『貴男のお悩みに寄り添って真摯に治療致します』
ビルの屋上広告に股間の悩み事から解放された若い男がガッツポーズをするポスターが貼られている。写真の彼は自信にあふれた表情で道行く人を見下ろしていた。そのクリニックの診察室では、二人の若い女性がモーニングティーを嗜んでいる。
「おはよう~カンナお姉ちゃん」
「おはよ、カスミちゃん。今朝はちゃんと起きれたのね。だいぶ早く出勤できたじゃない。お紅茶淹れてあるよ、飲む?」
マリアージュされた薫り漂う藍錆色の缶から掬われた茶葉が、ティーポットのなかで開らいて美しい女医姉妹に献上されるのを待っている。スコッティ―ドッグの形をしたポッドカバーは、お茶を飲み頃に蒸しながらお嬢様二人を守り侍っている忠犬のようだ。
「わぁ~とってもイイ香り。ありがとうお姉ちゃん」
「カフェインでしっかりおめめを覚ましてね。今日も悩める男性たちが待っているんだから」
両親とも医者の家に生まれた姉妹は何不自由なく愛情とお金を注がれて育ち、自然の成り行きなのか親と同じ医師の道を歩むことになる。
姉のカンナはしっかりもので手先も器用、頭脳明晰で国立大医学部にストレート合格、留学も経験し今では駅前にこの男性用クリニックを開院している。自由診療中心だが明朗会計、適正価格で人気の病院だ。
妹のカスミはと言えば小さい頃からとにかく不器用、成績はお世辞にも良いとは言えずギャル仲間とつるんでは夜遊びで街を駆けまわったが、親の財力でなんとか私大医学部に入学、学校側もゴリ押しで卒業させた。素行に問題はあっても地頭は悪くなかったのだろう。
妹は研修医時代に不祥事という名の様々な伝説を作りながらも、両親が札束を抱えて必死に火消しに奔走、受け入れ先の医局も見つからず姉のクリニックの向かいにある古い雑居ビルに、半ばもぐりと言われても仕方がない男性のお悩み専用診療所を開いた。こちらは格安だけが売りだ。
「もぅ~毎日毎日おチンチンとハゲちらかした頭の悩みばっかり。いいかげんもうおチンチン見るのも髪の毛の悩みを聞くのもウンザリだよぉ~お姉ちゃん」
「何度も言わせないでカスミちゃん、世の男性たちにとったら股間と薄毛の問題はホントに大切なことなんだから。カスミちゃんは彼氏が真性包茎の短小だったり、若ハゲでもいいわけ?」
「それはイヤだけどぉ~」
「そうでしょ。さあさあ、患者さんが待ってるよ。今日も頑張て行ってらっしゃい!」
姉のカンナ先生に背中を押されて妹のカスミ先生が見送られるのを見て、受付の看護師は今朝もいつもの調子だなと苦笑いした。
「さてと、今日は何人患者さんくるかなぁ~」
カスミ先生が呑気に椅子の座面をくるくると回して遊んでいると、診察室に暗い顔をした20代の男がはいってきた。
「あら、どうもどうも~。こちらへ掛けてくださいな。今日はどうされましたか?」
「…あ、その、昨日彼女と別れたんです。一方的にふられたというか」
「フムフム、それでそれで?」
「…僕の…アソコが小さいって言われてしまって…」
「ナルホドですね~それは仕方がないなぁ。じゃあ後ろの診察台に寝転がってズボンと下着を下ろしてくださいね。ちょっと実物を見せてもらいまーす」
若い男は恥ずかしがりながらも寝そべってズボンを下ろすが、自信がなさすぎて医師の前でも手で前を隠したままだ。カスミ先生はそんな男のプライドなどお構いなしに彼の手を払いのけると、ゴム手袋をはめた両手で仮性包茎の包皮をつまみ上げて伸ばしたり、根元を押さえて剝いたりする。小さく縮んだままでペニスの長さと太さが測られる。男は若い女医に自分の男の価値を値踏みされているようで情けなくて堪らない。脳裏には元カノの言葉がよぎってくる。「小さ過ぎて私のお腹の上でスズメが鳴いてるみたいだわ」
「それじゃ、これを揉みしだいててくださいな」
カスミ先生は見た目も触りごこちも精巧につくられたニセおっぱいを男の胸の上に置きそれを両手で持つように促す。若い男はおもちゃの乳房に興奮して勃ってしまう自分に情けなさの追い打ちをくらうのだった。
「うーん、確かに…これじゃあなぁ」
勃起した若者のペニスを検分しながら若い女医は唸る。
「やっぱり僕…その、かなり小さいですか?」
「そうだねぇ、長さはギリギリ不合格ぐらいだからさ、まだ努力しだいでなんとかなりそうだけどぉ。太さがないのと亀頭のカリが低すぎて先細りのドリルおチンポなんだよね。一言でいえば貧相、かなぁ~」
「うぅ、なんとかデカくできないですか先生。この診療所なら安くしてもらえるって噂で聞いて、藁をもすがる気持ちできたんです」
「まーかせなさい。こんなのアクアミドの注入でいっぱつだよ」
「ありがとうございます先生、それ是非おねがいします!」
「あらそう、じゃあ今やっちゃう?」
「ハイ!やりますっ。これで元カノにまた振り向いてもらえるかも」
「ならいいよねー。それじゃあ眠っている間にペニスを逞しくしておくね、おやすみなさーい」
「えっ!全身麻酔なんですか?注射ぐらいだったら僕が…まん…で、き…」
いつのまにか太ももの血管に取られたルートにシリンジで麻酔薬が押し込まれると、若い男の意識は5秒も経たない内に遠のいた。
男は先ほどまでいた古い雑居ビルの染みが浮かんだ天井とは違い、清潔で明るく洗練された病室で目を覚ます。記憶にあるどの天井とも違う彼の視界に、美しい女医の顔が覗き込んでいる。
「おはようございます。気が付かれましたね」
「ここはいったいどこ…ですか?」
「駅前にあるメンズクリニックですよ、覚えていませんか?」
「すみません、頭がぼーっとして、なんだか記憶が曖昧で…どうして僕はここに?」
「こちらの画像を見てください」
美しい女医はそう言ってタブレットを差し出すと、蛇腹パイプのようにボコボコに波打ちねじ曲がったペニスの映像を何枚も見せてくれる。
「うわっ、気持ち悪りぃ。なんですかこの変なチンコは」
「これは貴方のおちんちんだったんですよ。本当に何も覚えていませんか?」
「小さくて悩んではいますけど、こんな変な形になったことはないですよ。他の人のモノだと思うけどなあ…」
「おかしいですねぇ。実物のほうが思い出しやすいでしょうか、こちらなんですが」
そう言うと女医は膿盆の上にのったグロテスクな変形ペニスを若い男に見せた。根元からくり抜かれた醜い男性器は冷たい金属の皿のなかで惨めに息絶えていた。
「オエっ。そんなもん見せんで下さい先生。僕気分が…」
「アラすみません、説明したらすぐ下げますね。このペニスですが、大きくしようと注入した薬剤がよくなかったみたいで、血管や神経を侵していたんです。細胞が壊死を起していたので切り取らざるを得ませんでした。残念ですが」
「えっ? 残念ってどいうことですか…」
男は慌てて寝具をめくり股間のいちもつを確認する。手のひらが二つの金玉をつかめたことに安心したものの、竿はというと尿パックにつながった細い管が一本股に挿入されているのがみえるだけで、どこかに消えてしまっていた。
「?! チンポがないです先生、僕のチンポがないです!」
「はい、えーと、ですから先ほどお見せしたように貴方のペニスは切除させてもらいましたけれど?」
狼狽する若い男をどうしてあげればよいのか困惑する女医に看護師が耳打ちする。
「カンナ先生、また意識のない男性が搬送されてきました。カスミ先生の診療所から運ばれてきた患者さんです」
また妹がやらかしたのかと姉はため息をつくと、看護師は今日もいつも通りの提携業務じゃないですかという顔で院長である女医を慰めた。
「すぐ行くわ、手術室に運んでおいてちょうだい」
こうして妹の診療所から姉のクリニックへと股間の悩みを抱えた男性患者が流れていく仕組みができあがっているのだ。今日二人目の患者にふりかかった運命を時間をすこしだけ戻して引き続き見てみよう。
「カンナお姉ちゃんのクリニックに送った患者さん、大丈夫かなぁ。まさかあんな凸凹チンチンになっちゃうとは思わなかった~」
カスミ先生は一仕事終えたつもりで、呑気に窓から向かいの姉の病院を眺めていた。すると、診察室のドアが開き、体に脂がのりはじめた年頃の体育会系営業マンが入って来る。彼は昔運動部で鳴らした男独特の、自信のある雰囲気を漂わせている。
「あら、どうもどうも~。こちらへ掛けてくださいな。今日はどうされましたか?」
「先生俺ね、女房に亀頭のエラにあるブツブツが気持ち悪いって言われるんっスよ」
「あ~アレねぇ。女性からするとねぇ、お口でしてあげるときはスゴイ気になるだよねー」
「やっぱそうなんっスか。俺は舐めてほしいのに奥さんぜんぜんフェラしてくれないんっスよ。なんとかなりませんかね」
「ナルホドですね~じゃあ後ろの診察台に寝転がってズボンと下着を下ろしてくださいね。ちょっと実物を見させてもらいまーす」
サイズにも形にも自信のある営業マンは体育会のノリなのか躊躇もなくいちもつを女医の前に晒す。ボロンとこぼれたペニスは確かに人並み以上のサイズと平常時でもエラの張った亀頭をしていた。
カスミ先生はゴム手袋をはめた両手でズル剥けの先っぽをつかみ、カリにそって並ぶブツブツをじっくりと観察している。カンナ先生があまりに顔を近づけるので彼女の息遣いがそのまま営業マンのペニスにやわらかく吹きつけられる。
「…あー、いくらなんでも若い女の先生にそんなまじまじ見られると、さすがに興奮するっス。デカくなったらスンマセン」
「大丈夫だよぉ~、おっきくなったほうがよく見えるし。これはなかなかグレイトなチンチンだねぇ、やっぱ美しい形のペニスが一番だよ、単純なおっきさじゃなくてさ。 で~も~このブツブツは私もフェラチオしたくないなぁ」
「なんとか俺のムスコをつるつるきれいにできませんかね?」
「まーかせなさい。こんな陰茎小丘疹ぐらい、私にかかればレーザーメスでチョチョイのチョイなんだから。 よければ今スグやる?」
「頼もしいなあ先生、若くて綺麗だし。俺もうお願いしちゃうっス」
「それじゃあ眠っている間に貴方の亀頭のブツブツを綺麗にしてあげるねぇ、数字を10まで数えてくださーい」
「了解っス! いーち、にー、さー…んむにゃら、ふがふが」
彼は少し子供っぽく素直に3まで数えて眠りに落ちた。
営業マンは診療所のカビ臭い匂いとはちがって、清潔なアルコールと家で嗅いだ覚えのある女性用のフローラルなシャンプーの香に鼻をくすぐられて目を覚ます。
「おはよ。アナタ気が付いた?」
「うー、いったいどこだ…ここ」
「駅前にあるメンズクリニックよ、覚えてないの?」
「すまん、なんか頭痛くて、ってあれ、なんでオマエいるんだよ」
見慣れぬ病室に見知った嫁の顔を発見した営業マンは驚いて目を見開く。
「わかんないけどこの病院から緊急連絡がはいったんだもん。驚いてすっとんできわよ、なんなのいったい、こっちが聞きたいよ」
「あー…へへへっ、ちょっくら股のムスコの整形手術をね…」
「何それ! そんなお金あったらワタシを旅行にでも連れてってよバカ」
「オマエが気持ち悪いって言うからじゃねえかよ、ちょっと見てくれよ、なっ?」
「もうしょうがないなぁ、そんなの気にしなくていいのに」
妻はベッドの仕切りカーテンで夫婦二人だけの即席空間を作ると、足もとから寝具に潜り込み夫のペニスの仕上がりを確認することにした。
「キャアアアアアアアっ!!」
「なんだよ大声出して、びっくりするじゃねえか、どうしたオマエ?」
「ねえアナタっ、アナタのおチンチン半分なくなってるわよ!?」
「はあああああああ!?」
股間の切り株をうつろな目で眺めたままうなだれて意気消沈する夫を見かねた妻が、クリニックの美人院長を呼んで説明してもらったところ、営業マンが運び込まれたときには彼の亀頭の先端から半分ぐらいまでが重度の熱傷でボロボロになっていたそうだ。仕方なく根元から半分ぐらいを残してペニスを切断するしかなかったとのことだ。最大限の長さになるよう努力したと美人医師は夫婦に切々と説いて聞かせた。
「あーあ、またカンナお姉ちゃんから電話で叱られちゃった。まさかあんなチンチンが黒焦げになるとは思わなかったな~。ドンマイ、ドンマイ自分」
午前診のうちに二本のペニスを使い物にならなくしたカスミ先生は、焼き肉弁当のケータリングでランチを済ませて満腹になり、フルリーフのオレンジペコティーをアイスで淹れて飲んでいるところだ。午後一番で精巣除去を希望する患者の手術が入っている。アイスティーにたっぷりガムシロップを溶かして脳に栄養を送り込むと、心地よい午睡をとりたくなる眠気が彼女を襲ってきた。
「カスミ先生、午後の手術のカルテ置いておきますよー」
「あ、はーい。むにゃむにゃ、ありがとう~」
彼女はカルテを広げて机に突っ伏すと、すっかり眠りこけてしまった。こうなると看護師に揺り起こされるまで目は覚まさない。その頃、待合室には包茎と早漏で悩むこの春大学デビューしたばかりの童貞男子学生が、午後診よりだいぶ前にフライングでやってきた。彼はカチコチに緊張して、どう相談しようかと頭がいっぱいなので、看護師の名前の確認にもハイハイと生返事をしてしまうのだった。
「カスミ先生、ヨダレたらしてないで起きてください! せんせったら。カンナ先生がもう来ちゃいますよ」
「う~ん。えーもうそんな時間?」
男子学生はすでに姉のカンナにより麻酔がほどこされ酸素マスクをつけて手術台の上ででこんこんと眠っていた。カスミは姉のカンナに泣きついて助太刀にきてもらうようお願いしていたのだ。
「それでは、これより精巣除去を行います」
姉のカンナがこれから行われる術式を宣言する。妹のカスミときたらまだ寝惚けまなこだ。
「あれぇ、こんな子だったかなぁ。むにゃ、まあこんな感じの若い子だったのは確かだ、むにゃ、うん間違いない…はず~」
眠たくて目をこすりたいのを流石にそれはダメと我慢しながら、カスミは姉の手術の手際の良さに見とれていた。陰茎の裏筋と陰嚢が交わるあたりに数センチだけメスを入れる。姉の細くて繊細な指がキューっと陰嚢をしぼるだけで男子大学生の睾丸は簡単に外に飛び出してきた。
この小さな玉が男の子なんだなとカスミはいつもその儚さにちょっと悲しくなる。今日でこの子はもう精子を作れなくなっちゃうんだ。
電気鉗子で精巣がすこしずつ焼かれながら切除の準備が進む。糸と小さなハサミに持ち替えた姉の指は手品みたいにスルスルと管の始末をしていく。ホントに無駄がないキレイな動きだなあと感心する。
ついに大鋏に持ち替えた姉の手がチョキチョキと2回挟むだけで、大学生の睾丸は切り取られてしまった。バイバイ、右玉くん、来世は子孫を残せるとイイね。
さあ、左玉くんは私の番。電気鉗子で男性の存在理由を焼き、私はその睾丸の最後の鎧も剥がしてしまう。たどたどしくもたつく糸で精索を結んでからの、ハサミでジョキンっ!私はお姉ちゃんとちがって一太刀で睾丸を切り離してみた。けっこうコレが快感なんだなぁ。
「ハアっ、ハアっ、すみませんっ遅れちゃいました! ハアっ、なんかいよいよだと思うと怖気づいちゃって…なかなかビルに入れなくて。ごめんさい、今からでも大丈夫ですか!?」
診療所の手術室で一人の男性が生殖上のオスを止めた頃、息を切らして雑居ビルの階段をのぼってきた男子大学生が受付の看護師に訴えた。そう、彼こそが精巣除去を予約していた本人だったのだ。童貞大学生は自分の子種袋がからっぽになったことは知らないまま、今はまだスヤスヤと眠っている。
「まさか、患者さんをまちがっちゃうなんてびっくりしたなぁ~。この子も起きたらビックリするだろうなぁ」
カスミ先生は童貞大学生のペニスの鈴口に導尿カテーテルをグリグリとねじ込みながら呟いた。逆流しないようにベッド柵に尿パックをかけてほっと一息。
「ふぅ、でもまあおチンチンは間違って切らなかったじゃん! ドンマイ、ドンマイ自分」
《2》「姉妹のお茶会」
「それで、このおチンチンはどういうことなのカスミちゃん?」
診察時間が終了したメンズクリニックで、経営者である姉妹医師が軟水で丁寧に淹れられたダージリンのポットを挟んで座っている。妹のカスミは姉のカンナから問い詰められて緊張の面持ちだ。
テーブルの上にはロイヤル・コペンハーゲンのティーカップとポット、そして膿盆の上に横わたる男性器一式が置かれていた。ポットから最後のゴールデンドロップの一滴が注がれカップに琥珀色の波紋をつくった。
「ごめんなさいカンナお姉ちゃん…患者さんがもうおチンチンいらないって言うから」
「この患者さんはただの早漏予防と亀頭増大をご希望の方だったはずでしょ、性別適合手術でもないでしょうに。それにこんなそのまま切り取ったら去勢じゃないの。カスミ!」
ポンコツ医師である妹の不祥事を普段から尻ぬぐいしている姉のカンナも、さすがに亀頭増大の注射をしただけの患者を去勢したことには納得がいかない。普段はしない呼び捨てをするほど怒り心頭だ。
「私だってちゃんと説明したんだよ、早漏の予防っていうのは鈍感になることだって。素材の注入で亀頭は大きくなるけどそのぶん刺激には鈍くなるって」
「患者さんは何か不満があったのね」
「そうなの、亀頭はおっきくなったけどまるで分厚いコンドームの上から擦っているみたいになってぜんぜん気持ちよくなくなったらしいの。奥さんもおっきくなった亀頭が痛いから止めてほしいってエッチも断られたんだって」
「そっか、患者さんが想像していたのとは違ったんだね」
妹のカスミは紅茶をひと口ふくみながら切り取られたペニスの立派にふくらんだ亀頭冠をつまみあげる。
「こんなに立派なでっぱりをつくってあげたのにな。われながら私にしては上手に出来ていると思うんだけど」
姉も顔を近づけてその妹が良くできたと自賛する仕上がりをチェックする。
「ふーん、確かにちゃんと左右対称に膨らんでるし、良くエラの出っ張りがつくれてるね」
「ね? そうでしょう? よくできてるでしょ?」
普段は失敗ばかりのカスミは姉に褒めてもらおうと必死だ。
「でね、患者さんすごく落ち込んじゃって…もう男はやめたいって言い始めて」
「なんでそう極端な話になるのよカスミちゃん。おかしいじゃない」
「それがそうでもないんだよお姉ちゃん。なんかさ、俺はもう気づいちゃった! みたいな?」
「いったい何によ」
不出来な妹のわりにはよく出来た亀頭増大の仕上がりに感心を示した姉のカンナだったが、まだ去勢の暴挙は許していない。
「その患者さんの男性が言うにはね、男ってどうしておチンチンをこんなにしてまで女性を悦ばさないといけないのかって急にバカらしくなったんだって」
「ふむふむ、続けてカスミちゃん」
「要はさ、結局セックスを楽しんでるのって女じゃんって話。私たちって前戯で男の人に舌でクリトリスを舐められるだけで何回もイケるじゃん。そのうえペニスで奥まで突いてもらえばいろんな性感帯が刺激されて中イキもできるじゃん」
「まあ、そうね。女性器はそういう造りになってるから」
「でもさ、男の人って亀頭と裏筋の海綿体あたりにある神経だけでしょ。必死に腰をふって私たちが何回もイク間もずーっと射精するのを我慢してるわけでしょ。たしかに前立腺や射精管もあるけど、わざわざ汚いお尻を触ってなんかもらえないじゃない普通は」
「そうね、ペニスで子宮に射精するのが男の人の本当の仕事だからね」
「そうなんだよ! だから別に男の人ってほんとは早漏でいいんだよ!」
妹のカスミは急に声を大きくして真理に到達したかのような顔をする。
「それなのにさ、真性はともかくとして包茎を切ってまでして亀頭を鈍感にしてだよ、そのうえ人工素材まで注射してもっと鈍感にするなんてワケわからないんだよ」
自分たちが何で食べているのかを全否定するかのような発言に姉のカンナは少々あきれ顔になっていく。
「カスミちゃんが言いたいことはわかるわよ、でもそうやって女性を支配するような気分になるのが男性たちの興奮を高めているんじゃないの?」
「だ、か、ら、興奮するように仕向けているのは私たち女であって、そうすることで気持ちいいのも私たち女だけなんだよお姉ちゃん」
「…まあ、そうね」
妹の力説に出来のいい姉も気おされ気味になる。
「この去勢したおチンチンの患者さんはね、そういう仕組みの不公平さに心底嫌気がさしてしまったんだって。だからもうおチンチンはいらない、切ってほしいって言われたんだよ」
「でも、こんなに切っちゃったらもうペニス反転法もできないし、さすがにわざわざ腸を切り取ってまで人口膣を造るつもりもその男性にはないんでしょう?」
「あたりまえだよお姉ちゃん、何言ってるのよ。べつにこの男性は性転換したいわけじゃないんだから。心も体もいたって普通のストレートな男性だよ」
普段はお説教ばかり受けているカンナはここぞとばかりに姉を諫めた。
「去勢でよかったんだよお姉ちゃん。この患者さんはね、もうセックスで女性に尽くす男性っていう役割にうんざりしたんだよ。彼は解放されたかったんだよ」
やたらと自信たっぷりの妹に言い伏せられた姉は手術の同意書だけ確認して渋々不出来な妹の言分を認めることにした。
妹が帰った後、茶器の片づけを休憩室の小さな流しでし終わると、姉は出がらしになった茶葉と一緒にこの世ではもう用済みになったペニスと睾丸を生ごみの黒いビニール袋へ捨てた。
「…そのとおりよカスミちゃん。男は種と富と快楽を生み出すためだけの生き物なのだから」
「太く硬いペニスも、エラの張った亀頭冠も、彼らの舌も指も腰をふる体力も、ぜーんぶ…私たちのものよ。男のためなわけないじゃない」
メンズクリニックの辣腕美人女医が真理を分かっていないはずはなかったのだ。これからも数多の男たちがペニスを大きくしたいと姉妹の病院を訪れることだろう。自分たちに与えられた微々たる快楽報酬すら捨てて、本能に騙されているとも知らずに。
《3》『ED治療の末路と絶望』
『奇跡の咆哮マキシマムエンペラー』
『突撃一発ボンバードラゴン』
『メンズエクスカリバーゼット』
『・・・_ カチ、カチ、カチ
画面で明滅するカーソル。メンズクリニックを経営する姉妹医師のうち「ポンコツの方」とスタッフに裏で揶揄されているカスミ先生はパソコンと睨めっこをしてキーボードを叩いている。
「カスミ姉ちゃん、なんかいい名前思いついた?」
「う~ん、私の天才的な頭脳であっと言う間に閃きが降臨すると思っていたけど…ED薬の商品名って意外とありきたりになっちゃうんだよなぁ…」
「どれどれ…あーこれは無いわ。カスミお姉ちゃんいつもオジサンの患者さんばっか相手しているから頭のなかまで毒されてるんじゃないの?」
「もうっ、ツバサちゃんたらヒドイんだから」
姉妹医師には一回りほど下の妹がいた。三女のツバサである。彼女は8歳の頃には微積分を理解し読む本は全て映像で記憶していった。ポンコツ次女のカスミとて医者の端くれ、決して勉強ができないわけではないのだが、三女の天才ぶりにはいつも良いオモチャにされている。それに気付かない程度にはお人よしなのが彼女の美点なのだ。
「オリジナルで勃起不全のお薬を作っちゃうなんてツバサはすごいなぁ。テスト的な治験は私のクリニックですればいいよ、任せて」
「ありがとカスミお姉ちゃん。カンナお姉様は怖いから相談できないし助かる」
ツバサは国内最高学府で薬学の博士号を取得したのち、理化学で最も権威のある研究所でプロジェクトを担うほどに成長した。彼女は中国で漢方植物にまつわる新たな成果をあげて先日帰国したばかりだ。
「この試作ED薬はもう試したことはあるの?」
「濃度を落としてデチューンした薬を同僚のポスドク男子に飲ませたよ」
「それでどうだった?」
「まあ、若いしEDでもないから試験にはならないけどさ、もう狂ったように腰をふってきたかな」
「腰を…って、ツバサちゃんその子とエッチしたの!?」
「そりゃあ女としはセックスして試さないことには効果のほどがよく分からないし。彼ったら賢者タイムなしに3回連続大量射精してたよ。ドピュ、ドピュ、ドピュ―って。セフレとしてはあり寄りのありだったよ」
「お姉ちゃんなんかショック…」
「カスミお姉ちゃんもまだまだ若いんだからもっと性を楽しんでよ。サンプルあげるから彼氏とか彼氏未満とか友達以上とかで試してみて」
「ま、まあ…そのうちね」
随分年下の幼い妹のほうが自分よりよほど男性経験が豊富であろうことにカスミは忸怩(じくじ)たる思いだ。
「そうだファルシオン…勃起した男根をファルスって言うじゃない? あとほら、ときどきゲームでファルシオンて名前の剣があるじゃん。ペニスと剣って戦闘態勢のおチンチンみたいでぴったりじゃない?」
「あ、いいかもそれ。お姉ちゃんもやればできるじゃん」
「そうよ、やればできる子なのわたし。フ〇ムソフトウェアの死にゲーかってクリアしちゃう女よわたしは、太陽万歳!」
「はいはい、両手を広げて太陽を礼賛しないでお姉ちゃん。そんなの一部の読者さんにしか分からないから」
カスミは妹に小バカにされていることには気付いていなようで、むしろこれが二人の微笑ましい通常運転だ。こうして勃起不全に悩む世の男性たちの間で後に伝説として語り継がれる薬の命名がなされたのだ。
ある日の診察室。凸守(でこもり)という珍しい苗字の50代サラリーマンがスラックスを脱ぎ下だけ晒して診察台に横わっている。豊富なライブラリーから彼の好みを選んでもらいVRヘッドセッドでポルノ動画も見てもらうのだが、太ったお腹の脂肪に埋没した彼のペニスはピクリとも反応しない。股間の形状は凸というより凹に近い。
「やっぱりダメです先生、ボクは役に立たない男です…」
人工乳房を揉んでもらったり、カスミ先生もローションで刺激したり、バイブレーターの振動を敏感な包皮小体、俗に言う裏筋にあてるのだがペニスはうんともすんとも言わない。いつまでもただの泌尿器であることをやめようとしないのだ。
「なるほどですね~、これは手強いEDです。前回の診察から一か月、処方したPDE5阻害剤を低用量で1日1回飲んでもらっても全く効果ないですね。朝勃ちもなかったです?」
「朝に息子が元気だった記憶は人生で一度もありません。中学生の頃に何度か夢精した経験があるぐらいで。精液で汚れて萎びたペニスしか見たことがないんですよ。こんな歳になっても、まともな勃起も射精もしたことありません…」
大きな溜息をついた彼は思春期に数回だけ経験したあのなんともいえない下着の不快感を思い出していた。陰毛と陰茎に粘りつく精液の気持ち悪さや情けなさといったら最悪だった。だんだんと鬱陶しい筋肉で無骨になっていく体に嫌気がさしていたところに、夜知らぬ間に溢れる大量の粘液。どうして男とはこんなに汚いのだと嘆いた頃が懐かしい。
今となればそれは自分の人生であまりに貴重な射精体験だったのだ。その後の人生で意識があるうちに勃起をすることは結局一度もなかった。どんなに卑猥なものを見ようと、どれだけ亀頭を擦ろうとも股の息子は反応しなかった。彼は射精に付随するあの切ない快感など味わったことがないのだ。
「ねえ先生、射精ってどんな気持ちなんでしょうね。ボクはそれが知りたくて仕方ないんです。せっかく男に生まれたのに…ボクは…ボクは…」
カスミは50年もの間一度もオーガズムを経験しない人生とはどんなものなのか想像がつかなかった。生来感じやすい彼女は休憩時間にトイレに籠り自分でクリトリスに少し振動を与えるだけでも軽い絶頂を味わえる。男性に舌や指で責められようものなら繰り返し何度もイッテしまい呆れられるほどだ。仕上げに硬いペニスでかき回された果てに訪れる深いエクスタシーは、女に生まれて良かったという多幸感に包まれて何十秒間もずっとイキ続けていると思う。
そもそも男というだけで、女のような快感を手に入れらないかわいそうな存在であるのに、目の前にいる彼は性交はもちろん自慰で射精したことすらないのだから。なんて憐れな生き物だろう。
「…凸守さん、もし同意書をもらえるなら試していただきたいお薬があるんです、説明を聞かれますか?」
「えっ、新薬でもあるんですか!? もう万策尽き果てたと思っていました。是非、是非ボクでよければっ」
「では詳しい者を呼びますね。ツバサちゃーん、説明おねがーい」
姉に呼ばれてやって来た三女は150㎝程度の小柄な体格に袖をまくり床に裾がつきそうな白衣を羽織り、その中にはデニム生地のジャンパースカートを着こんでいた。
「こんにちはオジサンさん、ワタシがクリニック顧問のツバサだよ」
ツインに編んだ髪と眼鏡に覆われた小さい顔と大きな目、ぱっと見小学生ぐらいにうつってもおかしくない。
「オジ…いやまあそうだよね。でもたまげた、小学生の娘さんが出てきたのかと思いましたよ。ツバサ先生ですか」
よく言われるんですと返す代わりに愛想のよい微笑みをたたえて三女は説明を続ける。
「ワタシはお薬専門の学者なんでお医者さんじゃないけどね。今日オジサンに試してもらうファルシオンってお薬はね、これまでの勃起不全治療薬とはちょっと違うんだ」
ツバサ博士によれば、新薬は前立腺や平滑筋周囲の血流を改善させる従来からの効果は踏襲しつつ脳への作用を付加したそうだ。脳にある性器の感覚刺激野を活性化する作用と、プロラクチン等の萎えるホルモンを抑制する二重の作用によって過剰に「賢者化」している男性の脳を解放する薬らしい。
「分かりやすく言うとオジサンの脳をメス化する薬」
「はあ、メス化…ですか」
「そう、EDに悩む人の脳ってね、男はいつも緊張してないといけないって抑圧してがんじがらめになってるの。それが普通の状態だって勘違いしてるんだ」
「わかる気がします。しかし、脳をメス化するなんて言われると変な気分ですよ、ボクは男なのに」
「その思い込みが良くないんだってオジサン」
治療はかなり濃度を低くしたお薬を点滴でゆっくり入れていくから安全であること、同意書にサイン頂ければすぐにでもはじめられることが伝えられた。
「試したワタシの同僚はもう連続でドピュ、ドピュだったよ」
人生で一度も意識のあるうちに勃起も射精もしたことがない壮年の男は、卑猥なオノマトペを発音する幼い唇に見入りながら固唾を飲む。同意書の注意書きには以下のように書かれていた。
・抑圧されていた脳が解放されて過度な興奮状態になると無意識に暴れてしまう可能性があります。
・上記の可能性に対処するため身体拘束を行います。
・その他予期せぬ症状が現れた場合は最大限の処置を行います。
危険があることは明らかだったが、男は気付けば署名をし終えていた。
「ごれで契約は成立ですね。では念のために体を拘束するね。カスミお姉ちゃんお願い」
「りょうか~い」
すっかり下働きモードになった姉のカスミ先生は凸守氏の手足を縛ったり、妹の指示通り薬剤の濃度を調整して点滴を作ったりとパタパタと忙しない。そしてお約束なのだが当然彼女は薬剤の希釈濃度を致命的なレベルで間違っているのだ。
「同意書には書いてましたけど…ほんとにボク縛られるんですね。不安だぁ…」
手の甲に針が刺されて点滴のルートがとられる。酸素飽和度のセンサーを指にはめ、脳波を測るキャップを被せ、心電図用の吸盤が胸に張り付けられた。ファルシオンの点滴が解放されて男の体へと落ちていく。
ト、トッ、ト、トッ、ト、トッ
ド、ドッ、ド、ドッ、ド、ドッ
ドグ、ドクッ!、ドク、ドクッ!、ドク、ドクッ!
「!?わわわ、あ?えっ?あああああああ!」
「凸守さん大丈夫ですか〜」
「オジサン、どんな感じ?」
目を見開き口も半開きにする男には二人の声も届いていないかのようで返事がない。彼はただ声を震わすようにして雄たけびをあげる。股間に全ての血と力が濁流になって集まって来る。経験したことのない感覚に凸守氏は襲われ彼は履き古したボクサーパンツの表面に染みをつくり男根を隆起させた。
「ぐぬおっ! うああっ、おおおおっ!! 来た、なんか来たあ!」
カク カク カク カク カク カク
「あぅっ、あぅっ、あぅっ、あぅっ、あううっ!」
カク カク カク カク カク カク
「ちょっと、ちょっとぉ。ツバサちゃんこれ変じゃない?凸守さん腰を浮かして痙攣しはじめたよ」
「チンチンめちゃくちゃ勃ってるじゃん。大成功だよ、苦しそうだからパンツ脱がしてあげてお姉ちゃん」
「もぅ、仕方ないなあ」
溢れ出すカウパー液の糸を引きながら下着を脱がされると、男は余計に腰を突きだしてペニスが何もない空間を必死に犯そうとする。それに合わせてキンタマも情けなく揺れている。雄々しい威厳など全くない。そんな男の様子に姉妹は兎の交尾を見ているような滑稽さと無様さ感じた。
ジン ジン ジン ジン ジン ジン
「ぐぅ、うおお、うううっ、うううう!」
ジン ジン ジン ジン ジン ジン
「響くぅ、チンチンが響くぅ! なんだぁ、なんなんだこれはぁ!」
「せつない、たまらん、せつなくてたまらん。気持ちが…」
ジン ジン ジン ジン ジン ジン
「気持ちいでしょオジサン。それはみんなが生まれたときから貰ってるプレゼントなんだよ」
「凸守さん気持ちよさそう。ツバサちゃんのお薬効いてよかったねぇ」
ジン ジン ジン ジン ジン ジン
「気持ちいい? これが、気持ちいい? これか、これなのかあああっ!」
「はああああああっ! チンチン最高じゃないかあああ!」
カク カク カク カク カク カク
「胸が、鼓動が苦しい。もうっ、もうだめだ、なんだこれ耐えられないいい。出る、なんか出るうっ」
ドグン、ドクッ!、ドクン、ドクッ!、ドクン、ドクッ!
ドクンッ…
ドピュッ、ビュルルルルルルー、ビュポ、ビュポ、ビュッ、ビュ、ビュルルルルルルー!
「うわああああ! イッてる、ボクのチンチンがイッてる、気持ちいい、ぎもぢいいい、ぎもぢいいよおおお!」
ゴビュ、ブビュ、ビュルビュルビュルビュルビュル…
「いっぱい精子出たねオジサン」
「凸守さん大成功だねぇ。これだけ射精できたらって…アレ?凸守さん?でこもりさーん、聞こえてますかー」
「…きた、きたぁ、また、またきたああああっ、あ!」
ドビュウウウウウ、ビュルルルルルルー!
「ふぎ、ふぎいい、ふぎいいいいいっ」
ビュッ、ビュッ、ドプドプドプドプドプ…
想定量を遥かに超える濃度で体内に流された薬剤は男の脳を既に破壊していた。異常な発汗と開く瞳孔、ペニスは別の生き物のようにいきり勃って律動し、前立腺周囲の筋肉は収縮を繰り返してポンプのように体液を吸い上げては吹き出し続ける。カスミ先生があわてて点滴の針を抜去したものの収まる気配はない。
「止まらない、止まらない、とまらないよぉ、あひいいいい!」
カク カク カク カク カク カク
「どうしようツバサちゃん、凸守さんもうずっと吹き続けてる。潮と汗で急速に脱水してるよ。心電図もヤバい。基礎疾患はないけどこのままじゃどうなるかわからないよ」
「脳波も異常だね。仕方ない、カンナお姉様を呼ぼ」
「ええっ! そんな私たち怒られちゃうって」
「仕方ないでしょ、カスミお姉ちゃんだけじゃさ」
三女にたしなめられ、しぶしぶ納得した次女は向かいのビルへ連絡をとる。診察時間中に自分のクリニックから呼び出された姉はその時点で既に激オコ状態だ。
「いったい何をしたらこんなことになるのっ、カスミちゃんっ、ツバサちゃん!」
「ごめんなさいお姉様」
「お姉ちゃんごめんなさ~い」
「ゴメンでは済みませんっ。このままじゃ心筋が先か脳血管が先か…ペニスの海綿体かって破裂しそう。副交感神経が暴走してる。アンタゴニストになる薬剤はないのツバサちゃん」
「カンナお姉様がくるまでに可能性のある拮抗薬は試したけどダメみたい。これはワタシの予測だけど、メス化した脳がオスの体に拒否反応を起こしているんじゃないかと思う」
「なるほど~、流石ツバサちゃん賢いねー」
「感心してる場合じゃないのよカスミ。そうなったらホルモン治療も始めないとだめね」
「それならもう凸守さんのおチンチン取っちゃったらよくなぁい?」
「カスミ、あなたまた…患者さんにそんな無茶苦茶なことできるわけないでしょっ」
「カンナお姉様、そう無茶でもないかも」
「ツバサちゃんまでカスミの突飛さに巻き込まれないでよ」
ツバサ博士曰くこのまま代謝が肝臓で行われて薬剤が体内から消えても、脳のメス化は不可逆的変化で回復しない可能性が高く、そうするとペニスや睾丸、男らしい身体というのは脳が異物として認識して自己破壊が起こるかもしれないとのこと。決断を迫られた長女のカンナ先生は男性器の全摘除を決心した。そして、せめてもの補償として最高の造膣手術も合わせて行うことも。
「決まったわね。そしたらカスミもツバサも手伝ってちょうだい。彼のお股に割れ目の傑作を造ってあげましょう」
「はい、お姉様」
「りょうか~い、お姉ちゃん」
方針が決まれば血のつながった三姉妹の結束と手際は早い。今なお射精と潮吹きで消耗を続ける凸守氏には水分補給の点滴と腰椎麻酔が施された。
「ハアっ、ハアっ、先生ボクもう…ほんとにダメです。目の前が真っ白になってきて」
ドビュ、ドビュ、ドビュ。
「安心して下さい凸守さん、これから諸悪の根源を取っちゃいますから。わたくし院長のカンナと申します。突然ですが執刀医をさせて頂きますのでよろしくお願いします」
男は朦朧とする視界で三姉妹を捉えようと試みるがぼやけてしまってうまくいかない。感覚のない下半身で間欠泉のように体液が噴き上げ続ける。今にも破裂しそうなペニスが苦しそうに悶えている。
「ボクのチンチン、あんな大きくなって…でも、もう爆発しそう」
ドビュ、ピュッ、ピュッ。
「大丈夫、爆発する前に海綿体を切り取りますからね」
「切るって、え?え? チンチンですか、僕のチンチンのことですか?」
ピュッ、ピュッ、ビュルルルルー。
「はいそうです。もう限界なので早急に切り取ります。長さでいえば三分の二ぐらいです。亀頭とその下を少し残すぐらい。睾丸もとります」
「ちょっと待ってくださいカンナ先生、いやですよっ、ボクはチンチン切られるの嫌ですよ!キンタマもだめです、絶対だめですっ」
ビュー、ビュルルルル。
「凸守様、麻酔で感じないでしょうがまだ射精は続いています。このままだと脳と身体がちぐはぐになって機能不全になります。申し訳ありませんが命を守るための緊急手術ですのでご了承ください。ツバサちゃん、デザインするからマジックとって」
「はい、お姉様」
カンナ先生は細い黒マジックで男の陰嚢の裏側に逆U字型のラインで墨を入れていく。陰嚢は睾丸という男の存在価値が詰まった最重要器官の守り手だ。彼女はそのほぼ全体をめくり剥がすために切り取り線を描いていく。ペン先はさらにペニスの裏筋までも遡る。女医は包皮小体よりはやや下まで切り開く予定をつけた。
「先生、先生! 何してるんですか、感覚がないからわからない。いったいボクのチンチンに今なにをしてるんですか!?」
「まだチンチンじゃないですよー。今はカンナ先生が凸守さんの陰嚢の皮を切って裏からぺらっとめくるところです。あ、精巣が2つとも見えましたよー」
「精巣って、キンタマですよね? ぺらっとめくるってそんな、そんな。キンタマ見えるってことはもう外に…」
ビュル、ビュルビュル、ピュ、ピュ。
「出てるよオジサンのキンタマ。意外と大きいじゃん20mlはありそう。射精してる途中のキンタマはワタシ初めてみた。なんか勝手に動いて変なの」
「カスミちゃん、ツバサちゃん、左右それぞれの精索を鉗子でクランプしておいてちょうだい」
「はい、お姉様。オジサン、今から右の精子の管挟んで止めるからね」
「私は左だね~、カッチっとな」
睾丸に繋がる命綱を次女と三女がそれぞれ両側からしっかりと止血する間に長女が素早く結紮して切断の準備をする。
「凸守様、それじゃあ今から睾丸を切り離しますね」
「だめすよ! 先生、ダメですって、キンタマは男の証なんですよ、とらないで、とらないでえええ!だめえええっ」
ドピュッ、ビュルルルルルルー、ビュポ、ビュポ、ビュッ、ビュ、ビュルルルルルルー!
「きゃあ、いっぱい顔にかかったよぉ~」
「ワタシもベトベト」
「二人とも何言ってるの、凸守様の射精をちゃんと受け止めてさし上げなさい。私たちの顔や身体に精液がついたくらいで何ですか、患者様に失礼でしょっ」
手術着や手袋、マスクまで白濁液でネバネバになった二人は長女に諫められて患者に謝罪をする。
「大変失礼しました凸守様。こちらがたった今摘除した睾丸ですよ。ご覧ください綺麗に取れました」
長女のカンナ先生はニッコリ笑って膿盆の上にのった睾丸を男の目の前に差し出した。
「わああああ! ボクのキンタマ、それボクのキンタマああああ!」
ゴビュ、ブビュ、ビュルビュルビュルビュルビュル。ピュッ!ピュッ!
「オジサン落ち着いて、そんなに種ナシ汁出さなくてもすぐおチンチンも切ってもらえるから」
「そうだよ~凸守さんリラックスしてねー」
「では、海綿体切除にうつります」
メスが裏筋を切開していくとペニスの本体が現れる。むき身になった生身の陰茎には独特の印象がある。それはまさに肥大化し尿道を包んだクリトリスそのものなのだ。
「男の人のおチンチンって結局、私たちのクリちゃんなんだねぇ」
「ほんとだ、不思議な感じする」
「二人ともお喋りしてないでちゃんと手伝って、尿道を切り離すよ」
陰茎軸から尿管が剥離され海綿体も亀頭と必要最低限の切り株を確保して摘除された。亀頭は陰核と同じようにこれからはただ快楽刺激を受け止めることのみに使われるのだ。
「睾丸も海綿体もなくなってだいぶスッキリしてきましたよ凸守様。たくさんスペースが出来たので膣もつくれます。もともとペニスを包んでいた包皮の根元ぐらいにオシッコを出すための穴を開けさせてもらいますね」
「ち、膣。ボクの体に膣? ボクはなに?ボクはだれ? 男の子で生まれたのに、男なのに、どうして、どうして…チンチンどこいったの、ボクのチンチンどこいったの…」
「オジサン女の子になっちゃうね」
「凸守さん、女の子もいいもんだよ。いっぱい奥の方を突いてもらえるんだよ。気持ちいいよ~」
「そうですよ凸守様、クリトリス化した亀頭のほかに、人工膣の終点に前立腺を配置することで挿入時に両方の快感を同時に得られるよう調整しますからね。任せてください。私、失敗しないんで」
会陰を剥離して出来た空間を元ペニスと元陰嚢の皮膚をつかってカバーし筒状の空洞をつくる。さらに、カンナ先生はお詫びもかねて腕を振るった。太ももの内側からとった皮膚も活用して自然な大陰唇や小陰唇さえも再現したのだ。
「うわあ、カンナお姉ちゃんやっぱり上手」
「お姉様、流石です」
「お疲れ様です凸守様、仕上げにこのディルドを膣に入れて穴を成形しますね。予想よりペニスも大きくてらっしゃったのでしっかり深さがつくれました。これなら十分男性のペニスを受け入れられますよ」
男はそれを聞いて溢れ来る涙を抑えられなかった。
「ボクは、ボクは…女の子が好きなふつうの男です先生。ふつうの、ふつうの男なんです…」
「ご心配はありますよね。大丈夫です、アフターサポートもお任せください。なかなかご自身では痛みがあって難しいダイレーションも私ども三姉妹が責任をもって対応します。凸守様の膣穴を広げるため、私どもペニパンを履き誠心誠意腰をふらせて頂きます」
「そうだよ、オジサン心配しなくていいよ。ワタシが亀頭クリトリスいっぱい擦ってあげる。亀頭攻めってくすぐったくて限界あったでしょ?女の子はあれを何度も突破できるからね。一緒にがんばろオジサン」
「私もずっこん、ばっこん腰ふって前立腺の中イキ教えてあげる。射精とちがって女の子イキにはコツがあるからね~。じっくり教えてあげるよー」
「まあ、二人とも患者さん思いですこと」
その後、凸守氏が新しい身体と性別を受け入れられたかどうかは定かではない。新開発のED治療薬ファルシオン、よろしければ貴男もお試しになりませんか。メンズクリニックで特別にご処方致します。
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投稿:2022.10.30更新:2023.02.07
《1》メンズクリニックの姉妹医師 《2》姉妹のお茶会 《3》ED治療の末路と絶望
著者 ほねっこ様 / アクセス 3725 / ♥ 23