サッカークラブの流行は包茎手術
真冬の空気が、病院の待合室に漂っていた。白い壁、消毒液の匂い、そしてどこか遠くで聞こえる機械音。ユウタは母親の隣で、硬いプラスチックの椅子に座っていた。彼の隣には、3歳幼い弟、コウタが、眠たげに目をこすっている。そして、コウタの隣には、彼と同じくらいの歳、リクトが母親に手を引かれて座っていた。リクトの顔は、いつも以上に青ざめて見えた。
彼らが所属する少年サッカーチームでは、なぜかこの冬、包茎手術が大流行していた。チームメイトの何人かが先に手術を受け、皆すっきりした顔で練習に戻ってきた。特に、少し年上のタケシ兄ちゃんは、術後すぐに「これでサッカーの邪魔にならないし、お風呂で洗うのも楽になったぜ!」と得意げに話していた。その話を聞いて、ユウタは少しは安心したものの、実際に自分が手術を受けるとなると、その緊張は胸の奥でずっしりと重くのしかかっていた。
コウタが、リクトの耳元でささやいた。「ねえ、リクト。お医者さん、なにをするんだろうね?」
リクトは不安そうに首をすくめた。「わかんない…でも、なんか、ちくってするってママが言ってた…」
ユウタは、二人の会話を聞いて、図鑑から顔を上げた。少し大人ぶって言った。「注射で、痛くなくなるんだよ。それから、お医者さんが、いらない皮をちょんって切るんだ。」
「ちょんって?」コウタが目を丸くした。「ハサミで切るの?」
「多分ね。でも、痛くないんだよ、麻酔するから。」ユウタはそう言ったが、彼の心臓も不安でドキドキしていた。自分たちの体から、何かを取り除くという行為が、どうしても想像できなかった。リクトは、その話を聞いて、ますます顔をこわばらせていた。
手術前の儀式
「なんだか、おしっこ行きたくなってきたな…」ユウタは、そわそわしながら母親に告げた。 コウタもリクトも、ユウタの言葉に同調するように、もじもじし始めた。
「じゃあ、みんなで行っておいで。手術の前に、済ませておいた方がいいわね。」ユウタとコウタの母親がユウタを促し、リクトの母親もリクトにそう言った。
ユウタ、コウタ、リクトは、三人連れ立って、待合室の奥にある男子トイレへ向かった。トイレのドアを開けると、そこには小便器が三つ、きれいに並んでいた。まるで、彼らのために用意されたかのように。
ユウタは、自分の包皮を、最後の姿としてしっかりと目に焼き付けようとした。これから、これが切り取られてしまうのだ。コウタは、まだ何もわかっていないように、無邪気な顔で排尿した。リクトは、やはり不安そうに、もじもじしながら済ませた。
小便器の前で、三人並んで用を足しながら、コウタが不安げにユウタに尋ねた。「ねえ、ユウタ兄ちゃん。これ、どうなるの?なんか、変になっちゃうの?」
ユウタは、自分が知っている限りの知識を振り絞って答えた。「えっとね、いらない皮がなくなって、もっときれいに、なるんだって。サッカーするときも、動きやすくなるって、タケシ(チームメイト)が言ってたよ。」
リクトが、小さな声で尋ねた。「じゃあ、もう、皮、ないの?」
「うん、ないよ。でも、大丈夫。みんなしてるから。」ユウタはそう言い聞かせたが、自分自身も半信半疑だった。彼の心臓は、さらに強く鼓動している。彼らがサッカーチームで聞いたのは、術後の良い話ばかりだったが、実際に手術を受けるとなると、その恐怖は現実のものとして彼らの目の前に立ちはだかっていた。
同時手術の提案と準備
「ユウタくん、コウタくん、リクトくん、どうぞ。」
看護師の声が、やけに大きく聞こえた。ユウタの母親が優しくユウタの手を握り、立ち上がった。その手は、いつもより少し冷たい。コウタとリクトは、それぞれの母親に抱き上げられたり、手を引かれたりして、不思議そうに周囲を見回している。
診察室に入ると、白衣を着た医師が優しい笑顔で迎えてくれた。しかし、ユウタの目は、その手元に置かれたいくつかの銀色の器具に釘付けになった。ステンレス製のトレーの上には、細長いピンセット、小さなハサミ、そして、先端に細いワイヤーのようなものがついた**見慣れないペン型の器具(電気メス)**が整然と並べられている。その隣には、様々なサイズの金属クランプが、まるで美術品のように光を反射していた。それらは、これから自分たちの体に触れるものなのだと、直感的に悟った。無機質で、冷たく、しかし、ある種の精密な美しささえ帯びているように見えた。
「大丈夫だよ、すぐに終わるからね。」医師の声は穏やかで、まるで友人に話しかけるようだった。
看護師が、ユウタたちの母親の方を見て、にこやかに言った。「皆さんの不安を少しでも減らすために、先生と相談したのですが、もしよろしければ、三人一緒に手術を行うのはいかがでしょうか? お互いに励まし合いながらなら、少しは心強いかもしれません。」
ユウタの母親とリクトの母親は、顔を見合わせた。そして、リクトの母親が最初に口を開いた。「ええ、それはとても良い考えだと思います!一人ずつだと、待っている間も不安でしょうから…。」
ユウタの母親も、深く頷いた。「子どもたちのことを考えてくださって、ありがとうございます。ぜひそうさせてください。」
医師は、母親たちの同意を得て、表情を緩めた。「では、そのように進めましょう。皆さんが少しでもリラックスできるように、できる限りのことをしますからね。」
しかし、その提案を聞いたユウタは、思わず声を上げた。「えっ、一緒にやるの?やだ!ぼく、コウタとリクトの手術、見たくない!」 彼は顔を青ざめさせ、弟たちの手術を見ることに強い抵抗を示した。
すると、隣にいたコウタが、ユウタの言葉に興味津々で目を輝かせた。「えー、なんでー?コウタは見たい!どうなるのか、見てみたい!」と、無邪気な好奇心から手術に興味を示した。
リクトは、ユウタとコウタが一緒にいてくれることに、少しだけ不安が和らいだ。「コウタと一緒なら、頑張れるかも…」 彼は、コウタの小さな手をぎゅっと握りしめ、僅かに顔に安堵の色を浮かべた。
医師は、そんな三人の様子を見て、少し困ったように笑った。「ふむ、ユウタくんはちょっと怖いかな?コウタくんは興味があるんだね。リクトくんはコウタくんと一緒だと心強いんだね。大丈夫、無理強いはしないからね。横になる診察台は三つ用意するけれど、もし見たくなかったら、目を閉じててもいいし、顔を横に向けてもいいからね。」
手術前の診察とカットラインの説明
それぞれの母親に促され、ユウタ、コウタ、リクトは、用意された3つの診察台にそれぞれ横になった。
まずユウタの番だ。医師は、ユウタの局部を軽く消毒した後、複数の穴が開いた透明な「サイズチャート」を手に取った。彼はユウタの包皮にそのチャートを当て、最適なサイズの穴を通して包皮の直径を測る。そして、そのサイズに合わせてクランプを選定し、細い医療用マジックペンを手に取った。彼は慎重に、ユウタの包皮に切除するラインを、細く、しかし明確な線で描き込んでいく。
「ユウタくん、これが君のカットラインになるよ。この線に沿って、余分な皮を切除していくんだ。これで、君のペニスがもっと衛生的になって、将来困ることも少なくなるんだよ。」医師は、ユウタの目を見て、優しく説明した。「どうかな?このラインで大丈夫かな?」
ユウタは、引かれたラインをじっと見つめた。かなり広範囲に線が引かれているように見えた。「あの…もう少し、少なく切ることはできないんですか?なんか、たくさん切るみたいで…」 ユウタは、おそるおそる尋ねた。
医師は、ユウタの不安を察したように、少しだけ間を置いてから答えた。「うーん、ユウタくんの気持ちはよく分かるよ。でもね、あまり少ししか切らないと、せっかく手術をしても、また同じような問題が起きちゃう可能性があるんだ。それに、衛生的にも保つためにも、このくらいが一番いいんだよ。だから、これが一番君にとって良い切除範囲なんだ。大丈夫、お医者さんがちゃんと考えて決めているからね。」
ユウタは、医師の言葉に納得したわけではなかったが、それ以上は言えなかった。ただ、言われた通りに頷いた。
医師は、ユウタの包皮にラインを引いた後、「Y-2.0」とマジックペンで小さな文字を書き加えた。これは、切除された包皮が誰のもので、選定されたクランプのサイズが2.0cmであることを明確にするための措置だった。
次にコウタの番だ。医師は、コウタの局部を軽く消毒した後、サイズチャートを使って最適なクランプのサイズを測り、細い医療用マジックペンを手に取り、コウタの包皮に切除ラインを描き始めた。
「コウタくん、これが君のカットラインだよ。この線に沿って、お兄ちゃんと同じように手術を進めていくからね。」医師はコウタにも優しく話しかけた。「これで、もっと健康になれるんだよ。コウタくんのママ、このラインでよろしいですか?」
コウタの母親は彼の小さな体を抱きしめたまま、医師が描いたラインを真剣な表情で確認した。コウタはまだ幼いため、医師の言葉をどこまで理解しているか分からなかったが、母親の頷きを見て、少し安心したようだった。
医師は、コウタの包皮にラインを引いた後、「K-1.6」とマジックペンで小さな文字を書き加えた。これはコウタのクランプサイズが1.6cmであることを示す。
最後にリクトの番だ。医師は、リクトの局部を消毒した後、サイズチャートで最適なサイズを測り、細い医療用マジックペンを手に取り、彼の包皮に切除ラインを描いていく。
「リクトくんは、少し包皮が狭いので、先に背中側を少し切開してから、このラインに沿って切除していくよ。」医師はリクトの母親に説明した。「これで、将来的に不自由なく過ごせるようになるからね。このラインでよろしいでしょうか?」
リクトの母親は、医師が描いたラインをじっと見つめ、小さく頷いた。リクトは、医師の説明に小さく頷いたが、その表情は不安でいっぱいだった。
医師は、リクトの包皮にラインを引いた後、「R-1.4」とマジックペンで小さな文字を書き加えた。これはリクトのクランプサイズが1.4cmであることを示す。
三者三様のカットラインが引かれたが、ユウタに引かれた「Y-2.0」のラインは、コウタの「K-1.6」やリクトの「R-1.4」と比べても、一番深い位置に設定されていた。これは、ユウタの包皮の状態が、他の二人よりも多く切除する必要があると判断されたためだった。
三人同時に、麻酔の注射が打たれた。チクリとした鋭い痛みが、彼らの皮膚を貫いた。しかし、それは瞬間の出来事で、すぐに感覚が薄れていくのを感じた。まるで、水中に沈んでいくかのように、周囲の音や感覚が遠ざかっていく。
互いの診察台が隣り合っていたため、ユウタは、コウタとリクトの局部に引かれたカットラインを自然と目にすることができた。コウタのラインは少し浅いように見え、リクトのラインは自分のものより少し深いように見えた。三者三様、それぞれに個性のあるラインが引かれ、医師がそれぞれの状態に合わせて判断していることが分かった。そのラインは、この後、自分たちの体の一部が切除されることを、はっきりと実感させるものだった。彼らは、他人のラインと自分のラインを比較し、これからの手術について、より現実的に受け止めているようだった。
ユウタの手術開始と麻酔の追加
医師は、ユウタの局部を再度確認した。 「ん…ユウタくん、麻酔がまだ少し効きが甘いようだね。痛みを感じてはいけないから、もう一度、麻酔を打っておこうか。」 医師はそう言って、再び注射器を手に取った。「チクリ」と、今度は少し深めに麻酔が打たれる。 すると、先ほどよりもはっきりと、感覚が遠ざかるのを感じた。
「よし、これで大丈夫だろう。でも、念のため、先にリクトくんから始めようか。その間にユウタくんの麻酔がしっかり効くだろう。」医師はそう判断し、リクトの方へ向き直った。
リクトの手術
まずリクトの番だ。医師は、リクトの局部にひんやりとした消毒液を塗った後、マジックで描かれたラインと、「R-1.4」という管理番号を再度確認した。
「リクトくんは、少し包皮が狭いので、先に背中側を少し切開しますね。」医師はリクトの母親に説明した。「そうすることで、金属クランプを安全に装着できますから。」
リクトは、医師の説明に小さく頷いたが、その表情は不安でいっぱいだった。医師は、先端が平らな、細長い鉗子(かんし)を手に取ると、リクトの包皮の背中側を、「カチッ」という小さな音と共に、力強く挟み込んだ。その瞬間、リクトの体がわずかにぴくりと反応した。鉗子で挟まれた部分の血流が止まり、挟まれた皮膚がみるみる白く変色していくのが、ユウタの目にもはっきりと見えた。医師はそのまま数秒間、その部分を押しつぶし続けた。
そして、医師は挟まれた部分の根元に、小さなハサミを当てて、「チョキン」という音と共に、その部分を切り開いた。出血はほとんどなかった。
その切開のおかげで、医師はスムーズに「1.4cmの金属クランプ」を手に取ることができた。彼はリクトの包皮を軽く引き出し、最適なサイズの金属クランプの釣鐘を、包皮の内側にかぶせた。そして、もう一つの部品であるクランプの台座を、その釣鐘の周りにぴったりと固定した。
医師は、クランプの台座のネジを、ゆっくりと、しかし確実に締め付けていった。ネジが回るたびに、「キィ…キィ…」という、金属が擦れるような微かな音がする。そのたびに、リクトの顔がわずかに歪み、小さく「うう…」と唸った。麻酔が効いていても、鈍い圧迫感と、神経が圧迫されるような痛みが、時折走るようだった。包皮の先端が、さらに白く、そして青白く変化していく。
「これで、血流が遮断されて、痛みなく切除できますからね。」 医師は、リクトの母親にそう説明した。
クランプがしっかりと固定されると、医師は電気メスを手に取り、フットペダルを踏んだ。「ジーッ」という、低く、しかし鋭い機械音が室内に響いた。そして、独特の、焦げ付くような微かな匂いが、鼻腔をくすぐった。それは、肉が焼けるような、しかしもっと清潔な、科学的な匂いだった。電気メスの先端は、クランプの台座から飛び出した余分な包皮に当てられ、まるで熱したナイフがバターを切るかのようにスムーズに、リクトの包皮を切り開いていく。出血はほとんどなく、切断面は綺麗に処理されているように見えた。
ユウタは、リクトの手術を食い入るように見ていた。電気メスがマジックで引かれたラインを通過すると、ラインは熱で消えていく。そして、切除された皮膚は、医師が引いたマジックの線よりも、かなり内側まで切り取られているように見えた。ユウタは驚いて医師を止めた。「先生!リクトの、線よりかなり多く切ってるんじゃないですか?!」
医師は手を止めずに、落ち着いた声で答えた。「ああ、ユウタくん、よく見てるね。電気メスで切ると、熱でマジックの跡が残ってしまうことがあるんだ。だから、マジックのラインよりも少し内側を切ることで、術後にマジックの跡が残らないようにしているんだよ。 決して必要以上に多く切っているわけではないから安心してね。これは、傷跡をよりきれいに仕上げるための方法なんだ。」
コウタの手術
次にコウタが診察台に横になった。彼は不安そうに母親にしがみつくが、母親の歌声と医師の迅速な処置で、あっという間に麻酔が効いた。ユウタは、自分の体が硬直するのを感じながらも、手術台のそばに立ち、その様子をじっと見つめていた。彼は、自分の目で何が起こるのかを確認したかった。
医師は、コウタの局部にひんやりとした消毒液を塗った後、マジックで描かれたラインと、「K-1.6」という管理番号を再度確認した。
「これで、この線に沿って切除しますからね。」医師はコウタの母親に説明した。「コウタくんのママ、このラインでよろしいですか?」
コウタの母親は彼の小さな体を抱きしめたまま、医師が描いたラインを真剣な表情で確認した。コウタは、麻酔が効いているものの、完全に意識がある状態だった。
医師は金属クランプを手に取った。医師はコウタの包皮を軽く引き出し、最適なサイズの金属クランプの釣鐘を、包皮の内側にかぶせた。そして、もう一つの部品であるクランプの台座を、その釣鐘の周りにぴったりと固定した。
医師は、クランプの台座のネジを、ゆっくりと締め付けていった。コウタは、圧迫感を感じているようだったが、痛みはないため、じっと耐えている。包皮の先端が、みるみるうちに血の気が引いて、白っぽく、そしてわずかに青みがかった色へと変わっていくのがユウタの目にもはっきりと見えた。 血流が完全に遮断された証拠だった。
医師は電気メスを手に取り、フットペダルを踏んだ。「ジーッ」という、低く、しかし鋭い機械音が室内に響いた。コウタは、目をつぶって横たわっていたが、耳元で聞こえる電気メスの音と、焦げ付くような匂いに、リクトの包皮が切られていった時の様子を鮮明に思い浮かべた。きっと今、自分も同じように、あの「いらない皮」を切り取られているのだと想像した。
そして、「ジーッ」という電気メスの音がやんだ時、コウタは恐る恐る目を開けた。彼の視線の先には、医師がピンセットでつまみ上げた、薄く、小さな皮膚の断片が、ガラスのシャーレへと運ばれていくところだった。それは、間違いなく彼の体から切り取られた、彼の包皮だった。
ユウタの手術
最後にユウタの番だった。彼は、診察台に横になった。天井の蛍光灯が、やけに眩しく目に映る。母親が彼の頭を撫で、小さな声で歌を歌ってくれた。
医師が、テキパキと準備を進める。ひんやりとした消毒液が、彼の肌に触れた。その冷たさが、彼の意識を現実に引き戻す。心臓がドクンドクンと音を立てる。まるで、太鼓を叩いているかのようだった。
医師は、ユウタの局部を再度確認した。 「うん、今度は麻酔がしっかり効いているようだね。安心してね。」
ユウタは、恐怖で体が震え、医師が金属クランプを装着しようとしたその寸前、無意識のうちに少し尿を漏らしてしまった。白いシーツに、小さな染みがじわりと広がるのが見えた。ユウタは恥ずかしさで顔を赤らめたが、それよりも恐怖が勝り、目を固く閉じたままだった。
医師は、ユウタの局部を消毒した後、複数のサイズの金属クランプの中から、ユウタの包皮に合わせて**「2.0cmの金属クランプ」**を選び、慎重に装着した。金属の冷たい感触が、彼の皮膚に伝わる。クランプが締め付けられると、少しだけ圧迫感があったが、痛みはなかった。
医師は、クランプの台座のネジを、ゆっくりと、しかし確実に締め付けていった。ネジが回るたびに、「キィ…キィ…」という、金属が擦れるような微かな音がする。ユウタは、その鈍い圧迫感と、包皮の先端が白く、そして青白く変化していく様子を見ていたが、その感覚が怖くなり、思わずぎゅっと目を固く閉じた。
「少し、押さえるような感じがするけど、痛くはないからね。」医師の声が、遠くから聞こえる。
ユウタは、自分の体に器具が装着され、これから何が起こるのかを想像すると、急に強い不安に襲われた。「あの…先生…やっぱり、ぼく、やめたいです…こわい…」 彼は、声を震わせながら、そう懇願した。
その時、診察台のそばにいたコウタが、眠たげながらも、ユウタの手をそっと握った。「ユウタ兄ちゃん、大丈夫だよ。僕もリクトも、もう終わったよ。ぜんぜん痛くなかった。」
リクトも、少しだけ顔色を取り戻し、かすれた声で続けた。「うん…ちょっとだけ、ドキドキしたけど…ほんとに痛くなかったよ…」
二人の言葉に、ユウタはハッとした。弟と幼馴染が、自分よりもずっと小さいのに、もう手術を終えて、彼を励ましている。その事実が、ユウタの心に、小さな勇気の火を灯した。母親も、ユウタの手を強く握りしめ、「頑張ろうね、ユウタならできるよ」と励ました。
ユウタは、二人の言葉に少し落ち着きを取り戻したが、まだ不安は消えなかった。彼は、ぎゅっと目を閉じ、深呼吸を繰り返した。
医師は、ユウタの様子をしばらく見守り、再び電気メスを手に取った。「ジーッ」という電気メスの動作音が、再び室内に響き渡る。あの独特の焦げ付くような匂いが、ユウタの鼻腔を刺激した。痛みはない。しかし、今までそこにあったものが、確かに切り離される感覚が、ぼんやりとした意識の奥底で伝わってきた。
そして、「ジーッ」という電気メスの音がやんだ時、ユウタは恐る恐る目を開けた。彼の視線の先には、医師がピンセットでつまみ上げた、薄く、小さな皮膚の断片が、まさに目の前を通り過ぎ、ガラスのシャーレへと運ばれていくところだった。それは、間違いなく彼の体から切り取られた、彼の包皮だった。ユウタが一番見たくなかった光景が、まさに彼の目の前で展開されたのだ。
そして、医師の声が静かに響いた。「はい、おしまい。よく頑張ったね。」
医師は、クランプを外し、ユウタの局部を軽く確認した。 「ユウタくんは、小帯(しょうたい)の切除もしておきましょうか。」 医師はそう言いながら、小さなハサミを手に取った。包皮の裏側にある、わずかなひだのような部分を、「チョキン」という小さな音と共に切除した。痛みはほとんど感じなかったが、その行為が、彼の体に施された最終的な処置なのだと、ユウタは理解した。
ユウタは、自分の体に、さらなる変化が加えられたことに動揺した。「えっ、小帯って?それも切るの?なんで?さっきの説明にはなかったよ…」 彼は、少し混乱したように医師を見上げた。
医師は、ハサミを置き、ユウタに寄り添うように言った。「ごめんね、事前に詳しく説明しきれなかったかもしれないね。小帯は、君の包皮と亀頭をつなぐ細いひだの部分だよ。これが短いと、勃起した時に引っ張られて痛かったり、亀頭が完全に露出できなかったりすることがあるんだ。だから、将来的に君が困らないように、今のうちに切除しておくのが一番良いと判断したんだ。痛みはないから安心してね。」
ユウタは、まだ少し納得がいかない表情だったが、医師の丁寧な説明に、それ以上は何も言えなかった。
切除した包皮の説明と処置
ユウタが恐る恐る目を開けると、医師はにこやかに彼の顔を見ていた。そして、小さなガラスのシャーレを手に取り、それをユウタの母親とリクトの母親の前に差し出した。シャーレの中には、コウタの包皮(管理番号:K-1.6)、リクトの包皮(管理番号:R-1.4)、そしてユウタの包皮(管理番号:Y-2.0)と、その横にさらに小さな、細いひだのような小帯の断片が置かれていた。
「こちらが、切除した包皮になります。電気メスを使用することで、出血を最小限に抑え、非常に綺麗に切除することができました。」 医師は、静かに説明を始めた。「コウタくんのものは、直径約1.6cmほどの円形で、まだ薄いですが、ユウタくんのものは、直径約2.0cmほどの円形で、もう少し厚みがありますね。リクトくんのものも、背面切開を行ったことで、綺麗に処理できました。ラインよりも、少し内側を切除することで、術後にマジックの跡が残らないようにしてあります。」 彼は指で、それぞれの包皮の大きさを指し示した。「術後の出血もほとんどなく、傷跡も、時間の経過とともに目立たなくなりますからご安心ください。」
ユウタの母親とリクトの母親は、シャーレの中をまじまじと見つめ、真剣な表情で医師の説明を聞いていた。ユウタは、そのシャーレの中の、親指の爪ほどの大きさで、薄く、わずかに血のついた皮膚の断片と、その隣のさらに小さな小帯の断片を、一瞬だけ見て、すぐに目をそらした。彼の心臓が、再び大きく脈打つ。それは、自分の体の一部が、確かに取り除かれたという、現実を突きつけられた瞬間だった。
看護師が、手早くガーゼを当ててくれる。痛みは、ほとんど感じなかった。ただ、今までとは違う、どこか軽くなったような感覚があった。
「傷跡もきれいに仕上がるからね。」医師が優しい声で付け加えた。ユウタは、自分の体が、新しい形になったことを漠然と感じた。それは、まるで、体に新しい「区切り」ができたような、直線的で、すっきりとした感覚だった。
痛み止めとおむつ
「ユウタくん、コウタくん、リクトくん、よく頑張ったね。お父さんたちにも入ってきてもらいましょう。」
看護師が待合室に声をかけると、それぞれの父親が診察室に入ってきた。皆、安堵したような表情で子供たちの元へ駆け寄る。
「念のため、痛み止めの座薬を入れておきましょう。それから、術後の出血を受け止めるために、おむつを履かせますね。」看護師が、それぞれの母親と父親に説明した。
ユウタは、その言葉に思わずドキッとした。おむつ?まさか、この歳で。看護師が差し出したのは、確かに子ども用の、幼い絵柄が描かれた紙おむつだった。
「え…おむつ…?」 ユウタは、少し顔を赤らめ、躊躇した。サッカーチームの友達に、この姿を見られたら、どうしよう。そんな思いが頭をよぎる。
コウタも、看護師が差し出したおむつを見て、「えー、これ、あかちゃんのだよ…」と、幼いなりに抵抗するような顔をした。
そして、リクトもまた、おむつを見て「いやだ…」と小さく首を横に振った。彼は、母親の服の裾をぎゅっと掴み、その幼い目には困惑の色が浮かんでいた。
看護師は、そんな三人の様子を見て、優しく微笑んだ。「みんな、ちょっと恥ずかしいかな?でもね、これは君たちの傷を守るためだから、心配しなくていいよ。みんな履くものだからね。今日だけだから、我慢できるかな?」
母親と父親たちが優しく彼らを励ます。「大丈夫よ、ユウタ。一時的なものだから。みんなもするのよ。」「コウタも、リクトくんも、今日だけだからね。」
ユウタは、しぶしぶ頷いた。看護師が手際よく、コウタとリクトにおむつを履かせ、その上から緩めのズボンを履かせてくれた。そして、ユウタも促され、子ども用の幼いおむつを履かされた。普段履いているボクサーパンツとは全く違う、ごわごわとした感触が、彼の股間に広がる。腰回りに感じるゴムの締め付けも、どこか幼く感じられた。ユウタは、この場に早くいたたまれなくなり、すぐにでもこの場所を立ち去りたいと思った。
最後の別れと処理
ユウタは、戸惑いながらもシャーレの中の自分の包皮と小帯を改めて見た。小さく、しかし確かにそこにあった「かつての一部」。看護師は続けた。「もし怖くなければ、自分でゴミ箱に捨ててみない? もう君たちには必要ないものだからね。これは、これからもっと健康になるための、新しい一歩だよ。」
ユウタは、ゆっくりとシャーレを手に取った。ひんやりとしたガラスの感触が、彼の指先に伝わる。そして、診察室の隅にある、医療廃棄物用の黄色いゴミ箱の蓋を開けた。そのゴミ箱の中には、すでにいくつかの、ユウタたちのものとよく似た、しかし少し形や大きさが異なる皮膚の断片が、静かに横たわっているのが見えた。ユウタが目にしたのは、K-1.8、R-1.5、Y-2.1、そしてさらに大きなA-2.9やN-3.4といった管理番号がマジックで書かれた包皮片だった。彼ら以前にも、ここで同じ手術を受けた人たちがいたのだと、ユウタは理解した。彼らのものよりもはるかに大きな包皮片を見て、ユウタは、自分が小さかったこと、そして自分の状態がそれほど悪くなかったことに、わずかな安堵を覚えた。
ユウタは、手術中は怖くて目を固く閉じていたのに、今、目の前のシャーレに収められた自分の包皮を、じっと見つめていた。それが、彼の体の一部であった最後の姿だから。もう二度と、自分の目で見ることはないのだから。
彼は、少し躊躇したが、意を決してシャーレを傾け、シャーレの中の包皮を、ピンセットでつまみ上げ、ゴミ箱の中へと落とした。 続いて、さらに小さな小帯の断片も、同じようにピンセットでつまんで捨てた。「コトン」という、小さな、しかし決定的な音が響いた。それは、過去の自分との別れを告げる音のようだった。
コウタは、まだ少し眠たげな目で、母親に抱き上げられ、ユウタと同じようにシャーレを渡された。彼は何も考えずに、無邪気な手つきで、ピンセットで自分の包皮をつまみ上げ、ゴミ箱の中へと放り込んだ。 リクトもまた、母親に促され、同じように自分の包皮を捨てた。
その日の夜、ユウタは、自分の布団の中で、いつもより少しだけ大人になったような気がした。痛みはほとんどない。ただ、新しい自分の一部が、そこにあるという不思議な感覚だけがあった。隣の部屋では、コウタとリクトが、それぞれぐっすりと寝息を立てている。彼らもまた、自分と同じ経験をしたのだ。
翌日、ユウタは学校に行った。友達と遊ぶときも、体育の時間も、何も変わらなかった。しかし、ユウタの心の中では、何か小さな変化が起きていた。それは、自分自身の体について、これまで知らなかったことを知ったという、ささやかな自信のようなものだったのかもしれない。そして、弟や幼馴染と分かち合った、この秘かな経験が、彼らの間の絆を、より深いものにする予感もした。
そして、その経験は、彼が大人になってからも、自分自身の体を大切にすること、そして、見えない不安と向き合う勇気を与えてくれる、一つの記憶として心に刻まれることになる。