陰間達の秘密
年期明けまで、あと三月。
陰間の少年・紺之介(こんのすけ)は、夜の座敷で客の相手をしながら、胸の奥でひとつの願いだけを抱えていた。
——年期が明けたら、嫁入りしたい。
幼い頃に売られ、男として扱われてきた。
だが紺之介の心は、ずっと「娘」として生きる未来を夢見ていた。
陰間仲間の間では、ひとつの噂が囁かれていた。
「羅切師のところへ行けば、女として生きられる」
その羅切師は、陰間の世界では名の知れた存在だった。
麻酔を使い、膣を作り、外観はどこから見ても女性そのものに仕上げる。
専用の手術道具を鍛冶屋に作らせるほど、精密な技術を持つ者。
年期が明ける前夜、紺之介は意を決して羅切師の庵を訪れた。
◆羅切師の庵
庵は山の奥、誰も近づかぬ竹林の中にあった。
灯りはひとつだけ。
羅切師は、白髪を束ねた静かな老人だった。
「嫁入りがしたいのか」
紺之介は震える声で頷いた。
「……はい。羅切子に、していただきたくて」
羅切師はしばらく紺之介を見つめ、
その目の奥にある決意を確かめるように、ゆっくりと頷いた。
「覚悟はあるか。
これから先、お前は二度と“男”として生きられぬ」
「それでも構いません。
私は……娘として生きたいのです」
羅切師は静かに立ち上がり、奥の部屋へ案内した。
◆手術の日
麻酔の香が満ちる部屋。
壁には、鍛冶屋が作った細い刃や、皮膚を縫うための針が整然と並んでいる。
紺之介は横たわり、羅切師の声を聞いた。
「目が覚めたとき、お前は“新しい身体”になっている。
恐れるな。これは、お前の望んだ未来だ」
意識が薄れていく中、
紺之介はただ、
「娘として生きたい」
その願いだけを胸に抱いた。
◆目覚め
どれほど眠っていたのか分からない。
目を開けると、羅切師がそばに座っていた。
「終わったぞ」
紺之介は身体を起こし、
そっと布団の中の自分の身体に触れた。
そこには——
女性の外陰部と同じ形をした身体があった。
膣もあり、陰核もあり、
どこから見ても「娘」の身体。
紺之介は息を呑み、震えた。
涙が溢れた。
「……本当に……女に……」
羅切師は静かに頷いた。
「お前は、望んだ通りの身体になった。
これで嫁入りもできる。
誰が見ても、普通の娘だ」
◆羅切師の最後の言葉
羅切師は、紺之介の肩に手を置いた。
「だが、よく聞け。
ここに来たことは、誰にも言うな。
墓場まで持っていけ」
紺之介は涙を拭きながら頷いた。
「……はい」
「羅切したことを口にすれば、お前が辛くなる。
嫁ぎ先でも、村でも、世間でも。
この秘密は、お前を守るためのものだ」
そして、羅切師は最後にこう告げた。
「いいか——お前は、生まれた時から女子だったんだ」
その言葉は、紺之介の胸に深く染み込んだ。
羅切師の声は、祝福のようでもあり、
新しい人生を認める“再誕の宣言”のようでもあった。
紺之介は泣きながら、何度も頷いた。
◆嫁入りの日
数ヶ月後。
紺之介は新しい名を与えられ、
娘として嫁入りした。
誰も疑わない。
誰も知らない。
紺之介は、羅切師の言葉を胸に抱きながら、
静かに、しかし確かに、
「娘としての人生」を歩み始めた。