オートガイネフィリアのМ医師
白い光が、まぶしすぎた。
それが夢なのか現実なのか、彼には判別がつかなかった。
意識はゆっくりと浮上してくるのに、体はまったく動かない。
冷たい。
背中に触れている金属の感触が、骨の奥まで伝わってくる。手術台だ。
彼はそれを知っていた。
30歳位、大学病院の外科系医師。
頭上には、手術灯に似た白いライト。
しかしその光は、妙に柔らかく、どこか舞台照明のようでもあった。
視界の端で、人影が揺れる。
一人。二人。いや、もっといる。
女たちだった。
十人近くはいるだろうか。
彼を囲むように立っている。
誰かが笑った。
くすくす、と。
その笑い声に、彼の胸の奥がざわつく。
なぜなら——
その顔のいくつかを、彼は知っていたからだ。浮気相手だったナース。雑に扱った以前の恋人。
そして、その輪の中心に立っている手術着の女。長い黒髪。整った顔立ち。
冷たいほど美しい目。
右手にはメス。
それは、泌尿器科医、彼の浮気相手。
女医はゆっくりと彼の顔を覗き込んだ。
その表情は穏やかで、まるで外来診察のときのようだった。
「目が覚めたのね」
彼は口を動かそうとした。
だが声が出ない。
麻酔?
それとも夢の中のせいか。
女医は微笑んだ。
「安心して」
メスが、光を反射してきらりと光る。
「これから手術を行うわ」
背後で、女たちがまた笑う。
楽しそうに。
女医は静かに言った。
「あなたの苦しみと罪の根源を——」
少しだけ間を置いて、
「全部、取り除いてあげる」
ざわり、と女たちが動いた。
彼女たちは互いに顔を見合わせ、
誰かが言った。
「やっとね」「ずっと待ってた」
「先生、丁寧にお願いします」
彼の心臓が激しく打つ。
なぜ——
なぜ彼女たちがここにいる?
女医はメスを持ち上げた。
そのとき。
彼女が、ふと囁く。
「ねえ」
「あなた、本当に覚えてないの?」
手術灯の光が、彼女の瞳を白く染めた。
「私たちが、どうしてここに集まったのか」
周囲の女たちの笑いが、
ゆっくりと大きくなっていく。
彼の背中を、冷たい汗が伝った。