可食部
◇◇◇ 楽古一
「せ、先生!!プールにでっかいウニが出ました!!」
「それは海栗くんがのぼせて原形に戻っただけだ、この水じゃ彼には浸透圧が足りない!早く助けろこのバカ!!」
「……しかし巨大な白ウニはあまりにも魅力的で、救援に駆けつけたクラスメイトたちは本能を抑えきれず、うっかりAボタンを押して絞殺してしまった。悲痛ではあるが、事ここに至っては致し方ない。かくして美食への敬意のもと、みんなで仲良く大ウニをいただきました。おしまい〜。どう?」
『このクソ野郎!何度言ったらわかるんだその話嫌いだって!今すぐ訴えてやる!』
「やめろよ、訴えるならこのバージョンを書いた小説部の悪友にしろ。俺は朗読しただけだって。へへ」
『へへじゃない!』
「だからさ、食欲って時にはすごく良い友情の接着剤になるんだよ。え、まだ同意しないの?保守的すぎない?美味しそうに見える友達とか、自分が美味しそうに見える友達とか、今まで一度もいなかったの?」
「……は?そっちの人間って全員同じ種族なの?マジで?変なの。」
◇◇◇ 海栗二
高校入学最初の一週間で、俺は二つのことを学んだ。
一つ目。教室の窓は風を細かな小川みたいに切り分ける。どの列の、どの位置に座るかで、匂いが最初に誰のところへ届くかが決まる。俺は窓際の後列を希望して、鞄を横に置いた。そうすれば俺を見る視線が少し減って、多少は気が楽になる。
二つ目。クッキーは持参すべし。
『海栗汐也。』自己紹介の順番が回ってきただけで、名前を言ってお辞儀をしただけなのに、背筋がぞくっとした。案の定、あの視線だ。「美味しそう」ってやつ。今年は肉食のクラスメイトが多いらしい……やっぱり非常食は多めに持っておこう。空腹の隣人の横に座るのはあまり気が進まない。
◇◇◇ 楽古三
ウニ。美味しいもの。
棘を持った海底の小さな太陽みたいな存在。殻は硬いが、棘は呼吸するみたいに水流に合わせて微かに揺れる。ひっくり返すと、底には細かな管足が輪になって並び、ねっとりと岩に貼りついている。中央の口はカチカチと海藻を齧り、ゆっくり移動しながら、海の味を少しずつ体に蓄えていく。
殻を割ると、まず冷たい潮の香りが立ち上る。干潮直後の磯に顔を近づけたみたいな匂いだ。その奥には、五房の柔らかくて脆い乳白色や橙色。舌の上に置くと、脂の甘みを含んだ旨さがクリームのように溶けていく。海藻の塩気を伴った清い甘さ、ナッツのような油のコク。味付けはいらない、生で十分だ。あるいは柔らかな海風とともに白米を一口、醤油を数滴。俺はウニが好きだ。
白ウニって知ってる?食べたことある?うん、色がもっと淡くて、少し珍しい種類。よりふっくらと柔らかな房、甘くて生臭さのない塩味……そういう記述は今では何百年も前の記録にしか残っていない。今普段食べているのは全部代替品だ。本物より美味いと宣伝されてるけど、別に張り合う気はない。
理由は簡単だ。本物は人だから。
こちらの世界では、ほとんどの脊椎動物、軟体動物と棘皮動物が人類に進化した。社会もとっくの昔に禁猟を法律に書き込んでいる。肉食は培養肉を食べ、草食は草や穀物やお菓子を食べる。笑うなよ。培養肉は本物そっくりで、生活するには十分なんだ。
ラッコである俺が一番好きなのは、もちろん培養ウニだ。ちなみにウニの可食部って生殖腺なんだけど……ごほん。まあ、見ての通り、本能は人になっても消えない。毎日昆布だけ食えって言われたら泣く。でも制御の仕方は知っている。先輩の中には狼と羊で結婚した例もある。相手が美味しそうだと感じていても、絶対にしない。相手もそれを知っていながら、背中を預けてくれる。ある意味、日常の一つ一つが輝いて見えないか?かつて食物連鎖で生死を分けた関係がもたらす生命の原初的なときめき。それが二つの心をより強く結びつける……これは小説部の宇佐木が言ってた。話が逸れたな。ともかく、俺は君たちの世界で、気兼ねなく本物の白ウニを食べられるのがちょっと羨ましい。まだ人じゃないから、気軽に食材として扱えるんだろ。
俺の苗字を忘れた?楽古だ。楽古砂斗。自分の種族名を苗字にする家は珍しくない。同姓婚のほうがむしろ多いくらいだ。君たちの世界とは逆じゃないか?友達のほうは海栗。海栗汐也。そう、彼は白ウニだ。珍しくて、目立って、運が悪い。不幸なことに俺だけじゃなく、多くの肉食クラスメイトが彼をちらちら見る。匂いが甘いから……いや、事実を述べただけだ!俺が汐也を食べたいって言ったわけじゃない!
汐也が俺と友達でいてくれる理由?たぶんあの水泳の授業の日だ。彼がのぼせて倒れた時、最初に駆け寄ったのが俺だった。その後、水から引き上げて、タオルを敷いて階段まで運んだのも俺。体重六十キロのウニ原型は本当に刺さって痛かった。正直、危うく遺影が見えた。え?Aボタンで絞殺なんてしてない、ありがとう!あれは宇佐木の悪ふざけ版だ。俺は汐也をからかうのが好きなだけだし、彼が怒ると毎回元気いっぱいでさ。可愛いと思わない?そもそもウニって食べられるのは生殖腺だけだし、仮に食うにしても殺す必要ないだろ……あ、違う違う、今のは忘れて。
◇◇◇ 海栗四
家での食事中、俺はよく砂斗の話をする。仲のいい友達だからだ。ある日ついに両親が耐えきれずに聞いてきた。「それなのに、なんで一度も家に呼んだことがないの?」……俺、砂斗がラッコだって言ってなかったっけ?とにかく、食卓が十秒静まり返った。箸は宙に止まり、お玉が茶碗の縁に当たって、チン、とやけに大きな音がした。滑稽だった。その夜、姉がペンを一本渡してきて、「念のため遺書書いときな」って。はは……
俺は健康な白ウニで、砂斗は健康なラッコだ。彼が俺を見て食欲を感じることくらい分かっている。でも信じたい。砂斗の目に映る俺は、まず友達だって。それは種族とは関係ない。
その後、俺は砂斗の家で半日過ごし、夕飯までいて、無事に帰宅した。
分かってる。彼の家族全員、晩ご飯より俺のほうが魅力的だって内心思ってた。でも誰も口に出さなかった。砂斗のお母さんは料理を俺のほうに寄せかけて、一瞬止まり、それからすぐ笑った。砂斗は俺を台所から一番遠い席に座らせた。まるで「運ばれないもの」を配置するみたいに。砂斗の弟は目を輝かせて俺を見て、口を開く前に叱られてた。
前の俺は、ちょっと敏感すぎたのかもしれない。この世界は、思っていたよりずっと温かい。
◇◇◇ 楽古五
助けてくれ、このバカ。どうすりゃいい。これどうやって食うんだ。言わないなら俺も黙っとく?
ウニに放精放卵期があるなんて知ってたに決まってるだろ。助けてくれ、俺を何だと思ってるんだ。しかも白ウニとはいえ、美味しいのはふっくらした腺体であって、排出されたこれは違うだろ。汐也の匂いがはっきりしすぎてる。頭がおかしくなりそうだ。あああ
「え、えっと、汐也?寿司を作ってくれてありがとう。でも……この白い液体って何?」
「お、おい、顔赤くしてないで答えろよバカ」
その後、俺も真っ赤になって汐也を怒鳴りつけた。食べられないけど、そのまま捨てるのも傷つけそうで……だから持ち帰って、あとで腹減ったら食べるって言った……落ち込むなよバカ!?
汐也の匂いが部屋中に広がってる。助けてくれ。今日のこと一生忘れられない。早く冷えてくれ、こいつも正気に戻れ。本当にもう
(0:37)
汐也!自分が白ウニだって強調するな!!俺は一応ラッコで、かなり危険なんだぞ!
(0:37) 汐也
へえ。Aボタンで絞殺?見せてよ。
(0:41)
……明日、話しかけるな。寝る!
(0:41) 汐也
了解了解。別に困らない。おやすみ
眠れない……寿司を一貫食べた。意外と美味い。終わった。完全な精巣の味まで想像が止まらない。
発情期で息を荒げながら自分の下半身をいじる汐也の姿が脳裏に浮かぶ。俺がウニの生殖腺が好きなのを知ってて、わざわざソースカップで自分の出した液体を集め、顔を赤くしながら寿司にかけてるところまで。
このエロガキ。全部食ってやる。
……どうしてこんなこと考えたんだ。明日は本当に汐也を見るのを控えよう。
◇◇◇ 海栗六
卒業旅行の夜、潮の生臭さを含んだ海風が砂浜を吹き抜けていた。柿原と宇佐木は「早く寝て英気を養う」と言って、早々に部屋へ戻っていった。砂斗と俺は、もう大人だからと、居酒屋へ足を運んだ。たぶん、二人とも少し酔っていたんだと思う。
砂斗の顔はほんのり赤く、いつもは自制のきいたその目が、今はきらきらと輝いている。彼は俺の肩にもたれ、熱を帯びた息を首元に吹きかけてきた。
「ウニくん〜、白ウニくん〜。お腹すいたぁ。白ウニが食べたい!」
『ダメ!』
心臓が早鐘のように鳴る。直感が告げていた——今回は冗談じゃない。今すぐ逃げるべきなのかもしれない。旅館は、そう遠くない。
「えー。じゃあさ……もう一回、お寿司奢ってよ〜」
寿司。あれはこの前のこと……思い出させないでくれ、恥ずかしい。
『家じゃないし、飯も道具も……ない。』
「だいじょーぶ。ソースだけでもいいから〜〜」
……どうして、まだ逃げてないんだろう。俺、たぶんおかしくなってる。
◇◇◇ 楽古七
海風が肌を刺すほど冷たいのに、俺の体は火がついたみたいに熱かった。アルコールが理性をきれいさっぱり焼き尽くして、腹の底で渦巻く空腹と、汐也の――あの、慣れ親しんだ甘ったるい匂いへの渇望だけが残っている。
柿原と宇佐木はとっくに姿を消し、海沿いの小道を歩いているのは俺たち二人きりだった。月明かりに照らされた汐也の顔は、殻を剥いたばかりの白ウニの身みたいに白い。俺の願いを聞いた瞬間、彼の頬がぱっと赤く染まった。俺は彼の下半身に目をやる。そこはもう、はっきりと膨らんでいる。
忘れられない。あの時、彼が自分の手で寿司にかけた、あの夏の塩気と甘さを。
汐也は息を切らし、震えながら、俺が彼のズボンを解くのを見つめていた。薄黄色のちんちんが跳ね出し、すでに硬く光っていて、先端から透明な液が滲んでいる。俺は跪き、両手で彼の腰を支え、見上げた。彼の瞳は潤んでいる。「汐也……本当にお腹が空いた……」そう言って、舌先で先端を舐めた。汐也はびくっと震え、硬くなった手で僕の頭を押さえる。俺は口を開けて先端を丸ごと含み、舌で縁をなぞるように円を描いた。汐也の背に抱きつき、ちんちん全体を少しずつ喉の奥へ送り込む。すぐにザーメンが溢れ出した——熱くて、ねっとりしていて、一気に口の中へ流れ込む。嚥下音は大きく、新鮮なスープを飲んでいるみたいだった。「ん……おいしい……汐也のザーメン……すごく甘い……」汐也の腰が引こうとするのを感じたので、俺は歯で茎を軽く噛んで逃がさなかった。
「砂斗……もう……ザーメンは……」
「足りない。」俺は顔を上げた。「ここまで来たんだ……ちんちん、食べないなんてもったいないだろ?」
汐也が少し泣きそうになっているのが見えた。でも本能が告げていた。これは俺のものだ。俺が一番食べたい白ウニだ。俺は根元に噛みつく。軽く何度か探るようにしてから、突然、思いきり力を込めた。一口でいった。血の鉄錆の味と、塩気と甘みが混ざり合い、口の中で弾ける。汐也の身体がびくりと大きく反り返り、俺の髪を引きむしった。
「砂斗……!痛……!」
痛みで声色まで変わっている。でも俺には聞こえなかった。酒と空腹が頭をいっぱいにしていた。俺は噛み、飲み込む。ちんちんが口の中で砕け、熱い汁が口角から垂れ落ちる。しばらくして、ようやく満足して嚥下した。
「じゃあ、ここまで食べたんだし、精巣も食べさせてもらっていいよな?」
両手で汐也の下腹をすくい上げる。二つのふくらんだ生殖腺が、まだかすかに脈打っている。白ウニでいちばん美味しい部分。柔らかく、乳白色で、まるで俺を招いているみたいだ。ウニの姿なら五房食べられるけど、やっぱりこの姿の味のほうが気になる。
俺は口を開けて噛みついた。最初の一つが歯に貫かれ、汁が飛び散る。甘くて生臭い濃厚さが、しつこいほど広がる。俺は噛み砕き、飲み込み、満足げな表情を浮かべた。
汐也は痛みに顔色を失い、寒流の中の海藻みたいに弱々しい声で言った。
「砂斗……やめて……!俺はウニだから、今の状態ならまだ再生できる……でも、全部食べ尽くされたら……それは……」
彼は泣いた。大粒の涙がぽろぽろと落ち、力の入らない手で俺の肩を押すけれど、びくともしない。
「お願い……やめて……二つ目は……食べないで……!俺……怖い……」
でも、俺には届かなかった。
俯いて、二つ目に噛みつき、真ん中から断ち切る。汁がまた弾けた。
「汐也……お前、本当にうまい……全部……全部、俺のものだ……」
二つ目も飲み込んだ。
きれいさっぱり。何も残らない。
汐也の身体は、糸の切れた凧みたいに、ふっと力が抜けた。俺の腕の中で崩れ落ち、しゃくりあげながら泣き続ける。下半身は血肉にまみれ、何も残っていない。あるのは血と、残った塩気のある生臭い味だけ。
やっぱり、人造ウニなんて、汐也には敵わない。
……え?今日の体験、なんでこんなにリアルなんだ。前の夢は、味なんてほとんど分からなかったのに。
うわ、痛っ!この馴染みのあるチクッとした痛み……これ汐也?なんでまた原型に戻ってるんだ?なんで俺の胸の中に?助けなきゃ——
……え?
◇◇◇ 海栗八
死んでない。遺書は使わずに済んだ。姉をがっかりさせた。ただ、生きたいともあんまり思えない。
明日からの日々は、まだ続く。大学はどうせ受かったし、適当に通えばいい。
あいつと一緒に。