂ってしまった幼なじみの方だった。最後に残された若いオスは自ずと次は自分であることが分かる。手枷で吊り上げられた体がガクガクと震える。チャポン。再び放り投げられた肉棒がどこかで着水する音が聞こえてくる。
「ひい、ひいい、ひいいい!おたすけええ」
ジョキンっ!「うぎゃあああああ!」
痛てえ、むちゃくちゃ痛てえよおぉ…俺のチンポが…なんでだよ、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだ、俺は、俺はチンポと玉を取られるために生まれてきたのかよ…ひでえ、ひでえよおぉ…。
日が暮れて夜の帳がおりた頃、一匹の若者は匂いだことのない旨そうなにおいに鼻をくすぐられる。股間から流した血のせいか、体に力は入らないが腹の虫だけはぎゅるぎゅると鳴るのだった。
「若けえなイノキ、まだ腹がすくのかお前」
「…親父様?俺たち何してるんでしたっけ」
「芋を盗りにきたんだろ、忘れたのか」
「…そうでしたっけ、俺なんだか頭がぼうっとして、さっきからすげえ寒いしだるいっていうか。それにしても旨そうな匂いっすね。そうだシカオの奴はどこ行きやがった」
群れの長は鼻をくすぐるのは自分たちのいちもつが料理されている匂いだと思ったが、弱っている若者には教えなかった。
「シカオは寝たよ、お前も眠いなら休め」
「…すいやせんね、親父様をさしおいて。じゃあ俺もう寝るっす…群れのみんなで食いましょうね芋…」
容赦なく下がる気温と冷たい風が去勢され衰弱した獣たちの身体から体温を奪っていった。
次の朝、群れの長は若者がとちらも二度と目を覚まさないことを気配で感じ取った。自分もすでに憔悴しきっていることがわかる。喉が渇いて意識がぼやける。やがて肌にあたる空気の動きと地面から伝わる振動で自分がどこかへ運ばれていると気付いた。
止まった場所で手枷がやっと外されたと思えば、今度は足首に頑丈な枷がつけられて逆さまに吊り上げられてしまう。力の入らない両手がだらんと垂れ下がる。頭に血が逆流して朦朧としていると、ずっと目に張り付いていたものがベリッと音をたてて剥がされた。
ヒリヒリとする皮膚の痛みに瞼をしかめながらあたりを見回す。そこには小川のように流れる水の上で逆さに吊るされた男たちが何人もぶらさがっていた。なぜか全員が自分と同じように胸と腹に豊かな毛並みがある男ばかりだ。男たちのチンポとタマは当然すでに切り取られていたが、どうしてそんな毛むくじゃらでむさ苦しい野郎ばっかりなんだと群れのボスは解せなかった。隣にもう一本ある小川の水が赤黒く濁ってくる、その上に吊るされてあらわれた男たちは胸と腹の皮がごっそり剥ぎ取られていた。
「…そうか、儂らはこれから毛皮にされるのか」
流れる水路の両脇には撥水加工の作業服を全身にまとい、マスクとゴーグルで完全装備した職人が不気味に反った皮剥包丁を持って待ち構えていた。
《3》『狩人の娘と獣の少年』
初潮をむかえたばかりの少女は熟していく自分の身体に戸惑っていた。彼女はログハウスの壁に飾られたひときわ大きなペニスの剥製を見上げてため息をつく。それは母親が妹をつくるときに使った種男のものだ。生まれたばかりの妹に掛かりきりの母親は生理の相談にもまともにのってくれない。
少女は今日も狩猟の授業でヘマをして怒られたばかりだ。練習用といっても小動物なら十分殺められる空気銃で兎を撃つ課題だった。彼女は的を外してばかりで先生からもすっかりポンコツ認定を受けている。親がそこそこ名の知れた狩人なのが恥に拍車をかけていた。
少女が撃てないのには理由があった。彼女には誰にも言えない秘密として獣たちの心を読み取れる力があるのだ。動物たちの悲痛な叫びが頭のなかで言葉になると弾を当てることなどできない。
母親の寝室から妹の泣く声が聞こえてくる。泣きさえすればママがやってくるのかと新米のお姉ちゃんは寂しくて自分の方が泣きたいぐらいだ。一年ほど前、芋を食い荒らす男の駆除に農園の仕事にいった狩人の母は約束した日にも帰らず、ひもじくて一人で泣いたことを思い出す。壁からこれみよがしに反り勃つ大きなペニスを少女は憎らしく思った。
自室に戻り男の毛皮を敷いたベッドの上に頬をつけて寝転がる。母親がその毛皮になった男から切り取ったペニスの剥製と一緒にプレゼントしてくれたものだ。少女はベッドで毛皮に顔をうずめながら、形が良くて硬いペニスの剥製を抱いているのが好きだった。そうしていると妙に気持ちが落ち着いた。
男の胸から腹にかけてくり抜いてつくられた毛皮には乳首すらついている。赤ちゃんにオッパイをあげるわけでもないのにどうして男にも乳首がついているのか少女はいつも不思議に思う。男の体は女をもとにつくられた出来損ないだと学校で習ってはいるが、女が弄ぶために無意味な乳首も退化しきらず残ったのかもしれないと少女は思った。
毛皮にあるその小さな突起を愛撫しながら、ペニスの剥製を使って少女は自慰をはじめる。雁高の亀頭が桃色の陰唇で蓋をされた割れ目を掻き分けるたびに疼く様な快感が広がっていく。彼女は3度目のオーガズムで大きな絶頂を味わったあと心地よい疲れでそのまま眠りについた。
度胸試しに山から一匹で女の里まで下りてきた少年は既に後悔をしはじめていた。下の毛が生えそろい声変わりもしはじめると若い男たちは強がって周囲に自分を認めてもらいたくなるものだ。女の里から何か食べ物でも持って帰れば同じ年頃の間では英雄扱いをしてもらえる。
少年にはひとつ前の秋に山を下りて帰ってこなかった兄貴分と父親代わりだった群れの長を探したい気持ちもあった。仲間からはどうせ女に喰われて生きてはいないと言われていたがどうしても諦めきれないでいた。
「まいったぁ、これが切れない縄か。本当に硬くてびくともしないや。腹もペコペコだ…」
チョウヤという名の少年は愚かにも一年前に兄貴分のシカオとイノキやクマ親父が捕まったのと同じような罠に足を捕らえられていたのだ。目前には丸太を組み合わせて作られた女の住処が不気味な佇まいをして建っている。金属ワイヤーに縊られる足の痛みにひもじさも加わって、強がる余裕もなくなった少年は涙をこぼす。
少女が目を覚ます。時計の針はまだ真夜中の二時だ。頭のなかにいつもの声が聞こえてくる。動物の悲痛な叫びが。
「…泣いてる? お腹もペコペコなのね。タヌキでも罠にかかったのかな」
狩人の母親は自宅の周囲にも罠をよく仕掛けている。少女は捕まった小動物をこっそり逃がしていた。用心のためちゃんと狩猟用の服に着替えてから、キッチンで林檎を手に入れて忍び足で裏口から出掛ける。森に面した裏庭でうごめいていた生き物をみて少女は絶句する。
「男…の子?」
獣の少年を見て驚き持っていた林檎を落とす。ログハウスは盛土の上に建っていたので林檎はコロコロと転がり少年の側で止まった。野生では珍しいきれいに実った赤い果物の匂いにつられて獣の少年は鼻で嗅いでから食らいついた。
「…おいしいのね、どうぞ食べて」
獣の子が食べるのに夢中になっている隙を見て少女はワイヤーが固定されている方の木の幹に走り番号錠を開けて外した。仕掛けは獣の足首についたままだが引きずれば身動きは取れる。
「怖くて近づけないからこれで許して。ママに見つからないうちに山に帰って」
少年は少し離れたところにいる少女が食べ物をくれ罠をほどいてくれたことをよく理解していた。女はもっと怖いものだと思っていた彼は少し拍子抜けしたぐらいだ。
「なんだ、女って優しいじゃないか。親父様が聞かせくれたおとぎ話は嘘なのかな。それに…すごく可愛い」
少女の顔が林檎のように赤くなる。普段の動物よりもずっと明瞭にこちらを見つめる獣の考えが手を取るように伝わってくるからだ。
「可愛いだなんて…なんだろ、すごく変な気分になる」
常識では考えられないが短い時間で彼女の警戒心は薄れていった。少女のほうから少しずつ距離を縮めていき、ついに鼻が曲がるような獣臭が漂うところまでやってきた。
少しずつ近づいてくる女に最初は驚いた少年だったが、女という生き物は噂ほど怖くないのだと勘違いした彼はその場に突っ立ったままだ。少女が足首の切れない縄を指さしている。
「この切れない縄を外してくれるの?」
恐る恐る足をのばしていると、少女が頷くのでさらにぐっと前につきだした。
「そうよ、そのままこっちへ。外してあげる」
罠はそこまで悪質なものではなく蝶螺子さえ緩めれば足首ぐらいは抜けそうだった。泥まみれの足首に巻き付いたワイヤーの輪をなんとかして広げる。
「これでよし、さあはやく森へお帰りなさい」
少女が森の方を指さすと獣の子はそちらへ振り返るのだが一向に逃げていく気配がない。しまいには腹がたってきて何度も指さしていると、ぎゅるぎゅると腹の虫が鳴るのが聞こえてきた。
「…あなた、そんなにお腹がすいているの?仕方ないなちょっと待ってて」
くびすを返しログハウスにもどろうとする少女の後ろを付かず離れず獣の子がついてくる。結局裏口まで一緒に帰ってきてしまった。
「何やってるんだろうわたし…」
自分がとんでもないことをしているのは心臓の異常な高鳴りでわかる。まだ子どもらしさは残しているとはいえ男に襲われでもしたら大変だ。当の獣の子といえば初めて見るものばかりであちこち頭をふって暴れるような気配はない。ふと壁のほうを見た獣の子が動かなくなる。その方向にあったのは壁から何本も突きだしているトロフィーになったペニスたちだった。
「なんだありゃチンポじゃないか。なんであんないっぱいチンポが飾ってあるんだよ。あれ全部俺の仲間から切ったのか!? やっぱり女が俺たちを喰うバケモノだっていうのは本当なんだ…」
少年は間抜けにも少女を信じたことに今日二度目の後悔をした。とにかく逃げようと入って来たほうへ振り返った瞬間、背中に何かが突き刺さり全身が激しく痺れはじめた。
「あががががが、ブクブクブク」
床に仰向けに倒れた少年は壁から突き出ている何本ものペニスに見下ろされる異様な光景を目にしながら泡を吹いて気を失った。
「ママ!?」
獣の子を気絶させたのはライフルを携えた少女の母親であり狩人だった。彼女は細い息を吐き額の冷や汗をぬぐう。もう少しで大事な娘が獣に襲われるところだったと。
「ふうっ、怪我はしてない?」
「ママ、この子殺しちゃったの!?」
「麻痺してるだけよ。でも男の心配なんてしてどうするの。あなた大変な目にあうところだったのよ」
「あっ、ううんその…そうだね、ママありがとう…」
「まったくこんな夜中にどこに行ってたの、早く部屋にいきなさい。ママはこの男を始末しないといけないから」
「お願い、その子を逃がしてあげて。まだ子どもよ」
娘があまりにも真剣な目で訴えるので母親はライフルの先で男の腰巻をめくってみた。そこには生えそろったばかりの下の毛と、睾丸に促されて成長途中の若いペニスがあった。
「だめね、確かに若いけどもう十分男になってる。子ども扱いはできないわ」
「そんな!見逃してあげようよ、別に悪いことなんにもしてないし」
「家に忍び込んでるのに悪いも何も…あなた、そういえば銃の教習でも動物を撃てないそうね。わたしがかまってあげられてないのかもね…でも少し大人にならないといけないわ」
今のうちに甘えた考えはしないよう母親は娘の心構えを正すことにした。
「いい機会かもしれない、この若い男はあなたが仕留めなさい。いつかは種男を狩らないといけないんだから」
女狩人の顔になり目つきも姿勢もすっかり別人のようになってしまった母親に娘はもう逆らえなかった。離れにある作業場に運ばれた獣の子は解体用の台の上に縛られてしまう。狩人は娘にやるべきことを言いつけるとログハウスに帰ってしまった。できるまでは決してここから出さないと言い残して離れの扉は外から施錠された。少女は仕方なく意を決してまず専用のスキャナーを陰嚢に当て記録を役所のサーバーと同期させる。チップから読み取られた情報には自分と同じ生まれ年が記載されていた。
「つめてぇ!なんだ、うわっぷ水がっ」
「ごめんなさない。起きちゃうよね、冷たかった?」
少女は水道から伸ばしたホースで少年の体を洗い流していた。少年は気が付くと水浴びをさせられていたので驚いたが、あの可愛らしくて優しかった少女の姿が見えたので少しだけ安心した。甘ったるい花の香りが自分の体から匂って来る。
「やめてくれ。なんだ?このキツイ花の匂い」
「泥や垢がすごくて大変だったの。シャンプーと石鹸つかったのよくなかったかな。ちょっと髪の毛も切らしてもらったんだけど見る?」
言葉の意味はわからないが顔の前に突きだされた四角い板の中には静かな水面を覗いたときのように自分の顔が映っている。短く整えられた髪を見てまんざらでもないと少年は思った。手足がきつく縛られてさえなければよかったのに。
「また罠かよ。これほどいてくれ、わかるか? ほ、ど、い、て、く、れ」
「…そうだよね、でもね、もうほどけないんだ」
少女が哀しそうな顔をするので何か悪いことでも言ったのかと少年は気をもむが、近づいてきた彼女が自分の乳首に口をつけたので体がびくんと反射的にはねあがった。
「わたしね、今からあなたの大事なペニスと睾丸を切らなきゃいけないの。だから…その前に気持ちよくしてあげるね」
少女はベッドの上の毛皮をつかっていつもしているように、男の両方の乳首を唇と右手でそれぞれじっくり弄びながら、左手ではペニスを揉みしだきはじめた。当然それはムクムクとあっと言う間に膨らんでしまう。
「生きてるちんちんって、こんなふうに大きくなるんだね…かわいい」
「き、きもちいいい。なんだこれええ」
胸のいたるところに口付けや頬ずりをされ、舌で乳首をころがして愛撫される。ときどきは腹の方まで舐められ少年の興奮は留まるところをしらず高まっていく。
「だめだもう我慢できないっ、気持ちよすぎる!ぐうううう…」
陰嚢が縮んですっかり股の方へ睾丸を持ちあげ、これ以上はないほどに硬くなったペニスが吹き出そうとする手前で少女は刺激するのを止めた。
「へえ? そこまでやってやめないでくれよ、あと少しだからさ」
寸止めに拍子が抜けた獣の子は少女の顔をみる。すると、彼女はその後何度も何度も射精しそうになるまではペニスをしごいてくれるのだった。
「はあっ、はあっ、すげえ、けどもう限界だよ。そろそろ一回ぐらいイかないと頭が変になるって。わかる? い、か、せ、て、く、れ」
獣の子は通じるかわからないが妙に感がいい少女ならわかるだろうと間抜けな顔で口を大きく開けてゆっくり喋ってみる。すると少女が見たこともない筒を持ってやってきた。
「そうだね、出して気持ちよくなりたいよね…」
「なんだいそれ、もしかしたらもっとチンポが気持ちがよくなる道具?」
母に言いつけられた通り、少女は男のペニスを限界まで寸止めさせてから切り抜く手筈を整えていた。初めての剥製づくりをするためだ。射精を確信してピクピクと脈動するペニスに竿抜き器をかぶせる。
「あれ?別に気持ちよくないけどなあ、これじゃイけないよ」
ジャキンっ!「ふぇっ? え、え? あれ、なんか痛い。あれ、いてて、いててて…あ、あああ、ああああああ。うぎゃああああああ!?」
突然のことで何が起ったのかしばらく分からなかった少年も、じわじわと感じはじめた痛みに自分のペニスが体から切り離されたことを理解する。
「俺のチンポ切れちゃったの? うそだ、うそだうそだうそだああっ」
少女は海綿体から血を失ってすっかりうなだれてしまった肉棒を器から取り出し少年の胸板の上に置く。それも言いつけの一つだった。
「こ、これ、これ俺のチンポ? 俺の? どうして、どうしてえええっ」
少年は胸の上で息絶えているペニスから目を離せないまま泣いている。少女も自分のした行いの残酷さに耐えられず目から涙が溢れてくる。
「…痛いよね、あたりまえだよね。グスっ、あとは睾丸を取ればおしまいだからね、もう少し我慢してね、グスっ」
ザクっサクサク「だめ、それだめっ、キンタマの皮切っちゃだめええ!」
サクサク、サクサク「あがっ、あがっ、ひいっ、玉が外にでちゃうって」
器用な少女はとても丁寧に陰嚢の皮だけを全て切り取ったので少年の睾丸は本当に丸裸になって外に晒されてしまった。
「この白い玉が男がいる理由なんだね…」
ブツンっ。「うぐっ。へっ?もしかして俺のキンタマとれた?」
ブツンっ。「痛っ。えっ? 2個しかないんだよ、もうひとつものほうも切ったの?」
切り取った睾丸を少女は大事そうに保存液を満たしたケースのなかに沈めてキャップを締める。透明なケースの中に浮かぶ睾丸を蛍光灯の光にすかして見る。存在理由を奪われた男の証を眺めていると少女は男という生き物を征服した感覚がじわじわとこみ上げてくるのを感じた。それは狩る側の人間としての自覚が芽生えた瞬間でもあった。
「全部おわったよ。ありがとう、おかげで少し自信がついたかもしれない」
狩人の通過儀礼のひとつである男の去勢を無事終えて気持ちが晴れてきた少女とは対照的に、その犠牲にされた少年は痛みを忘れるほどの怒りと悔しさがこみ上げてくる。
「うそだああああ。 返せよっ俺のチンポとキンタマ返せよ!」
「ちくしょうっ、ちくしょうっ!」
「どうすんだよ…これ、どうやってしょんべんするんだよ、もうチンポしごけねえのかよぉ…なんでイかせてくれなかったんだよ、切ねぇ、むちゃくちゃ切ねぇ…」
少女はふと気づいた、目の前で身悶えする獣が何を騒いでいるのか分からないことに。彼女の耳に聞こえてくるのは一匹の獣のオスが去勢されて惨めに鳴いている声だけだ。それ以上でもないしそれ以下でもなかった。少し前の自分が嘘のようにもう獣の声に気持ちが揺さぶられることはなかった。翌朝、獣の子は軽トラの荷台に乗せられ運ばれていった。
「出来栄えはどう?」
母親が娘のつくった剥製を確かめに来る。
「だめよママ、恥ずかしいから見ないで」
「かまわないから見せなさいよ」
娘の手から取り上げた若い男のいちもつは今にも最後の射精をしようと息巻いているように迫力がある仕上がりだった。
「すごく上手にできてるじゃないの。流石わたしの娘」
「からかわないで。ママみたいに上手く出来てるわけないし」
「ほらまた自信がないふりをするでしょう。あなたの悪い癖いよ。この出来ならコンクールで新人賞ぐらい獲れるから一度出品してごらん」
「いいの、そういうのは」
「ふふ、どうせエッチなことにひとりで使うんでしょ?」
「やだっ、ママったらひどい!」
「恥ずかしがらなくていいのよ、女のセルフプレジャーは大事だもの」
「もう、サイアクっ!妹のいる前で」
母と姉の他愛のない会話にはおかまいなしに幼い妹が興味津々に見つめているのはお祝いに届いた睾丸の缶詰だ。見事一発で女の子をつくった種男の金玉は娘が一生食べ物に困らないよう願いをこめてお食い初めに供されるのだった。
《4》「闘犬と力士」
上の娘は外国の大学に進学し家を出てしまった。今は7歳になった次女との二人暮らしだ。子育てはいつまで続くのかと大変に思っていたけれど、たった7年で親子三人の時間は終わったと思うと実際はあっという間なのだと身に染みる。
感受性が豊で引っ込み思案なせいか手のかからなかった姉と違い、次女は天真爛漫というか、かなりのお転婆娘で手を焼いている。わたしの狩人仕事にも興味津々で小動物なら器用にナイフで解体してみせるほどだ。
「ママ見て、ほらできたよ」
そう言って白いワンピースを血まみれにした次女が見せてくれたのは皮を剥がれた兎だった。罠に掛っていたのを自分でバラしたらしい。
「またそんなに汚して、一人で刃物を使っちゃダメでしょ」
「大丈夫、あたしちゃんとナイフ使えるもんっ」
確かに彼女がナイフで怪我をしたことなど無い。娘たちは私に似たのか手先は器用だし道具の扱いも上手だった。
「やれやれだわ、服を着替えてきなさい。今日のお昼は兎さんのハーブソテーにしましょう」
香草と岩塩で兎を焼いてやると骨離れが悪い肉なのに次女はむしゃぶりついてたいらげる。大人と同じ量を食べてもまだ足りないというので好きな缶詰でもひとつ選ぶように言う。何を選ぶかは聞くまでもないのだけれど。
「じゃあ、キンタマの缶詰ちょうだい!」
「ほんとに好きね、酒のつまみよ?こんなもの」
私たちは小さい頃にお食い初めで自分をつくった種男の睾丸を口にするが、それは健やかな成長を願う祝い事の儀式であって、大抵の子は少し口に含む程度だ。それなのに次女ときたら鶏の卵みたいな睾丸を二個とも食べ切った。大食漢の片鱗はその頃からみせていたのだ。金玉缶詰は安売りのときにまとめ買いしてストックしている。
「トロッとしてオイシ~、やっぱり缶詰はキンタマが一番だねママ」
「ほんと、大人みたいな舌をしてる子だわ」
「それよりママ、今日はワンちゃんを貰いに行くんでしょ」
お転婆で元気いっぱいの次女も実はかなりの寂しがりやだ。姉が家を出てからはよく枕を涙で濡らしている。流石に私も新しく種男を狩って子供をつくる気もないので犬の譲渡会に行ってペットを飼う約束をしていた。
「そうね、ぼちぼち出かけないと」
卵型で愛嬌のある顔にがっちりした骨格、ブルテリアの血が混ざった雑種の仔犬は次女と目が合うなり柵を越えそうな勢いで立ち上がってきた。ペットにも運命の出会いというものがある。初見ですっかりお互いを気に入った次女と犬は新しい家族になった。睾丸にも噛みつく獰猛なイタチ科の名前をすこし端折ってラテルと名付けた。
「ママありがとう、この仔がいればもう寂しくないよ。大丈夫だから」
譲渡会場の一角に人だかりができ、そこから興奮した人たちの歓声が聞こえてくる。どうやら出し物で即席の闘犬競技が催されているようだ。
「あれはいったいなあに?わたしの背じゃ見えないよ」
まだなんとか肩車できる次女を抱えてやると、彼女の目にうつったのは丸裸の男が獰猛な闘犬と戦わされている様子だった。
「すごぉい、ママみて闘犬の試合だぁ」
鍛えられた犬と男を戦わせるその競技は年齢を問わず人気な娯楽のひとつだ。子供向けのアニメやゲームにもなっている。プロの闘犬トレーナーは子供たちの憧れる職業のひとつでもある。公営賭博の側面もあり闘犬はその勝敗で莫大なお金や利権が生まれる。
「でも相手の男よわーい。もう負けちゃいそう」
「これは余興の見せ物だもの。本当の闘犬はちゃんと鍛えられた力士っていう男が相手だから手強いのよ」
「あたしホントのやつ観に行きたいなあ」
全身の噛み傷から血を流している男は六匹の闘犬にコーナーまで追い込まれてしまった。わめきながら尻もちをついて必死に身を守ろうとしているが、ついに首もとに噛みつかれると両手が力なく地面に落ちた。トレーナーの掛け声で二匹がそれぞれ足首を噛み、男を大股開きにしながらリングの中央まで引きずっていく。その間も首に噛みついた犬は決して離さず縊り続ける。
残りの三匹がどどめとばかりに男の生殖器に襲い掛かる。トレーナーの出した命令は「喰え」だった。三匹はペニスと両方の睾丸を一か所ずつ担当し、興奮したガウガウという唸り声をあげて貪りつく。ペニスを噛んだ犬が後ずさりしながらひっぱると、男の股間からは白い筋肉繊維が長々と伸びて最後には緩んだゴムのようにして切れた。その瞬間、観客たちは大いに盛り上がる。
「いいなあワンちゃんたち、あたしもキンタマ食べたい」
「もうあなたは、こんなときまで食い気が一番なのね」
「あたし大人になったら闘犬トレーナーになりたいな!」
「はいはい、まずはラテルちゃんのお世話をがんばりましょうね」
すっかり闘犬の虜になった次女が口走った子供にありがちなその言葉は、やがて本当に実現することになる。
七年ほど月日は流れて、ここは闘犬の噛ませ相手になる力士の養成部屋。巨漢で屈強な体格の男たちは隣り合う独房のようなケージで飼われている。清潔な檻に上質の餌、プロの相手をする力士ともなれば獣としては破格の待遇をうけ四股名も付けられる。森へ捨てる前の男児から有望そうな個体を引き取りブリーダーが飼育しているのだ。力士が何より特別扱いなのは人間の言葉や習慣を訓練されることだ。それはタニマチと呼ばれる部屋に資金提供をする裕福な資産家たちとの契約のためだった。
早朝からはじまっていた稽古は恐怖の行事で締めくくられる。
「やめてれくれ!お願いだ横綱やめてくれ」
「勝負のルールは絶対だ。お前も力士なら最下位になった連中がどうなったかは見てきただろう。男なら根性見せろ、さっさと廻しをはずして股を開け」
「そ、そりゃ見てきましたよ、見てきたけど…」
「まったく情けねえやつだな、昨日の奴はもっと潔かったぞ。俺たちにやられるのが嫌なら女どもに引き渡して処理場で去勢だ。野生の男みたいに機械のレーンに逆さ吊りにされてちょん切られるんだぞ、そんな最後でいいのか?」
「…ううぅ横綱ぁ、あんたかって負けてドンケツになったらわかるさ!この惨めな気持ちがよおぉ」
「悪いが俺は負けないんでね。だめだなこいつ。 おいお前ら、この腰抜けを押さえつけて剝いちまえ」
泣き叫んで抵抗する男は同じ部屋の力士仲間に取り押さえられ廻しを奪われて丸裸にされる。三桁を越える体重の大男数人がのしかかり、両足を左右それぞれに開いて股を割った姿勢にさせる。いちもつは非常に無防備な状態で露にならざるを得ない。横綱が分厚い手のひらをパンっと響かせて拝み合わせる。
「今まで鍛錬おつかれさん。お前のチンポとタマは俺らで潰してやる。女どもには指一本触れさせねえから安心しろ」
繰り出される強烈な張り手が押さえつけられている力士の股間に容赦なくあびせられる。まずは睾丸が的になるようだ。
「最初は右からだ」
ドス!バス!ドス!バス!
「ぐっ、げっ、がっ、ごっ」
ブチュンっ「ぐぎゃああああああ!」
「お次は左だ」
ドス!バス!ドス!バス!
「あひっ、うぎっ、げえっ、おえっ」
ブチュンっ「うぎゃああああああ!」
「よっしゃ両方潰れたな、仕上げはチンポだ」
左右から手を合わせ挟むようにして強烈な力でペニスがはたかれる。連続する打撃から逃れられない男の竿は先っぽから血を吐きながらぐちゃぐちゃの肉の塊になっていくしかない。
バチン!バチン!バチン!グチュン!ブチュン!
「ぐああっ、げはあっ、おえっ、おええ、ブクブクブク…」
最下位に落ちた男はついに白目をむいて泡を吹き始めた。力士たちの稽古は毎日が生き残るための闘いだ。男児の頃から土俵上でせめぎ合い満16歳になると勝ち数に応じて序ノ口から幕内まで六段階に選別される。
序ノ口の最も下位になった者は見せしめの意味も込めて皆の前で去勢される習わしだ。力士たちはそうはならないよう気合を入れて稽古に励むしかない。男など掃いて捨てるほど生まれて来るこの星ではそれぐらい激しい入れ替わりで丁度よいのだ。私刑を済ませた横綱は稽古終わりの力士たち全員に聞こえるように声を張る。
「おーい、全員注目だ。見ての通り負けた男にチンポをぶら下げる価値はねえ。そんな奴は闘犬の試合で化物みたいな犬っころにすぐ喰われて話にならん。明日からも気合いれていけよっ!」
「ごっつぁんですっ!」
序ノ口から落ちた力士が処理場送りなのには変わりない。ただ誇りを持った力士たちは自らの尊厳を保つために自分たちの手で男を終わらすという道を選ぶようになった。力士の間では仲間を思う「かわいがり」と呼ばれる行為だ。今日の男は情けない醜態をさらしたが、普段は侍が切腹するように負けを認め去勢という介錯を仲間に求めるのが通例だ。
「ご苦労だったな鬼丸、まあ水でも飲めや」
親方が差し出した柄杓を横綱は両手で受け取る。
「妙に気が立っとったな。なんじゃツンツンして機嫌の悪い。理由は昨日の天竜の試合か?」
昨日はじまったばかりの闘犬夏場所、同じ部屋で切磋琢磨してきた大関の天竜がデビューして一年目の犬と弱冠14歳の天才少女トレーナーに大負けし、チンポとタマを一度に全て喰われるというあり得ない程の無様な負けを喫していた。
「天竜のやつ部屋の看板に泥をぬりやがったんです!」
「たしかにな、タニマチのお歴々は渋い顔をしてらっしゃる。それで悪いけどよ、お前詫びに行ってきてくれ。お偉いさんが自分のお嬢さんに種をご所望だ。直に注いでほしいそうだ」
「親方ぁ!場所中に種を出すのは遠慮してくれる約束だったじゃないですか。それに俺まだ直に入れるのはしたことないっすよ」
「タニマチの奥さん方のご機嫌を損ねるわけにはいかねえだろ。儂らは蛇の目に睨まれた蛙だ。下手をこいたらこの部屋での暮らしもおじゃんだ。いい機会だろ、お前の筆おろしだ」
一般の女性は自ら森で狩りをして種男を見つけ管理センターで絞ってもらった精液をシリンジに充填し、自分で膣に挿入する方法で妊娠する。しかし、全女性のたった1パーセント、大富豪レベルの家系だけは力士たちのような特別飼育されている男から性交渉で種を得られる特権がある。彼女たちにすれば力士部屋など犬小屋で犬を飼うのと変わらない。
横綱の鬼丸は病院のVIP専用ルームで交尾用の台にはりつけられてお嬢様の到着を待つ。安全の確保のため男から一切の手出しはできない。腰の上に乗られて騎乗位で搾り取られるだけだ。しかもお嬢様たちは腰をふるようなハシタナイ真似はしない。力士は肛門に挿入された電気プラグで激痛を味わいながら、高嶺の花の高貴な子宮に卑しくも下賤な種を延々と吐かせていただくのだ。
「こんにちは横綱さん、びっくりするぐらいおっきな体なんだね。間近で見るとちょっと怖いな…あはは」
「オニマルです。よろすく…おながいすます、おじょうたま」
「わぁ、私たちの言葉だぁ。上手に喋れるんだ鬼丸君、すごいね」
「がんばるます。ごっつぁんです」
「ふふ、ごっつぁんです。私も知ってるよそれ。頑張ろうね、じゃあおちんちんの注射打つね」
交尾中に決して萎えないように海綿体の内圧を上昇させ続ける薬品が投与される。横綱のペニスは意識や性的興奮とはまったく関係なく血管を浮き上がらせてガチガチに怒張してしまう。
「あら、鬼丸君って思ったよりも小さいんだね、まいっか。よいしょっと」
「ちいさくても、しごとは、するます」
「うふふ、期待してるね。頑張ってうちのママのご機嫌とらないとまずいかもだし」
そう言ってお嬢様は横綱の直腸に刺さった電気プラグのスイッチをいれた。
「うぐううううううううう!」ビクビクビク。
「私のママは闘犬になんて興味ないの、熱心だったお婆ちゃんが亡くなったからさ、もう力士部屋のパトロンなんてやめたいみたい」
「あぐ、あぐう、あぐうう!」ドピュピュピュ。
「もう射精しちゃうんだ。熱いのが入って来る。すごいね家畜用の電気射精装置って。でね、ほら昨日あなたの部屋の大関が新人のトレーナーの犬に派手に負けたでしょ」
「まけまし、あああ!」ビューッ、ビューッ。
「もっと出して、その調子。えっと、そうそう大負けしたからママもう怒っちゃってさ、もし横綱まで土がついたら部屋の力士全員を処分するらしいの」
「しょ、しょんんん!」ドプドプドプドプ。
「アンっ、いっぱい入ってくる…つまり、横綱の鬼丸君が一回でも負けたら部屋の男は全員おしまいってことだね。かわいそうだけど」
「おしま、まぁあああ!」ビュルル、ビュルル。
「すごい量。さすが横綱だね、ちんちんは小さいけど確かにちゃんと仕事してる。外までこぼれてきちゃった」
「処分の話だけどね、うちの家が出資してる家畜用の処理センターが今度新しくできたの。その竣工セレモニーに体のおっきな力士さんをモデル稼働に使えば見栄えするだろうって」
「はあっ、はあっ、はあっ…」
「あれ、鬼丸君もう出ないの。ダメじゃん、電圧強くするね」
「あぎいいいい!」デュルル、ピュッ、ピュッ。
「鬼丸君苦しそう…射精してるときの男ってなんか情けなくてかわいいよね。友達に言ったら変人扱いされちゃったけど。そんな苦しそうなお顔みてると鬼丸君のちんちん切りたくなっちゃうな」
「だめ、きるだめ、きらないれ」
ビクンビクンビクン。
「どうしよっかなー?ここ病院だしさっきメス見つけちゃったの」
資産家のご令嬢はいちもつの根元に刃をあてる。皮膚が少しだけ切れてうっすらと血が滲む。
「だめ!おじょうさま、だめ、きるだめ!」
ピクピクピクピク。
「あはは、ちんちんが私のお腹のなかでピクピク震えてる。おもしろーい。こんなのもう切っちゃうしかないじゃん、えいっ!」
横綱は自分のいちもつに冷たく細い金属の棒がグっと押し付けられ左右にスライドするのを感じた。
「うぎゃあああああああああ!」
ドプドプドプッ!!ドプドプドプドプッ!!
ビュルルルルー、ビュー、ピュッ、ピュッ。
「あははは、うそうそ、うそだよぉ鬼丸君。切るわけないじゃん。すっごい出たね。ちんちん切られちゃうと思ったからかな。もうこのへん君の精子だらけだよ」
お嬢様の言う通り危機を感じたオスの本能が最後にふり絞るように吹き上げた射精だった。横綱は頭をあげて自分の下半身の生存を確認してからどっと脱力する。
「はあっ、はああっ、はああああ…」
「種をありがと。ママは今回の種付け料は負けの謝罪としてロハにしたけど、私が個人的に払ってあげるね。親方にヨロシクね。女の子が生まれるように祈ってて、バイバイ鬼丸パパ」
「ぱぱ?ぱぱってなんだ」
一般には父親という言葉すらなくなった世界で聡明なご令嬢が伝えた言葉はなぜか横綱の心に響いた。
数日後、闘犬夏場所も千秋楽となり快進撃を続ける天才少女トレーナーとその愛犬ラテル号が横綱鬼丸との優勝を決める大入りの一番となった。力士が勝てばラテル号の優勝は阻止、ラテル号が勝てば初出場、初優勝の歴史的快挙だ。
「いよいよ千秋楽。戦いの火蓋が切られました!まず先制したのは身軽なラテル号だあ!」
蝶のように舞い蜂のように刺す、ラテル号は持ち前のスピードと瞬発力による速攻で力士の体力を削る。超短期決戦型パワータイプの横綱鬼丸は一発当たれば与えるダメージは大きい。
「おっと、ラテル号が一瞬の隙を突いて鬼丸の廻しの結び目を切りました。これは上手い!トレーナーの的確な指示が功を奏しました。力士はこれでペニスと睾丸を晒して戦わなくてはいけません」
闘犬はひと試合に一種類のみ刃物の仕様も認められている。すれ違いざまに繰り出される斬撃は力士の皮膚を裂きリングはしだに血に染まっていく。
「防戦一方か鬼丸、このままでは睾丸かペニスに致命的なダメージを喰らうかもしれません!」
股座にむかって一気に速攻をかけてくるラテル号の動きを読んでいた横綱は犬の横顔に痛烈な張り手をくらわす。場外まで飛ばされあわや押し出しと思われた瞬間、ラテル号はコーナーポストにひらりと着地しそのまま力士の背中めがけて深く刃物を突き立てた。
「なんとおお!華麗な空中殺法がきまったああー!横綱鬼丸リングに手を着いた。ラテル号にポイントです」
トレーナーは勝負にでる「今だ喰え、キンタマがら空きだ!」
尻の下に垂れている力士の無防備な陰嚢にラテル号が噛みつく。闘犬はそのまま体を高速回転しはじめた。
「出たあああ!ラテル号の必殺技ローリングナッツクラ~ッシュ! 横綱鬼丸ついにラテル号の牙に睾丸を捕らえられてしまったぁ。先ほどの背中へのポイントと合わせて睾丸の損失は1個でも即負けです」
「あがっ!はなしやがれこのバカ犬、痛てええ、タマがもげるっ…!」
「回転をやめないでラテル!そのまま一気に決めて」
ドルルルルルっ、ブチンっ!
「ぐわああああああああ!」
「とりました、鬼丸の睾丸が食いちぎられました、この瞬間ラテル号の初優勝が決定です。鬼丸うなだれてリングに仰向けで崩れ落ちます!」
会場のボルテージは最高潮に達し、大歓声のなか若いトレーナーとその相棒の犬は喝采を浴びた。
「喰え!喰え!喰え!喰え!」
観客たちは不甲斐なくも負けた横綱の公開去勢を求める。力士側に賭けていた大半の客たちが大ブーイングを起したのだ。それは決して珍しいことではなく、客の要望に応えて大衆のカタルシスが満たされるように大型の土佐犬が数頭用意されているほどだ。
「ではご要望にお応え致しまして、これより負けました力士の公開去勢を行います。表彰式の準備の間、皆さまどうぞお楽しみくださいませ」
リングのロープに両腕を絡めるように縛り付けられた男の前には、赤みのある茶色の毛色をした100キロを超える土佐犬が一匹放たれた。先ほどラテル号が噛みちぎった睾丸を見つけるとそれを口で咥えて男の前に運ぶ。
「へへ、わざわざ持ってきてくれたのかよ俺のキンタマ…」
闘犬は男が自分の精巣を見せつけられる時間を演出してから、おもむろに口に含み奥歯で何度か噛む。はじけた種汁で舌なめずりすれば玉はもう胃の中だ。
「…うめえだろ俺のタマ。横綱の金玉だぞ…」
土佐犬は男の股間に鼻先をぐっと突っ込みペニスを太もものほうへ弾きあげると、ラテル号に食いちぎられ穴が開いた陰嚢をぺろぺろと舐める。
「くすぐってえな…そんな優しく舐めら…うぐうっ!」
安心させておいてから急に残っていた玉に袋ごと噛みついた土佐犬は奥歯でそれを噛みしだきはじめた。
シャク、シャク、シャク、シャク…
「ぐあああ、ああああくううぅ…」
ゴックン。
「ははは、まじかぁ…俺の玉、二つともなくなっちまった」
最後は力士の大きな体に不釣り合いな小ぶりのペニスが巨大な闘犬の舌でなめまわされる。恐ろしいことに勃起させてから喰らうつもりなのだ。動物とは思えない舌技で男のいちもつは上を向きはじめる。
「おいおい、自分であきれるね。犬に舐められる刺激でも勃つのかよ、なんちゅう単純な生き物なんだ男ってのは…」
狂犬が荒々しく男性器を貪るような去勢が行われるのかと思いきや、訓練された闘犬はゆっくり、じっくり、甘噛みしながら確実に陰茎の形を潰していった。男は生殺しで長く苦しむことになったのだ。
「ひ、ひと思いに、くいちぎってく、れ…」
力士の去勢など普段から見慣れている観客は鬼丸が受ける拷問にはすぐ飽きてしまい、優勝杯を掲げ笑顔で手をふる天才少女トレーナーとその相棒の犬に声援を送るのだった。
新しく竣工した家畜処理施設は、来賓を招いてのオープニングセレモニーを数分後に控えている。真新しい設備に逆さに吊り下げられた元力士の男たちが何十人と並び搾精と去勢のデモンストレーションに使われるのを待っていた。夏場所で横綱に土がつき、力士たちの部屋はお取り潰しになったのだ。施設のレーンが動きはじめる。
「親方ぁ!ついに動いちまった」
「落ち着け、焦るんじゃない。儂らは野良の男とは違うんだ、最後まで力士の矜持を忘れるな」
レーンに沿った両サイドには白いゴムのエプロン、ゴーグルとキャップにマスクまでつけた作業員が何人も男たちが流れて来るのを待ち構えている。作業員はまず男たちのペニスにカップをあてがい、直腸に電極棒を差し込みグリグリと前立腺めがけて多少抜き差しをしながら刺激する。電圧が15ボルト程度まで自動かつ断続的に上がっていき、尿道球腺液が垂れたかと思うと数秒で射精がおきる。
「あぐううう!」ドピュピュピュ。
「か、勝手に出ちまうぅ…」ビュー、ビュー。
「痛ってえ、こんなもん射精じゃねえ!」
ドプドプドプドプ。
「がああああああああ!」
ビュルル、ビュルル。
「これが俺の最後の射精かよおぉ…」
ビュルルルル。
「いやだあああ!」
ビュー、ピュッ、ピュッ…
搾り尽くされ用済みになった男を待つのはペニスと睾丸の切除だ。解体用のエアカッターを握る作業員が手をこまねくように迫って来る。
「はあっ、はあっ、搾り取りやがって。次はなんだ、あいつら何をもってんだ?」
「試合で骨折ったときのギブスは、あんなやつで切るけどな」
「…チンポだ、俺たちあれでチンポ切られるぞ」
「うおおお、まじか信じられねえ!俺たちほんとに切られちまうのかよ。嘘だろ、なあ、嘘だよな? 種汁も出したしもう帰れるんだよな!?」
一番先頭にいるのは部屋の親方だった男だ。先ほどは弟子たちに落ち着くように言った彼すら、いざ去勢が目の前に迫ると平常心ではいられるわけがない。
「儂らは家畜じゃない!機械をとめてくれ、とめろおおお」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク
「ぐうううう、おごおおおおお…」ペチャ。
かかる時間はわずか数秒、ペニスと陰嚢は股に付いていたほぼそのままの形でベルトコンベアの床に落ちた。
「ひいい!親方のが切られた、チンポが地面に落ちてる。ええぇ!? おい、あんた俺のチンポ握ってんのか、離せよ、はな…」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク
「あばばばば、おろおおおおお…」ポトン。
「アハッ、神尾、オマエのチンポ落ちたぞ。それオマエのだろハハハっ。なんか笑えてくるな。えっ? 次は俺なの? へへッ、おいおい、俺のチンポひっぱんなって、ヒイッやめろ、やめ…」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク
「ぎゃひいい! ああああああ…」ボタボタ。
「いやだああ、やめてえええ! 切らな…」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク
「…いで、く、れ、あ、ああ、あああ」グチャ。
「もうおしまいだあああ!」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
グシャンッ!!!
《5》「ガール・ミーツ・ガール」
トイレの個室にこもって妊娠検査薬の小窓を眺める。さっきから検査の完了をつげるコントロールラインに赤い線が一本だけ浮かび上がったままだ。コウノトリがやって来る気配は全くない。私はサニタリーボックスに検査スティックを投げ捨てた。
「ふうっ、あんなにいっぱい種を出してくれた横綱君には申し訳ないなぁ」
手を洗いながら鏡のなかの自分を睨んでやる。この出来損ない。
私は少し前に力士のタニマチをしていた母の口利きで横綱から精子を搾り取った。その力士は試合で負けて観客の前で磔にされペニスと睾丸を犬に喰いちぎられてしまった。私もテレビでその様子を見届けた。今度こそ赤ちゃんのパパになってくれるかもしれない男だと思ったのに。私ときたら男たちの種を何度お腹に植えても芽吹くことがない。
今日は新しい家畜処理場の公開レセプションに招かれている。大口出資者である母の言いつけで代理出席をしなければならなかった。腕時計をみるともう稼働のデモンストレーションまで数分しかない。急いで席にもどらないと、探しに来られても面倒だ。
「お嬢様!よかったどちらにおられたのです。もう式がはじまりますよ」
「ごめんごめん、急にオシッコしたくなった」
「まあハシタナイ。お母さまの代理なのですからもっとお言葉に気を付けて」
口うるさいお付きの婆やに諫められながら無事挨拶とテープカットもすみ、私は施設長から男たちを逆さ吊りにしたレーンを動かすためのボタンを渡される。司会は筆頭株主の娘である私にうやうやしくそれを押すことを促した。そのボタンから延びるコードが男たちの命に直接繋がっているような感覚に襲われて、私は少しだけためらう。
カチッ。
押さないわけにはいかない。私がしなくても結局だれかが代わりに押すだけの話だもの。逆さまにぶら下がったおっきな体の男たちは母が運営を止めた部屋の力士たちだ。山にいる野良の男とちがって闘犬のかませ役を演じながら、実際はハイソサエティの種付けのために飼われている彼らは、幼稚園児ぐらいには人間の言葉や習慣を教え込まれている。獣の自覚はなく、世の中の仕組みを知っている彼らにとって処理場に吊られるのはさぞつらいことだと思う。
「結局、この力士たちもお払い箱ですねぇ。もう少しお嬢様のお役に立つと思いましたけれど」
「…婆や、それって私の方がポンコツかもしれないって話よね?」
「滅相もございません!先々代の御母堂様からずっと世話を焼いてきましたのに…お子ができないのはあの力士たちがろくな種を持ってないからでございます」
私が排卵するごとに力士たちと交尾した数を思い返せば、使用人がどれだけ取り繕っても誰に問題があるのかは明白だ。あそこで情けなくぶら下がっている力士たちのペニスを薬で無理やり勃起させて直腸に電気プラグまでつっこみ、強制射精させた子種をどれだけ下の口で飲み込んできたことか。
自暴自棄になって男の肉棒を貪ったを日々を思い返しながらながら、並んで吊り下げられている男たちの股間をみる。彼らの股の間には睾丸を包んで丸みをおびている陰嚢が不揃いな柑橘みたいに実っていて、逆さまにされた男たちはそこから裏筋を見せたペニスをだらんと垂らしている。
「…私は娘を産むための都合のいい袋じゃないわ…」
「何かおっしゃいましたかお嬢様?」
「去勢には“都合のいい”設備ねって言ったの」
「はあ…左様でございますか」
部屋の親方を先頭に搾精ゾーンに流れてきたのは幕内の力士たちだ。あの忌まわしい電極のついた棒を肛門から挿入されている。作業員たちがその棒を前立腺に当て掘りするように擦り上げ、勃起していようがいまいがカップのなかに無理やり子種を吐かせる。処分するまえに搾り取り冷凍精子にでもして売りさばくつもりだろう。
射精する瞬間の男たちはどうしてあんなに苦しそうな顔をするのだろう。大関の天竜と種付けしたときだったか、戯れに射精装置は使わず私の腰の動きだけで搾り取ったことがある。それでも彼は顔や首を真っ赤にして歯を食いしばり呻きながら果てていた。本当は男かって望んでやりたい行為じゃないのかもしれない。射精が遺伝子と本能に操られた役割なら、それを押し付けたのは私たち女に違いない。
「女の御先祖様はメンドクサイことを全部男にまかせたかったのね」
「何をおっしゃいますお嬢様、世の中を回しているのは女ですよ」
「それが、男たちの作戦なんじゃないの?」
「はあ…左様でしょうか」
突然増えはじめて文明社会では手に負えなくなったこの星の男たちの大群は、それ自体が彼らが無意識に手を組んで起こした反乱だったのかもしれない。彼らは女の下働きをさせられていることに気が付いて、もう御免被ると土俵の外にうっちゃりをかましたのだ。
野生に還り自分たちだけで着の身着のまま自然のなかで暮らし、女とも交わらずただ自慰だけで満足して短い生を十分に謳歌する。それこそ男たちにとって押し付けられた役割からの解放だったんじゃないか。
どんなに狩られようと彼らは何食わぬ顔をして私たちの何倍もこの世に生まれて来る。…はあっ、男どもに先を越された気分。私かってもう妊娠ごっこなんてこりごり。別に赤ちゃんなんて産みたくない。女だからって…。
「なんか腹立ってきたなぁ。ア~イライラする。さっきからぎゃあぎゃあわめいて射精しまくってる男どものちんちん切りたいわ!」
「お嬢様っ、またそんなハシタナイ!」
婆やにはまた叱られたけど、ぼちぼち搾り尽くされた先頭集団の力士たちは去勢ゾーンに流れつく。牛を解体するのに使う大層立派なエアカッターが鮫の歯みたいな刃を円盤に360度びっちり尖らせて男たちを待っている。
彼らの生殖器の切断は作業員たちに任せて私は高みの見物と決め込もう。部屋の幕内力士は全員はからずも私が筆おろしをした。彼らにとったら私が最初で最後の女、童貞を貰った身としては去勢の瞬間はしっかり見届けであげなくては。
去勢ゾーンに運ばれてきた一人目は部屋の親方だ。引退前は黒鵬という四股名で優勝経験もある。機械的なセックスとはいえ何を隠そう彼は私の初めての男だった。彼のペニスのせいで破れて血を流した私の股をみて申し訳なさそうに焦っていた親方の顔を思い出す。今もあの時とおなじようにあたふたしている姿がなんだか可笑しい。
“儂らは家畜じゃない!機械をとめてくれ、とめろおおお”
「あちこち向いて必死に何か叫んでる、機械を止めてくれって感じかな?止まるわけないのに」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
「わぁ…あんなふうに切られるんだ。タマタマの袋も一緒にまるごと。あっ、ちんちんもう無くなってる、すご…」
その有様は当たり前のようにすごく痛そうだけれど、私からバージンを奪った男のペニスが切られるのを見るのも復讐感があって悪くはない。バイバイ親方、今日は貴方のほうが股から血を流す番だったね。
次に流れてきたのが関脇の神尾、力士にはめずらしく端正な顔立ちと実力もかねた強さで人気がある。高額な彼の種付け料で部屋はけっこう潤ったらしい。
“ひいい!親方のが切られた、チンポが地面に落ちてる。ええぇ!? おい、あんた俺のチンポ握ってんのか、離せよ、はな…”
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
「落ちてるちんちんに驚いてる場合じゃないって。キャー貴重な男前力士のちんちんが…アーア、あんなプルプル痙攣して可哀そうに…」
どんなに人気があっても家畜になった途端あっさり大事なところを切り取られてしまうなんて。もったいない気もするけどバイバイ神尾、バイバイ君の顔と同じぐらい整った形のペニス。
幕内の最後は小結の舞の池だ。小さい体と多彩な技でリング中を飛び回って闘犬と戦う軽量力士。ひょうきんな性格で種付けのリクエスト件数はハンサムな神尾より人気があったらしい。女という生き物は顔の良さより根の明るい性格俳優のほうが実は好きなのかもしれない。
病院の交尾台の上でみた彼のちんちんはぜんぜん小兵じゃなくて苦労したけど。あいつ何笑ってるんだろう、頭おかしくなっちゃった? そうなっても仕方ないか。ちんちんおっきいから作業員さんも引っ張るの大変そう。
“アハッ、神尾、オマエのチンポ落ちたぞ。それオマエのだろハハハっ。なんか笑えてくるな。えっ? 次は俺なの? へへッ、おいおい、俺のチンポひっぱんなって、ヒイッやめろ、やめ…”
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク…
「ア~痛いね、痛いね、うわぁすごい叫んでる…はあ、切れちゃった。おっきかったのに。んっ? あっそうか、大きいから人気あったのか」
バイバイ舞の池、男に淡白な私は君のいちもつの良さに最後まで気が付かなかったよ。正直いつも早く精子出し切ってほしいって思てった。ごめんね。
「さてと婆や、私たちはこれでお暇しましょ」
横綱の鬼丸君や大関の天竜は試合で去勢されて処分済みだから、これで私の男遍歴の清算はおしまい。心のなかで手を合わせて彼らの成仏を祈る。お付きの老婆は幕下の若い子たちが股間をえぐられるのが見たいらしいけど趣味が悪いからやめなさいと小言のおかえしに諫めてやった。
血なまぐさい建物から出ようと席をあとにするとき、家畜の処理場にはさすがに不釣り合いのアイドルみたいな女の子が目についた。闘犬の夏場所で優勝して話題になった天才トレーナーその人だ。すれ違いざまに彼女が呟いた言葉が耳に入ってきて思わず私は足を止める。
「おいしそう、力士のキンタマお土産にわけてもらえないかなぁ。じゅるっ」
「ちょっとごめんなさい、貴方たしか…闘犬トレーナーの?」
「じゅるっ、は、はいい。えっと、そうですけどなにか?」
すごくキレイなお姉さんが突然に話しかけてきた。ベルトコンベアに落ちて流れていくキンタマにヨダレを垂らしていた私はびっくりしてパイプ椅子から落ちそうになる。キレイなお姉さんがさっと手を差し伸べて落下する私を救ってくれた。
「貴方だいじょうぶ?」
「すす、すみません私食い意地のはったおっちょこちょいで」
顔が熱い、絶対に真っ赤になってる。やっぱりものすごく綺麗な人、女優さんみたい。ぎゅるるるるる。お腹がなってしまった私は顔の紅潮がさらにひどくなっているのを確信した。
「ふふ、お腹すいてるのね? あの男たちの睾丸がほしいなら融通してあげるよ」
「ほんとですか!? やったー!」
お姉さんはお付きの召使たちに車で待っているよう指図すると私の手をとって関係者以外は入れない扉を開けた。彼女にかかればどこもかしこも顔パスみたいだ。去勢するカッターの音や力士の鳴き声がさっきより近くで聞こえてくる。
「処理してるラインに近いから叫び声や機械の音がすごいけど貴方は大丈夫だよね?」
「叫び? えっと、はい、ぜんぜん平気です。うちはママが狩人だから小さい頃から獣をばらすのには慣れてます」
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク!
“ぎゃああああああ!”
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク!
“ぐわああああああ!”
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク!
“がはああああああ!”
グシャンッ!!!
ベルトコンベアの端から大きな音をたて少女の前に下りてきたのは切り取られた男たちの生殖器がいっぱいに詰まったばんじゅうだった。
「すごーい、採れたてのちんちんとキンタマがこんなにたくさんある!」
「そんなに目を輝かせるようなものかなぁ?お姉さんにはちょっとその感動はわからないわ」
「ええっ!お姉さん知らないの? キンタマってすっごく美味しいんだよ」
「そ、そっかぁ、キンタマは貴方の好物なのね。お姉さんはちんちんのほうが牛さんの胃袋みたいにコリコリしてすきだけどな」
「それうちのママも同じこと言ってた。酒の肴に丁度いいって」
世に天才闘犬トレーナーとしてもてはやされている少女は上着を脱ぎ捨てシャツを腕まくりすると、男たちのペニスや睾丸でいっぱいの箱に躊躇なく手をつっこんで物色しはじめる。竿にはあまり興味がないようで大ぶりの金玉を見つけてはちぎりはじめた。富豪のご令嬢が慌てて施設の者に入れ物を探して持ってこさせるありさまだ。
「お母さまが狩人なら、貴方はもう森で種男を探して仕留めたことはある?」
「うーん、私は闘犬のプロになっちゃったからなあ。犬の訓練であんまり時間がないし、それにキンタマ以外は男にあんまり興味ないかも」
「ふーん、そうなのね。貴方にとったら食べ物でしかないわけだ、男は」
「どうなんだろ。お姉さんに今聞かれるまで考えたこともなかった」
少女は金玉をちぎる自分をキレイなお姉さんがじっと見つめているのを感じる。血なまぐさいはずの空間で微かに大人がつける香水の匂いまで嗅ぎ分けてしまう。心臓の鼓動が早くなり浮かび上がるような未知の高揚感に目がくらむ。獣のオスたちが大事なところを切られて鳴く声までも人の言葉になって聞こえてきた。
“やめてくれええ! いやだああ切るなああ!”
“ぐああ金玉が、俺のチンポと金玉がああ!”
“痛い、痛い、イタイ、イタイ…”
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク!!
グシャンッ!!!
少女はペニスと睾丸が詰まった新しいばんじゅうが下りてきた音に驚いて、血まみれの両手で耳を塞いだ。男が流した体液で汚れることも厭わずに。
「大丈夫、そんな声は幻よ」
富豪の令嬢は自分も汚れるにもかかわらず、急に怯えだした少女を後ろからぐっと抱きしめた。
「お姉さんにも聞こえたの?」
「さあ? 獣の鳴く声以外は何も聞こえないかな」
令嬢の豊かでぬくもりのある乳房が背中にあたる。少女は胸が高鳴る理由が理解できた気がした。
「ねえ、今度ワンちゃんたちを連れてうちに遊びにきなさいよ。三ッ星レストランのシェフに睾丸料理を作らせるから」
「…いらない」
「…ごめんなさい、お気に召さなかったかな?」
「違う、男がつけてたモノなんていらない。お姉さんと犬たちだけが居てくれたらそれでいい」
「それ、すごく同感だな」
ペニスを切り裂く機械音と男たちの断末魔が響き渡る空間のなかで、二人はこの星にかかった呪いから解き放たれる場所を互いに見つけた。たとえその行き着く先が人類の滅びだとしても。男もその種も、彼女たちにはもうそんなものはどうでもよかった。
《6》『獣たちのエピローグ』
【シカオ】
陰嚢埋設チップ最終スキャン:2022.11.7
木の上に昇った幼なじみのイノキが僕を見下ろしている。やけに背がちっちゃいな、イノキのやつ子供じゃないか。さっきから僕は泣いてる。登れるものなら登ってこいとばかりにイノキのやつは舌をだして僕をあおってる。子供の頃から僕はどんくさくて高い場所も怖かった。これは小さい頃にイノキと一緒に遊んだ思い出をみてるんだな。
ふと頭にあたたかい水が落ちて来る。違う、イノキのやつチンポコまるだしで木の枝からオシッコをかけてきやがったんだ。ちくしょうやりやがったな、あとでクマ親父に言いつけてやる。
そういえば僕のちんちんどうしたんだっけ。ちょっと前にすごく痛かった気がする。ちゃんとあるのか確かめたいけど、腕が重くてなかなか動かない。男ってのは不安なときいちもつを握れないと落ち着かないのに。寒いし、すごく眠い。あいかわらずなんにも見えない。
「シカオ、もう眠いだろう?」
クマ親父の声が聞こえる。ねえ親父様、僕のちんちんちゃんとあるかな?
「…ちんちん、僕の、ちんち…」
「そりゃな、寒いからチンポもタマも縮みまくってんだよ。大丈夫だから安心してもう寝ろシカオ」
そうか大丈夫なんだ、よかった。でも寒いのに不思議と体は震えないなあ。疲れてるんだろうな、親父様の言うとおりもう寝ないと。オシッコがしたい気もするけど、明日の朝起きたらまた皆で連れションしよう…。
【イノキ】
陰嚢埋設チップ最終スキャン:2022.11.7
さっきまで親父様と話していた気がする。股が痛くて、腹の虫がなって、肉が焼けるいい匂いがして。親父様にはもう寝ろって言われたと思う。群れの長に見張り番をさせるなんて気が引けるけど、確かに寒くて眠くてしかたない。
シカオのやつまた泣いてやがる。なんであんなすぐに泣きべそかくんだ。情けねえやつ。なんだこりゃ、体が急に軽いと思ったらガキの頃に戻ってるじゃないか。思い出した、こりゃ子供の頃の思い出だ。シカオが怖がって木に登れなかったんだ、懐かしいな。
ガキの俺が木の上からションベンをしはじめる。シカオの頭に命中したのがおもしろくて笑いがこみ上げてくる。先っちょをふってションベンの最後の一滴を落としてやった。チンポってのは狙いがつけやすくて便利だ。
腰巻の毛皮にチンポをしまおうとしたガキの俺は付け根にチョロチョロと毛が生えいるのを見て戸惑う。そういえばあのときはじめてが気が付いたんだっけな。俺はびっくりして木から急いで下り親父様のところまで走った。
「コラ、イノキ。お前またシカオを泣かしただろ。あぁん? なんだおまえ血相変えて」
「ははっ、なんじゃ悪ガキにもついに下の毛が生えてきたのか。悪さもいいかげんにしねえとな。いつか旨そうにでかくなったお前のチンポを女どもに喰われっぞ」
腰巻をめくり上げて俺の股間を覗き込んでいた親父様が顔をあげると、俺を怖がらせるようにしかめっ面をした。
薄れていく意識のなかで鼻の中にはまだ旨そうな匂いがする。腹はひつこくぎゅるぎゅると音を鳴らす。忘れていた股間の痛みが若い獣に気付きを与える。
「俺たちのチンポとタマが喰われてるんだ…」
【群れの長クマ親父】
陰嚢埋設チップ最終スキャン:2022.11.7
「…そうか、儂らはこれから毛皮にされるのか」
職人はブラシでクマ親父の胸と腹の毛を何度か梳いて品質を確かめた。
「このオス、なかなか立派な毛並みね」
「敷物にしたら丁度よさそう。私も新しいの一枚ほしいな」
職人は去勢されたオスの毛に指をすべらせて、まだ使い道のあるその部分を品定めし終えると、躊躇なく筋肉と皮の間に刃を差し込んだ。
「あっ、ぐっ、あ、あ、あ…」
すでに意識が混濁しているクマ親父は女たちが自分の胸板や腹筋を覆う皮を剥いでいるのに、あまり痛みを感じていないのに気が付いた。けれども、ペニスと睾丸だけでなく、最後に残っていたオスの象徴まで奪われたようで、身体を滑る刃に心のなかも抉られる気がした。
完全に意識が遠のくまでの刹那に彼が最後に思い出したのは、悪ガキを二人連れて狩りをしたときの記憶だった。故郷の森の景色が眼下に広がっている。川のほとりで猪を捌いてる自分たちが見える。
「親父様、僕怖いよ」
「なんだシカオ、怖がってちゃ肉は喰えねえぞ。おいイノキ、お前がやってみるか?」
自分が外から見えるってのもおかしなもんだ。これは儂が二人に猪の皮剥ぎを教えてやったときの思い出か。
「この研いだ石でな…ほら、こうやって引張りながら少しずつ削いでいきゃいいんだ」
「わかった親父様、俺やってみるよ」
「その調子だイノキ、自分の指は切るなよ」
「ひゃあ、気持ちわりい。キンタマがひゅんってなるよぉ」
「シカオ、そんなビビってるお前にゃ後でこのでっかい猪のタマを切らせてやるからな」
「いやだっ、なんか痛そうだからいやだ!」
森で拾ったガキのなかじゃ一番手のかかった二匹だったが、その分一番かわいかったなと彼は思った。空から見下ろしていた幸せな記憶が、だんだんと高くなる高度のせいでいつしか何も見えなくなってしまう。
獣のオスが一匹、その目から涙を流す。こぼれた滴が下を流れる洗浄用の水路に一度だけ、誰にも気付かれず小さな波紋をつくった。
【チョウヤ】
陰嚢埋設チップ最終スキャン:2023.9.30
餌をくれて罠まで外してくれた優しい少女が、どうして自分を去勢したのか獣の少年はいまだにわからないでいる。少女は中身が透けて見える不思議な入れ物に詰められた自分の睾丸をさっきからずっと光にかざして眺めている。
「…それ、俺のキンタマだろ? なあもとの場所にもどしてくれよ…あんなにやさしくしてくれたじゃないか…もどしてくれるだろ?」
「チンポ切られたところが痛てえよ…俺のチンポも壁にかざるのかい?…あんなのいやだよ…」
少女の耳には獣の子がクウクウと鳴くのが聞こえてきた。彼女は首をかしげながらナイフを持って獣に近づいていく。少年の記憶は少女のナイフが自分の乳首を抉ろうとする寸前で途切れた。
「俺はそんなものまで奪われるのかい?」
故郷の森に流れる川の向こう側で、兄貴分の二人と父親代わりの群れの長が手をふっている。少年は生殖器を失った股間が恥ずかしくて両手で覆ったが、向こう岸の三人もいちもつを無くしていたので自分だけじゃないんだと妙な安心感を憶えた。
「やっと逢えた…、ちくしょう泣けてくる。ずっとひとりで淋しかったんだからな、馬鹿兄貴にクソ親父」
少年はそう呟いてから向こう岸を目指してうれしそうに川を渡っていった。
【横綱鬼丸】
陰嚢埋設チップ最終スキャン:2030.7.24(試合前定期)
:試合にて生殖器完全喪失の為手動入力
:精子採取用特別飼育枠より削除
ここはどこだ? あそこでロープに腕が絡まったまま縛り付けられて股を開いてるのは俺じゃないか。なんで自分のこと見下ろしてるんだ。たしか俺は試合に負けて去勢専用の犬にチンポを齧られてたはずだ。そうだ、あれを見ろよ、チンポもタマもボロボロじゃねえか、背中の傷も思ったよりひでえ有様だ。
子供の頃から痛みは常に俺の側にあった。思い出せるす限りでも最初の記憶は同じ年頃の弟子仲間と一緒に棒で折檻されながらやらされた稽古だ。年頃になれば機械で種を搾り取るために自慰も禁止され、射精すら俺にしてみれば痛みでしかなかった。
「でも、もうどこも痛くねえな。さっきまであんな酷かったのに」
「なんでェ、結局お前も負けたのかよ」
そう話しかけられた俺はもう自分がいったい誰なのか、己と周りの境目がよくわからなくなっていた。話しかけて来るその誰かの声を聴いて、何故か腹が立つ気もするし、懐かしい気もした。相手は一匹の気もするし、大勢いるようにも感じる。そいつらもチンポとタマが無くなったのが悔しいしのか、ずっと何処にも帰れないでいるらしい。
「お前らも俺と一緒にいこうぜ。こんなところにいてもしょうがねえだろ。せっかくもう痛くないんだからよ…」
【男に生まれたあなたの名前が書いてある】
陰嚢埋設チップ最終スキャン
:チップ不具合により読み取り不可
:処理後に日付と内容の手動入力を予約
あなたの体は水を滴らせて逆さ吊りになっている。力の入らない両腕を垂らし、その下で小川のように流れる水は自分から落とされた泥や垢で真っ黒になっている。鹿の皮でつくった腰巻はとっくに取り上げられてすっ裸だ。
火傷をするかと思うぐらいの熱風が吹いてきて身体全体が乾かされたあと、ぶら下がったまま透けて向こう側がみえる不思議な布を何枚かくぐりぬける。やがて目の前には見たこともないほど大勢の女たちが騒めく場所にたどり着く。その不思議な光景に度肝を抜かれたあなたは言葉を失う。
あなたのすぐ横に腰かけている女たちは何を話しているのだろうか。その顔や唇の動きを眺めてみても何もわかりはしない。
「はい、記念のペニストロフィーのデザインはこちらのカタログからお選びいただけます」
「そんなに種類ないんですね」
「特別なデザインをご希望の場合は専門の業者にご自身でご注文いただくことになります。その場合は保管期限の間にペニスを引き取りにきてください」
「悩むなぁ、せっかくの記念だから」
「精子の採取をしますから、その間にこちらの書類にもご記入いただいて…ええ悩まれるかたはとても多いですよ」
一人の女が口を動かしながらも手はあなたのペニスを掴み、その先っぽに長くてしなる細い枝のようなものを差し込んでくる。痛みに顔を歪めていたらケツの穴にまで太くて硬い棒を突っ込んできた。
感じたことのない違和感に戸惑っていたあなたの下半身に不快な衝撃と痛みが繰り返し沸き起こる。勝手に痙攣するペニスからドクドクと白い汁が吸い取られていく。自分の手で慰めるのとはちがって何の快感も感じない。ただ無理やり絞られ奪われる感覚だけがいつまでも続く。あなたは何度もやめてくれと言うがまったく相手にはしてもらえない。
「精子はシリンジにいれた状態で冷凍保管しておきます。お手数ですが生理終了後から基礎体温が上がり始めるまでの間にまたご来庁ください」
「丁度いい時期なのでとりあえず今日一本だけ貰ってかえります」
「承知しました。後ほど最後にお渡ししますね」
すぐ横にあなたと同じように吊り下げられた男が流れてきた。搾り取られる不快感に苛まれながらあなたは横目でその吊るされたむさ苦しい毛むくじゃらの男をみて驚く。男の股間にはチンポもタマの袋もなくなっていて、下腹から血を流していたからだ。その悲惨な姿を見たあなたはにわかに身震いして大量の種汁を吐きはじめる。
「なんだか急にたくさん出しはじめましたねこの男」
「隣のブースの男が去勢されているのに驚いたのかもですね。危機を感じてたくさん種を出さないといけないって、そんなふうに思ったんじゃないですかね。そういう生き物なんですよオスって」
「305番の札をお持ちの方、こちらの窓口までお越しください」
声が大きなこだまのように響いたのであなたは驚く。やってきた別の若い女が毛むくじゃらの男の前に腰かけた。
「すみません、やっぱり毛皮の申請をしようと思って」
「大丈夫ですよ、この男でお間違いはないですか? 申し訳ありません、すでに去勢処理に入っていたものですから少々見苦しいですが」
「そんなの全然かまわなです」
「ではこちらの申請書にご記入いただいて、追加料金もあわせてご確認ください」
あなたの前にいる若い女は、そんなやりとりの様子をみて隣に腰かけた娘に話しかけた。
「その男すごい毛並みだね。よく見つけて仕留めたねえ」
「でしょう?この国で獲れる男って胸と腹の毛並みが貧弱な個体が多いからさ。西のほうにある外国じゃそんなに珍しくないのにね」
「毛皮にしてもらうんだね」
「うん、追加料金かかるから我慢しようと思ったけど。さっき思い直して」
「それがいいよ、せっかくだもん」
あなたは目を輝かせて楽しそうに話す若い女たちが何故嬉しそうなのか分からない。毛むくじゃらの男が精気の枯れ果てた目であなたの方を見る。その瞳にうっすらと涙が滲む。乾いてひび割れた唇で何かをあなたに伝えようとするがそれは声にならなかった。
あなたのペニスと直腸から差し込まれていた不快なものがやっと抜き取られた。吊るされた体がまた動きはじめると、女たちや毛むくじゃらの男の姿が遠くなっていく。また透明な布を何度か潜り抜ける。その途中から甲高くて不気味な風が吹くような音と一緒に痛みに叫ぶ声が聞こえてくる。
前方から流れてきてすれ違う男たちはみな股から血を流している。恐ろしいことにその股間には何もぶら下がっていない。あなたはこれから自分の身に何が起るのかを自ずと理解せざるを得ない。
シュウイイイイイイイイ、サクサクサクサク!!
先ほどから聞こえていた風切り音が鳴ったかと思うと、ひとつ前に吊るされいた男がくぐもった低い唸り声をあげて身体をのけ反らせた。
ペチャっ。床にその男のペニスとタマが落ちたのが見える。
次は間違いなく、あなたの番だ。
シュウイイイイイイイイ…
あなたの竿と玉がひとまとめにして引っ張られた。
サクサクサクサク!!
-完-
《追憶1》『幕下初っ切り物語』
闘犬と力士がコンビになって試合の禁じ手を面白おかしく紹介する見せ物を初っ切り(しょっきり)って言う。背丈が165㎝しかない俺はちゃんこ番をしながらなんとか幕下で粘ってきた。余興とはいえ巡業で最初の見せ物になる初っ切りは自分のようなうだつの上がらない力士でも頑張れば目立つことができる。
俺は犬も女も別に恨んじゃいない。力士や野良男の立場を考えれば忌み嫌うのが当然だが、自分の姿をみて笑ってくれたり盛りあがってくれたらそれでいいと思って生きてきた。
親方に頼み込んでずっと一緒にやってきた相方の犬に会わせてもらった。部屋の横綱に土がついたから自分たちはもう明日にはお払い箱になるらしい。どんな目にあうのかはだいたい予想がつく。
犬は俺のことを見るなり走ってじゃれついてきた。闘犬たちも役目を果たしているだけだ、リングの外に出ると愛嬌のあるやつは珍しくない。よしよし、俺の餌を分けてやるのもこれが最後だからな、しっかり喰えよ。犬との別れを惜しんで部屋にもどると俺と同じ若い幕下連中も泣きながら餌のちゃんこを喰ってやがる。
案の定というか、その夜寝静まると雑魚寝の檻では下っ端力士たちがあちこちで自分の息子を慰めてる。泣きべそかきながら何度も何度も。自分たちは種を絞られるためだけに生かされてきたようなものだ。センズリが見つかればそれはひどい折檻をされてきた。どいつもこいつも生まれてはじめて後ろめたい気持ちもなく好きなだけ竿をしごいてる。男なんてほんと滑稽な生き物だなと思う。
朝になり鉄砲を構えて押し入ってきた物騒な女たちに叩き起こされた俺たちは下着も脱ぐように怒鳴られる。背中をライフルで突っつかれてすっ裸でトラックの荷台に乗せられた。ついた施設では早速家畜みたいに逆さまに吊り下げられる。とういうか俺たちはもともと家畜なんだろう。
白い作業着に身を包んだ連中にまじって、キレイな服を着たどえらい別嬪さんがひとりあれこれ指示をだしている。俺はその女が耳につけた飾りが揺れるのに目を奪われ見とれてしまう。女はマジックを片手になにやら幕下の若い連中に印をつけて回る。女っていうのは男とは匂いが全然違うんだな。目の前にやって来たその別嬪さんは俺の股間を見て眉をひそめてから腹に赤いバツ印を書いた。
悪目立ちしたくないからひけらかすことはなかったけど、俺は頭の覚えがよくて女どもの言葉がけっこう分かる。聞けば本番前にどうやら試し切りをするらしい。この腹の赤い印は露払いに選ばれてしまった証拠だ。まいった、こんなときまで初っ切りをするはめになるとは。
俺と数人の若い連中は一足先に去勢場に連れてこられたというのに、客席にはまだ人がいない。いくらなんでも遣り甲斐がないじゃないか。これじゃ誰も喜んでくれない。まあ、吊り下げられてちゃ大して何も面白いことはできやしないか。
もう諦めてふてくされているとどう考えても場違いな可憐な女の子が客席でひとりポツンと俺たちのことを見ている。こんな処理場に招かれるような客には見えなかったが、俺は自分のチンポが作業員に掴まれて引っ張られるのを感じながら、気付いてもらえるように出来るだけおかしな仕草をしてやった。
俺の脇の横あたりに組まれた一段高い足場にいる作業員たちは利き手に物騒なカッターを持って、もう片方の手で俺のいちもつを金玉ごと根元から掴んでいる。昨日の夜も、痛いほどパンパンに朝勃ちしてた今日も、俺は結局種汁は出さずじまいだった。すまんなあ、お前には自分世話になったのに、やっぱり最後に一発ぐらい慰めてやったらよかったな。
まあそれよりあの子を楽しませてやろう。なんせ最後のお客さんだ、俺はあの子をクスっとでもいいから笑顔にしたい。俺にできるのはもう変顔ぐらいだ。ちくしょう痛い、股座のあたりがむちゃくちゃ熱くて痛い。一気に切断されて腹をつたって落ちてきた俺のチンポが顔のところで丁度口に飛び込んできた。俺は自分の先っぽを咥えこんで白目をむいてから、それを思い切り吹き出した。大袈裟に体もばたつかせて。
女の子が腹をかかえて大笑いしてる。よかったウケた。ひとしきり引き笑いで息苦しそうにしていたその子がどこかへ行ってしまうのを目で追って見送る。仲間の幕下力士たちは刃の切れ味を確かめるように少しずつ竿や玉を傷つけられて生殺しにあい叫んでいる。この呪われた世界は本当に残酷だ。胸の鼓動が苦しくなって息が荒れてきた俺は一足先に失礼することにしたが、もう男に生まれて来るのはこりごりだと思った。
《追憶2》『初仕事』
大きな体の男ばかりを乗せたトラックが建物の門をくぐっていく。ワタシは初出勤の緊張で同じ側の手足を一緒に前に出しそうになりながら男たちの後を追って門を通った。家畜処理場の敷地内に入るとすでに空になった荷台を職員がホースで洗い流している。
「おはようございます!」
ワタシはその先輩作業員にできるだけ元気に挨拶する。彼女は男たちが荷台に漏らした尿や嘔吐物を洗っていたのだ。
「オスどもときたら怖がって漏らしたり吐いたり、あんな見た目して中身はデリケートだから困ったもんだよ。あら、アンタ新人さんかい?」
「はい、今日から研修込みで初仕事なんです」
「そりゃ大変だ、せいぜいがんばって」
この出来たばかりの真新しい家畜処理場は近くの公営施設から何人もベテラン作業員が引き抜かれているらしい、彼女もその口なのだろう。また別のトラックがやってくる。手足を縛られた荷台の男たちは暗い顔でうつむいている。ワタシは採用面接のときには感じなかった獣臭に鼻をつまみそうになりながら急ぎ早にトラックの横を通り過ぎた。
「オエェ、オエエ」
「おい、おまえ大丈夫か?」
「オェ、大丈夫なわけないだろ、オェ、さっきから吐き気がとまらないんだ」
ジョボジョボジョボジョボ…
「ああっ、てめえションベン漏らすなよ」
震えながら失禁する仲間に隣にいた力士は一瞬腹がたったが、恐ろしい場所に連れてこられたことぐらいは皆わかっているのでそれをひどく責める者はいない。
「着いちまったな、これが終点かぁ」
「ああ、俺たちもう帰れねえんだろうな…」
巨大な灰色の建物を見上げて感傷にひたる男たちをよそに作業員の女がガラガラうるさい車輪の音をたて移動式のラックを運んでくる。ラックについたウインチが動き始めると巻き取られていく鎖が力士たちを吊り上げていく。
「うわっ、なんだ、わあああああ!」
「ひっぱられる、わっ、ととと、ああああ!」
ジャキンっ!
「いたああっ」
ジャキンっ!
「あぐううう」
足かせは吊り上がるときに重さが加わると自動的に足首の骨に鉤が食い込む仕掛けがついていたのだ。
「いやだ、いやだああ!」
「おろして、おろしてくれええ!」
ワタシは事務所で真っ白な作業着を受け取ってロッカー室に向かう。軍手に長靴、撥水加工のエプロンにゴーグルを被る。いよいよ男たちを始末する仕事に就いたのだという実感がわいてきた。
「じゃあ付いてきて」
作業場の隅で固まっているワタシに声かかけてくれたのは先ほどトラックを洗っていた先輩作業員だった。広い処理場を照らす無数のLEDは十分明るいはずなのに蛍光灯とは違ってどこか冷たくてうす暗い印象を受ける。男の啼き声が聞こえてきた。
吊るされた男たちの両側にある作業通路は床より高くなっていて、逆さまになった男たちはワタシたちが手をのばせば丁度ペニスがある位置に調節されている。何故か男のお腹には赤いマジックでバツ印が付いている。何か催しでもあるのかレーンを正面から見渡せる場所にパイプ椅子がたくさん並んでいるのが気になった。
「今日はお偉いさんたちを呼んでこの施設の開業式があるんだ。こいつらはカッターの試し切り用、イベント前の試運転さ。アンタさっきの新人さんだろ?」
「は、はい!そうです」
「そんな硬くならないで、アタシまで調子狂うから。アンタの研修もまかされてんだ、イベントまで時間ないしとりあえず一匹切ってみるから見ててよ」
ブザーが鳴ると男たちが流れて来る。先輩は一番先頭の男のペニスと陰嚢をひとまとめに掴んで引っ張る。
「こうやって竿のすこし手前あたりからカッターをいれて、玉袋ごと尻の方へ滑らせていく感じだよ」
ブチュンッ!
わずか数秒の間にオスの股にあったはずの突起物は体から離れてしまう。それはお腹をつたって男の口の中に落ちていった。自分のモノを咥えた男はわざとらしいぐらいに白目をむいてもがく。
「すごいっ、そんな簡単に切れちゃうんですね」
「そうだよ、だから自分の指を切らないように気をつけなきゃいけない。よそ見だけは絶対に厳禁だからね。次はアンタがやってごらん」
流れてきた男は自分の目の前で仲間が去勢されたのを見ているせいか、ギャアギャアとやかましいぐらい啼いて暴れるのでワタシには手がつけられそうにない。すると先輩はその男の陰嚢を引っ張り、専用のスタンガンを取り出して睾丸に電極を当てた。男は四肢を突っ張り変な声をあげたかと思うと、痙攣しながら大人しくなった。
「カッターの刃が入ればすぐに痛みで目を覚ますからね、気を付けて」
「わ、わかりました…」
ワタシは恐る恐る手を伸ばしペニスを掴んだ。
若い力士は自分の前に吊られていた一番先頭の仲間が苦しそうに体をバタつかせているのを見て一気に恐怖がこみ上げてきた。いちもつを切られたその仲間は雑魚寝の檻でいつも餌を平等に仕分けてくれたちゃんこ番の男だった。
「おい、おおい、ちゃんこ番! お前大丈夫か?」
暴れるように悶えるちゃんこ番の男が身をよじったとき、その口に切断されたいちもつが咥えられているのが目に入ってきた。
「な、なにチンポなんか咥えてんだよお前…いやだ、いやだ、いやだ、俺はいやだぞ!」
「切らないで、切らないでえええ!!」
作業員が慣れた手つきで暴れる体の股間に手を伸ばし陰嚢だけを掴んでひっぱると専用のスタンガンが睾丸にあてがわれる。
「タマひっぱるなよ、それなに、やだやだ、やだぁ!」
バチバチバチッ。
「ぎゃふんッ!」
股間から広がった電流がつま先から脳天まで激痛をともなって駆け巡り若い力士は呻き声をあげて全身の筋肉を硬直させショック状態になった。意識はあるのに体がシビレてうまく動かせない。作業員の持つエアカッターの刃が無慈悲な音をたててペニスの先っぽに食い込んでいく。
「いたあああああ!」
亀頭を刻まれる痛みで神経が回復した男の体が再び暴れだすと、睾丸にはまたスタンガンがあてがわれるのだ。皮一枚で繋がった亀頭がぱっくりと断面を見せた。
バチバチバチッ。
「ぎゃひっ!」
2度目のカッターの刃がためらうようにペニスにあてがわれる。今度は先端からすこし根元にずらし真ん中あたりを刻んでくる。
「あぐぐぐ、はっ、はっ、はっ、はぎいいいい!」
「痛い、痛いいいいいい!!」
体が暴れはじめるとすぐにスタンガンの電撃が襲う。
バチバチバチッ。
「ぎゃんっ!」
カッターを持った作業員は慣れていないのかまた中途半端に切り残して男のペニスには再び皮一枚で繋がった断面ができた。不器用な作業員は今度こそはと竿の根元を刻みはじめる。
「あああっ! 痛い痛い痛い、やめ、やめてったらあああ、なんで、なんでえええぐううぅ」
バチバチバチッ。
「うぎゃっ!」
結局ペニスは根元でも切断しきれず蛇腹切りのようになって無惨に垂れ下がったままだ。男はペニスを切断される痛みと睾丸から流される電流の衝撃が繰り返されたせいで白目をむき細かく震えている。
「あっ、あっ、ぐっ、あっ…」
新人の作業員は手のひらにかいた汗で解体用のエアカッター落としてしまわないよう必死で握っていた。
「すすす、すみません先輩ワタシぜんぜんうまく切れないです」
「力み過ぎ。親指と人差し指は添えるぐらいにしなきゃ。自分の手を切りそうで怖いのはわかるけどかえって危ないよ。こんなに何回も電撃流して半端な切り方したらさすがにオスも可哀そうだし」
「うわあぁ、ごめんなさい、オスさんごめんなさいっ!」
「はは、うそうそ冗談、本気にしないで。別にいいんだよ試し切り用のオスなんてどうなっても。最初のうちはしょうがないさ、何匹かやってるうちに慣れてくるから」
先輩作業員はそう言いながら陰嚢の縫い目にそって器用にカッターをサッと滑らせた。袋が割れて中から白い睾丸がふたつ、男の遺伝情報を抱えたまま洩れ出て来る。
「わぁ、やっぱり先輩は無駄な力が入ってないからすごく滑らかな動きですね」
「そんな大したもんじゃないって、ほら見てごらんオスの精巣が出てきた」
「ほんとだ、この中に女性の人間になる情報もが入ってるなんで信じられないですよね」
「だよね、アンタはまだ子供産んだことないの?」
「まだです、あんまり器用じゃないから狩のメンターにいっつも頼ってばっかりなんですけど。先輩はもう出産のご経験はあるんです?」
「女の子はまだだけどね、オスは3匹ほど産んだよ。妊活はちょっと休憩中」
「男ばっかり連続で生まれると気が滅入るでしょうね」
「そうなんだよ、次こそは次こそはってなっちゃうんだ。法律を侵して病院で産み分けしようとする人が後を絶たないのも気持ちはわかるよ」
「それで刑務所に入るなんて馬鹿らしいですよ」
「そそ、なのにさ、性別はオスの種で決まるんだよね。なんかね、この仕事で毎日ずっとオスの精巣みてるとさ、だんだん腹がたってくるんだよね」
先輩作業員は睾丸の筋を摘まんで引っ張り出すとカッターで玉を薄い輪切りにしはじめた。
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ。
「スゴイ先輩、睾丸の極薄スライスですね。ワタシもキュウリの蛇腹切りみたいになっちゃったこのペニスで練習してもいいですか」
「いいよ、やっちゃって」
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ。
「うっ…なんだこれ、なんか上から落ちて顔に張り付いてくる…えっ?これ…」
電撃のショック状態から回復してきた若い力士が目を凝らすと落下してくる小さな物体の元が自分の生殖器であることに気付く。左右から二人がかりで自分のペニスと睾丸が輪切りにされているのだ。
「あひゃああああっ!そ、それ、あっ、あっ、だめ、だめええええ!」
「これ、これ、俺のチンポ? あっ、あっ、それ、俺のタマ、輪切りになってるよおぉ!?」
弄ばれるように去勢される仲間の姿は伝言ゲームのように列の後ろへ後ろへと若い力士たちにの間に広まっていく。
「前のやつらチンポぐちゃぐちゃにされてるぞっ!」
「降ろしてくれええ! 頼むからここからおろしてえええ!」
バチバチバチッ。
「ぎゃんっ!」
陰嚢が縦に裂かれ股の間に垂れた左右それぞれの精巣が別々の作業員の手で同時に輪切りにされていく。
「あぐぐ、開くなあああ、キンタマの袋開くなあああ!」
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ。
「ぎゃあああああ!」
なかには危機的状況だからこそ隆々といちもつを勃たせる者もいる。逆さまのまま臀部の筋肉を絞り込むようにして腰を突きだそうと必死だ。
「出したい、出したい、最後にもう一回だけ出したい、お願い最後に一回だけ射精させ…」
バチバチバチッ。
「ぎゃひんっ!」
勃起したペニスが細長い野菜を乱切りするように亀頭のほうから切り刻まれてしまう。4つの短い円柱になった肉棒が床に落ちていく。
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ。
「…あうっ、はうっ、うぐっ、おぐっ」
力士たちのなかでも一番の若い男が泣きながら訴える。
「いやだあぁ部屋に帰る、お願い助けてぇ帰りたいよぉ、帰りたいよおお!」
バチバチバチッ。
「んぐっ!」
まだ幼さをのこした皮かぶりの生白いペニスは、わざわざ包皮を剝かれてピンク色の亀頭を露出させられてからその先っぽを切り取られた。小さな桃のような若い男の先端が無惨にもぎ取られて打ち捨てられる。
「ちんちん痛いっ、ちんちん痛いよおおお!」
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ…
シュウイイイイイイイイ、ザクザクザクザク…
チュンッ、チュンッ、チュンッ、チュンッ…
「ふうっ、だいぶ慣れてきました」
ワタシは男たちのペニスと睾丸を存分に試し切りさせてもらった。おかげで手元ばかり見ていた視野が広がって自分の動きも客観的に捉えられるようになった。暴れる男の動き方もわかってきて無駄にスタンガンで電撃を与えなくても一度で的確に竿を根本から切れるようになる。
「アンタだいぶ上手になったね、ちょっと休憩して早昼にしよう」
そう言って先輩はエプロンを外すと仕出しの弁当を持ってきてくれる。
「お弁当いただきます。ひゃあ肩も腕もバキバキだ。この男たちって若そうすけど何歳ぐらいなんですかね」
「うーん17か18か、それぐらいじゃない?」
「もし女の子に生まれてたら高校生ぐらいってことですか。楽しいこといっぱいできる年頃ですね」
「オスにはそんな権利ないけどね。こいつらは力士に選ばれただけでもよかったんじゃない?餌に不自由なく暮らせて、ケガや病気もちゃんと診てもらえるらしいし」
「そうかぁ衣食住の保障はうらやましい。でもなんで男なんて生まれてくるんでしょ。こんな汚らしくて臭くて、おまけに醜い性器までぶら下げて」
床のベルトコンベアに散らばった竿と玉の残骸を眺めながら頬張っているワタシはお弁当箱の隅に添えられていた箸休めの佃煮が男の睾丸だとは気付いていない。うん、美味しい。
「必要だったんだろうね。唯々必要性だけで作られた連中なんだよ。アタシたちが子を産んで育てるためにね」
「でも子宮と卵巣のトレードオフにしてはしょぼくないですか? 男の利点なんてせいぜいちょっと強めの筋肉や骨格ぐらいじゃないですか。そんなの機械で十分代わりがききますし」
「だよね、ほんとしょうもないんだよ男なんて」
気難しいと思っていた先輩は意外と気さくに喋ってくれる面倒見のよい人でワタシはすっかり安心していた。午後からのレセプションに新人は出る必要はないらしい。睾丸弁当をキレイに食べ切ったワタシは残りの男たちの去勢を済ますと仕事を上がらせてもらえた。
施設には作業終わりに使える大きなお風呂やパウダールームまで付いていた。休憩室で無料のお茶を飲んでリラックスできたワタシは私服に着替て帰り際に作業場を横切る。来賓の前で生殖器をちぎられる獣たちはオスに生まれたことを後悔しながらいつまでも泣き叫んでいるようだった。
なんだかんだ生きていくのはけっこう大変だけど、女に生まれてほんとによかった。門を出てその前で立ち止まり、まだ明るいお日様のあたたかい光を浴びて深呼吸してから最寄りの駅に向かい歩きはじめる。こうしてワタシの初仕事は無事終わったのだ。
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投稿:2022.11.22更新:2022.12.13
男狩りの星《1~6》《追憶1・2》
著者 ほねっこ様 / アクセス 4219 / ♥ 42