聖美女学園.ー本編抄
杏里はさも当然という口ぶりで百合に言葉を返した。
「そ、それは・・・・そうでしょうけど。あまりオナニーすぎるとお勉強に集中できないのでは」
百合はあまり我が子の自慰行為に対して無理解だった。子供は二人もうけたが、上は女の子で男の子を育てるのは初めてのことであった。それに由紀が通っていた高校も女子高、大学も女子大だったので、異性とのかかわりはなかった。しかも厳格な女子高校で、校則も教育方針も厳格で、いつしら自慰行為は淫らで不道徳なものという概念が百合の中で出来上がってしまっていた。もちろん、百合自身もオナニーにふける経験などほとんどなかったといっていい。
「そういうことを含めて、当学園ではお勉強に集中できる環境を整えて、指導も厳しく行ってまります。ご心配はいりませんわ。ただし、いくつかご了承いただきたいことがありまして」
杏里は数枚の書類を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは?」
「要点のみ申し上げます。まず、入学されたら寮に入っていただきます。三年間は全寮制ですので、できるだけ外部との接触を断ち切らせてもらいます」
「はい、そのことは聞いておりましたので」
不安げな表情を浮かべながら百合は頷いた。
「次に入学しますと、すぐに制服に着替えていただきます。基本は学園と寮にいる間は制服で過ごしてもらいます」
「はい、わかりました。着替えの服とかズボンなどは用意しておく必要がありますか?」
「いえ、ありません。当学園既定の制服と下着をご用意いたします。ただし、ズボンではなくスカート着用となります」
杏里はさも当然というようにさりげなく百合に伝えた。美しい目元がキラリと光った。高圧的な笑みのようなものが頬にあふれた。
「ええっ、ス、スカート・・・・ですか! 男の子なのに」
百合は驚いて聞き直した。どういうことなのか、百合には理解できなかった。
「はい、学園の制服ですわ。ここでは女子も男子も同じ服装で過ごすことになっています。お子さんには襞スカートをはいていただきます。下着も同様に・・・・」
「し、下着も・・・・ですか?」
百合の表情が一瞬こわばった。圭吾を女装させるということなのか。
「はい、どこかおかしいですか?」
杏里の表情は冷静そのものだった。女装させるのがさも当然といったふうに百合に言い含めた。
「いえ、でも・・・・それじゃ圭吾は」
「心配なさらなくてけっこうです。お母さまがご心配しておられたオナニーの管理もすべてさせていただきますし、お勉強に集中するためだとお考えください」
杏里の威厳ある言葉に百合はひるんだ。我が子のことが心配にもなった。この学園に預けていいものかどうか迷いを生じた。
「あと、もう一つ」
さらに杏里は百合に残酷な言葉を投げかけた。
「女子高校生の恰好をするといっても、お子さんは男の子に変わりはありません。ただ、この学園の指導方針に逆らったり、言うことをきかないケースもありますので、それが続くようですと去勢もという手段もとらせてもらうことも頭の片隅に置いてください」
「ええーっ! きょ、去勢ですって。そ、そんなこと」
「受け入れられないとでもおっしゃりたいのでしょう」
まるでか弱い人間を尋問するように杏里は残酷な言葉を投げかけた。
「いえ、そういうわけじゃ」
「奥さま、ご安心ください。去勢などめったに行いませんから。ほとんどの男の子はスカートをはかせるとおとなしくなるものですわ。万が一のために申し添えたまでですから」
「は、はい。よろしくお願いします」
百合はもはやこの学園に息子を預けるしか選択肢は内規がない気がした。というよりも、学園長の杏里の言葉と態度に、その圧倒的な威圧感に逆らうことができなかったのである。
「では、ここにサインしてください」
杏里は数枚の書類をまとめて百合の前にそろえた。百合は言われるがままにペンを握りサインした。これで悪魔の計略は完了する。わが愛おしい息子にどのような運命が待ち構えているのか、陰獣たちが舌なめずりしながら待ち構えている閉鎖空間へ我が子を送り出す底知れない不安。すべては杏里の嗜虐的な快楽のためのあわれなペットとして。