無限地獄
無限地獄
近未来。テクノロジーの飽和により、人類は死者の記憶を完全にデジタルデータとして抽出することに成功した。これに伴い、殺人事件の検挙率はほぼ100%に達した。しかし、どれほど技術が進化しても、人間の心の奥底に潜む暗い衝動を消し去ることはできなかった。
殺人が根絶されない絶望の中、政府は狂った解決策を打ち出した。凶悪な死刑囚に対し、被害者の記憶を直接脳内にアップロードし、自らの肉体が滅びるまで、被害者が味わった恐怖と絶望を永久に追体験させる――「無限地獄刑」である。
山本太郎、35歳。婦女連続強姦殺人で5人の若い女性を殺害した男。その最初の治験者に選ばれた。被害者たちの記憶には、例外なく山本太郎の顔が刻まれていた。彼は反省を促すという名目のもと、実験室のベッドに固定された。頭部に電極が装着され、軽い痺れとともに意識が途切れる。
目覚めたとき、山本太郎の感覚は変質していた。
見覚えのある女性の部屋。身体を動かそうとすると、胸元に奇妙な重みと揺れを感じる。「まさか……」胸をまさぐると、そこには柔らかな膨らみがあった。股間を確認する。あったはずの男の証は消えていた。「ない! なくなってる!」
鏡に映っていたのは、かつて自分が強姦し、絞殺した被害者の一人、栄子の顔だった。
動揺する太郎の意識は、強制的に隅へと押しやられ、栄子の意識が完全に主導権を握った。太郎は、自分の身体の中にいながら、自分自身の生活を映画のスクリーンのように見せられる「観客」となってしまった。
栄子の日常が始まった。中堅企業で営業として働く彼女の真面目な日々。そして、運命の歯車が回り出す。取引先として現れた山本太郎。現実の太郎は、栄子の脳内で、自分自身の「過去のアプローチ」を客観的に見せられることになった。あまりの恥ずかしさに身をよじりたくなるが、栄子の感情と完全に同化した太郎の心は、彼女が感じる「太郎への愛しさ」をそのまま自らの感情として受け取ってしまう。
栄子は太郎を深く愛し、かけがえのない存在として信じた。毎日、彼に会うことを夢見て仕事に励んだ。
そして、あの日が訪れる。自宅でのデート。料理を振る舞い、心からの笑顔を向ける栄子。しかし、酒が入った太郎の態度は豹変した。冷酷な獣へと変わった彼は、栄子を殴りつけた。
「やめて!」という叫びは、栄子の口から発せられる。しかし、栄子の脳内に閉じ込められた太郎の意識もまた、叫んでいた。
――やめろ、俺、そんなことをするな!
痛烈な打撃、恐怖、裏切り。太郎は、自分がかつて栄子に与えた「死の苦しみ」を、今度は栄子の感性を通じて、そのすべてを倍加されて味わっていた。逃げる術はない。栄子が強姦され、首を絞められ、意識が途絶えていくその最期まで、太郎の意識もまた、共に絶望の淵へと沈んでいった。
暗転。
そして、太郎はまた別の部屋で目覚める。
別の女性の人生、別の殺害の記憶。
繰り返される絶望。何度死んでも、次の人生が待っている。被害者の記憶に同化し、自らの凶行を特等席で見せられ、被害者の絶望を自らの血肉として感じる。
これが、終わりなき煉獄。山本太郎という男が犯した罪は、こうして永遠に終わりを見ることのない、終わりのない輪廻となって彼を蝕み続ける。