新章:『生殖管理処置法:集団収穫の終焉(ヴェスタ・ミニ)』
新章:『生殖管理処置法:集団収穫の終焉(ヴェスタ・ミニ)』
1.西暦2146年:黄昏の管理社会
かつて「中央育成センター」が誇った豪華なライドや、巨大なタネザウルスのホログラムは、もはや過去の遺物となった。長引く財政難と少子高齢化の極致により、国家は「教育としての処置」を諦め、それを「生活インフラとしての回収」へと切り替えたのである。
専用施設は次々と閉鎖され、代わって普及したのが、街のいたるところに設置された『高機能集約型小便器』、通称「ヴェスタ・ミニ」であった。
国家が衰退し、インフラが崩壊していく中で、唯一「最先端」であり続ける場所——それがトイレでした。皮肉にも、国民の尊厳を奪う装置こそが、この国で最も快適で、依存性の高い場所へと変貌を遂げていたのです。
もはや単なる排泄場所ではありませんでした。それは、財政難に喘ぐ国民にとって、数少ない「贅沢」を味わえる空間だったのです。
この便器が人々を虜にしているのは、その圧倒的な機能性です。
• 残尿瞬間吸引: 排泄後、強力なバキュームが働き、最後の一滴まで完璧に吸い出す。下着が汚れる不快感はゼロ。
• 温水超音波洗浄: 局部を最適な温度と水圧でケアする。
• ナノ・マッサージ: 磁気振動により血行を促進し、日々のストレスを解消する。
一見すると、壁面に埋め込まれた小さな白い陶器の窪みに過ぎない。かつての小便器が持っていた巨大な受け皿(ボウル)は、その機能を失い徹底的に削ぎ落とされている。
• マイクロ・レシーバー: 飛散を最小限に防ぐための受け皿は、丼ぶり鉢ほどのサイズほど。必要最低限のカーブのみで構成され、汚れを寄せ付けないナノコーティングが施されている。
• オーガニック・ノズル: 受け皿の中央には、周囲の硬質な陶器とは対照的な、半透明で柔らかなシリコン製吸引口が鎮座している。それはまるで、獲物を待つイソギンチャクのように、内側から淡いブルーの光を放っている。
ユーザーがユニットの前に立つと、超高性能の人感センサーが即座に反応する。
• プレ・バキューム: 接続する前から、ノズルは「シュウゥゥ……」という微かな音を立てて空気を吸い込み始める。この気流が、尿の飛散を物理的に100%防ぐと同時に、ユーザーの局部を優しくノズルへと引き寄せる。
• ソフト・フィッティング: 吸引口は医療用ポリマーでできており、接触した瞬間に個人の形状に合わせて完璧に密着する。冷たさはなく、常に人肌よりわずかに高い37度に保たれている。
一度この「至福」を味わえば、飛沫が飛び散り、悪臭の漂う旧時代の開放型小便器に戻ることは、文明を捨てることと同義でした。
2. 毎週の「死のルーレット」
しかし、この快適さには「代償」がありました。 国家AI『タネザウルス・コア』は、国家予算と精子資源の備蓄状況、男女比を毎週算出し、その週の「去勢率(摘出確率)」を決定します。
高機能集約型小便器(ヴェスタ・ミニ)の柔らかい吸引口は、瞬時に鋼鉄の拘束具へと変貌し、マッサージを行っていた内壁からは超音波カッターが飛び出す。快楽の絶頂の中で、彼は痛みすら感じることなく、自らの「未来」をバキュームの音と共に奪われることになる。
人々は便器の前に立つたび、ギャンブルのような緊張感に包まれます。
🤖システム音声:「ユーザーID確認……生殖管理検査を開始します。今週の提供確率は0.02%です。リラックスしてマッサージをお楽しみください。」
「今週は低いな……」と安堵しながら、人々は吸い込まれるような感覚に身を委ねます。この「低い確率」という絶妙な設定が、人々の警戒心を麻痺させ、依存を加速させていました。
3. 不正防止の「罠」
もちろん、去勢を恐れて開放型小便器を使い続けようとする者もいます。しかし、国家の監視網はそれを許しません。
すべての 高機能集約型小便器 はオンラインで接続され、個人の使用頻度を記録しています。もし、健康な男性が一定期間「高機能集約型小便器」を使用していない(=生殖管理検査を受けていない)と判断されると、システムはその個人の「次回当選確率」を段階的に引き上げるという冷酷なアルゴリズムを持っていました。
「古いトイレを使うと、次に 高機能集約型小便器 を使った時に確実に『当たり』を引く」
そんな都市伝説のような恐怖が、人々を結局は最新型の 高機能集約型小便器 の前へと追い戻すのです。
4.日常の中の「選別」
昼休み、駅の公衆トイレ。レンは迷わず高機能集約型小便器(ヴェスタ・ミニ)の前に立ちました。隣には、20年前の「洗礼の儀式」で使われていたような、古びた開放型小便器が一つだけ残っている。しかし、それは黄ばみ、ひび割れ、床には不潔な水溜まりができていた。
今どき、あんな原始的なものを使いたがる奴はいない。たとえ、「去勢ルーレット」のリスクがあったとしてもだ。
それに比べ、この最新ユニットは常に無臭で、清潔な白色の光を放っていた。
レンがユニットの前に立つと、足元のインジケーターが緑色に点灯した。
🤖システム音声(囁くような美声): 「ようこそ、1255402号。レン殿 本日の接続を歓迎します。今週の提供確率は0.015%。極めて安全です。……さあ、リラックスを。」
「シュッ」という音とともに、マイクロ・レシーバーの中央にある柔らかい吸引口がせり出してきた。レンが自身の身体をそこに預けると、吸い付くような柔らかな感触が彼を包み込んだ。
「……っ」
排泄が始まると同時に、ノズルは絶妙な負圧で尿を一切の抵抗なく引き込んでいく。それと同時に、ノズル内壁のシリコンが細かく波打ち、精密なナノ・マッサージを開始した。
「……ああ、これだよ」
学校での疲れ、将来への不安、すべてがこの心地よい振動と温熱によって溶けていく感覚。この便器は、使用者の血圧や脈拍、さらには精子の濃度までをもリアルタイムで計測し、その日の体調に合わせた「最適な快楽」をフィードバックするのだ。
だが、この至福の時間の裏で、AI『タネザウルス・コア』は冷酷な計算を続けている。
もし、今この瞬間にAIが「資源不足」と判断し、確率の針が指せば——。
この柔らかい吸引口は、瞬時に鋼鉄の拘束具へと変貌し、マッサージを行っていた内壁からは超音波カッターが飛び出す。快楽の絶頂の中で、彼は痛みすら感じることなく、自らの「未来」をバキュームの音と共に奪われることになる。
レンは、微かな恐怖を感じながらも、やはりこの吸い付くようなノズルの誘惑に抗うことはできなかった。
「……開放型なんて、もう一生使えないな」
しかしその時、小便器の並びから一際大きな「シュゴォォッ!」という、空気を切り裂くような吸引音が響きました。
レンの背中に冷たい汗が流れる。 隣の男の局部はノズルに完全に吸引・固定されたまま、ロックが解除されるのを待っている。その内部ではすでに、AIによって「不要」と判断された部位が、鮮やかに、効率的に、未来の資源へと変換されているのだ。
男は泣くことも、叫ぶこともせず、ただ呆然と壁を見つめていた。処置が終われば、ノズルは慈悲深く洗浄ミストを噴射し、何事もなかったかのように彼を解放するだろう。続いて、短い電子音。 『——資源回収、完了。ご協力ありがとうございました。』
隣の高機能集約型小便器(ヴェスタ・ミニ)から、顔面を蒼白にした男性が、フラフラと足取り重く出てきました。彼のが使っていた小便器には使用中止の文字が点灯しています。周囲の男たちは一瞬だけ彼を哀れみの目で見ましたが、すぐに自分のマッサージ機能の心地よさに意識を戻しました。
「次は自分かもしれない。でも、この快適さは手放せない」 国家が仕掛けた「快楽による去勢」は、反乱の意志さえも吸引し尽くしていたのです。
レンの排泄が終わると、ノズルは残尿徹底吸引を行い、仕上げに爽やかなミストで局部を洗浄した。レンがノズルから離れると、ユニットは自動で滅菌され、再び美しい陶器の輝きへと戻っていった。
レンは自分のユニットが「シュッ」と軽やかに自分を解放したことに心底安堵した。
「……明日も、これを使わないといけないんだよな」
開放型を使えば、オンライン上の「不審指数」が上がり、次回の当選確率が跳ね上がる。人々は、この快適な「首吊り台」に、自ら進んで局部を差し込み続けるしかなかった。