【国立生命開発機構公認】ゴールド・アミューズメント・センター .1
21世紀半ば、日本を襲ったのは「極度の少子化」とそれに伴う「遺伝的多様性の欠乏」という二重の危機だった。
体外受精や人工授精の技術が飛躍的に発展し、政府主導での人口管理が可能となったものの、最大の壁となったのは「生殖素材(精子・卵子・DNA)の回収率」だった。
かつての献血のような善意に頼るボランティア方式では、若者の協力はほとんど得られず、素材の集積は頭打ちとなった。
そこで政府が目をつけたのが、日本独自の文化である「パチンコ・ゲームセンター」の持つ強力な娯楽性とギャンブル的中毒性だった。
大手アミューズメント企業と共同開発された国営施設「アミューズメント・ライフ・センター」。そこでは、最新の体感ゲームや巨大メダル機を楽しむ「対価」として、あるいは「ゲームのリソースを得るためのタスク」として、人々が自ら進んで生殖素材を提供する仕組みが完成した。
「義務」を「脳汁(ドーパミン)」へと置換したこの国家システムは爆発的な成功を収め、いまや市民にとって「ちょっとパチンコやゲーセンで遊んで小遣いを稼ぐ」のと完全に同義の日常となっている。
プロローグ:深夜のゴールドラッシュ
ネオンの光が湿ったアスファルトを青赤く濡らしていた。
大通りの角にそびえ立つ巨大ビル「国立生命開発機構公認・ゴールド・アミューズメント・センター」その自動ドアが開くたび、重低音のBGMとメダルがジャラジャラと押し出される金属音、そして独特の匂いが夜の空気に漏れ出してくる。
消毒液のツンとした香りと、加熱式タバコの煙、そして微かに甘いアロマが混ざり合った、あの独特の匂いだ。
「本日、メビウス・コア『超・排卵フェス』開催中!」
「初回メンテナンス選択でメダル5倍確定!」
壁一面の巨大LEDビジョンが狂おしいほどの光を放ち、深夜0時を回っているにもかかわらず、入口には数人の列ができていた。
サラリーマン、若いカップル、眠たげな目をした老人。彼らはみな、同じ「会員カード」を手に握りしめている。
人間は義務や奉仕では動かないが、「ゲームの確変」と「ジャックポットの快感」のためなら、喜んで自分の身体を差し出す。
いまやここは、誰もが合法的に脳汁を出し、生活費や娯楽を得るための日常の居場所だった。
第一章:初めてのカードと、二人の企み
「……マジで行くのか? アツシ」
大学の近くにある居酒屋のテーブル席で、タクヤは生ビールジョッキの手を止め、目の前の友人に声を潜めて尋ねた。
アツシはスマホの画面をタップしながら、ニヤリと笑った。画面には、国営センターの公式アプリが表示されている。
「当たり前だろ。今月、マジで金ねぇんだよ。教科書代で飛んだし。それにさ、俺たち今年で二十歳だぞ? 先月届いただろ、あのカード」
アツシが財布から取り出したのは、ホログラム加工が施された一枚のプラスチックカード——『国民生殖素材提供・共通IDカード』だった。二十歳を迎えた国民に一律で発行される、センターのアカウントカードだ。
「でもさぁ……」タクヤは自分の財布の中にある同じカードを指先で触りながら、眉をひそめた。「なんか嫌じゃないか? シートに座って下半身出されてさ。あそこ、包茎手術とか処女膜の切開までシートで自動でやられるんだろ? 病院じゃねぇんだぞ」
「お前、いつの時代の人間だよ」
アツシは呆れたように肩をすくめた。
「病院で行ったら何万も取られる手術が、あそこなら『初回限定メンテナンス・ボーナス』扱いでタダどころか、一万枚スタートのメダルがもらえるんだぞ? 学食の先輩も言ってたろ。『一瞬麻酔ガス吸わされて、目の前のスロット演出見てる間に終わった』って。痛くも何ともねぇってさ」
「でも……」
「手にカード持って受付行くだけだ。お前がずっと気にしてた仮性包茎もタダで切ってもらえて、そのままメダル持って中央の超大型プッシャー台『メビウス・コア』に座れるんだぞ? 運が良ければ今日の夜には生活費どころか、欲しかったPS6の代金まで稼げる。行かない理由、あるか?」
アツシの言葉には、どこか抗いがたい説得力があった。
世間でも「ちょっとゲーセン行って小遣い稼ぎしてくる」くらいの感覚で語られている場所だ。大学の同級生だって、半数以上はすでに通っている。
タクヤは喉を鳴らし、残りのビールを飲み干した。
「……一回だけだぞ。メダルなくなったら速攻で帰るからな」
「そうこなくっちゃ! よし、行くぞ!」
駅から徒歩5分。ギラギラとしたLEDが夜空を焼くセンターの前に、二人は立っていた。
重厚な自動ドアをくぐると、防音ガラスの向こうから「ギゴゴゴ……ガシャン!」という役物の作動音と、激しい電子音が鼓膜を揺らす。
「すっげぇ音……」
「へばるなよ、まずは受付だ」
手に持った会員カードを端末にタッチし、顔認証を済ませると。
ピンポンと軽い電子音が鳴り、電子ゲートの画面が表示された。
【ようこそ、アツシ様 / タクヤ様】
【初回利用特典:メンテナンスコース選択可能】
「よし、行こうぜ」
案内表示に従い、男女別々に分かれたロッカールームへと進む。ここからは私服での入場は固く禁じられている。
ロッカールームは銭湯やスパ施設のように清潔で、壁一面に金属製のロッカーが並んでいた。すでに何人もの男たちが、慣れた手つきで服を脱ぎ捨てている。
ロッカーの中に用意されていたのは、指定の「館内着」だ。
それは、膝上まで丈のあるゆったりとした「ワンピース型」の衣装だった。
下着はすべて脱ぎ、このワンピースを頭からすっぽりと被るのがルールだ。下半身は完全にフリーとなり、ゲーム機のシートに座れば裾をめくり上げるだけで施術アームがアクセスできるよう設計されている。
「うわ……これ、本当にノーパンなんだな」
タクヤはワンピースの裾をさすりながら、心もとなさに身震いした。太ももに直接触れる空気がソワソワとする。
会員カードを片手に持ったまま周りを見渡せば、同じワンピース姿の男たちがごく普通に清涼飲料水を飲んだり、スマホを弄ったりしている。
「おいタクヤ、準備できたか?」
アツシがロッカーの陰から現れた。同じワンピース姿で、右手にはしっかりとカードを握りしめている。すでに照れくささなど吹き飛んだような、ギラついた目をしていた。
「おう……なんかスースーして落ち着かねぇよ」
「最初だけだって。ほら、カード無くすなよ。行くぞ、メダルの海へ!」
アツシが防音ドアのレバーを押し下げた。
次の瞬間、全身を包み込むような爆音と、視界を埋め尽くす光の群れ、そして「ジャラジャラジャラ!」という圧倒的なメダルの金属音が、二人の身体を激しく打ちたたいた。
ワンピースの裾を揺らす熱気の中に、二人はカードを手に足を踏み入れた。
爆音と光の濁流、そして熱気。重厚なドアをくぐった瞬間、タクヤとアツシは思わず足を止め、口を半開きにして立ち尽くした。
頭上では100人規模の超大型メダルプッシャー「メビウス・コア」の巨大な液晶演出がギラギラと輝き、ジャックポットを知らせる重低音と「ジャラジャラジャラ!」という怒涛のメダル払い出し音がフロア全体を揺らしている。
すれ違う人々は全員、自分たちと同じ膝丈のワンピース姿で、右手には会員カードを握り締め、ドリンクを片手に慣れた足取りで台から台へと移動していた。
「……すっげぇな、ここ」
タクヤが呆然と呟いた、その時だった。
「アツシ様、タクヤ様ですね? 本日は初のご来店、誠にありがとうございます!」
ハキハキとした明るい声が二人を呼び止めた。
振り返ると、センターのロゴが入ったスタイリッシュなポロシャツを着た若い女性スタッフが、端末を手に爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。
「あ、はい……」
アツシが思わずワンピースの裾を少し気にしながら返事をする。
「お二人とも本日が初めてのアカウント利用ですね。よろしければ、当センターのシステムや各種お得な制度、シートの操作方法などをご案内いたしますが、いかがでしょうか?」
「あ、お願いできるなら……助かります」
タクヤがペコリと頭を下げると、女性スタッフは「かしこまりました! こちらへどうぞ」と手慣れた手つきで二人を案内し始めた。
「まず、お手持ちの『会員カード』ですが、これは館内のすべての決済および生体データ管理に使用いたします。ゲーム機に座られた際、まずはスロット脇のカードリーダーにカードを差し込んでいただきます」
スタッフは二人を、個人向けのスロット台が並ぶエリアへと誘導した。
「ブースのシートにお掛けになりましたら、足元のフットレストに足を固定していただきます。ワンピースの裾を少し捲くり上げていただくだけで結構です。シート内部のセンサーがお召し物を感知し、全自動で洗浄および体圧調整アームがセットされます」
あまりにも淡々と、まるでカラオケボックスや最新のマッサージチェアの説明をするかのようなトーンで語られる内容に、タクヤの心臓はドキンと跳ねた。
「また、お二人とも本日は『初回限定メンテナンス・コース』が適用可能となっております。こちらはシートに着席後、液晶画面の『初回メンテナンスを申し込む』をタッチしていただくことで、施術アームによる完全無痛の包茎手術が自動で行われるサービスです」
「あの……それって、本当に痛くないんですか?」
タクヤが恐る恐る尋ねると、女性スタッフはニコリと微笑んだ。
「はい! 施術開始と同時に、シート上部からマイルドな麻酔・多幸感アロマガスが自動噴射されます。目の前のゲーム画面で激しいリーチ演出をお楽しみいただいている間に、超精密レーザーにて数分で完了いたしますよ。しかも初回特典として、施術完了の瞬間に『確定ジャックポット(メダル10,000枚)』がその場でチャージされます!」
「い、一万枚……!」
アツシの目が一気に輝いた。
「はい! 獲得されたメダルは、そのまま中央の大型プッシャー『メビウス・コア』に引き継いで遊ぶこともできますし、館内の交換カウンターで最新の家電や各種デジタルポイント、税金控除用の証明書と交換することも可能です。それではお二人様、あちらの並びの空きブースへどうぞ。カードのセットからご案内いたしますね」
「……行くぞ、タクヤ」
アツシはもう恐怖など完全に吹き飛んだ様子で、握りしめたカードを握り直し、女性スタッフの指示に従ってブースへと歩き出した。
タクヤもまた、逃げ場のない高揚感とノーパンのワンピースの心もとなさを感じながら、吸い寄せられるようにシートへと腰を下ろすのだった。
二人は女性スタッフに促されるまま、並んで空いていた個人用スロットのブースへ腰を下ろした。
シートは馬の鞍(くら)に似た人間工学的な形状をしており、跨がるように座ると自然と下半身が固定される仕組みになっていた。中央には便器のように大きく楕円形の開口部があり、そこに下半身を収める格好になる。
ワンピースの裾を太ももまで手繰り寄せ、シート側面のカードリーダーへ慣れない手つきで会員カードを差し込んだ。
「ピローン! 【ようこそ、タクヤ様】」
電子音とともに目の前の大型液晶画面が華やかに点灯し、軽快なBGMが流れ始める。
「カードの認証が完了いたしました。それでは、基本のデイリータスクである陰部洗浄が始まります」
隣に立つ女性スタッフが、端末を手に微笑みながら説明する。
「ご入館時には陰部洗浄が行われます、特にこちらからボタンを押したり、複雑な操作をしたりする必要は一切必要ありません」
画面上には、淡い光を放つピンク色の「花の蕾(つぼみ)」のアニメーションが大きく映し出された。
それと連動するように、鞍の穴の内部から微細な機械音が響き、温水ジェットが滑らかに立ち上ってくる。
温水洗浄便座のように心地よい湯が陰部全体を包み込んだ。
続いて、画面の中の花の蕾が『開花』の演出とともにゆっくりと花弁を広げていく。
そのアニメーションに同期して、穴の内部に配置された医療用アームと吸着ノズルが完全に自動で滑らかに作動した。
一切の抵抗を感じさせることなく、包皮が優しく根元へと引き下げられ、露出した内部まで温水と微細な泡で徹底的に清められていく。
「わっ……」
普段の入浴ではあり得ないほど念入りの自動洗浄に、タクヤは思わず息をのんだ。しかし、痛みや不快感はなく、洗練された温もりと清潔感が広がるだけだった。
「はい、デイリータスク完了です!」
「ガシャン! ギゴゴゴ……!」
画面上の蕾が満開になり、ド派手なフラッシュ演出とともに【DAILY TASK CLEAR!!】の太文字が踊る。
「ジャラジャラジャラ!」
重厚なサウンド効果音とともに、画面のデジタルカウンターにきっかり数字が刻まれた。
【+200 CREDITS CHARGED】
「こちらの200クレジットは、いわば毎日のご来店ポイントのようなものです」
女性スタッフは液晶画面をトントンと軽く叩きながら、ハキハキとした声で説明を続けた。
「当センターにお越しいただいたお客様には、まずこのデイリータスクを完了していただき、支給されたクレジットでご自由にゲームをお楽しみいただくのが基本の仕組みとなっております。ですが……もし遊戯の途中でクレジットが無くなってしまった場合は、いつでも追加タスクを行っていただけます」
「追加タスク……?」
タクヤが聞き返すと、スタッフはにっこりと微笑んだ。
「はい。精子提供や各種生体素材の提出などの追加タスクですね。こちらを行っていただくことで、即座にクレジットを追加チャージすることができます。もし差し支えなければ、まずはこのまま精子提供をお試しになってみませんか? 回収された量や運動率に応じて、その場で200から1000クレジットが追加チャージされますよ」
「1000クレジット……!」
隣のブースから、アツシの興奮した声が漏れた。
「タクヤ、やろうぜ! 200じゃ速攻でスロット飲まれて終わるし、ここで1000稼いでから賭けた方が絶対面白いって!」
女性スタッフは二人の反応に満足そうに頷くと、液晶画面の『精子提供タスクを開始する』という青いボタンを指し示した。
「操作はとても簡単です。準備がよろしければ、画面のボタンをタッチしてください」
アツシが迷わず画面を叩くと、タクヤも吸い寄せられるように指先を画面へ伸ばし、青いボタンを押し込んだ。
「ピローン! 【精子提供タスクを開始します】」
軽快な音声とともに、鞍状シートの内部から機械の作動音が響いた。
「シート内部では、全自動の人工膣ユニットが上昇し、お客様の器官を自然に包み込みます。同時に、より確実で効率的な回収のため、直腸への微弱な電気刺激デバイスが連動して作動いたします」
「え、直腸……!?」
タクヤが驚いて声を上げる間もなく、シートの内部から滑らかな人工膣の温かな密着感が陰部を覆い、同時に臀部奥へと微細なプローブが滑り込んだ。
直後に、トントンとリズミカルで心地よい極めて微弱な低周波刺激が直腸壁をくすぐる。背筋を微かなシビれが駆け抜け、意志とは無関係に下半身へ血液が集まり、固くなっていくのが分かった。不快感や痛みはなく、むしろ強烈な収縮感と快感がダイレクトに脳へと送られる。
同時に目の前の大型モニターには、高精細なきわどい映像と派手なリーチ演出が混ざり合った映像が流れ始め、大音量のBGMが思考を白く染めていく。
「あ……っ」
タクヤの口から思わず漏れた小さな声に、女性スタッフは嫌がる素振りも見せず、むしろ慈しむようなプロの笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ、タクヤ様。とても順調です。直腸への微弱刺激は精嚢を直接収縮させますので、ご自身の意思とは関係なく、最も効率よく上質な素材が採取できる仕組みになっております」
スタッフは二人から離れるどころか、すぐ横に立ち、まるでボウリング場やゴルフスクールのアドバイザーのように、手元の端末で生体データをモニタリングしながら二人の「タスク」を見守っていた。
「アツシ様も素晴らしいですね、反応がとても早いです。画面のリーチ演出と人工膣のピストン周期が同期しておりますので、そのまま画面に集中してくださいね」
「うぐっ……! マジかよ、これ……っ」
隣のアツシも、ノーパンのワンピースの裾を握りしめ、顔を真っ赤にしながらシートの上で身体を小さく跳ねさせている。
タクヤの頭の中は、激しい混濁に包まれていた。
鞍状のシートに跨がり、下半身は完全に開かれ、人工膣の滑らかな締め付けと直腸をトントンと突くような電気刺激が脳髄を直接揺らしている。
そして何より——この異常で無防備な姿を、制服を着た若い女性スタッフにすぐ至近距離でじっと見つめられ、優しく声をかけられているという事実。
(見られてる……俺たち、こんな格好で、スタッフの目の前で……)
猛烈な羞恥心が波のように押し寄せてくる。だが、その羞恥心こそが、脳内で強烈な快楽物質へと反転していく。見られているという背徳感と、機械がもたらす強制的な快感、そして目の前でギラギラと輝くスロットの演出が混ざり合い、理性を削り取っていく。
「ふふ、お二人ともとても素晴らしい反応です。脈拍と血圧も綺麗に上がっていますよ」
スタッフは優しく囁きながら、液晶画面のメーターを指差した。
「ほら、見てください。お二人の評価メーターが『GREAT』まで上がっています。このまま回収完了までいけば、上限の1000クレジットは確実ですよ。……頑張ってくださいね」
応援するように、しかしどこか見世物を愛でるような眼差しで見つめられ、タクヤの背筋にゾクゾクとした熱い震えが走った。
もはや恥ずかしいのか、気持ちいいのか、勝ちたいのかすら分からない。
二人はノーパンのワンピースを固く握りしめたまま、スタッフの視線と機械の快楽、そしてギャンブルの狂気が織りなす底なしの沼へと、自ら溺れていった。