港区の傲慢エリート調教
冷たい。
頬に触れるコンクリートの感触で目が覚めた。
意識が浮上するのと同時に、自分の身を包むオーダーメイドのスーツが、この無機質な空間でひどく滑稽な異物であることに気づく。
ここは……どこだ?
六畳ほどの密室。ピンク色のLEDが怪しく、だが整然と並べられたガラスケースを照らしている。
その中には、まるで博物館の標本のように、茶褐色の“肉塊”が直立不動で並んでいた。
……いや、それは肉塊ではない。男の、股間の象徴だ。
「目、覚めたんだ。おはよう♡」
扉が開き、一人の女が入ってきた。
ゆるふわの茶髪に、身体のラインをなぞる薄いセーター。港区のラウンジにでもいそうな風貌。
俺のようなエリート銀行員が、接待の帰りに道端で声をかけられれば、迷わずついていくような極上の女。
だが、俺の手首は後ろ手に、足首は重いベッドの脚に、鉄枷で固定されていた。
「何が目的だ。金か? ならば話は早い」
「あはは! さすが銀行員さん。でもね、私が欲しいのは紙切れじゃないの。……もっと硬くて、瑞々しくて、いつか枯れちゃうはずの、君のトクベツな一部だよ♡」
女は甘ったるい声で笑いながら、俺の股間を迷わず掴んだ。
「……ふん、結局はそれか」
手足の拘束。コンクリートの壁。そして、目の前に立つ、いかにも男受けの良さそうな、だが空虚なただの『女』。
誘拐、監禁。表の社会では重大犯罪だが、裏を返せば、この女は俺という極上の個体を、常軌を逸した手段でしか手に入れられなかった哀れな信奉者に過ぎない。
「金が目的じゃないなら、俺の体が目当てか。……いいよ。監禁してイキっているところ悪いが、あんたのような女は嫌いじゃない。少し遊んでやるから、さっさとその拘束を解け」
女は、俺の言葉に怒る風でもなく、ただ小首を傾げて、猫を撫でるような甘ったるい声で笑った。
「あはは、すごい自信♡ さすが、お金を動かしている人は言うことが違うねぇ」
女はベッドの端に腰掛け、俺のオーダーメイドのスラックスを躊躇なく引き下ろした。
空気に触れた肌が粟立つ。
だが、俺はまだ余裕を崩さない。
「その顔……。結局、俺のこれが欲しくてたまらないんだろ? 銀行員はストレスが多いからな、相手をしてやるよ」
俺が冷たく言い放つと、女は俺のペニスをぬちり、と湿った音を立てて握った。
「じゃあ、ちょっとだけ遊んじゃおうかな♡ …ぁむっ♡」
女は俺のペニスを美味しそうにしゃぶった。
ぬちゅり、ぢゅるり、と派手で卑猥な音を立てながら、荒い吐息を直に吹きかけて、「んっ、んっ♡」とエロがる声を出しながらペニスを強く吸い、口内抽送を繰り返す。
熱い。
そして、圧倒的な吸引力。
口腔という名の暗闇に、俺の象徴が丸ごと飲み込まれた。
「っ……!?」
驚くほどの熱量だった。
舌の表面が、裏筋の敏感な部分をぢゅぷ、ぢゅぷ、と規則正しく、かつ強欲に撫で上げる。
喉の奥まで突き込まれるような、深いフェラチオ。
彼女の頬が激しく凹凸し、真空状態に近い圧力が俺の肉を絞り上げる。
「……あ、ぐ……ッ」
俺の喉から、余裕のない声が漏れた。
ぢゅぷ、ぢゅぷり、ぬちゅ……。
唾液と粘膜が混ざり合う、卑猥で重厚な音が静かな部屋に響き渡る。
彼女の指は俺の太ももの付け根を愛撫し、時折、陰嚢を優しく、だが確実に逃がさないように握り込んでいた。
俺は、自分のステータスも、銀行員としての冷静さも、すべてがこの女性の口腔内で溶けていくような錯覚に陥った。
俺の体を目当てにしている。それは間違いない。だが、この技術、この献身……。
俺は優越感に浸っていた。これほどの女を跪かせ、奉仕させている。俺という男の価値が、彼女の喉を震わせるたびに証明されていく。
「……はぁ、……いいぞ。もっと、奥まで……っ」
俺が彼女の頭を掴み、腰を突き出そうとした、その時だった。
「……あはっ。……これ以上は、まだお預けだよ♡」
突如として、快楽の源泉が消失した。
ぢゅるん、と濡れた音を立てて、彼女が口を離したのだ。
俺は呆然と、白濁した唾液にまみれて光る自分のペニスを見つめた。
絶頂の寸前。脳が真っ白になる一歩手前で、梯子を外されたような感覚。
「な、何を……続けろ。まだ、終わって……」
「そう。元気だねぇ♡ でもね、××くん。勘違いしないで。私が君をここに連れてきたのは、君を『男』として扱うためじゃないんだよ?」
女は突然、握っていた手に力を込めた。
凄まじい握力。銀行員としての日常で培った俺の腕力を、赤子の手でも捻るかのように無効化する力。
いや、握っているのがペニスだから、相対的に凄まじい力だと感じているだけかもしれない。
「……っ!?」
「いい子にしてなきゃダメだよ? 自分の立場もわからずに吠えるなんて、子供の頃に教わらなかったのかなぁ。……躾、し直してあげないとね♡」
彼女の瞳から、先程までの潤んだ母性は消え去っていた。
代わりに宿ったのは、ガラス玉のような、無機質で圧倒的な“捕食者”の光。
彼女は、俺のスラックスのポケットに隠していたはずの手を、背後に回した。
いつの間にか、彼女の手に握られていたのは、小さなリモコンのような装置。
「なっ……!? なんだそれは……!」
彼女は微笑みながら、もう片方の手で、金属製の冷たいリングを取り出した。
それは内側に無数の突起がある、拷問器具のような形状をしていた。
「やめ……っ、やめろッ!」
俺の抵抗も虚しく、その環は、俺の勃起したペニスの根元へと、滑り込むように装着された。
金属の冷たさが、熱を帯びた肉に食い込む。
「あ……が……っ」
「これね、特別な『ピアス』なんだよ。君のプライドを、内側から刺激してくれるの♡」
彼女がリモコンのスイッチを入れた。
――ビキィィィィィィィィィッ!!!
「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
俺の視界が、真っ赤に染まった。
電流だ。
それも、ただの電気ショックではない。
神経の束を一本一本、熱した針で抉り回されるような、暴力的なまでの高電圧。
腰が跳ね、背筋が弓なりに反り返る。
口腔内の粘膜が震え、奥歯が砕けるほどの衝撃が頭蓋を揺らす。
「あ……っ、が、……ぁ、……ッ!!」
声にならない悲鳴を上げながら、俺はベッドの上で無様に悶絶した。
だが、彼女は容赦しない。
スイッチを細かく連打し、俺の肉体に断続的な地獄を刻み込んでいく。
バチッ、バチバチッ!
「あぁぁ、っ! ……お、ねがい……だ、止めろ……っ!!」
「あら、お口が悪いねぇ。さっきまでの威勢はどうしたの? 『遊んでやる』んじゃなかったの? ほら、もっと『遊んで』あげようか♡」
彼女は、電流に焼かれて痙攣する俺のペニスを、冷徹な目で眺めていた。
それは、高級な服を着たエリートなどではなく、ただの震える肉塊を見つめる視線だった。
俺の誇り。俺のステータス。1億円の年収も、都心のタワーマンションも、この電流の前では何の防壁にもならない。
俺は、ただの、去勢を待つばかりの家畜へと、一瞬で堕とされたのだ。
「……ねぇ、××くん。これから、君にはもっと楽しいことが待ってるんだよ? 楽しみだねぇ♡」
電流の余韻で震える俺の頬を、女は優しく撫でた。
その指先には、まだ俺の唾液と、恐怖の汗が混じり合って付着していた。
ぢゅる、と彼女が自分の指を舐めとる音が、俺の終わりの始まりを告げる合図のように聞こえた。
数日が経過した。
その間、女性は俺を徹底的に管理した。
三食の食事は彼女の手から与えられ、排泄は彼女の監視下で行われる。
時折、彼女は俺のペニスを激しく扱き、射精の直前で止める。
「ダメだよ。これは私の許可があるまで、出しちゃいけないものなんだから♡」
尿道カテーテルがぬぷりと潜り込む感覚。
前立腺を強引に掻き回されるバイブの振動。
俺は涙を流しながら、男としての機能を彼女に明け渡していく自分を自覚していた。
ある夜、彼女は服を脱ぎ、俺の隣に横たわった。
月明かりのような照明の下で見えた彼女の身体には、無数の丸い火傷跡と、下腹部を横切る深い傷跡があった。
「醜いでしょう? 私はね、奪われるのが専門だったの。でも今は、あげるのが専門なの。永遠に変わらない、愛の形をね♡」
彼女が俺の胸に頭を預けたとき、俺は一瞬、この狂った監禁生活に救いを感じてしまった。
このまま、彼女の家畜として死ねるなら……そんな甘美な毒が脳を回る。
……5日目。
この頃には、俺の中から「女を見下す」という選択肢は消え失せていた。
いや、消されたのだ。 俺は四六時中、後ろ手に縛られ、目隠しをされ、何時間も放置された。
窓のないコンクリートの部屋では、時間の感覚は麻痺し、ただ空腹と、皮膚を刺すような金属の冷たさだけが、俺がまだ「生きている」ことを証明していた。
いや、「生きている」のではない。俺は、彼女という主人の所有物(パーツ)として、辛うじて「維持」されているに過ぎない。
「……あ。……あぁ……」
下腹部を突き上げる、重苦しい圧迫感。
俺の膀胱は、すでに限界を迎えていた。
かつての俺――年収数千万を稼ぎ出し、部下を顎で使い、一流ホテルのスイートルームで優雅にワインを傾けていた俺なら、こんな辱めを受ける前に舌を噛み切っていただろう。
だが、今の俺は、後ろ手に縛られ、床に転がされたまま、ただ一人の女の足音を、恋人の訪れを待つように聞き耳を立てていた。
カツン、カツン。
ヒールの音が廊下に響く。その音が部屋の前で止まった瞬間、俺の全身は期待と恐怖でぴくり、と震えた。
「あら、××くん。またお顔が真っ赤だよ?……もしかして、我慢してるのかなぁ♡」
扉が開き、女性が入ってきた。
今日は透け感のある黒いタイトスカートに、白いブラウス。オフィスにいそうな清潔感溢れる格好だが、その手には、透明なプラスチック製の計量カップが握られていた。
「……お、ねがい……します……。もう……限界、で……」
「お口、なんて言うんだっけ? 教えたよねぇ?」
彼女は俺の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
彼女の太ももから漂う、甘い香水の匂い。それが、かえって俺の理性を狂わせる。
「……ご、主人様……。おしっこ……させて、ください……っ」
「あはは! 銀行員さんが、お外で使うような丁寧な言葉で『おしっこ』なんて。可愛いねぇ♡」
彼女は俺を床に這わせたまま、手際よく鉄枷を外し、俺を四つん這いにさせた。
プライド? そんなものは、五日前に電流で焼かれた。
俺は今、彼女に排泄を許可されるという、ただそれだけの報酬のために、犬のように尻を振っている。
「はい、ここに狙って。一滴でも零したら、今日はもうご飯抜きだよ?♡」
彼女は俺の目の前に、透明なカップを置いた。
そして、彼女は俺の背中に膝を乗せ、体重をかけながら、俺のペニスの根元をにちゃり、と湿った指先で弄り始めた。
「……っ、あ……っ」
「ほら、出しなよ。……じっくり、見ててあげるから♡」
彼女の視線が、俺の股間に突き刺さる。
羞恥心で、括約筋が硬直する。
俺は今、人生で最も無防備で、最も汚らわしい姿を、この美しい彼女に晒している。
だが、その視線が、耐え難いほどの興奮を俺に与えていた。
――じょ、じょぼぼ……。
静かな部屋に、情けない音が響く。
透明なカップの中に、俺の体内の老廃物が、黄金色の液体となって溜まっていく。
「あはは! すっごい量。××くん、こんなに溜め込んでたんだ? 汚いねぇ♡」
彼女は俺の排泄を、まるでお気に入りの映画でも観るように、楽しげに眺め、時に笑い声を上げた。 俺は、自分が人間から、ただの排水装置へと成り下がったことを自覚した。
だが、すべてを出し切った瞬間の解放感とともに、俺のペニスは、羞恥心に反比例するようにぐち、と脈打ち、硬く反り返った。
「……ん、すっきりした? でも、出しっぱなしは行儀が悪いよねぇ♡」
排泄が終わるや否や、彼女は俺のペニスを、計量カップから引き剥がした。
先端から滴る雫を、彼女は自分の指先で拭い、それを俺の目の前に差し出した。
「ほら。君の出したものだよ? ……綺麗にしてあげなきゃ♡」
俺は涙を流しながら、彼女の指を舐めた。
エリート銀行員の舌が、自らの排泄物で濡れた彼女の指を、ぢゅるり、と掃除する。
その屈辱が、俺の股間の昂りを、さらに制御不能なものへと変えていた。
「あはっ、いい子だねぇ! 100点満点だよ、××くん! ……じゃあ、ご褒美。……『いいこと』しよっか♡」
彼女の声が、一段と甘くなった。
彼女は俺の背中に乗ったまま、両手で、俺の怒張したペニスを包み込んだ。
ぬぷり、ぬちゅ……。
「あ……っ、あぁッ!!」
電流を流された時とは違う、脳が溶けるような快感。
彼女の掌は驚くほど柔らかく、だが容赦なく俺の尿道を圧迫し、根元から先端へと、じゅちゅ、じゅちゅ、と激しく扱き上げた。
俺の精嚢はすでに限界を超え、今にも熱い種子を彼女の手にぶちまけようとしていた。
「あ、出す……っ! 出ます、お姉さん、出して……っ!!」
「だーめ♡」
俺が絶頂の頂点に達し、腰を浮かせたその瞬間――。
彼女は、俺のペニスの先端を、爪が食い込むほどの力で、ぎゅぅぅっ、と強く握り潰した。
「……っ、が……はぁっ!?」
射精の奔流が、出口を塞がれ、逆流する。
脳内に火花が散り、強烈な不全感が、全身の神経を逆撫でする。
「……ぁ、あぁぁ……っ、なぜ……っ、出させて……ください……っ」
「ダメだよぉ。これは私の許可があるまで、出しちゃいけないものなんだから♡ ほら、我慢して。……もっと、君の中に溜め込んで、もっともっと私のことを考えなきゃ。ね?♡」
彼女は、射精直前の熱を帯びたままの俺のペニスを生殺しにするように、ゆっくりと、シコシコ執拗に扱き続ける。
出したい。だが、出せない。
快楽が臨界点に達するたびに、彼女の手によって強引に引き戻される。
にちゃり、ぬぷり、ぴちゃ……。
「あ……っ、ああぁぁぁッ! お願い、殺して……っ、それか、射精させて……っ!!」
「あはは! 『殺して』なんて、大げさだね♡ ××くんはね、死ぬよりもっといいことをするんだよ。……私のために、永遠に我慢し続けるの。……ね? それが『いい子』の務めだもんね♡」
一時間。あるいは二時間。
彼女は、俺が失神しかけるまで、その「寸止めの拷問」を繰り返した。
俺の意識は、快楽と苦痛の狭間で千々に引き裂かれ、もはや自分が誰なのかさえ分からなくなっていた。
ただ一つ、確かなこと。
この女が手を止めれば、俺は生きていけない。
この地獄のような焦らしさえも、彼女から与えられる唯一の「絆」なのだ。
「よしよし。今日もよく頑張りました♡」
ようやく彼女の手が離れた時、俺の股間は、射精できない苦しみで赤黒く腫れ上がり、激しく脈打っていた。
彼女は俺の頬に、聖母のような優しいキスを落とした。
「また明日ね、私の可愛い××くん♡」
扉が閉まる音。
再び訪れる、静寂と暗闇。
俺は床に這いつくばったまま、解放されない熱を抱え、ただみっともなく涙を流し続けた。
彼女に褒められた。 そのたった一つの『飴』だけで、俺は明日も、この汚辱に満ちた日常を、自ら望んで受け入れてしまうのだ。
……9日目の夜。
部屋の空気はいつもと違っていた。
コンクリートの冷たさを消し去るような、温かく、甘いキャンドルの香り。
バニラと、わずかなサンダルウッドが混ざり合った、女の体臭そのもののような芳香が部屋を支配している。
「今日はね、××くんのお話をたくさん聞かせてほしいな♡」
女性は、俺の拘束をすべて解いた。
自由になった手足は、かえって置き所がなく、俺は戸惑いながら彼女が座るベッドの横に小さくうずくまった。彼女は俺の頭を、自分の膝の上に優しく招き入れる。
数日前までの「躾」による痛みは、もう遠い記憶の向こう側だ。
「……僕、……銀行では、ずっと……。誰にも弱みを見せちゃいけないって、そう教わってきました。ミスは許されないし、数字がすべてで……」
俺は、自分でも驚くほど饒舌に語り始めた。
億単位の融資をめぐる胃の焼けるような交渉。同僚たちの嫉妬。上司の無茶な要求。そして、どれほど実績を上げても、心の奥底に溜まり続ける、自分は誰にも理解されていないという虚無感。
エリートという仮面の下で腐敗していた俺の本音を、彼女は遮ることなく、ただ「うん、うん」と、深い慈悲を湛えた瞳で受け止めてくれた。
「大変だったねぇ。××くんは、ずっと一人で戦ってきたんだね」
彼女の柔らかい手のひらが、俺の頬を撫でる。
湿った指先が、俺の涙を拭い去る。
「偉いよ。こんなに毎日一生懸命頑張って……。私には全部わかってるよ。××くんがどれだけ有能で、そして、どれだけ優しくて、私に尽くしてくれてるか♡」
全肯定。
それは、俺が30数年の人生で一度も得られなかった「真の報酬」だった。
彼女に「偉いね」と言われるたびに、俺の脳の奥底が甘い蜜を出すように疼く。
自分が彼女に飼われ、去勢を待つ身であることなど、もうどうでもよくなっていた。
この承認という名の沼に、一生沈んでいたい。
彼女の所有物として、彼女の言葉だけを栄養にして生きていきたい。
俺の、エリートとしての誇りも、男としての未来も、彼女の掌の中で溶けて消えてしまった。
「ねぇ、××くん……。私、ずっと考えてたの」
彼女は俺の耳元で、蕩けるような声で囁いた。
その手は、いつの間にか俺の股間の“それ”を、子供をあやすように優しく包み込んでいた。
「これ……もう、いらないよね?」
俺の心臓が、跳ねた。
「……え?」
「だって、これは××くんを『男』として縛り付ける鎖でしょ? これがあるから、外の世界の嫌なこととか、性欲とか、醜い競争に引き戻されちゃうんだよ。……これさえなくなれば、××くんはもっと純粋な私の『可愛い子』になれるの。……私がずっと、大切に持っててあげるから♡」
彼女の指先が、先端をぴん、と弾く。
それは紛れもない死刑宣告だった。
だが、俺の中に湧き上がったのは、恐怖ではなく、言いようのない焦燥だった。
「……なくなっても……お姉さんは、一緒にいてくれる……?」
気がつけば、俺は縋るような声で、みっともなく問いかけていた。
男であることを捨てれば、自分には何の価値も残らないのではないか。
価値のない俺を、彼女は捨ててしまうのではないか。
その不安だけが、俺の喉を締め上げる。
「一緒にいるよ♡ 当たり前じゃない。だって、私、××くんのこと大好きだもん。……ねぇ、××くん。本当の愛に、セックスなんて野蛮なものはいらないよね? 身体の繋がりがなくなってこそ、私たちの魂は一つになれるんだよ♡」
彼女の唇が、俺の唇に重なった。
深い口付け。
彼女の舌が、俺の口腔内を支配し、俺の脳を甘い嘘で塗り替えていく。
セックスはいらない。
そんな言葉、嘘に決まっている。彼女がこれまで多くの男を去勢し、コレクションしてきたことを、俺の理性の残滓は知っている。
彼女が愛しているのは「俺」ではなく、俺から奪い取った「欠損」そのものであることも。
だが、今の俺にとって、その嘘は唯一無二の真実だった。
「……はい。……いりません。お姉さんの……お姉さんの、一部になりたい……っ」
俺は、自分を男たらしめていた象徴を、自ら「ゴミ」として差し出した。
彼女の瞳が、歓喜でぎらりと光ったのを、俺は見逃さなかった。
いや、見逃したフリをしたのだ。
この甘美な支配の中で、彼女に「大好きだよ」と言われ続けるためなら、俺は人間であることをやめても構わない。
「いい子……! 本当に、最高にいい子だよ、××くん♡」
彼女は俺のペニスを、最後のお別れを告げるように、じゅぷ、ぢゅるり、と激しく、だが慈しむように扱いた。
その快楽は、これまでのどんな躾よりも重く、熱く、そして絶望的だった。
俺は彼女の腕の中で、自分という個体が崩壊していく音を聞きながら、悦楽の涙を流し続けた。
あの日、西麻布で出会った女。
「遊んでやる」と見下していた俺。
すべてが遠い、前世の出来事のように思える。
今の俺は、ただの供物だ。
彼女という神に捧げられるために、綺麗に磨かれた、無垢な犠牲。
「卒業式、楽しみだねぇ♡」
彼女の冷たい指先が、俺の股間に打ち込む針の場所を確認するように這った。
その冷たささえ、今の俺には、彼女の深い愛の証のように感じられていた。
14日目の昼。
部屋を支配していたバニラの香りは消え、代わりに、鼻を突くような消毒液と、金属の無機質な匂いが立ち込めていた。
彼女が持ってきたのは、銀色の円筒形をした重厚な容器――液体窒素のタンクと、工業用の大きなステープラー。そして、鋭利な剪定バサミ。
「さぁ、卒業式を始めようか。××くん♡」
女性の冷徹な宣告に、俺の身体は歓喜と恐怖で激しく震えた。
だが、その時。俺の奥底に眠っていた『男』としての最後の我儘が、泥濘の中から首をもたげた。
魂の結びつきにセックスはいらない。そう、彼女の膝の上で誓ったはずだった。
なのに、いざその時を目前にして、俺の股間は醜く、凶暴なまでの硬度を持って反り上がっていた。
「……お、お姉さん……っ。最後、最後だけでいい……っ。一回だけでいいから、貴方と……繋がりたい……っ!」
俺は地に這いつくばり、彼女の白い足首に縋り付いた。
エリートの矜持も、家畜としての従順さも、すべてを等閑にした、浅ましい雄の懇願。
彼女は俺を見下ろし、一瞬、氷のように冷ややかな笑みを浮かべた。
その瞳の奥には、俺という生き物に対する底知れない軽蔑と、わずかな憐れみが混ざり合っていた。
「……そうだね。最後だもんね。いいよ、特別だよ♡」
彼女は手慣れた様子でゴムを装着し、俺の上に跨った。
ぬぷり、と濡れた音を立てて、俺の象徴が彼女の奥へと招き入れられる。
「あぁ……っ! これだ、これを求めていたんだ……っ!」
快楽。だが、それはどこか乾いていた。
ふと、彼女のたくし上げられたスカートの隙間、下腹部を横切る深い、赤黒い傷跡が目に飛び込んできた。帝王切開の跡……いや、それはもっと、無理やり何かを抉り取ったような、呪わしい傷だった。
結合のたびに、彼女の眉が微かに歪み、呼吸が苦しげに漏れる。彼女は、俺を受け入れることに、明確な痛みを感じていた。
だが、今の俺にそれを思いやる余裕などなかった。
「もっと、もっと奥まで……っ! 離さないでくれ……っ!」
俺は彼女の腰を掴み、己の欲望を叩きつけるように腰を振る。彼女の痛みも、その傷が物語る壮絶な過去も、俺にとっては絶頂を彩るためのスパイスに過ぎなかった。
「もう……満足した?」
絶頂が訪れる直前、彼女の声が、鼓膜を凍りつかせるほど低く響いた。
「っ、あと少し……っ、射精するまで、中に出すまで……したい……っ!」
「ダ~メ。……時間切れだよ♡」
ぢゅるんっ!
強引に引き抜かれた喪失感に、俺は獣のような悲鳴を上げた。
俺は射精できない苦しみにのたうち回りながら、再び彼女の足に縋った。
「お願いだ、出させてくれ! このままじゃ、俺……狂ってしまう……っ!」
だが、彼女はもう、俺を『男』としては見ていなかった。
「いい子にしててって、言ったでしょ? 最後まで自分勝手なんだね、××くんは」
彼女は、俺のペニスと陰嚢を、太いゴムバンドで根元から強く締め上げた。
血流が止まり、赤黒く変色していく俺の象徴。
そこに、彼女は液体窒素のノズルを向けた。
シューッ!!
「っ……あ、あ、あああああああッ!!!」
瞬間、股間に地獄の極寒が走り抜けた。
言葉にならない絶叫が漏れる。
冷たい。いや、痛い。熱い。
液体窒素が触れた瞬間、肉が、血管が、神経が、内側から爆発するように凍りついていく。
俺のペニスは、みるみるうちに白く霜をまとい、大理石のような質感に変わっていった。
感覚が、消失していく。
俺をあれほど苦しめた絶頂の残滓も、排泄の欲望も、すべてが氷の底へと封じ込められていく。
「見て、××くん。すっごく綺麗……。まるでお砂糖細工みたいだよ♡」
彼女は恍惚とした表情で、俺の凍りついた肉塊を見つめ、次にステープラーを手にした。
液体窒素で凍てついた俺の股間を、彼女は冷たい指先で愛おしそうになぞる。
「ご褒美、追加してあげるね♡」
バチン!!
「――っ、ひ、ぃぃっ!!」
凍った肉に、太い鋼鉄の針が打ち込まれる。
感覚は麻痺しているはずなのに、衝撃だけが骨を伝って脳を揺らす。
バチン! バチン! バチン!
彼女は、銀色の針で俺のペニスを装飾していく。
凍りついた皮膚が割れ、ピキッ、パキッという乾いた音が部屋に響く。
血は出ない。ただ、無機質な金属が肉に食い込むグチィ、という鈍い音だけが、俺が「モノ」へと作り替えられていく儀式の音色となっていた。
「あはは! 銀行員さんが、みっともなく泣き喚いてる! でも、ちゃんと私を見てて偉いねぇ!♡」
ガチャン!!
「――っ!!」
声が出なかった。
ただ、肉が砕けるピキッ、という音と、針が貫通するグチリ、という嫌な感触だけが脳に直接響く。
「はい、右側も♡ バチン! 素敵だよぉ、××くん! 痛いのに、ちゃんと私を見てて偉いねぇ!♡」
彼女は狂ったように、俺の股間に銀色の針を打ち込み続けた。
液体窒素の冷気と、鉄の針による装飾。
俺の象徴は、もはや生物のパーツではなく、彼女の欲望を形にした「作品」へと変貌していた。
彼女は、キンキンに冷えた剪定バサミを、凍りついた根元に当てた。
感覚が麻痺しているはずなのに、刃が肉に食い込む感覚だけは鮮明に伝わってくる。
「さよなら、男の子の君。……こんにちは、私の、可愛い××くん♡」
パキィィィィンッ!!!
乾いた、あまりにも呆気ない音。
俺の体の一部だったはずのものが、床に落ち、硬質な音を立てて転がっている。
音が響いた瞬間、俺は激痛とともに、自分が彼女の「永遠の最高傑作」になれたという狂信的な喜びで、白目を剥いて絶頂した。
「……あ。あ……あぁ……」
切断の瞬間、俺の意識は激痛の火花の中に消えかけた。
だが、彼女はそれを許さない。
熱を持った切り口から溢れ出す鮮血。
それを、彼女は怯むどころか、素手で愛おしそうに拭い取った。
「痛かったね……。頑張ったね、××くん♡」
彼女は、血塗られたブルーシートの上に、俺の頭を優しく引き寄せた。膝枕。
かつて見下していたはずの、その柔らかい太ももの感触。
彼女は俺の頬についた返り血を、自分の唇でぢゅっ、と音を立てて吸い取った。
「はい、お薬塗ろうね。冷たくて気持ちいいよ♡」
彼女は、清潔なガーゼに特製のクリームを塗り込み、焼けるような痛みが走る患部を、羽毛が触れるような手つきで覆っていく。その丁寧さは、まるで壊れやすい骨董品を修復するかのようだった。
「ほら、見て。君のおちんちん……すごく綺麗に飾ってあげるからね。これから毎日、この子にキスして、君のことを想ってあげる。……嬉しいでしょ?♡」
彼女は、切り取られた俺の一部をガラスケースに入れ、俺の目の前に置いた。
失ったはずの場所が、彼女の膝の上で脈打っている。
彼女の指が、俺の耳元やうなじを優しく愛撫し、子守唄のように「偉いね」「いい子だね」と繰り返す。
「……ぁ……あ……っ」
俺は、幼児のように声を上げ、彼女の細い腰にしがみついた。
失ったものの大きさなど、もうどうでもいい。
この、血の匂いが充満した六畳一間の聖域で、彼女にこうして手当てをしてもらえるなら。
この痛みこそが、彼女と俺を繋ぐ唯一の、そして不変の絆なのだ。
「おねえ、さん……っ、ほめ……ほめて、ください……。俺、頑張った、から……っ!」
彼女は俺の返り血を浴びながら、聖母のような笑みを浮かべて、俺を抱きしめた。
「××くん、100点満点……。いえ、120点だよ。……大好きだよ、私の可愛い××くん♡」
彼女の甘いバニラの香りに包まれながら、俺は一生、この手のひらから逃げられないことを悟り、心底からの幸福とともに意識を手放した。
目が覚めると、俺は朝霧に包まれた路地裏に横たわっていた。
股間の感覚はない。あるのは、重苦しい虚無と、ガーゼの感触だけ。
俺は這うようにして立ち上がり、自分がまだ「生きている」ことを呪った。
路地の出口。
一人の男が立ち尽くしているのが見えた。
清潔感のある服装だが、その瞳には光がない。俺と同じ、魂を抜かれた者の目だ。
男は、通り過ぎる茶髪の女性を目で追い、彼女ではないと気づくたびに、絶望に肩を震わせている。 彼の手元には、俺のポケットにも入っていたものと同じ、未使用のピンセットとガーゼの袋があった。
「……ふん」
俺の口から、乾いた笑いが漏れた。
エリート銀行員。地位。名誉。プライド。
そんなものが、何の意味も持たなかったことを、俺は知っている。
あの部屋で、彼女に「いい子だね」と言われることだけが、世界のすべてだった。
男もまた、俺に気づいたようだった。
俺たちの視線が交差する。 言葉はいらなかった。
俺たちは、同じ「欠損」を抱え、同じ「幻影」を追う、彼女の残骸なのだ。
「馬鹿だなぁ、お前も。……あんな女のどこがいいんだよ」
俺は自分に言い聞かせるように、彼に、そして自分に呟いた。
だが、その声は震えていた。
彼もまた、苦笑いを浮かべながら、俺の横に並んだ。
「……ああ。馬鹿だよ。……死ぬほど、馬鹿だ」
俺たちは、互いの正体も知らないまま、ただ彼女が消えた雑踏を見つめ続けていた。
股間の傷跡が、疼く。
それは、彼女に愛された証であり、二度と癒えることのない、幸福な絶望の証だった。
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