学寮
(Part1~5はこちら)
▼ 写真~新寮生の公開集団去勢
PART6
カーテンが開いて、僕たちのいるところからガラスの向こう側が丸見えになった。いや、ガラスの向こう側から、この手術室が丸見えになったと言うべきだな。
ガラスの向こう側は、300人前後の席が並んだ大きな階段教室になっていた。その上、席がほとんど満員。
中央には維持会員の長老と思われる中年から初老の紳士たち。右と左には、学生や若者が多く座っている。女性もかなり多い。中にはカップルらしい男女の姿もちらほら見える。
村松先生も、
「びっくりしましたねえ。先ほどは100人ぐらいだったのに、あっという間に200人以上になってますよ。
賛助会員は当日でも受け付けていますから、10万円現金でご用意されて駆け付けられたのでしょうか。教室使用料と研究協力金で2万円を別にいただいていますから12万円ですね。皆さんご熱心で感謝なことです。
医学部の学生は無料ですけど、申し込みは全部で45人だけでしたし、明誠学寮の在寮生も無料ですけど、いつも数人ですから。」
と、驚いている。
こうしてみると、今日1日で、寮への寄付金が1500万円以上、医学部の収入も300万円以上になるわけだ。
こういう仕組みだとは知らなかった。さすが日本の経済界をOBで牛耳ると言われる啓林大学、転んでもタダでは起きないらしい。
明誠学寮も増築の計画があるので、いろいろ寄付金対策を考えていると聞いていたから、賛助会員も集めまくったのかもしれない。
増築は、僕たち1年生の人数が多すぎたせいだから、あまり文句言えないか。
「2万円といっても、ぼったくりじゃないですよ。研究協力金のお礼として、今回の手術の記録写真集をお渡ししています。」
それはどうもちょうどこんな感じの恥ずかしい写真集になるようだ。
村松先生も、ちょっとまずいと思ったのか、あわてて付け加えた。でも、何か、かえって自爆しているような気がする。写真集に載るなんて僕たちは聞いていなかったし。
そういえば去勢が始まったころの昔の写真が残っていたけど、当時は縫目のアトモ大きくこんな感じだったそうだ。
さっきの写真研究部のメンバーは、階段教室の中に入ってきてカメラを構えている。きっと写真集のためだろう。
最初のグループの16人は、階段教室の方向にオチンチンを向けて大股開き。その上、脚を曲げて持ち上げられているので、お尻の穴まで丸見えの姿勢だ。
そのまま、突然カーテンを開けられて、最高に恥ずかしい格好で、晒し者にされている。
ここからでも、矢野君の顔が赤くなって来ているのが判った。
寝ている新入生からは、斜め45度に上げた自分の太腿が邪魔になったりして、階段教室があまり見えないみたいだけど、後ろで待っている僕の位置からは、全体が見渡せた。
こちらの手術室の16人を見て、席を移動する人もいる。モニターがあって手術を受ける寮生のプロフィールが流れているので、それを見て移動しているようだ。
おや、階段教室の中に、同じクラスの石倉君の顔がある。彼は確か石倉財閥の御曹司で、啓林小学校からの純粋啓林ボーイのはずだ。
明誠学寮とは無縁のはずだから、今日だけの俄か賛助会員なんだろうな。高級外車を乗りまわしていただけあって、12万円といってもポケットマネーなんだろう。
良く見ると、隣に彼女らしき女性がいる。手術見物でデートかよ。あまり良い趣味とは思えないな。それにしても24万円をぽーんと出せるとは、別世界の人間だよ。
啓林大学はこういうボンボンが目立つのが、どうも気に入らない。学寮やゼミやサークルで、地道に勉強するのが、バカバカしく思えてくることもある。 啓林大生の就職は、ライバルの墨田大学より良いとの世間の評価だけど、親の七光りの分は、少し割り引いて計算しないといけないなあ。
さて、先ほどから、麻酔医の先生が、前の16人をチェックしてまわっていたけど、それも終わったようだ。
村松先生が、
「麻酔も問題ないようです。それでは手術を開始します。診察台の上の方には、麻酔の準備が始まります。」
と、宣言した。
木村ナースが、僕のところに来て、腕に注射を打って、すぐに戻っていった。このあとは、矢野君の手術のお手伝いに入るらしい。
後から見ていると、矢野君を担当している外科医の先生が、矢野君のお尻のあたりで何かやっている。どうも、最後の検査をしている様子だ。
しばらくしてそれが終わると、先生がメスを取り上げるのが見えた。光線の加減で、メスの先がキラリと光った。
そのメスが矢野君の局部に当てられた。
と、そのとき、ポンポンと僕の肩が叩かれた。振り向くと、あの麻酔医の先生だ。
「腰椎麻酔を打ちますので、横を向いて寝てください。」
麻酔医の先生がそう言うので、僕は仕方なく横向きになった。
「えーと、膝を抱え込んで、背中を丸めてね。そうそう。」
僕の背中が、ひやりとしたアルコール消毒の脱脂綿で拭かれた。続いて背骨のあたりに、注射針のちくっとした痛みが来た。それから、ぼわーんとした感覚が、下半身全体に広がっていった。
しばらくしたら、
「いいですよ、普通に寝ていてください。」
と、麻酔医の先生が言った。
いつのまにか、注射針は抜かれていたけど、下半身が痺れ始めていて、自分だけでは動けない。先生に手伝ってもらって、ようやく仰向けになった。
自分で持ち上げられるのは、首だけ。僕の足の方向にいる矢野君の様子も見えないけど、外科医の先生の手の動きだけは、何とか分かる。
そのうしろには、階段教室の見学者の顔。ガラス越しに注がれる視線が何か痛い。
そうしていると、外科医の先生が、矢野君の股間部から何かを摘み上げた。よく見ると、切断された矢野君のオチンチンだ。それもペニスもフクロもそのまま付いた完全な生殖器の塊だった。
木村ナースが差し出した液体の入った瓶に、その塊がぼちゃんと入れられた。きっと、そのまま、プラスティネーション加工にまわして、樹脂固形の標本にするのだろう。
見学者たちも、一斉に注目している。石倉君が、矢野君の生殖器の方を指差して、彼女と何か囁いているのが見えた。失礼なやつだ。
外科医の先生は、矢野君の股間部の傷口の縫合を始めたようだ。
ボランティアの学生が、ストレッチャーを押してきて、手術台の横に止めた。
矢野君の身体を拘束していたベルトが外されている。そして、矢野君が手術台からストレッチャーに移されたようだ。
ボランティアの学生が、矢野君を乗せたストレッチャーを、手術室の外に運んで行った。
外科医の先生が、一仕事終わったという感じで、肩で息を抜いてから、手袋とマスクを外した。1回の手術が終わるたびに交換するのだろう。
マスクを外した顔を見て、僕はアレっと思った。どうやら女医さんらしい。いや、間違いなく女医さんだ。
そうか、僕は女医さんにオチンチンを切られるのか。
ボランティアの学生が、ストレッチャーを押して戻ってきた。今度は、僕の身体がストレッチャーに移される。自分では動けないからボランティアの学生と木村ナースの2人掛かりだ。
そのまま手術台に運ばれて、今度は手術台の上に移される。さっきの矢野君と同じように、大股開きで膝を持ち上げた恥ずかしい姿勢にされた。
ツルツルのオチンチンはもちろん丸見え。これだけ大きく股を開かれると、お尻の穴もおそらく丸見えだろう。
頭の下には高い枕があるので、寝たままでも自分の下腹部を見ることができる。
もちろん、ガラスの向こう側の教室の見学席も見える。
見学席の真正面に、あの石倉君がいる。彼も当然、クラスメイトの僕に気づいているはず。
でも、矢野君のときにはここに座っていた見学者で、右の方の席に動いていく人も多い。僕の一人置いて右隣は高田君だけど、彼は、まだ中学生に見えるぐらい小柄で、なおかつ、かなりの美少年。
どうやら見学者は、そっちにがお目当てらしい。それとも僕の粗チンを見て、逃げていったのか。
野次馬はいやだけど、ギャラリーが少ないのも何か寂しい。みんな「P」なのに僕は「P-pe」だぞ、と思っても始まらない。複雑な心境だ。
麻酔医の先生がやってきて、あちこちチェックされる。
下半身麻酔は十分に効いているようで、
「いいですね。」
と言って、隣りに移っていった。
村松先生がマイクを取った。このマイクは教室にも聞こえるようだ。
「2回目はご覧のように、手術台が一つ余っています。
維持会員で明誠学寮の昔のOBの方、あるいは賛助会員の方で、この機会に自分も今の寮生と同じ手術を受けたいというご希望の方がいらっしゃいましたら、お申し出下さい。
PでもEでもP-peでもいいですよ。先着1名限りです。寮生と同じように手術代は無料です。いかがですか。」
村松先生がアピールすると、一呼吸置いてから教室の隅で手が挙がった。手を挙げたのは、25歳ぐらいの青年。啓林大生かどうかは判らない。
ほかの見学者も、
「誰だろう。」
と、お互いに囁き合っている感じが伝わってくる。
「希望者がおみえですね。そこの扉をあけて手術室の方に来ていただけますか。」
僕の左手にある、教室と手術室の間の扉を開けて、その青年がこっちの手術室に入ってきた。
ボランティア学生に、入口で何か言われた青年は、そこで服を全部脱いで素っ裸になった。
僕たちと違って剃毛していないから、前の部分にふさふさした黒い毛が見える。そのまま、僕の右奥の空いていた手術台に案内されていったけど、これからあの毛を剃り落として、麻酔を掛けてとなると、彼の手術が始まるまでは、ずいぶん時間がかかりそうだ。
ところで彼、年齢から見ると賛助会員だろうけど、いったいどういう人なのだろう。
「それでは、2回目の手術を開始します。」
村松先生が合図した。
外科医の先生が近づいてくる。マスクをもう一度はめているけど、間違いなく女医先生だ。
あれ、右隣も左隣も女医先生みたいだぞ。ひょっとしたら、外科は10人全員女医先生?!。
村松先生は、外科医の先生は、全員ボランティアで無償奉仕と言っていたけど、若い男性のオチンチンを切る手術なんて滅多に無いだろうから、女医先生ならタダでもやりたいのかも。
僕の勝手な想像だけどね。今思うと、案外当っていたような気がする。
「あなたも『-pe』なのね。じゃあ、まず前立腺のチェックをしないといけないわね。」
女医先生はそう言うと、手袋をはめた指を僕のお尻の穴に入れてきた。下半身麻酔がよく効いていて、僕は何も感じなかったけど。
「問題なさそうね。でも一応念の為。」
女医先生は、長さ15センチ、直径2センチぐらいの、先が丸くなった黒い棒を持ってきた。反対側には電気のコードが出ている。
その棒を、女医先生が僕のお尻の穴に突っ込んできた。棒の根元にあるスイッチが押されると、萎びていた僕の無感覚のオチンチンが、突然ムクムクと勝手に膨張を始めた。
と、思ったらすぐにオチンチンの先端から、白い液体がドビュ、ドビュっと、びっくりするぐらいの量が出てきた。でも、僕は快感どころか何の感覚も無い。ただ、恥ずかしいだけだ。
その僕の恥ずかしい液を、木村ナースが、入口が漏斗状になった試験管で受け止めた。
「精液強制採取が終わったわ。今まで、『E』の人はこうして精液を採取して大学で冷凍保存していたんだけど、今年から『-pe』の人も保存することになったの。前立腺を取っちゃうと、もう夢精以外射精できないから、子供を作ろうと思ったら、人工授精になるのよ。」
女医さんが説明してくれた。すると、さっきの矢野君も、この精液強制採取をやられていたんだ。けど、何も見学者がたくさんいる前で採取しなくてもいいのにと、恨めしくなった。
それにしても、村松先生は、冷凍保存のことなんか言っていなかったな。もし聞いていたら、躊躇無く希望したかもしれないのに。
そう思ったら、女医先生がすぐに、
「でも、冷凍精液はうまくいかないこともあるから、そのつもりでね。」
と、付け加えた。
そういうことか。責任は持てないんだな。
「でも、これだけたくさん発射できるなんて、あなたは精力が有り余っているわよ。Pだけだときっと簡単に前立腺オナニーができちゃう。今回P-peを選んで大正解。どんなことをしても何にも感じない素敵な身体にしてあげるから、任せといて。」
ずいぶんお話好きの先生のようだ。
気がつくと、右の手術台も左の手術台も、もう手術が始まっている。左隣の古瀬君のペニスなんか、もう切り離されたらしく、女医さんが高々と持ち上げている。
「それじゃ、あなたの陰茎切断手術も始めますね。」
女医先生は、そう言いながら、僕のオチンチン全体を脱脂綿で丁寧に拭いてくれた。
それから、メスを手に取って、僕の顔の前に持ってきて、
「男性生活にさようならで、いい?」
と、聞いた。
ここまで来て、この女医先生にそう言われると、いまさら嫌とは言えない。
木村ナースが、僕のペニスの先から、細いゴム管を入れていく。
それを見ながら、僕がこっくりうなずくと、女医先生は、にっこり笑ってメスを持ち直した。
そして、そのメスが僕の無感覚のペニスの根元に当てられて、そのままおなかの皮膚の中に、ザクッと差し込まれた。
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PART7
いよいよ、僕の手術が始まった。
メスの先は、僕のペニスのちょうど付け根に食い込んでいる。ペニスを切断するんじゃなくて、おなかの皮膚を切っていく感じだ。
女医先生は、メスをまるでバターを切るみたいに、僕のペニスの周囲に沿って動かしていく。
メスが通った跡に、赤い血が滲み出てくる。でも、痛みは全く無い。不思議な気分だ。
メスが円を描いて一周すると、女医先生は、その輪にL字に曲がった金属板を当てて、傷口をぐっと拡げた。すぐに二つ目、三つ目の金属板が当てがわれて、僕のペニスは、おなかの皮膚から離されて、浮き上がった状態になった。
女医先生は、今度はその傷口をメスで切り開きながら、ペニスの根元を目指しているようだ。ペニスの根っこを、骨盤とひっついているあたりから引き剥がしてしまうと聞いていたから、それだろう。
ペニスを見えている根元から普通に切断するだけだと、おなかの中に残った部分が勃起して、飛び出てくるからだと、先輩が言っていた。
ただ、僕の場合は、前立腺も取るから、隣りの古瀬君より大掛かりな手術になるはずだ。開いた傷口の中は見えないけど、女医先生のメスが動くたびに、宙ぶらりんの僕のペニスが不安定に揺れている。
鉗子も何本か使われているのが見える。血管を止血しているのだろう。
女医先生が、何かピンセットで摘み上げて、横のステンレスの皿の上に置いた。あれがひょっとしたら、僕の前立腺かもしれない。
しばらくして、女医先生が僕のペニスを上に引き始めた。すると、ゴム管に串刺しにされたようなペニスが、そのままズルズルと引っ張り上げられてきた。
僕のペニスはどうやら根元から完全に切り離されたらしい。
女医先生は、ゴム管から抜かれた僕のペニスを高く掲げた。
ガラスの向こうの教室には、拍手している見学者もいる。真正面の石倉君も、手を拍いて何か言っている。
あの、写真研究部の加藤由美も、望遠レンズの付いたカメラを、こっちに向けている。
女医先生は、見学者が見たのを確認してから、僕のペニスを下ろして、ガラス瓶に入れた。瓶の中には、ホルマリンらしい液体が入っている。
女医先生は、今度は僕のお尻の穴のすぐ前に、メスを当てた。相変わらず痛みは全く無い。よく見えないけど、僕の陰嚢と肛門の中間あたりを、切開している様子だ。
そのうちに、さっきペニスを抜いたゴム管が、おなかの中に差し込まれて、その先端が、今切り開いた穴から出てきた。
そこが、僕の新しいおしっこの穴になるのだろう。
女医先生は、糸と針を持って、その新しいおしっこの出口の周りを縫い合わせている。
それが終わると、僕のペニスを取り外した傷口の左右に、2本のプラスチックのチューブを入れた。
それから、丸い傷口の上下の皮膚を合わせてひっつけた。ペニスが無くなった分、陰嚢の余っている皮膚が、多少持ち上げられている。
女医さんが、傷口の皮膚の縫合を始めた。左右の端に、プラスチックのチューブがおなかから出ている。
「さあ、終わったわよ。」
メスを動かし始めてから、ずっと無口だった女医さんが、声を掛けてくれた。
「綺麗に仕上がったわよ。鏡で見てみる?。」
木村ナースが、手鏡をかざしてくれた。
僕の股間部は、ペニスが綺麗に無くなっていて、陰嚢だけがそのまま。陰嚢の上のペニスがあった部分は、傷痕の縫い目が、ちょうどTの字の形にできていた。
そして、陰嚢の下には、僕の新しいおしっこの出口が作られていた。そこから、あのゴムチューブが出ている。
それが、僕には、無くなったペニスの代用品みたいに見えて、ちょっと物悲しくなった。
「左右のチューブは、腹腔内に残った血を抜くためね。明日には抜き取るわ。尿道口もこの位置なら、しゃがんでも座っても、おしっこは真下に出るから不自由ないわよ。」
木村ナースが鏡をしまってから、スプレーを取り出して、傷口一帯に吹きつけた。
女医さんが、
「透明な薄い膜ができて、ガーゼと判創膏の役割をするの。だから包帯も不要よ。」
と、説明してくれた。
ボランティアの学生が、ストレッチャーを手術台のすぐ横に持ってきた。3人がかりで僕の身体を持ち上げると、ストレッチャーに移した。
左右の手術台を見ると、もうすべて終わったみたいで、カラッポだ。ただ、遥か右奥の手術台だけが、まだ手術の真っ最中のようだ。
手術台の上にいるのは、あの飛び入りの青年だろう。
手術室の出口も右奥にあるようで、僕が乗ったストレッチャーが、ボランティアの学生に押されて、右方向に動き始めた。
ガラスの向こうの見学者も、その青年のあたりにみんな移動して行って、そこだけ超満員だ。例の、僕のクラスメイトの石倉君とその彼女も、僕の手術が終わったので、ゆっくりとそっちへ歩いている。
その目の前を、ストレッチャーに乗せられた僕が、ちょうど同じ速さで動いていくことになった。
僕は素っ裸のままで、股間部はガーゼも包帯もなく、手術後の傷が剥き出し状態。石倉君は、すぐに気が付いて、僕のその一番恥ずかしい部分をじっと見つめている。
ガラス越しに、僕の目と石倉君の目が合った。
彼は、ちょっと気まずそうな顔をしたが、すぐに笑い顔になって、やあ、という感じで軽く手を上げた。僕は、仕方なく笑い返した。そうするしかないだろう。
ストレッチャーが手術室を出ると、短い廊下があって、次の扉を入るとそこは病室だった。中にはベッドが一列に20台並んでいた。
この部屋、見かけは病院の中そっくりで、天井が高いかな、ベッドがちょっと多いかな、というぐらいだけど、さっきの手術室みたいに、ベッドの足の側がガラス窓になっている。
そして、その向こうがやはり教室みたいになっていて、さっきの手術室に付いていた教室よりは小さいけど、100人ぐらいは入りそうだ。
ストレッチャーは奥の方へ向かって動いていく。ほとんどのベッドには、先に手術が終わった新寮生が寝かされていた。
みんな素っ裸で、仰向けになっている。しかも傷口の保護のためか、大股開きだ。下半身麻酔のためかと思ったけど、よく見ると足首がベルトで固定されて、股が閉じないようにされている。
僕のストレッチャーは、ベッドの足元の方の通路を移動していく。ストレッチャーの高さと、ベッドの高さは、ほぼ同じだ。
だから、僕が首を左に向けると、新寮生たちの股間がまともに目に飛び込んで来る。
みんな、ペニスが無くなって陰嚢だけの股間部だ。その陰嚢の下からゴム管が突き出ている。ゴム管の先は、オシッコを貯める透明な袋がぶら下がっていて、ベッドの下に置かれている。
そのベッドの下に、ガラス瓶がある。瓶には液体が入っていて、新寮生の切断されたペニスが、その中に1本づつ浮かんでいる。このペニスは、プラスティネーションという方法で樹脂で固めてしまうはずだから、おそらくその前段階として、保存液で、組織の固定処理しているのだろう。
ところでその瓶の置かれている場所、ベッドの上からは見えない位置だけど、窓の外からは丸見えだ。
僕が、ストレッチャーの上から、17人の下腹部をぼんやりと眺めていたら、18番目に突然、陰嚢も何も無いノッペラボーな股間部が目に入ってきた。
ツルツルの股間の縫い目は、他の新寮生のような横一本ではなく、Tに近いYの字で、その大きな縫合痕の左右の端に、血を抜く管が付けられている。突起物は全く無くて、傷痕の下に、ゴム管が出ている穴があるだけだ。
それが矢野君の股間だった。
ベッドの下の瓶の中の矢野君のペニスは、僕たちと違って、陰嚢がくっついたまま切断されていた。きっとそれで、矢野君の傷口が大きく開いていたので、縫い目も大きくなったのだろう。
僕のベッドは、その矢野君の右隣で、奥から2番目だった。僕の右側の、つまり一番奥のベッドが空いているけど、おそらくあの飛び入り青年用だろう。
手術室にまだ残っているのは、彼だけだから。
僕もベッドの上に移されて、仰向けの大股開きの姿にさせられた。足元の方向のガラスの向こうが、例の見学用教室なので、またしても僕たちの股間は、見学者から丸見え状態だ。
ただし、ガラスの向こう側には今のところ誰もいない。
しばらくすると、あの青年も運ばれてきて、空いていたベッドに仰向けになった。
一瞬、彼の股間を見ると、あれ、陰嚢も無くなっているみたい。彼のおなかの文字を見たら「E」となっていたようだし。
村松先生が入ってきて、マイクを取った。
「皆さん、手術、お疲れさまでした。これからこの病室で静養していただきます。17人の方は明日まで、一番右奥の3人の方は、明後日までですね。」
やっぱり、右隣の青年は、完全去勢だったんだ。
「この病室は、先ほどの手術室と同じく、医学部の実習教室です。普段はここで、看護や介護の実習を行います。そのためここでは、患者さんの様子がよく分かるように、布団や寝巻きを使用しません。傷口の治り具合なども、教室からよく分かるように、透明な判創膏を使用しています。」
そういうわけだったのか、病室に入っても、まだ晒し者なんだ。
「このあと、明誠学寮の維持会員や賛助会員の方々が、ガラスの向こう側の教室に入ってきて、新寮生の皆さんと対面されます。手術室だと、目の前の手術台の様子しか分かりませんから、今年の新寮生全員と顔を合わすは、こちらの病室付属の教室となるわけです。
でも、手術と違って、一通り拝見したら、すぐにお帰りになると思います。それから、こちらも別に教室使用料が5千円かかりますから、おみえにならない会員さんも多いです。」
また、医学部の儲け話が隠れているみたいだ。新寮生は最後まで客寄せパンダかあ。
「じゃあ、維持会員、賛助会員の方々と、新寮生の皆さんの対面式です。」
村松先生がそう言うと、ガラスの向こうの教室に、ゾロゾロと見学者が入ってきた。
さっきの手術室付属の教室よりは少ないけど、150人ぐらいはいるなあ。新寮生一人一人のベッドの前で立ち止まって、しげしげと眺めていく人が多い。
中でも、完全去勢をした矢野君と、あの飛び入り青年の前で、立ち止まる人が多いようだ。
石倉君は、彼女とどこかに行ってしまったらしく、入ってこなかった。彼は、クラスメイトの僕の手術を見ることだけが、目当てだったのかもしれない。
「皆さんの手術後の記録写真を撮影します。写真撮影は、今回と、抜糸後にもう1回ありますので、ご協力をお願いします。」
村松先生がそう言うと、僕のクラスメイトの、あの加藤由美が病室の中に入ってきて、病室の奥から撮影を始めた。
一番奥の飛び入りの青年の次が、僕の番だった。 彼女、手術室ではガラス越しにカメラを構えていたが、今度は目の前だ。
加藤由美は、僕の目の前に来ると、
「はーい、片岡くん。気分はどお。」
と、言った。
彼女、手術前の全員写真撮影では、全然知らない振りをしていたのに。あのときはファインダーから局部だけを見ていたので、気づかなかったのか。
僕は、仕方なく、
「上々だよ。」
と、答えた。元気がない声だったのは言うまでもない。
「本当にオチンチン無くなっているね。片岡くん、やるぅ。」
「大したことことないよ。隣の2人なんか、僕よりすごいし。」
「あら、そうね、お隣はフクロも無くなっていたわね。そうだ、片岡クンもそうすれば良かったのに。なんか、ちょっとつまんないな。」
加藤由美は、勝手なことを言いながら、僕の股間のクローズアップ写真をしっかり何枚も撮って、矢野君の方に移っていった。
村松先生が、写真撮影が済んだ新寮生から順番に、術後の傷痕の様子やゴム管の調子を診て回っている。
ゴム管の先の透明ビニール袋には、黄色いオシッコが貯まり始めている。ゴム管の先が膀胱の中まで入っているので、オシッコも無感覚で出て来るんだ。
透明なオシッコ袋があるのは、窓の向こう側からよく見える位置だ。わざわざそんな場所に置かなくてもと思うけどね。まあ、それを言い出せば、例の、ホルマリン漬のペニスが入った瓶なんか、なおのことだけど。
村松先生は、回診が終わると、
「それでは、明日の朝、また私が回診します。それまで皆さんに、化膿止めの点滴を打ちます。病室にはナースが3人残りますので、何か不都合があったら言ってください。」
と、言い残して、病室から去って行った。
残った3人のナースの中に、あの木村ナースの姿もあった。その木村ナースが、僕の左腕に点滴をセットしてくれた。
それからしばらくして、見学の受付も終わったのだろう。教室から見学者の姿が消え、ガラス窓にカーテンが引かれた。
教室からガラス越しに見やすいように、煌煌と輝いていた天井の照明も落とされて、ようやく普通の病室のような感じになった。
でも、入院患者である僕たちは、全員素っ裸で、足首も拘束されたまま。その上、ベッドには、毛布も掛け布団も無し。やっぱり普通の病院とは違う。
空調は完備されていて、寒いとかそういうことは、全然無いんだけどね。
僕の下半身は、まだ無感覚のままだけど、ようやく話をする余裕もできたので、僕は、隣のベッドの矢野君に話しかけた。
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PART8
「矢野、気分はどお。」
左隣のベッドに寝ている矢野君が、仰向けのまま、顔だけ僕の方に向けて返事をした。
「上々だよ。」
あれ、このやりとり、良く考えたら、さっき僕が、加藤由香と話していたのと全く同じだ。
矢野君が続けた。
「まだ、麻酔が効いているみたい。下半身が他人だよ。ススムはどお。」
「僕も同じだ。全然何にも感じない。」
「手術前もこんな感じだったのに。あの精液強制採取のとき、どうしてあんなにたくさんの白い液が勝手に出たんだろう。」
「そのとき、特別な棒をお尻に突っ込まれただろ。きっとあれが、どこかを刺激するようになっていたんだよ。それにしても恥ずかしかったなあ。みんな見ていたし。」
2人ともそのときを思い出して、ちょっと気まずい沈黙となった。
でも、矢野君が、また話を始めた。
「見学者の中に知ってる人、いた?。」
「いたいた。同じクラスの石倉。」
「石倉って、石倉重工業の会長の孫でしょ。外車を何台も持っているとか、うわさで聞いたことあるよ。」
クラスが違う矢野君も、彼のことは知っているんだ。
「そう、そいつ。彼女と見に来ていた。」
「彼女は、横浜のハリス女学館生とか聞いたけど。」
「ふーん、あのお嬢さん学校のねえ。それにしては、あまり良い趣味していないなあ。」
「ところで石倉って、明誠学寮に無関係じゃない?。賛助会員になってたの?。」
「御曹司だから、その場で12万円を2人分払って入会したんだろ。」
こうやって話題にすると、やっぱり腹が立つな。
僕は、話を変えた。
「それから、写真撮っていた女が、やっぱり僕と同じクラスで、写真研究部の加藤由美だよ。」
「そうなの、結構かわいい子だったよね。」
「彼女は、啓林大日野高校からのエスカレーター組で、陽気な性格だけど、ちょっと軽薄でおじゃべりなのが玉に傷かな。趣味は写真と旅行だって。」
「へえ、詳しいね。ススム、彼女にちょっと関心あるんだ。」
「関心あったら、今日の手術受けるわけないよ。」
「ははは、そりゃそうだね。ごめんごめん。」
周りの新寮生たちも、ちょっと落ち着いたのか、いろいろおしゃべりを始めた。
そうするうちに、3人のナースが点滴の交換にまわってきた。
全員の交換が終わったところで、あの木村ナースが、
「消灯します。明日の朝までおやすみなさい。麻酔が切れて痛みがあるようだったら、申し出てください。」
と、言って、照明を暗くした。
僕たち全員も、眠ることにした。
麻酔が切れたのか、真夜中に唸り声を上げていた新寮生もいたけど、僕はいつのまにか眠ってしまった。
6月26日の朝になった。
目が覚めると、下半身の感覚が戻ってきていた。足首にベルトが嵌められているから、大股開きの姿勢は変わらないけど、それ以外の身体は自由に動かすことができる。
心配していた痛みは、今のところ無い。
今日は、僕と矢野君と、あの飛び入り青年以外の17人が、退院する日だ。
朝一番で、点滴のバックの交換。その後、村松先生の内診があった。そこで、17人には、今日の午後の退院の許可が出た。
診察の結果、僕たち3人も、夕方には血を抜くチューブを外してもらえることになった。
日中は、窓のカーテンが開けられていたけど、ガラスの向こうの教室に入ってきた見学者は5人だけ。
そりゃ、たった1日後の様子を、もう一度わざわざ見に来る会員は、そんなにいないよね。
村松先生の今日2回目の内診のあと、17人の股間部の傷が、念入りに消毒された。それから、傷痕に今度は、スプレーの替わりにガーゼが当てられ、包帯が巻かれた。
それが終わると、17人は、ベッドから起き上がって、寮を出発する前に委員長からもらった越中フンドシを締めた。
「じゃあ、お先に。」
「寮で待ってるよ。」
17人は、僕たち3人にそう言い残して、病室から出ていった。
ベッドの下に飾ってあった瓶を、木村ナースが集めている。これから、プラスティネーション加工にまわすのだろう。
僕たち3人の瓶も、一緒に集められた。何か、別れがつらい気分。
村松先生が、僕たちの血を抜くチューブを外してくれた。消毒のあとは、木村ナースが、またあの、スプレーで作る透明膜の判創膏で、傷口を覆ってくれた。
村松先生がいなくなると、広い病室に、僕たち3人と、木村ナースだけが残された。
カーテンが閉められても、何かガランとして落ち着かない感じだ。
その、木村ナースも、僕たちの点滴を交換してから、
「何か用があったら、ボタンを押してください。」
と、言って、出て行ってしまった。
そういえば、昨日から、右隣の、あの飛び入り青年と話をしていない。
僕は、思い切って、彼の方を向いて声を掛けた。
「啓林大の方ですか?。あっ、僕は片岡と言います。啓林大学政治経済学部の1年生です。僕の隣りは、同室の矢野君です。」
隣のベッドの青年が答えてくれた。
「私は、田川幸男といいます。ユキオは幸せな男と書きます。あっ、もう私は、男じゃなかったですね。
実は私は、啓林大学政治経済学部の卒業生なんですよ。それで、1年生のときに、一度は明誠学寮に入寮したんです。でも、決心がつかなくて、仮入寮の3ヶ月で止めちゃったんです。でも、その後、そのことをずーっと心残りに思っていて、5年前に卒業してから、維持会員になってたんです。」
そうだったのか。寮の先輩でもあったんだ。
「卒業されてからは、何かお仕事をされているのですか。」
今度は、矢野君が聞いた。
田川先輩が、答えた。
「希望した銀行はダメで、小さな商社に何とか就職しまして。実力もアピールポイントも不足していたんですね。明誠学寮を続ければ良かったと、後悔しました。
それで、公務員試験を受けまして、1年後に、埼玉県のある市に何とか採用されました。でも、地方公務員はねえ、墨田大学や鳳桜大学の学閥があったりして、難しいところです。」
矢野君が、更に聞いた。
「公務員になられたのに、昨日、どうして手術を受ける気になられたのですか。」
「市役所に入ってみたら、同僚に鳳桜大学の秀黎会、ご存知ですよね、司法試験の勉強のために完全去勢しちゃうという学寮、そこの出身者がいたんです。彼は、秀黎会に入りながら、司法試験より公務員を目指した変り種なんですけど、彼がすごーく優秀でしてね。
それで、自分も原点に帰らなくちゃダメだと思ったわけなんです。
維持会員になってから、この手術は毎年見学に来ていましたが、おととしから、自分もいつかと思ってました。
去年は勇気が足りませんでしたが、今年は、すーと手を上げることができました。本当に良かったです。」
鳳桜大学の秀黎会のことは、入寮の説明会で、委員長がちょっと触れていた、全寮制の司法試験の勉強会だ。
田川先輩は、それで「E」を希望したのか。秀黎会の影響とは思わなかった。
次は、僕が聞いてみた。
「入寮して3ヶ月目のとき、決心がつかなかったのは、どうしてですか。」
「今から10年近く前だからでしょうけど、貞操帯もあまり良くなくて。
3ヶ月嵌めていたんですけど、小便した後にしっかりオシッコを切ってつもりでも、水滴が後からツーと垂れてきてズボンを汚すし、ペニスチューブの中も、汚れがこびり付いてきて臭うし、最後には皮膚がかぶれて、痒くてたまらなくなってしまったんです。
それで、だんだん気持ちが萎えて、手術までイヤになってしまって。」
「そうですか。僕は全然平気でしたけど。でも僕は、旧式の貞操帯だったから、新型の貞操帯だった人より、密閉度が高くて洗い難くて、確かに不潔になり易かったですけど。
でも、寮は、風呂を朝も沸かしてくれましたし、シャワーはいつでも使えましたから、僕は1日2回入浴していましたので、不潔ということはなかったと思います。
それからパンツは、前の部分の裏側に、特殊な吸収パッドを入れた、寮からの支給品のブリーフを、みんな大抵使っていました。」
「今はそうなっていますか。私たちのころは、朝風呂どころか、夕方の風呂も毎日じゃなかったです。
貞操帯をしていると、銭湯にも行けれませんし、シャワーも水しかなかったので、十分には洗えませんでした。それで、1年生が近づくと、離れていてもプーンと臭うって言われていましたね。」
昔は大変だったんだ。
今でも、新寮生が貞操帯を使わなくなると、朝風呂は無くなるし、風呂を沸かさない日も出来て、その日にどうしても身体を洗いたいと、近くの銭湯に行く先輩もいるって聞いたけど、少なくとも、僕たちが貞操帯を嵌めている間の対策は、一応万全だったなあ。
田川先輩が、話を続けた。
「パッド付きの下着なんかも無かったです。みんな普通のパンツでした。小便の後であまり漏れるので、オムツをしている1年生もいましたけど、大抵の1年生は、パンツを汚してもそのままでした。
それにしてもあの貞操帯、思い出しますね。ゴツイ作りで、校章の下に23番の刻印がありましてね。」
僕は、それを聞いてびっくりした。
「えー、23番といえば、僕がおとといまで嵌めていた貞操帯ですよ。確か、同じ番号は2つないはずですから、それじゃ、田川先輩が、僕の貞操帯を、昔使ってみえたのですか。」
田川先輩も、驚いたようだ。
「へえ、それは奇遇ですね。じゃあ、私と片岡さんは兄弟みたいなものですね。そういえば、体格も似ていますね。同じ貞操帯が入ったんだから、当然かもしれませんけど。」
確かに、僕と田川先輩は、身長や体重が似ている。貞操帯で肝心なウエストや股上の寸法が同じだったんだろう。そして、きっとペニスの長さや太さも。
そうなると、田川先輩はきっと、僕と同じように、包茎で短小な感じだったんだろうな。
あの、手術室では、毛が邪魔してよく分からなかったけど、毛に隠れちゃうということは、大きさも知れているしね。
今となっては、較べてみようと思って先輩の股間部を覗いても、矢野君と同じようなYの字の縫い目が見えるだけだから、確認するわけにはいかないけれど。
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PART9
翌27日、僕と矢野君も寮に戻った。田川先輩とは、医学部の校門で別れた。
田川先輩は、市役所の方には1週間の休暇を出しているそうで、抜糸が終わったら出勤すると言っていた。
田川先輩は、
「来月は、職場の親睦会の温泉旅行があります。そこで、オチンチンを全部取った場所を、さっそく同僚に見せ付けて自慢できます。」
と、喜んでいた。
ここで、僕たち新入生の手術後の股間部をちょっとご紹介しよう。
パンツを穿いているとわかんないんだけど、
素っ裸だと一目瞭然だ。
陰嚢だけそのままで陰茎がない姿は、慣れないと少々違和感があるのは仕方がない。
手術後に陰毛が生えてくると、股間の一部は隠れるけど、
無毛にするとご覧のとおりだ。
おっしっこは陰嚢の下の尿道口から出すことになります。
僕と矢野君が寮に戻ると、1年生の部屋が2人部屋になるはずであったが、想像以上に入寮脱落者が少なかったので、今までの集会用の部屋をいくつか改造して2段ベッドを入れて対応することになったそうで、2人部屋の構造のままだった。
ただ、臨時の2段ベッドの部屋は、1室に8人しか入れないので、しばらくは3人部屋として使うそうだ。部屋割りは、香川君が105号室に残って、僕と矢野君と古瀬君の3人で202号室を使うことになった。
どっちが同じベッドで寝るのか決めがたいので、日替わりにすることにした。
最初は綺麗な部屋も、寮生がしばらく使うとご覧の通りのありさま。この部屋を4人で使用していたとは、ちょっと信じられない。
解決策として、臨時の部屋のベッドを3段ベッドにする案もあったけど、結局、今までの幅120センチのベッド2つに代えて、幅80センチのベッドを3つ並べることになったそうだ。
ベッドの横の寸法の合計は変わらないけど、間の通路の幅が半分になって、どうも使い勝手が悪い。
そこで、真ん中のベッドをどちらかに寄せることにして、相談の結果、部屋の真ん中にあった僕のを、右側の矢野君のベッドに付けることにした。
また、同衾状態に戻ったみたいだけど、一応ベッドは別だし、布団も別々だ。
僕と矢野君は、2日間そのベッドでゆっくり休んだ。
その間、2年生の先輩が来て、看護婦代わりに、傷口のガーゼ交換や消毒をしてくれた。
先輩たちの間では、矢野君のガーゼ交換の担当の希望者が多くて、競争だったそうだ。やっぱり珍しいのかなあ。
29日には、包帯もしなくて良くなった。越中フンドシが、包帯替わりに股間のガーゼを覆っている感じだ。
30日からは、大学に行っても良いことになっていたけど、傷は治ってきていても、尿道に刺したゴム管から、オシッコが勝手に出てくる状態なので、僕も矢野君もその気になれなかった。
7月1日になると、仮入寮だけで終わった5人の1年生が引っ越していった。彼らも、いつか、あの田川先輩のように、思い直す日が来るのだろうか。
2日は、傷口の抜糸の日だ。寮の館内放送が流れたので、僕と矢野君は食堂に下りていった。
僕たちが、わざわざ医学部まで出かけなくてもいいように、あの、村松先生が、寮まで来てくれている。木村ナースもいっしょだ。
そして、もう一人、あの加藤由香も。
食堂には、簡易ベッドが用意されていた。僕たちは、下半身裸になって、その後ろに並んだ。
全員、越中フンドシも外したので、みんなの前陰部を見ると、剥き出しの陰嚢の上と下に、判創膏で止めたガーゼが見える。
下のガーゼからは、あのオレンジ色のゴム管が出ている。
そんな中で、矢野君の股間部だけが、1枚の大きなガーゼで覆われているのが印象的だ。
僕の順番が来たので、ベッドの上に乗って、両手を頭の下に置いて、仰向けになった。そのまま、両膝を曲げて両脚を開くと、村松先生の位置から、2つのガーゼが良く見える格好になった。
木村ナースが、僕のガーゼを剥がすと、そこに傷口の縫い目が見えた。お団子のように残された陰嚢の上の縫合痕は横一文字、下の縫合痕は、ゴム管の周囲に円を描いている。
もう、しっかりくっついて大丈夫そうだ。
加藤由香が、カメラのシャッターを切った。ストロボが光る。
村松先生も、
「問題ないですね。」
と、言って、ゴム管を引き抜いてから、傷を縫った糸をハサミで切り取った。
「これで、僕の手術は全部完了だ。さあ、自由だ。」
そう思って動こうとすると、加藤由香が、
「あっ、そのまま、そのまま。」
と、言って、カメラを構え直して、何回もストロボを光らせた。
他の新寮生より、明らかに回数が多い。
僕が、
「おいおい、写真が多くないか。石倉にでもあげるのかい。」
と、聞いたら、加藤由香は、
「あら、知らなかったの。石倉クン、26日の夜に彼女を車で送っていて、ハンドル切り損なって崖から落ちて、大変なのよ。全身複雑骨折で、最低半年は入院だって。横の彼女は軽傷だったけど。」
と、教えてくれた。
「外車だから一命を取りとめたけど、国産車だったら終わりだったろうって、みんなうわさしていたわよ。彼、今年いっぱい休学だから、もう留年確実だって。」
石倉と同じ付属高校からの進学組だけあって、加藤由香の見方は手厳しい。
それにしても、啓林大学は、単位認定が1年毎の審査だからきつい。こういうとき、4年間で必要単位を取ればOKの墨田大学が、うらやましいと思うだろうな。
「片岡クン、明日は大学来るでしょ、クラスのみんなも待っているから、よろしくね。」
加藤由香はそう言うと、今度は、僕の後ろの矢野君を、撮影する準備を始めた。
矢野君の大きなガーゼが外されると、そこにY字型の縫合痕が見えた。僕たち18人には付いていた陰嚢は、当然だけど全く見当たらない。
他の新寮生も、みんな注目している。
加藤由香も、僕のときよりたくさんシャッターを切っている。こうしてみると、さっき多かったのも、別に僕に好意を持っていたからではなさそうだ。
考えたら当たり前だけど、何かつまらない。
全員の抜糸が終ったら、村松先生が、
「念のため、全員トイレでオシッコをして戻って来てください。」
と、言った。
僕たち19人は、下半身素っ裸のまま、トイレまで歩いて行った。
明誠学寮のトイレは、洋式でも和式でも、便器には仕切りも扉もない。一番近いトイレは、入口近くに洋式便器が、奥には和式便器が、中央の通路をはさんで向かい合わせに設置されている。だから、用便中は通路をはさんでお互いにらめっこになる。
そんなトイレに19人が一度に押しかけたので、もう大変だ。洋式と和式を選ぶ余裕なんかなかった。
僕は、貞操帯を着けていたときは、大きく脚を開くしゃがみ便器の方が、股間を拭きやすかったので、専ら和式を使っていたけど、今日は空いたところを使うしかない。
ちょうど空いた、入口から2つ目の洋式便器に腰掛けてみたら、左右に仕切りがなくてアッパッパー、新寮生仲間が便器に腰掛けている姿が、両隣にも前にも見えるというのが、何とも変な気分。
でも、オシッコは身体の真下に出てきたので、すこぶる快適だ。ペニスがあったときは、洋式便器でしゃがみ小便をするときは、ペニスを下に向けないと、パンツに掛かったりしたけど、もうその心配はない。これからは、オシッコは洋式を使おうかな。
ただし、オシッコのときでもトイレットペーパーがいるのは仕方がない。陰嚢の裏からお尻の穴にかけて、どうしても濡れちゃうから。
全員が食堂に戻ってきたら、加藤由香が、
「部屋別の記念写真を撮ります。そのままで待っていてください。」
と、言い出した。
えっ、そのまま!。まだ全員、下半身スッポンポンなのに。
どうやら、上半身は服を着たまま、下半身は一糸纏わぬ姿で、3人づつ組になって、写真におさまるのが慣例らしい。
僕と矢野君と古瀬君の撮影が終わって、他の部屋のメンバーの撮影を見ていると、ポツンと残っている陰嚢も、丸い団子みたいだったり、だらりと垂れ下がっていたり、色が黒かったり、白かったり。
同じ手術を受けたといっても、下半身の表情は少しずつ違っていて、なかなか面白い。どちらにしても、ペニスが無くてフクロだけ残っているというのは、何か間が抜けた格好だけども。
でも先輩たちは、2人部屋にいるときもお互い全裸で平気なようだ。
隠すところがないというのは強みでもある。
翌日から、夏休み前の最後の学生生活が始まった。
語学クラスに出ると、加藤由香がいろいろ話し掛けてきた。どうやら手術の感想を聞きたいらしい。クラスメイトの男でさえ、遠慮してあまり話題にしないのに、いやはや大した娘だよ。
事故で入院中の、石倉君のその後のうわさも聞いた。どうやら、同乗していた女性は、あのハリス女学館の恋人じゃなかったらしい。
深窓の令嬢で、両方の親も公認の恋人だったハリス女学館の彼女は、怒って見舞いにも来ないし、石倉君自身も、自分の親から半ば勘当扱いで、もう大変だそうだ。
1年生が貞操帯を着けなくなったので、寮の風呂が休みになる日が、1週間に一日できた。梅雨時で、暑くてうっとうしいさなかでもあるので、休みの日に、どうしても入浴したいこともある。
そんなとき、近所の銭湯の「光湯」に、矢野君といっしょに出かけた。木造で、ずいぶんレトロな銭湯だ。
男湯の中では、矢野君が注目の的だった。僕みたいに、ペニスだけ切った寮生は、光湯に来るお客は、もう見慣れているらしい。
でも、毛も無い、ペニスも無いというのは、やっぱりちょっと恥ずかしく、タオルでソコを隠しっ放しにしてしまった。後から入ってきた3年生の先輩たちは、平気で露出させていたけど、先輩たちは毛があるだけでも、ずいぶん違うからね。
ただし、完全に隠し通すのは難しかった。
というのも、光湯の洗い場は、蛇口がある高さ50センチの低いタイルの壁を挟んで、2人が向かい合うようになっていて、その壁の上に、ステンレスのポールに支えられた両面鏡が立っているんだけど、壁と鏡の間に20センチぐらいの隙間がある。
なぜ、そんな設計したのか分からないんだけど、その隙間から、向かい側で身体を洗っている人の股間が、ちょうど見えてしまうんだ。つまり、僕たちも逆に見られているわけ。
光湯には、男性トイレに小便器しかないのも要注意で、先輩から、寮でオシッコしてから風呂に行くように言われていた。
どうも、男女の脱衣室の中間にあった共用トイレを、無理やり男女に分けたから、そうなってしまったらしい。
男性で大の方を使う人は少ないだろうということなんだろうけど、僕たち明誠学寮生は、オシッコもできなくて、ちょっと不便だ。
体育実技の水泳にも、2回休んだだけで出席した。今までは特例で、僕だけ貞操帯を着けていたので、本当の全裸水泳は初体験だ。
幸い、明誠学寮の大川先輩が、同じ水泳のクラスで、これまでペニスのない前陰部を、存分に晒していてくれたので、僕が手術後に、初めて出席しても、それほど注目を浴びないだろうと思っていた。
ところが、大川先輩の股間部は、ふさふさした毛で大部分が隠されていたのに、僕のソコは、ほとんどパイパンで、完全露出状態。やっぱり、しっかり他の1年生の視線を集めてしまった。プールじゃタオルで隠せないからねえ。
語学の授業に出ると、加藤由香がよくモーションを掛けてくる。僕のペニスが切り取られたその瞬間を見ていたはずなのに、どういうつもりなんだろう。
7月17日、夏休み前の最後の、英語の授業が終った後では、
「いっしょにお茶飲まない。」
なんて、言ってきた。
これ、デートの誘いなのか。一応1時間だけ付き合ったけど、話をしていても世間話ばかりで、どうもよく分からない。
僕にペニスが無いから、絶対安全パイと思っているのじゃなかろうか。
その日の夜、夢の中に加藤由香が出てきた。それも全裸で大股を開いてしゃがんでいる。そして、どうぞという表情で、僕に向かってウインクをしている・・・・、と、いうところで、ふっと目が覚めた。
今まで、こんな夢を見ると、貞操帯で押えられて勃起できないペニスが痛くて飛び起きたものだけど、今日はその感覚が無い。
どうしたんだろうと、手を股間に持っていって初めて、僕のソコには何も無いのを思い出した。指先に触れたのは団子のような陰嚢だけだった。
でも、履いているあの支給品のブリーフが、妙に湿っている。手を陰嚢の下に持っていったら、そこがぐっしょりと濡れていた。
どうやら、僕は夢精したらしく、尿道口の周辺にネバネバしたものが残っていた。
このことを矢野君に話したら、
「へぇ、僕は、全然女の夢を見ないけど。」
と、言われてしまった。
やっぱり、僕も睾丸も取った方が良かったのかな。
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PART10
僕は、アルバイトを口実に、夏休みは帰省しなかった。いろいろ聞かれるのが面倒臭かったこともある。
アルバイトは、湘南海岸の海の家で、泊まり込みの手伝いだったんだけど、あまりの冷夏でお客がさっぱりで、実は1週間でクビになってしまい、あとは寮でブラブラしていた。
まあ、そこでも風呂場などで、他大学のアルバイト学生から、僕の股間部は注目の的だったけど。
明誠学寮では、夏休み中に増築工事を始めた。手術の見学で、賛助会員がたくさん集まって、資金の目処が立ったそうだ。あの俄か会員の石倉君も、これに貢献してくれたわけだ。
僕たちが2年生になるときには、何とか2人部屋に戻れるらしい。1年生の窮屈状態は、まだ来年も続くみたいだけど。
大学の長い夏休みが終わると、寮生も三々五々みんな戻ってくる。明日からは授業再開という9月10日に、明誠学寮の重要なイベントの一つである「殿堂入り」の式典が行われる。
殿堂というと、普通は「ホール・オブ・フェイム」だけど、明誠学寮の場合は、あの「トロフィールーム」が殿堂だ。
この日は、医学部で保存処理されてから、専門の業者で展示品に加工された、僕たち1年生19人のペニスが、寮に戻ってくる。
保存処理は、プラスティネーションという技法を使っていて、分かりやすく言うと、ペニスの水分をプラスチック樹脂に置き換えて固めてしまうわけだ。
これによって、冷凍していなくても、保存液に漬けていなくても、永久的に変質しなくなるわけで、空気中にそのまま置いておいていいだけじゃなくて、手で触ってみても平気という、画期的な標本ができあがる。
加工の過程では、ホルマリン液に漬けたり、冷凍したり、真空タンクに入れたり、いろいろ大変らしいけど。
そのペニスを、専門の業者が、黒っぽいオーク材でできた、縦20センチ、横15センチぐらいのプレートに取りつける。このプレートは、厚みも6センチぐらいあって、板というより木のブロックという感じだ。
こんなに厚いのは、医学部から持ち込まれる標本が、ペニスのおなかの中に隠れた根元から、一体化して作られているからだそうだ。
職人さんが、標本に合わせてオーク材をくりぬいて、板の表面から外には、ペニスのうちの、おなかの皮膚から外に出ていた部分だけが見えるように、作り上げてくれている。
プレートの表面がおなかの皮膚にあたるわけで、トロフィールームの壁に飾られている、先輩たちのペニスを見ても、全然違和感がない。
ペニスの腹腔内の部分は、プレートの裏の蓋を開けると、見ることができるそうだ。僕は、見たことがないけど。
どうしてかと言われると困るけど、身体の中の部分って何かグロテスクじゃない。同じペニスでも、外に出ている部分は、美しくてうっとりするのもあるぐらいだけど。
いや、本当に、ある先輩のペニスに憧れてしまって、事ある毎にトロフィルームに入り浸っている1年生がいて、話題になっていた。
その先輩は、もう卒業しちゃっているんだけどね。もし、在寮していたら、どうなっていたかなあ。
実は、卒業した先輩であっても、プレートを見れば、どんな人だったか、おおよそ見当がつく。というのは、プレートの上には、名前や入学年次が入っているし、板の四隅には、小さな写真が嵌めこんであるからだ。
写真は、プレートの左上から時計回りに、顔写真、手術前の全裸の全身正面写真、手術前の前陰部の正面拡大写真、手術後の股間を斜め下から見た写真の4枚で、ちょっと小さいけど、雰囲気は十分に伝えている。
「殿堂入り」のセレモニーは、午後1時から始まる。矢野君といっしょに下りていくと、会場の食堂には、在寮生がほぼ全員集まっていた。
ふと見ると、あの手術室で隣に寝ていた、田川先輩の姿が見える。それも、僕たち1年生の席に座っている。
僕の席は、矢野君と田川先輩の間だった。どうやら、今日の席順は、病室のベッドの順番と同じらしい。
僕は、さっそく田川先輩に話し掛けた。
「先輩、お久し振りです。」
「ああ、片岡さん。こんにちは。10年振りにこの食堂に来ました。」
「先輩もご出席されるとは、知りませんでした。」
「寮は3ヶ月で止めてしまった私ですけど、今回、正式に寮のOBに加えて戴けるという連絡が来ましたて、式典だけでも来ないかと手紙でお誘いを受けましたので、恥ずかしながらノコノコやってきました。」
「正式なOBになられたのですか。嬉しいです。これからもよろしくお願いします。」
「いえいえ、私こそ新寮生みたいなものです。よろしくお願いします。」
田川先輩は、本当に嬉しそうだ。
セレモニーが始まった。
恒例の委員長挨拶に続いて、いよいよプレートの贈呈式だ。1年生が席の順番に、委員長からプレートを受け取る。
1年生は、その円形というか円盤型のプレートを高くかざしてから、正面の壁のフックに、そのプレートを掛けて自分の席に戻る。これで、プレート、つまり自分のペニスの所有権を放棄して、明誠学寮に寄贈したことになるわけ。
委員長の背後の壁は、左と右の端から順番に、プレートで埋まっていく。中央が最後に残るので、どうやらそこが、矢野君と僕の場所になりそうだ。
手術で切り離された直後のペニスは、みんなダラリと垂れ下がってフニャフニャで、何か惨めな感じだったが、今日、プラスティネーション処理されて、オーク材のプレートに取り付けられたみんなのペニスは、どういう特殊な処理をしたのか、最大限に大きくされていて、しっかりと屹立している。
この分だと、僕の粗チンも多少は期待できるかなと思って待っていると、古瀬君の次に、いよいよ僕の順番が来た。
委員長の手元を見ると、プレートの形が、なぜか他の新寮生と違っている。
みんなのプレートは、1枚の板なのに、僕のプレートは二重になっていて、2枚の板が組み合わされている。
そして、表側の板に、プラスチックで固められた僕のペニスが取りつけられていた。
その板の裏面は、色が赤くて、形も大きさも何かソラマメを思わせる何かが付いている。
何だろうと思って、ふっと閃いた。あの、赤いソラマメは、僕の前立腺なんだ。プラスティネーション処理されているといっても、全然綺麗じゃないなあ。
ペニスと表裏で、プレートに取り付けているということは、こっち側も、どうぞ見てくださいということなんだろう。どうも気が進まないけど仕方がないかな。
肝心なペニスは、まあそれなりにというか、一応勃起状態にしてくれていた。仮性包茎なので、萎縮したままだと皮被りになってしまうところだけど、亀頭がしっかり覗いてくれている。辛うじて面目を保った感じだ。
僕の次は矢野君だ。矢野君のプレートも特別な形をしている。
なんといっても大きな陰嚢が付いているのが他の新入生と違う。ペニスはそれほでもないのに、もうそれだけで立派に見える。特別なプレートは2人だけで、比較されているみたいだし。
矢野君がプレートを壁に掛けたあと、僕と矢野君のプレートの間の、ちょうど1人分のフックが余った。
どうするんだろうと思っていたら、副委員長が、田川先輩をみんなに紹介した。先輩の在学中のことや、今回の飛び入り手術のことが話されると、全員から、拍手が沸き起こった。
そして、田川先輩にもプレートが贈呈された。先輩は、それを壁の中央、僕と矢野君のプレートの間に掛けた。
田川先輩のペニスも、僕と同じように、短小包茎気味だけど、何と言っても陰嚢が付いているので、全体のボリューム感が違う。ペニスが右と左を向いた、僕と矢野君のプレートの中間で、しっかり真正面を向いた姿は、実際以上に見栄えがする。
うらやましいなあ。
セレモニーが終って、記念の昼食会が開かれた。
壁に20個のペニスを飾ったまま、食事というのは変な気分だけど、先輩たちは一向に気にしていない。
それどころか、実はこの壁の飾り物、1週間はそのままそこに置かれていて、それから初めてトロフィールームに移されて、飾り直される。
だから、1週間の間、僕たちは食事をするときは、いつも自分のペニスにご対面だったというわけだ。
プラスティネーション処理されたペニスって、形はもちろん、色も艶も身体に付いていたときそっくりで、見ただけでは、絶対に見分けがつかない。
そんなペニスを20個も見ながらの食事なので、正直言って、あまり食が進まなかった。
秋も深まった11月22日には、明誠学寮祭が開かれる。
僕たちも、模擬店や展示の準備を始めた。1年生は、自分たちの部屋を展示用に使うので、3日間ほど明渡しとなる。
そのために、ベッドや机は、簡単に折りたためるようになっている。
その間、寝るところが無くなった1年生は、2年生のベッドに一緒に寝るのが習慣だ。僕も2年生の先輩のベットにもぐりこむことになった。
今年の仮入寮の期間、僕たちが2人で1ベッドになったのも、この寮祭の期間の実績があるから、別に大丈夫と判断したからであるらしい。
ただし、今年は1年生の数が多すぎて、一部が3年生の部屋にはみ出した。3年生は個室で、ベッド幅も90センチと狭かったので、3年生の部屋に居候した1年生は、先輩と密着して寝るしかなくて、大変だったそうだ。
各部屋の展示内容は、写真や絵の展示あり、自作のパソコンゲームあり、手作りアクセサリー店あり、占い部屋ありで様々だ。その部屋の住人が出展するんじゃなくて、何か出したい寮生たちが、部屋を借りてやっている。
会場は1年生の部屋だけではなくて、食堂でコンサート、研修室で喫茶や模擬店、大浴場で金魚掬い店なども開かれている。
1年生の部屋の扉には、寮祭の期間、部屋の住人の写真が貼られている。それは、抜糸の日に僕たちが、下半身素っ裸のまま、部屋別に並んで撮った、あの写真を、1メートル四方に引き伸ばしてきたものだった。
加藤由香に撮られたあの写真、こんなところで使うためとは知らなかった。今なら、毛も生えてきていて、股間部も、もうちょっとまともなのに。
そして、部屋の中には、その写真の主のペニスが付いたプレートを、トロフィールームから持ち出して、さりげなく壁に掛けて、特別展示している。
入口の扉の写真を見て、彼らのペニスも見たければ、中にどうぞお入りくださいというわけだ。いわばその部屋の、客寄せパンダというわけ。
202号室の入口の矢野君の写真は、陰嚢も残っていないノッペラボーな姿で、注目を集めていた。その上、室内に飾られた、僕と矢野君のプレートは、一風変わっていたので、結構話題になったとか。
その部屋を使った先輩は、「詰碁と詰将棋の部屋」という、あまり客足が期待できない企画にもかかわらず、たくさんのお客が来てくれたと喜んでいた。
実は、寮祭の日には、トロフィールームも一般公開されている。そこでは、いつものように、2年生以上の在寮生と卒業生のペニスを展示している。
ただし、こっちの入場は有料。寮の貴重な財産だからということらしいけど、しっかりしているよ。
そんな中、1年生のペニスだけは、各自の部屋で、無料で見られ放題だったというわけだ。
寮祭の期間中、中庭には、仮設トイレが設置されている。女子用が必要なのはもちろんだけど、男子用も寮の中は、例の扉や仕切りが無いトイレだけだから、一般のお客さん用トイレは、別にやっぱり必要だからね。
もっともお客さんの中には、それでも敢えて、寮生用のトイレを使うツワモノも、毎年必ずいる。寮生と同じように、座ったりしゃがんだりして使うなら、別に自由だし。
僕は、冬休みはスキー場にアルバイトに行ってしまい、やっぱり帰省しなかった。冷夏の反動なのか、雪はたっぷりあったけど、ゲレンデのトイレを使うときは参った。
男性スタッフ用のスキーウエアが、あんなに、トイレの個室で使いにくいとは思わなかった。時代遅れのワンピースタイプなので、上半身を全部脱がないと、お尻を出すことができなかったんだ。それで、オシッコのとき、寒くて寒くて。
それから、こういう公衆便所の、男性用の個室内の床の汚いこと。公園なんかの便所でも同じなんだけど、今回は特に、かさばるスキーウエアを床に付けないように、もう必死だった。
もちろん、普通の男性が立小便するには、全くノープロブレムなんだから、製品の欠陥じゃないんだけどね。
むしろ、欠陥品なのは、僕の身体の方かも。あーあ。
学年末試験が終わると、今度は長い春休み。
その間に、啓林大学でも入学試験があって、合格発表も終わった。3月になると、新1年生の姿を、キャンパスで見かけるようになった。そして、3月25日、明誠学寮の入寮試験の日がきた。
僕も矢野君も、入寮試験の手伝いに駆り出された。それどころか、僕は、入寮選考委員に、新2年生の代表として、入ることになってしまった。
今年も、食堂には200人以上集まっている。全員新入生なので、初々しい顔しているなあ、と思った瞬間、僕は目が点になった。
新入生の中に、あの石倉君がいるじゃないか。
(PART11につづく)
(続篇~それからの学寮へ)
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投稿:2004.02.18更新:2023.05.03
学寮(PART6-PART10)
挿絵あり 著者 名誉教授 様 / アクセス 47363 / ♥ 297