宦官の浄身に関する記録
時は明代、永楽帝の御代。のちに宮廷の奥深くで生き抜き、歴史の影で大きな権力を握ることになる、若き日の「竜星(りゅうせい)」は、いま人生の最も冷徹で過酷な境界線に立っていました。
戦の捕虜として連れてこられた若き竜星は、からだが岩のようにがっしりとした、むきむきの屈強な青年でした。主君に生涯の忠誠を誓い、宮廷の奥深くで生き抜く太監(宦官)となるため、彼は「男」を捨てるしか生き残る道はなかったのです。
薄暗い手術室の空気は、凍りつくように冷えていました。部屋の中央には、何人もの男たちの血と汗を吸い込んできた、太い木製の長椅子(手術台)が鎮座しています。
去勢の専門職人である「刀子匠(とうししょう)」は、まず部屋の奥に安置された、薄汚れてはいるが厳かな仏像の前に進み出ました。刀子匠は線香を上げ、深く頭を垂れて静かに祈ります。人の生殖を司る部位を絶つという、命がけの業(ごう)を行う前に、仏の慈悲を乞い、手術の成功と命の守護を祈るための、逃れられない儀式でした。
祈りを終えた刀子匠は、不気味に並べられた機材の中から、三日月型をした特製の「去勢刀(じょせいとう)」を取り出しました。それは、信じられないほど薄く研ぎ澄まされた刃を持っていましたが、刀子匠はさらに切れ味を極限まで高めるため、目の前の砥石でシャ、シャ、とリズミカルに、しかし冷徹に刃を研ぎ始めました。一太刀で、肉と神経の束を躊躇なく断ち切るために、寸分の曇りもない鏡のような刃先へと仕上げていくのです。
十分に研ぎ澄まされた去勢刀を、刀子匠は燃え盛る炭火のなかに突っ込みました。鉄の刃は次第に熱を帯び、闇のなかで妖しく、真っ赤になるまで激しく炙られていきます。熱による「火の消毒」であり、同時に切断と同時に肉を焼き焦がして、余計な出血を抑えるための、熟練の職人の知恵でした。
その横で、全裸にされた竜星は長椅子の上に仰向けに寝かされ、むきむきの両手両脚を頑丈な麻縄で椅子にぎちぎちと縛り付けられていました。
「これから、聖なる清めを行う」
刀子匠は、ぐつぐつと温められた、独特の強い香りを放つ「胡椒油(こしょうゆ)」をたっぷりと手にとりました。指示通り、竜星のじまんの立派な陰茎と陰嚢、その全体からまたぐらの奥深くにいたるまで、念入りに、何度も何度も胡椒油を塗り込んでいきました。熱い胡椒油の強い成分が皮膚にしみ込み、じわじわと赤く腫れ上がらせ、強烈な刺激とともに局所を消毒していくのです。
消毒が完全に終わると、刀子匠はその切除部(陰茎と陰嚢のすべて)を、すっぽりと目の粗い「麻袋」で包み込みました。天への捧げものとなる部位を包んだ麻袋の根元を、細く強靭な紐でこれ以上ないというほどの力でがっちりと縛り上げたのです。この緊縛により、竜星の誇る太い動脈の血流が完全に遮断され、またぐらは黒ずみ、感覚が徐々に失われていきました。
縛り上げられた麻縄の先端は、なんと天井に取り付けられた堅牢な「滑車(かっしゃ)」へと繋がっていました。助手たちが滑車の縄をぐっと引っ張ると、竜星の切除部を包んだ麻袋は、じわじわと真上へと吊るし上げられていきました。
股間の肉が、天井に向かってぎゅーっと垂直に引っ張られていきます。こうして吊るし上げることで、肉と皮が限界まで引き伸ばされ、刀子匠にとっては切除部が非常に見やすくなり、一太刀で最も切りやすくなる理想的な角度が作り出されるのです。
刀子匠は、炭火から真っ赤に、狂おしいほど赤熱した去勢刀を引き抜きました。ジジ、と空気を焦がすような熱気が部屋を満たします。刀子匠は竜星の顔を覗き込み、最終確認をしました。
「おい、竜星。去勢される瞬間に、後悔するか、しないか? これが最後の確認だ。刃が入れば二度と男には戻れんぞ」
竜星は、ぎゅっと目を閉じました。脳裏に浮かぶのは、捕虜としての屈辱と、宦官として世界の頂点へ成り上がってやるという激しい野心でした。彼は屈強な胸を大きく上下させ、覚悟を決めて絶叫しました。
「後悔はしない! さっさと一思いに根本から切ってくだせえ、すっぱりと!」
「よし、大志を抱け」
刀子匠が呟いた瞬間、真っ赤に炙られた去勢刀の刃が、限界まで吊るし上げられた麻袋の根元、まさに肉体の境界線へと突き立てられました。
「すぱーーん!!」
熱せられた刃が一閃し、肉と神経の束を一刀両断にしました。
「ぎゃああああああああーーーーーッ!!」
いくら筋肉質な竜星とはいえ、生命の根源を文字通りえぐり取られる衝撃は、魂を消失させるほどのものだった。麻薬の効果を突き破る烈火のごとき激痛が全身を駆け巡り、竜星の逞しい背中が弓なりに跳ね上がった。同時に、切り口に赤熱した刃が触れたことで、ジュウという肉の焦げる悍ましい音が立ち込め、一瞬にして血管が焼き潰されました。目からは涙と汗が文字通り滝のように吹きこぼれ、竜星はあまりの激痛に意識を失いました。
肉体からすっぱりと切り離された瞬間、天井の滑車がガラガラガラと音を立てて勢いよく回りました。
切り落とされた「物」を含んだ麻袋は、そのまま天井の最も高い場所へと、するすると吊るし上げられていったのです。血の滴る麻袋が天井で静かに揺れ、竜星のまたぐらは完全に抜け殻のようにつるつると平らになっていました。
刀子匠は手際よく、新しく作られた尿道の開口部へ、ガマの芯で作られた細い尿道栓を深く差し込み、傷口に白灰を擦り込んで厳重に固定しました。
そして、天井から下ろされた麻袋の中身、すなわち竜星の「宝」は、史実に基づいた特殊な防腐処理が施されました。
刀子匠は、大鍋にたっぷりの「胡椒油」を満たし、火にかけました。油がパチパチと音を立てて熱せられたところへ、切り落とされた陰茎と陰嚢を、そのまま容赦なく投入したのです。
ジュワワワッ、と激しい音を立てて、ちんぽこは胡椒油でカラリと揚げられていきました。高温の胡椒油で揚げることにより、肉の中の水分が完全に完全に飛ばされ、胡椒の強い防腐成分が組織の奥深くまで浸透します。これにより、何十年経っても腐ることのない、完璧な保存処置が完了するのです。
油から揚げられた宝は、丁寧に油を拭き取られた後、小さな特製の箱(宝匣)に収められ、竜星がいつか大金を払って買い戻しにくる日のために、建物の高い梁の上に大切に保管されました。
数週間後、地獄のような苦しみを生き延びた竜星は、宮廷の衣服に身を包み、静かに立ち上がっていました。彼の肌は髭がなくなり滑らかに、声はどこか高くなっていましたが、その瞳には、過酷な運命を乗り越え、これから宮廷の権力を支配していくことになる、計り知れない覇気と知性がらんらんと輝いていたのです。