ヴェスタ・ミニ 第三章:『生殖管理処置法:適合へと加工される肉体』
第三章:『生殖管理処置法:適合へと加工される肉体』
1. 処置室へ5分おきの行進
クリニックの廊下には、一定の間隔で無機質な電子音が鳴り響いていました。
「ピッ……124番から126番の方、処置室Dへお入りください」
その音に合わせて、カイト、ハルト、ショウの列が機械的に前へと進みます。
列の進み具合から推察するに、一人に割り当てられた「適合」のための時間は5分程度。
廊下ですれ違う処置を終えたばかりの少年たちは、一様に股間を不自然に広げた「ペンギン歩き」で、魂が抜けたような顔をして去っていきます。
「ピッ……132番から133番の方、処置室Cへお入りください」
ついにハルトの番が呼ばれました。ハルトは処置室Cへ案内されました。
残念ながらカイトとショウとは別の部屋だった。ハルトは二人と別れ、一人で処置室への重い扉の中へ足を踏み入れました。
2. 若き女性医師と処置ユニット
部屋の中は、診察室と同じように簡易的なパーティションで区切られただけの無機質な空間でした。
パーティションの中央に置かれているのは、一見すると歯科医院の治療椅子のようですが、その目的は全く異なります。
歯科用ユニットにあるようなうがい用の設備や複雑なドリル類はなく、あるのは「固定」と「切除」のためだけの機能でした。上部に伸びるアームの先には股間を射抜くような鋭い光を放つLED無影灯が鎮座しています。
「こんにちは、ハルト君。担当の佐藤です。今日はよろしくね」
現れたのは、医科大学の医療講習の一環で派遣されているという、若い女性研修医でした。彼女は実習生らしいフレッシュな笑顔を浮かべ、キュッという音を立てて鮮やかな青色のラテックスグローブを手に嵌めました。
ハルトから書類とキットを受け取ると、
「26mmかぁ、一番扱いやすいサイズだから助かるな。……じゃあ、そこに靴のまま上がっちゃって。リラックスしてね」
彼女は慣れた手つきでクランプキットの包装をピリリと破りました。中から透明なプラスチックのシリンダー、リング、ラチェット式の部品が取り出され、金属製のトレーの上にカラリと音を立てて整列します。
3. 固定とセッティング
ハルトが処置ユニットに腰を下ろすと、彼女は机のスイッチを操作しました。ウィーーーン……という精密なモーター音とともに診察台が滑らかにリクライニングしていきます。
ハルトの脚の間を広げるようにフットレストが左右に分かれ、腰の位置が沈み込むような「処置ポジション」へと誘導されます。
「念のため、動かないように固定するね」
彼女は手際よく、太いテープ式のベルトを手に取りました。 ガチッ、ガチッ。 まずハルトの腹部を横切るように、続けて左右の太ももにもしっかりと固定ベルトがセットされます。
完全に身動きが取れなくなったことで、ハルトの心臓の鼓動は一気に速まりました。
3. 精密な「照準」と吸引器のセット
拘束が適切に完了した事を確認すると、医師は処置のため最終調整に入りました。
彼女は頭上の巨大なLED無影灯ライトを掴み、その強烈な光の焦点をハルトの股間へとミリ単位で合わせます。
続いて、彼女はハルトの両脚の間、ちょうど股下の位置にある設備を引き寄せました。
そこには、処置中に発生する煙や汚水を即座に排出すべく、小型の吸引器が備え付けられていました。
彼女は吸引器の受け皿をカチカチと調整し、ハルトの肉体を「加工」する準備を整えていきます。
寝た状態では自分の股間がどうなっているのか絶妙に見ることができず、ただ股下にセットされた吸引器の受け皿が口を開けて待機している気配だけが伝わってきました。
4. 切開と、見届けた「装着」
「じゃあ、麻酔の効き具合をチェックするね」
医師はピンセットで患部を刺激しますが、診察室であらかじめ打たれた麻酔のおかげで、ハルトには触れられている感覚しかありません。
「うん、大丈夫そう。……あ、でもハルト君、ちょっと出口が狭いかな。少しだけ切開するね。心配しないで、これも処置のうちだから」
ハルトがその言葉に怯え、身を強ばらせた瞬間、
シャリッ…
という組織が分断される鈍い振動が伝わりました。痛みはありませんが、自分の肉体が「作り変えられている」という事実に背筋が凍ります。
準備が整い、いよいよクランプがセットされる瞬間。
ハルトはどうしてもその光景を自分の目で見極めたいという衝動に駆られました。彼は固定ベルトに抗って、グッと上半身を可能な限り起こし、自分の股間を見つめました。
そこには、青いグローブを嵌めた医師の指によって、透明なプラスチックのクランプが無理やり押し込まれ、自分の皮膚がリングの間にぎりぎりと引き込まれていく光景がありました。
診察室で描かれた青いマジックのラインは、すでにその異物の中にすべて飲み込まれ、肉の一部がクランプの縁から不自然に突き出しています。
5. 電気メスの咆哮
「あ、ハルト君、動かないで。これから切るから頭を下げて」
医師の声に促され、ハルトは力なく頭を台に戻しました。彼女はペン型の電気メスを手に取りました。
「吸引器の音がうるさいから、もし痛かったら手を上げてね」
医師がそう告げると、ハルトはこわばった顔でコクリと小さく頷きました。直後、彼女が足元のスイッチを踏むと、股下の吸引器がゴオォォォ……!という凄まじい咆哮を上げました。
――ジジジッ!
電気メスから最初の切除音が響き、の曖昧な感覚が伝わった瞬間、ハルトは反射的に右手を上げました。
「はい、ストップ。大丈夫?」
医師がスイッチを離すと、激しい音が消え、不自然なほどの静寂が訪れました。
「怖くなっちゃった……でも、 痛くないでしょ?大丈夫!、我慢できるかな? あと少しだから頑張ろうね!」
彼女の励ましの言葉が終わるか終わらないかのうちに、再びゴオォォォ……!という轟音と共にスイッチが踏み込まれました。
電気メスがクランプのガイドに沿って正確に滑らされると、少量の血液が垂れ、肉の焼ける匂いと共に白い煙が立ち上りますが、それはすぐさま吸引器によってズズズッ、ジュゴボボボッ!と一気に飲み込まれていきました。
隣のブースからも、全く同じ「ジジジ」という音と「ゴオォォォ……!」という吸引音が共鳴し、施設全体が巨大な加工工場になったかのような錯覚を覚えます。
一通りの切除が終わると、医師はボトルに入った生理食塩水を手に取りました。
「はい、お疲れ様。切り離す処置は終わったよ!汚れを洗い流すからね」
ドボドボと患部に注がれた食塩水は、術後の熱を帯びた皮膚を冷やし、混じり合った血液や組織の破片と共に股下の受け皿へと流れ落ちます。吸引器はそれらをズズズッ、ゴボボボッ!と、断末魔のような轟音と共に一気に飲み込んでいきました。
6. 切除と友情の証
吸引器の激しい動作音が止まり、部屋に不気味な静寂が戻りました。
医師は電気メスをホルダーに戻すと、ハルトの顔を覗き込んで、まるで世間話の続きのような軽い調子で語りかけました。
「はい、お疲れ様。思っていたよりずっと短時間で終わったでしょ? 痛みも全然なかったよね?」
医師はそう言いながら、手元のトレイから小さな医療用ハサミを手に取りました。
ハルトは「はい……」と力なく答えながらも、自分の股間で何が起きているのかを確かめずにはいられませんでした。
彼は再び、固定ベルトの圧迫を跳ね返すようにしてグッと上半身を大きく起こしました。
視線の先では、透明なクランプの縁に沿って、電気メスで焼かれ茶色く変色した「肉の境界線」が見えました。その先クランプのシリンダーには、数分前までは包皮一部だっだ組織がシリンダーに巻き付くように残っています。
「まだ少し残ってるからね、今切り離しちゃうよ。じっとしててね」
医師は青いグローブを嵌めた指先で、クランプに巻き付く包皮を軽く引っ張り、ハサミの刃先を包皮の鈴口へと滑り込ませました。ハルトは、自分の上半身を起こしたまま、その光景を食い入るように見つめました。
シャリッ、シャリッ……。
鋭利なハサミの刃が、クランプのプラスチックに当たって小さな音を立てます。
ハルトの視界の中で、ついにその「筒状の肉体」が本体から完全に分離されました。それは、かつて自分の一部として体温を共有していた肉体が、明確に「異物」へと変わった瞬間でした。
医師はピンセットを伸ばし、切り離されたばかりの肉片を高く持ち上げました。
「はい、コレが切り取った『皮』これが君を不適合にしていた原因。ほら、伸ばすと6センチはあるかな〜切ると縮んじゃうんだけどね〜」
彼女はその組織を、保存液の入った小さな透明なボトルへと落とし込みました。
ポチャン。 軽い水音と共に、それは薬液の中で揺らめき、底へと沈んでいきました。医師は手際よく白いキャップを閉めました。
「はい、これプレゼント。医療倫理の規定で本人に返却することになっているの。もし不要なら出口の回収ボックスに捨てていっていいよ。ほとんどの人は、未練もないって捨てちゃうけどね……」
ハルトは、渡されたボトルを凝視しました。
薬液の中には、青いマジックのライン、26のスタンプ、最初の切開口、電気メスの熱傷跡、そして最後のハサミの痕跡――蕾のような面影を失い、徹底的に「処理」された自分の欠片が漂っていました。
事務的な笑顔で差し出されたボトルを、ハルトは両手でしっかりと受け取りました。
「……いえ。捨てません。持って帰ります」
ハルトは、股間のクランプの鈍い違和感に耐えながら、少しだけ誇らしげに続けました。
「僕たち三人で決めたんです。これを捨てずに、みんなで持ち寄って見せ合おうって。僕たちが、一緒にこの『適合』を乗り越えた証にするんです」
それは彼が管理社会のシステムに組み込まれたという、消えない刻印そのものでした。
「ふふっ、友情の証なら大切にしなきゃね。お大事に、ハルト君」
医師によって固定ベルトが外され、拘束から解放されたハルトは、重い体を引きずるようにして診察台の脇に立ちました。
医師の軽い挨拶を背に、ハルトはボトルをポケットの奥深くにねじ込みました。 一歩踏み出すごとに、股間のクランプが内股の皮膚を冷たく、硬く圧迫します。ハルトはクランプと共に新しい自分の属性を噛み締めながら、カイトとショウが待つ廊下へと歩き出しました。
7. 回収箱の前の涙
ハルトが処置室を出ると、そこには既にカイトとショウが待っていました。カイトは興奮した様子で、ポケットのボトルを指差しながら小声でまくしたてます。
「ハルト、お疲れ! 俺、ずっと見てたんだ。クランプの構造とか、電気メスの仕組みとかさ。あれ、すごいシステムだよな!」
しかし、その横に立つショウは、顔を真っ青にして俯き、肩を小刻みに震わせていました。ハルトとカイトは、ショウが単に手術の恐怖で泣いているのだと思いました。
「ショウ……そんなに怖かったのか? 大丈夫、もう終わっただろ?」
ハルトが優しく肩を叩くと、ショウは顔を上げ、涙でぐちゃぐちゃになった顔で絞り出すように言いました。
「……違うんだ。僕の……僕の『それ』、吸い取られちゃったんだ……」
8. 隠蔽されたミス
ショウの話によれば、処置の最終段階、ハサミで切り離された瞬間に、強力な吸引器が誤って彼の包皮を飲み込んでしまったというのです。
ショウを担当した医師は一瞬動揺を見せたものの、すぐに冷淡な表情に戻り、「不手際で返却できなくなった」と告げることもなく、あたかも最初から返却の規定などなかったかのようにショウを追い出したのでした。
「吸引器が……ゴォォッて……僕の『皮』吸い取っちゃったんだ。先生、何事もなかったみたいに笑って……」
ショウの隣にある回収箱は、奇しくも毎日何百人分もの「不要物」が投棄される場所です。その場所が、今はショウの大切な欠片を奪った墓場にも見えました。
「……ふざけんなよ」
ハルトの中で、何かが音を立てて切れました。自分たちが痛みと屈辱に耐え、仲間との絆として持ち帰ることを決めた「証」。
それをゴミのように扱い、ミスを隠蔽した大人の身勝手さが許せませんでした。
「行くぞ、ショウ。カイト」
ハルトとカイトは、まだ股間にクランプの違和感を抱えたまま、不自然な歩取りでショウの処置室へと引き返しました。重い扉を勢いよく開け放ち、ハルトは白衣の背中に向かって怒鳴り声を上げました。