嗜虐の獣
朝霧あやかは幼い頃から性的好奇心が旺盛であった。
自分には存在しない器官、男子の性器に対して強い関心があった。
父親も兄弟も居なかった彼女が、初めて異性の性器に触れたのは、小学三年生の時。
クラスの中で、女子から最も人気の高かった虎太郎君。あやかの初恋の相手でもある彼は、女の子のように可愛い男の子だった。
あやかは誰も居ない放課後の教室で、彼に、性器を見せて欲しいと頼み込んだ。
「虎太郎くんの、おちんちん、見せてほしいの。……おねがい」
「え?……いやだよ…。はずかしいもん…」
あやかの突拍子もない言葉に、虎太郎は目を丸くし、そして顔を赤らめた。
「どうしても見たいんだけど、……駄目?見せてくれたら、わたしも見せるし…」
虎太郎は少し考えた後、首を横に振った。
「………うん。…やっぱりダメ。僕、好きな子もいるから…」
「あ、……そうなんだ…、ごめん。…それじゃ、さいごにお願いがあるんだけど、うしろ向いたまま、両手をこっちにだしてくれる?」
「あ、うん。いいよ」
何も疑うことなく、虎太郎は素直に従った。あやかに背を向け、両手を背中側へと回す。
あやかは虎太郎の両手に、用意していた手錠を素早くはめ、後ろ手に拘束した。
「あやちゃんっ!?なにしてるのっ?もうっ!はずしてよ!」
あやかの予期せぬ行動に、どこか猟奇性を感じた虎太郎は、拘束を解こうと必死にもがく。
あやかは冷静に、暴れる虎太郎の大切な部分を蹴り上げた。
「あっ!!?」
的確に睾丸を蹴り上げられた虎太郎に、重苦しい痛みが襲う。
太ももをきつく閉じ、身を屈めた姿勢で、震えながら必死に痛みと戦っている。
「……はぁっ……はぁっ……」
健気な姿にあやかの心がときめく。
「大事なところ蹴ってごめんね、虎太郎くん。でも虎太郎くんが、おねがいきいてくれないからだよ?」
あやかは、きつく閉じられた虎太郎の太ももを無理やりこじ開け、半ズボンの裾からパンツの中へと手を差し込んだ。
虎太郎の、苦しみの渦中にある二つの睾丸が、あやかの手に、直に捕らえられる。
「だめっ!?やめてっ!おねがいっ!」
異性に初めて陰部を触られた動揺と、痛みへの恐怖で、虎太郎は叫んだ。
「これからわたしの言うこと、ちゃんときいてくれたら、もう痛いことしないよ?」
あやかは、顔を紅潮させながら、汗ばんだ、柔らかい陰嚢をくりくりと優しく揉み転がす。
「っ!……うん。きくから、もうやめて…」
「ありがとう。……それじゃあ、虎太郎くんもわたしのおねがい、きいてね?」
あやかは陰嚢から手を離し、手のひらに残った虎太郎の性の匂いを嗅いだ。
あまり、清潔とは言い難い小学生男子の陰部。
蒸れた、強めの匂い。
しかし、あやかはそれを臭いとは感じない。
寧ろ、魅惑的な香りだった。
「あっ、かがないでよっ?」
恥ずかしい場所の匂いを嗅がれ、虎太郎が顔を赤らめる。
(虎太郎くん、かわいいっ!)
恥らう姿がとても可愛く、もっといじめたくなる。
「ごめんね。でも、いい匂いだからだいじょうぶだよ。」
あやかは虎太郎のズボンを一気に下ろし、下着に手をかける。
「あやちゃんっ、何するのっ?」
「いうこときいてくれるんだよね?おちんちん見せてもらうけど、もう、あばれちゃだめだよ?」
ゆっくり、ゆっくり、反応を楽しむように下着を下ろしていく。
幼い陰茎のつけ根が覗く。
虎太郎は恥ずかしさに、ぎゅっと目を瞑っている。
「……見ちゃうね」
あやかは太ももの下部まで一気に下着を下ろした。
小学生の、穢れを知らぬ愛らしい性器がぷるんと外気に晒される。
(ああ……これが……虎太郎くんの……)
「見ないでぇ……」
あやかは激しい興奮を隠しながら、幼い陰茎を指でつまみ、その柔らかい感触を楽しむ。
虎太郎の身体がビクっと反応する。
(ああ、かわいい……)
様々な方向へと引っ張ったり、陰茎と陰嚢を掌で包みこみ、優しく揉む。
視線を虎太郎の表情へ向けたまま、局部へと顔を近付け、男の子の匂いと、恥らう反応を同時に楽しんだ。
そして、小さく、愛らしい陰茎を、ぱくっと口に含んだ。
「あやちゃんっ!?」
小学三年生の男子にとっては、あまりにも異常な行動に、虎太郎は衝撃を受ける。
あやかは口に含んだ陰茎を、飴玉を舐める様に、口の中で転がし、味わった。
「やぁっ……やめてよ、へんだよ……あやちゃん」
存分に味を堪能した後、あやかは口を離した。陰茎から唾液が糸を引く。
「あっ……」
初めて異性からもたらされた度重なる刺激に、虎太郎の陰茎が、性の反応を見せようとしていた。
あやかはそれを機敏に感じ取り、顔を近づけ、そこを凝視する。
今から起ころうとしている現象に、あやかの胸が強く高鳴る。
幼い陰茎が脈と共に、少しずつ、少しずつ、体積を増していく。
虎太郎は、恥ずかしい生理現象を止めようと必死に耐えようとしたが、しかし、意識してしまうことで、逆に充血を加速させてしまった。
グングンと角度を上げ、あやかの前で、成長した恥部を晒してしまう。
そこは、幼いながらも上を向き、僅かに血管が浮き出し、男の子を主張していた。
「うわぁ……」
「うう……もう見ないでよ……」
その様子はとても性的魅力に溢れていた。
しかし、あやかが得ていた知識とは異なり、彼の幼い陰茎は勃起した状態でも、可愛らしく皮を被ったままだった。
「ねぇ…、おちんちんの皮、むいてもいいかな?」
「あっ、だめだよ!……僕は、今むいてるとちゅうだから」
手を伸ばそうとしていたあやかを虎太郎が慌てて静止する。
「お父さんに言われて…、きゅうにむいたら痛いから、ちょっとずつむいてけって」
「うーん、そうなんだ……。それじゃ、しょうがないね」
無理やり剥いてしまいたい衝動に駆られたが、痛いことはしないと約束した手前、今回はしぶしぶ見送ることにした。
「それじゃ、これからはわたしが手伝ってあげるよ。虎太郎くんのおちんちん、いっしょに、ふたりでさっ。
おとなのおちんちんにしていこうよ」
「え……?これからって、……なにいってるの?」
あやかはスマートフォンを取り出し、勃起した虎太郎の陰茎を写真に撮る。
「っ!?やめてっ!!」
様々な角度から、顔も映るよう、何度も撮影する。
「あやちゃん!!ひどいよっ!写真とるなんてっ」
「写真だけじゃなくて、動画もとっておくね」
「やだっ!なんで……こんなことするの……?」
虎太郎は可愛らしい、大きな瞳に涙を浮かべる。
「今日のことは、だれにも言っちゃだめだよ?もし、ほかの人に言ったら、この写真とか、動画、クラスのみんなに見せちゃうからね」
虎太郎の目から涙が零れる。あやかの衝撃的な行動の数々に、虎太郎は恐怖を覚えた。
「あしたから、学校が終わったらわたしの家にきてね。うち、お父さんいないし、お母さんは夜まではたらいてるから……」
虎太郎は涙を流しながら、黙って頷くしかなかった。
「今日は虎太郎くんのおちんちん、見せてもらったから、明日はわたしのはだか見せてあげるね。
……いっしょに、みせあいっこ、……しよ?」
その様子を想像して、あやかは込み上げてくる感覚に、身震いした。
「……明日から、たのしみだね……虎太郎くん」
あやかと虎太郎の、稚拙で卑猥な逢瀬は、それから毎日のように重ねられた。
あやかにとって、夢のような時間。
しかし、それは長くは続かなかった。
彼を脅迫し、支配下に置いてから、およそ3ヶ月が経ったある日。
彼は何も告げることなく、転校してしまった。
朝のホームルームで、担任教師から突如告げられたその事実に、あやかの思考は停止した。
「……え、……なんで……?」
勝手に声が出ていた。
様々な感情が頭を巡る。
理由は正確には分からない。もしかすると、家庭の事情だったのかもしれない。しかし、彼はあやかに何も告げずに姿を消してしまった。その事実が、ポジティブな思考を阻害する。
考えがまとまらない。
ホームルーム終了後、あやかは担任教師から、生活指導室へと呼び出された。
……このタイミングだ。
何を指導されるのか、当然予感はあった。
知らずに握り締めていた掌に汗が滲む。
生活指導室の扉を開けると、気落ちした表情の母親が、既に椅子に座り、あやかを待っていた。
鼓動が乱れた。
(ああ……やっぱり、そういうことなんだ……)
確かにあやかは彼を脅迫していた。しかし、認められなかった。
あやかは、自分の容姿に自信があった。
周りの人間は、皆、可愛いと言って褒めてれる。
男子から告白された事も、何度もある。
彼が、「好きな子がいる」と言ったとき、ただの口実だと思い込んでいた。
本当は自分を好きに違いないと、勝手に思い込んでいた。
未成熟な乳房を見せ、秘所を指で広げて見せれば、彼の小さな陰茎は勃起した。
キスをした時も、口に咥えた時も。
彼も喜んでくれていると、逢瀬を期待してくれていると、勝手に思い上がっていた。
だって、勃起するとはそういうことだろう。
愛ゆえに起こる現象ではないのか。
己の非を認めず、彼自身も望んでいたと、あやかは担任教師と母親に主張し続けた。
母親が泣きながら、その頬を叩いた。
認めたくなかった。
彼は望んでいなかったのだと。
あやかにとって、夢のように甘い時間。
しかし、彼にとって、二人の時間は苦痛でしかなかったのだと。
自身の持つ性的好奇心。
これまで、それを異常だと考えたことなど一度も無かった。
誰しもが、表には出さないまでも、その内側で、自分と同じように欲望を燻らせているのだと、ずっと当たり前のように思っていた。
あやかの初恋は、突如として幕を下ろした。
この失恋が、幼い彼女に与えた影響は大きかった。
相手を尊重すること。
他者や社会から見た自分を認識すること。
生きていく上で、それが大切な事なのだと、幼いながらに理解した。
表層的には慎ましく、しとやかな少女。
その内に、欲望という名の獣を宿した二面性を形作っていく。
そして、あやかが高校生になった時、運命の出会いが待っていた。
早瀬悠斗くん。
器械体操をしている彼の身体はしなやかで、透き通る様な白い肌。
色素の薄い髪と瞳。
中性的で、可愛らしい顔立ちと声。
おとなしく、内向的で、優しい性格。
まるで、あやかの理想を体現したかのような、そんな男の子だった。
授業中、気付けば、彼を見ていた。
部活中、練習する姿を、覗き見ていた。
一目惚れだった。
ある日、体育館の外から、いつものように彼の練習風景を眺めていたあやかは、突然目を見開く。
床でストレッチをしている彼の、大きく開かれた脚の付け根に、陰嚢が覗いているのが見えた。
あやかの心臓が跳ねる。
急いでスマホを構え、ズームで彼の局部を撮影した瞬間、彼の姿勢が変わり、陰嚢は隠れてしまった。
不安に駆られながら、撮った写真を確認する。
(よかった……、間に合った……)
その日の夜は、彼のその写真を見ながら、秘所を激しく弄り、何度も絶頂した。
私に局部を見られているとも知らず、真剣な表情の彼。
ああ、……彼の性器を間近で観察したい。
虎太郎の時の様に、彼を支配し、この手で触れて、匂いや、味を、恥らう姿を堪能したい。
あやかの中の獣が暴れだす。
しかし、理性という鎖が獣を繋ぎ止める。
もう同じ過ちは繰り返さない。
彼に視線を送っていると、時折、視線がぶつかる様になった。
そして、日を重ねるごとに、その回数が増えていく。
彼も、私が気になるのだろうか?
それとも、じろじろと見すぎた所為で、警戒されているのだろうか?
悠斗の視線の理由は前者であった。
朝霧あやかは、男子にとって性的魅力に溢れた女子だった。
可愛く整った顔に、滑らかな髪、細身の身体、そして豊満な胸。
しかし、彼の事になると、あやかは自信が持てなかった。
自分が可愛いという自負はあった。
男子から言い寄られた経験も、最早数え切れない。
しかし、幼い頃の失恋の記憶と、この恋だけは、絶対に失敗したくないという、強い想いが、あやかの告白を踏みとどまらせていた。
彼の事が、本当に、心の底から好きだったのだ。
彼に断られたら……。そう思うと脚が竦む。
だが、あやかは、意を決して彼に告白した。
「早瀬くん、あなたの事が大好きです」
それからは毎日が輝いていた。
愛しい彼が、自分の傍にいる。
もう、覗き見る必要は無い。まっすぐに彼を見つめ、そして、彼も見つめ返してくれる。
幸せだった。
彼の手を握るだけで鼓動は速まり、通いなれた通学路の景色も、彼が隣にいるだけで鮮やかに色付いた。
彼が時折、胸元に向けてくる視線。性への関心がたまらなく嬉しい。
彼はとても恥ずかしがり屋で、わざと胸を押し付けてみると、可愛らしい反応を返してくれる。
脚をもぞもぞと動かし、興奮した恥部を、健気に隠そうとする。
キスしながら、太ももを彼の股間部へ押し当てると、猛りを悟られぬように腰が逃げる。
何も恥じる事なんてないのに、男の子として当然の生理現象を、私が軽蔑するとでも思っているのだろう。
きっと受身のままでは、この恋の進展には、長い長い時間が掛かるに違いない。
しかし、私はそんな彼の初心な反応が、愛おしくて堪らなかった。
性的好奇心の旺盛なあやかだが、彼女は処女だった。
相手を支配し、一方的に主導権を握り、辱め、悶えさせ、しゃぶり尽くし、堪能する。
男性の性器に対し、嗜虐的な嗜好が強かったあやかが、高校生に成長し、愛する人の存在により、新たに生まれた欲望。
……彼とセックスがしたい。
彼と交じり合い、一つになりたい。
けれど、一度でも愛し合えば、今の彼が見せてくれる、母性くすぐる反応は、もう見られなくなるだろう。
今はこの時間を大切にして、二人の愛をゆっくりと育んで行こう。
あやかがそう思えるほど、今が幸せだった。
ある日、悲劇が訪れた。
彼が交通事故に遭ってしまった。
知ったのは事故の翌日。部活の帰りに、突然飛び出してきたトラックに跳ねられたらしい。
休み時間、連絡を取ろうとしたが電話が繋がらない。メールにも返信が無い。
不安で胸が押し潰されそうだった。
いてもたってもいられず、あやかは学校を早退し、彼が入院する病院へと駆けた。
しかし……。
「ご本人様の強い意志でして……。ただ今、面会はお断りさせて頂いてるんです…」
「そんな……!だって、身体は無事っておっしゃいましたよね!?なのに、何が問題なんですか?
一目だけでも、ほんの少し、会わせて貰えるだけでいいんです!」
「あの……。大変申し訳ないのですが、何度も言いますように、ご本人様の意思ですので……」
「……すみません……。でも、……無事なのは確かなんですね……」
彼に会うことは叶わず、とぼとぼと病院を後にした。
帰宅途中、彼の母親が、こちらの方へと歩いてくるのが見えた。
あやかは慌てて駆け寄る。
「お母さん!!」
「あっ。…………あやか…ちゃん……?」
母親は、悲しげな表情を見せる。
あやかはその表情にぎゅっと胸を締め付けられた。
涙が零れそうになる。
「お母さんっ……、悠斗君に…何があったんですかっ?」
「あやかちゃん……。ありがとうね。
でも、悠ちゃんは大丈夫よ…。今は……ほら、昨日事故に遭ったばかりだから、…ショック受けちゃってるのよ…」
「あの……少しだけでも、会わせて貰うことって、出来ないんですか?」
「あ……今はね……、ごめんなさい。もうちょっとだけ、待ってあげて欲しいの。
……気持ちが落ち着いたら、また悠ちゃんから連絡するように言っておくから。
ありがとうね。
……あやかちゃんが来てくれたってっ…知ったらっ……。あの子も喜ぶと思うからっ!」
母親は泣き出してしまった。
あやかもそれにつられ、声を上げて涙を流した。
翌日、あやかは学校を休んだ。とても授業を受けられる精神状態ではなかった。
今の自分に出来ることは何も無い。
ただ彼からの連絡を待っているしか出来ないだけの時間が、地獄のように長い。
事故の影響で、身体に何か障害が残ってしまったのだろうか。
もしかすると、器械体操ができなくなってしまうかもしれない。
彼の可愛い顔に、傷が残ってしまうのだろうか。
ネガティブな思考が、頭の中で巡り続ける。
たとえどんな事があろうと、彼への気持ちは変わらない。
今すぐに彼を抱きしめたい。
彼の不安を包み込んであげたい。
彼から連絡が来たのは、それから二日後だった。
久しぶりに見た彼の姿は、以前と変わらなかった。
姿を見るなり、あやかは彼に駆け寄り、そして、そっと抱きしめた。
ずっとこうしたかった。
彼を抱きしめられる喜びを、涙を流しながら噛みしめた。
「悠斗くんっ……!」
「あやか……ありがとう……」
彼は悲しそうな表情で、消え入りそうな儚い声で呟いた。
あやかは聞きたい事を、決して自分からは聞かないと心に誓っていた。
彼が抱えているものを、彼から口にしてくれるまで、ひたすら待とうと……。
彼は事故から、殆ど笑わなくなった。
器械体操も、辞めてしまった。
彼が、幼い頃から続けていたという体操。
体操はマイナーな競技だ。
器具や設備のある学校は少なく、それでも体操を続ける為に、彼は家から遠いこの学校を選んだというのに。
あの事故に、トラックの運転手に対し、怒りが込み上げる。
彼は大好きだった体操が出来ない身体になってしまったのだろう。
私は、彼にとっての体操のように、打ち込んできたものがなかった。
彼が今、どれほどの悲しみを抱えているのか、理解してあげられない。
ただ傍にいて、抱きしめてあげる事しか出来ない。
でも、そんな日々も、あやかにとっては苦痛ではなかった。
彼の悲しげな表情、その横顔は儚くて、とても魅力的で、あやかの母性本能を刺激した。
守ってあげたい、癒してあげたい、元気付けてあげたい。
私は、彼が大好きな、豊満な胸を、腕にぎゅっと押し付けた。
しかし、私が期待していた反応は返ってこなかった。
寧ろ、彼は悲痛な表情で、泣きそうになりながら俯いた。
一瞬胸が傷む。
それでも私は笑顔で、大きく柔らかな胸で、今度は彼の悲しげな顔を包み込み、優しく抱きしめた。
彼は胸の中で嗚咽をあげた。
「だいじょうぶだよ……。ずっと傍にいるからね……」
私はそれからも、彼を元気付けるため、今まで以上に身体を触れ合わせた。
キスの回数も増やし、臆病な彼の舌を追いかけ、無理やり絡ませ、味わった。
愛し合いたいという欲求がどんどん高まっていく。
今にも消えてしまいそうなほど、儚げな彼。
ずっと、彼の勇気を待とうと思っていた。
でも、今の彼には愛が必要だ。何より、私自身が、彼との交わりを、強く望んでいた。
もう、我慢が出来なかった。
私は彼とセックスする事を決意した。
放課後、いつもの帰り道。
「今日、うち誰もいないんだ」
私は勇気を振り絞り、震える手で、彼の冷たい手を握った。
彼の表情は、変わらず辛そうなまま。
少し、心が折れそうになる。
それでも、さらに言葉を重ねた。
「悠斗君、……いこ?」
彼は黙ったまま、それでも頷いてくれた。
部屋に入り、彼が私のベッドに腰掛ける。
ドキドキした。毎日私が眠っているベッド。そして毎日彼の事を考えながら乱れ狂い、愛液で濡らしているベッド。
そして、今日、初めて二人が交じり合う場所。
彼もドキドキしてくれているだろうか…。
私もベッドに腰を下ろし、彼に寄り添った。
「緊張してる?」
「……ごめん。ほんとに、ごめん」
思いがけぬ返答に、一瞬、思考が停止した。
しかし、その謝罪が、これまでの彼自身の態度に対するものだと、理解した。
「大丈夫だよ。何か、ずっと悩んでるんだよね?」
彼は頷いた。
彼には、私の愛が、ぬくもりが必要なのだ。
私は彼の身体に触れる。
本当は私自身も不安だった。事故以来、一度も、私の身体に関心を向けてくれる気配が無い。
彼の心は、深い闇の底に沈み込み、私の助けを待っている。
怖かった。
それでも私は、その中へ飛び込み、必死に彼に手を伸ばす。
「……お風呂、入ってく?」
言った直後、彼のただならぬ様子に、後悔が押し寄せる。
踏み込んではいけない闇だったのだ。
「……あやか」
ああ……怖い。儚げというより、まるで壊れてしまった様な声。
「……ごめん、帰る。今日は……無理だ」
「えっ、うん、でも……」
彼は突然立ち上がり、部屋の扉に向かって走り出した。
駄目だ。
行かせてしまっては、彼は完全に壊れてしまう気がした。
「待って!」
必死に出した声が、部屋に反響する。
彼は止まってくれた。
彼が口にしてくれるまで、私からは聞かないでおこうと誓った。
……でも、知らなければならない。
知らないままでは、私は間違えてしまうかもしれない。
彼と一緒に、戦ってあげられない。
「理由を教えてほしいの。無理してるなら、言ってほしいな。私、ちゃんと聞くから」
部屋が静寂に包まれる。
彼が無理をして浮かべる笑顔に、胸が締め付けられる。
長い時間が流れた。
私は何も言わず、ただ彼の言葉を待った。
「実は、あの事故で……身体、ちょっとおかしくなってて」
彼の綺麗な瞳から涙が零れる。
「……男じゃなくなったんだ」
予想できなかった言葉が彼から発せられた。
思考が停止する。鼓動が激しく乱れる。
言葉の意味を理解できなかった。
男?
男って…何?
得体の知れない感覚が、徐々に込み上げてくる。
…性器…おちんちん?金玉?
嘘でしょ?
え?ほんとに?
「……え、それは……」
一部?全部?金玉の方?それとも……
「……おちんちんが……その、なくなったっていうこと?」
彼は涙を流しながら頷いた。
その瞬間、大きく胸が高鳴った。身体が一気に熱くなった。
彼はあんなに悲しそうなのに、辛そうなのに。
私も悲しいはずなのに。
彼がズボンを下ろし、下着に手を掛ける。
私は期待している。
その下着の中にある、彼を苦しめ続けている残酷な事実を。
ああ……見たいっ。
少しは残っているのだろうか?
完全に無いのだろうか?
金玉の方は無事だろうか?
ついに、彼が秘匿していた真実が、眼前に曝された。
愛液が洪水のように溢れ出す。
かつて、これほど興奮したことがあっただろうか。
彼の儚い涙が、悲痛な表情が、私を昂ぶらせる。
彼の股には、おちんちんが無かった。
彼のおちんちんが付いていたであろう場所。其処には縦の縫い目だけが残されていた。
そして、その下に、一人取り残された金玉が、情けなくぶらさがっている。
あああっ!かわいそうっ!かわいそうっ!かわいそうっ!
悠斗くんっ!つらかったよね…!一人で苦しかったよね…!
おちんちんだもん、誰にも言えないよね…!
かわいそうっ!かわいそうっ!
あああああっ!!
私の目からは涙が、秘所からは愛液が溢れ出す。
悲しみと悦び。
相反する二つの感情が私を悶えさせる。
私がせり上がる快感に耐え、蹲っている間に、悠斗君の姿はなくなっていた。
彼がいなくなった部屋で、私は狂ったように秘所を弄り、胸を揉みしだく。
今までのことを思い出す。
舌を絡めたキス。顔を離した時の、彼の泣き出しそうな表情。
私が胸を押し付けたときの、辛そうな表情。
彼はどんな気持ちだっただろう。
もう、彼は、できないのに。私は…。
私の愛が、彼を苦しめてたんだ。
元気を出して欲しかっただけなのに。
また、優しい笑顔が見たかっただけなのに。
「おちんちんないの、つらいね…悠斗くん……。もうエッチできないねっ……」
悲しみと同時に、かつて無いほどの興奮が込み上げてくる。
叫び声を上げながら、私は何度も絶頂した。
あの日から、彼への接し方が分からなかった。
追い詰められて、今にも壊れてしまいそうな悠斗君。
そんな彼を見ていると、残酷な気持ちが込み上げてくる。
虐めたい。
辛い傷跡を舐めあげて、辱めたい。
そして、彼とセックスがしたい、愛し合いたい。
でもそれは永遠に叶わない。彼の喪失は、私にとっての喪失でもあった。
後悔が押し寄せる。
ずっとしたいと思っていたのに、どうして私は、彼が勇気を出してくれるまで待とうなどと思ったのだろう。
部屋に連れ込んで、押し倒してしまえばよかった。
彼は絶対に拒まなかったのに。悦んでくれたのに。
いくら後悔しても、それはもう決して叶わない。
だからこそ、欲望は肥大していった。
何度も考えた。
私の中の醜い欲望を、全部彼に曝け出してしまおうかと。
想像する。
ブラは着けず、薄手のシャツと、下はショーツのみ。
彼の前で、谷間を見せつける。
そして、シャツをたくし上げ、豊満な胸を眼前に曝け出し、いやらしく揺らしてみせる。
初めて見る私の胸に、乳首に、彼はただ、辛い表情を浮かべる。
彼の股間に変化は無く、
ただ、可哀想な金玉がぶら下がっているだけ。
ショーツを脱ぎ捨て、脚を閉じたまま、ベッドの淵に腰掛ける。
上体を後ろに倒し、両手で体を支え、両足を大きく広げる。
陰毛が生え、愛液で濡れ、成熟した、16歳の私の恥部を彼に魅せつける。
彼が挿入するはずだった場所を。その下にある、くすんだ穴も全て露わにする。
彼は涙を流す。可愛い顔を歪めて、嗚咽をあげる。
そんな彼に、私は指で秘所を押し広げ、こう言うのだ。
「……おちんちん、入れて、悠斗くん」
出来る筈がない。
きっと彼は完全に壊れてしまう。
私の中の獣が、彼の精神を切り裂き、引き千切り、食らい尽くし、殺してしまう。
そして、悠斗君の中にいる、朝霧あやかという少女が穢れてしまう。
悠斗君に嫌われる事が、何よりも恐ろしかった。
私は決断しなければならなかった。
私にとって、身を引き裂かれるような悲しい決断を。
彼と別れてから一月も経たぬ内に、私は同じクラスの適当な男子とセックスしていた。
以前、私に告白してきた山内君。
セックスが出来るのであれば、相手は誰でもよかった。
「朝霧さん、ほんとに挿入れていいの!?」
「うん、もう挿入れても大丈夫」
興奮した陰茎がぬるっと膣内に進入してくる。
処女膜の破れる感覚はあったが、全くといっていい程、痛みは無かった。
私は目の前にあるクラスメイトの顔に、悠斗君を重ねようとしたが、うまくいかない。
でも、部屋の片隅に彼の姿を思い描く。
男の子の、最も大切な場所を失ってしまった悠斗君。
金玉だけをぶら下げて、涙を流しながら私達を見ている悠斗君が鮮明にイメージできた。
(見て…悠斗くん。私、他の男の子とエッチしちゃってるよ)
身体の奥から、激しい快感がせり上がってくる。
(悠斗くんがずっと挿入れたかった場所に…、他の人のおちんちんが、挿入っちゃってるよ)
喘ぎ声を上げながら、相手の身体を抱きしめ、快感を貪る。
(あっ!ああっ!気持ちいいっ!悠斗くんっ、気持ちいいっ!)
私の喘ぎ声に反応し、クラスメイトが激しく腰を打ち付けてくる。
しかし、私はどうでもいいクラスメイトの事など、全く眼中に無かった。
私は悠斗君と二人だけの世界で、彼と歪なセックスを楽しんでいた。
私はそれから、幾人もの男と身体を重ねた。
私はホテルを後にし、一人、夜の街を歩いている。
相手が訳ありの男だった為、家からかなり離れた場所まで来ていた。
だけど、見慣れた場所。
ここからそう遠くない距離に、悠斗君の住んでいる家がある。
彼は私と別れてから学校に来なくなった。
ずっと彼の姿を見ていない。
彼に会いたい。
そう思って、涙が出そうになる。
もう私に、そんな資格など無いのに。
夜空を見上げた。
澄んだ冬の空。
いつか丘の上で、二人で見上げた夜空を思い出して、涙が零れた。
「会いたいよ……悠斗君……」
このまま家に帰りたくなかった私は、思い出の残る丘へと歩き出す。
丘の上に登れば、すぐ近くに彼の家が見える。
私は白い息を吐きながら、あの日二人で登った丘を、一人で登る。
他愛ない彼との会話を思い出しながら…。
「はぁ…はぁ…」
もしかしたら…、などと期待したが、そこに彼の姿はない。
展望台から、彼の家を見下ろした。
明かりの灯った家。
あそこに彼がいる。
胸が締め付けられて、呼吸が苦しくなる。
彼が今、どんな気持ちでいるのかを考えて、涙が込み上げる。
辛いよね。悲しいよね。それでも彼は生きてくれている。
それだけで……。
遠くからサイレンの音が聞こえる。
悪寒が走った。
音はどんどん近づいてくる。この音は救急車のサイレンだ。
恐怖で身体が震えだす。
赤い光が彼の家の方へと向かっている。
私は走り出した。
丘を登ったばかりで、疲弊した身体。
危険な傾斜を駆け下り、体制を崩し、激しく転がった。
身体のあちこちから血が滲む。
そんな事は気にも留めず、がむしゃらに走った。
彼の家の前には、野次馬の人だかりができ、パトカーが停まっている。
救急車は既に走り去っていた。
私は近くにいた中年の女性に、息も絶え絶えに話しかけた。
「あのっ!何がっ、何があったんですかっ!?」
私の只ならぬ様子に、女性はぎょっとしたが、私を気遣うよりも先に、問いに答えてくれた。
「多分だけど、…自殺らしいわよ。お風呂場で男の子が、亡くなってたらしいの…」
膝から崩れ落ちた。
「ちょっ!?あなたっ、だいじょ…」
「いやっいやっいやっいやっいやっいやっ、うそっうそっむりむりむりっ。
ゆうとくんっゆうとくんっやだっやだっやだっやだっ。やだああああああああああああああああああああああ!!」
野次馬達が一斉に私に振り向く。
上下の感覚がなくなり、視界がモノクロになった。
世界が回り、私は意識を失った。
悠斗君の葬儀は家族葬だった。しかし彼の母親は私を抱きしめ、参列を許してくれた。
彼の顔はとても綺麗だった。
色白だった肌は、さらに白く美しかった。
涙がぼろぼろと溢れる。
彼の命を奪った手首の傷跡。
もう彼に脈は無い。
彼から流れ出た血液は、心臓へと還ることは無く、鼓動を止めた。
「悠斗君……。ありがとうっ……さよ…なら…」
彼に最後の別れを告げた。
もう私の中の獣を、繋ぎ止めるものは無かった。
朝霧あやかによる最後の犠牲者は、小学6年生の男の子だった。
少年の名前は浅見一弥。
彼は放課後、いつものように、人通りの少ない道をひとり歩いていた。
すると、前方に深く帽子をかぶり、顔半分をマスクで隠した女性が、肩半分にリュックを背負い、壁にもたれて立っていた。
何をするでもなく、タイトなパンツに手を突っ込み、ただ立っている。
不審に思った一弥は、女性から大きく距離を取り、横を通り過ぎる。
「ねえ、キミ」
後ろから急に声を掛けられ、警戒していた一弥の身体がビクっと跳ねる。
そっと振り返ると、女性の顔がすぐ目の前にあった。
思わぬ距離の近さに身体が強張る。
女性はそのままマスクを下にずらし、深くかぶっていた帽子を持ち上げた。
女性の素顔が露わになる。
とても綺麗な女性だった。
大きく優しそうな目、小さく整った鼻と、柔らかそうな唇。
ふわっといい香りが鼻をくすぐる。
一弥の警戒心が一気に解けた。
「…あの、どうしたんですか?」
女性は少し悲しそうな、優しい笑みを浮かべた。
「お姉さん、ちょっと辛いことがあってさ。誰かに話、聞いてほしいんだ」
「そうなんですか…。あの、僕でよかったら、話聞きますよ?」
女性の顔がパァっと明るくなり、更に距離が近づいた。
「ほんとっ?嬉しい…。ありがとうっ」
女性の息が顔にかかる。そのいい香りに一弥はドキドキした。
「わたし、あやかだよ。キミの名前は何ていうの?」
「あっ、僕は一弥です…」
「わあっ、一弥くんっ。かっこいい名前だね。顔もすっごくかっこいいよ」
かっこいいと言われ、一弥は顔を真っ赤にして照れてしまう。
「えっ、ありがとうございます…。でも、あのっ、お姉さんもすっごく綺麗です」
「ええー、ほんとぉー?女の子みんなにそういうこと言ってるんじゃないのぉー?」
「嘘じゃないですよ!ほんとに綺麗で、かわいいですっ」
「あははっ、うそうそ。…ありがとねっ。
でもキミってさ、女の子にめっちゃモテるでしょ?
かわいいって言われて、お姉さん、ドキドキしたよぉ?」
あやかは彼の手を取り、自分の豊満な胸へとぎゅっと押し当てた。
ブラは着けておらず、シャツ一枚のみを隔てた柔らかな胸に、手が沈み込む。
「えっ!?」
あやかの突然の行動に一弥は驚く。
そして、女性の、胸の柔らかな感触に、彼の男の子が反応する。
陰茎に血が集まり、徐々に硬くなっていく。
「…ほら…、ドキドキしてるでしょ…?」
「っ……はい…」
本当は、柔らかく厚い脂肪に覆われて、鼓動なんて分からなかった。
「それでぇ、キミ、女の子にはモテるのぉ?つき合ってる子とかいるんでしょ?」
「うーん…普通だと思います。つき合ってる子もいないし…」
それは嘘だ。あやかは彼の事をたっぷりと時間をかけて調べていた。
彼の名前、年齢、家族構成、人間関係、通学路、そして彼が付き合っている女の子の事も。
悪い子だ…。彼にはおしおきが必要だ…。
「やったあ!そしたら、お姉さんにもチャンスあるかなぁ?」
あやかが身を屈め、重量感のある胸が垂れ下がる。
緩めのシャツから覗く魅力的な谷間が、一弥の目を釘付けにする。
一弥の陰茎は、性的な期待で大きく持ち上がり、制服の半ズボンを押し上げていた。
一弥は、どのように答えていいか分からず、しどろもどろに返事を返した。
「あ、ぇと……はい……」
一瞬、付き合っている女の子の事が頭に浮かんだが、思春期の最中にいる彼は、目の前の誘惑に勝てなかった。
「お姉さん、いっぱい辛いことがあってさ、キミに慰めて欲しいんだ……。
……いいかな?」
あやかは二つの胸を一弥に押し付けて、ぎゅっと抱きしめた。
一弥は陰茎をいやらしく勃起させたまま、応えるように両手をあやかの背中に回し、頷いた。
あやかは一弥に待ち受ける、死よりも辛く、苦しい、屈辱的な運命を思い、秘所を濡らした。
ラブホテルの部屋に入ると、一弥は初めて見る空間に、落ち着きを隠せず、キョロキョロと部屋の中を見渡す。
しかしそんな状況でも、陰茎は期待に満ち、硬くなったままだ。
あやかは一弥をそのままベッドに押し倒した。
「あ、あやかさん。シャワーとか浴びなくていいんですか?僕、ちょっと汗臭いかも…」
そのつもりだった一弥は、いきなりベッドに押し倒され、戸惑ってしまう。
「あはっ、気にしなくていいよ。お姉さんちょっと変態だから、そういう匂いとかも好きなんだ」
あやかは一弥の半ズボンの膨らみを優しく掴んだ。
「あっ…」
いやらしく勃起していたのを知られ、恥ずかしくなる。
「あんっ。硬くなってるね…。実はお姉さん、キミがおっぱい触ったときから、ずっとここおっきくしてたの、知ってたんだよ?……えっちぃ」
羞恥で一弥の顔がカーッと赤くなり、顔を背ける。
「全然恥ずかしいことじゃないよ?男の子がおっぱい触ったら、えっちな気持ちになるのは当たり前だよ。寧ろお姉さん、キミがえっちな気持ちになってくれて、嬉しいな」
あやかは一弥の制服を脱がしていく。
ズボンを脚から抜き去り、最後に、大きく盛り上った下着だけが残された。
あやかが下着に手を掛ける。
「キミの男の子、お姉さんに見せてね?」
あやかが下着を下ろす。
一弥の反り勃った陰茎が、下着に引っかかり、下方へとしなる。直後、開放された陰茎が、ぶるんと元の形状へと戻った。
男の子の蒸れた匂いが辺りに漂う。
(ああっ…すっごい…)
その光景と鼻をつく匂いに、あやかは激しく興奮する。
日々、大人へと成長しているそこは、僅かに陰毛が生え、ピンク色の亀頭が、三分のニ程頭を出していた。
今まで「切断」してきた同じ年頃の陰茎と比べると、彼のそこはかなり大きかった。
一弥は、生まれて初めて勃起している陰茎を異性に見られ、羞恥に俯いている。
「可愛いよ…、一弥くん。……恥ずかしい?」
「……ちょっと、恥ずかしいです……」
あやかはショーツの中に手を入れ、濡れた秘所を愛撫する。
「はぁっ、あんっ、一弥くんっ、舌っ、出してぇ…」
「えっ?あっ、はい…」
一弥は、異性の突然の自慰行為にどぎまぎしながらも、言われたとおりに舌を出した。
あやかの顔がグイっと近づき、出した舌があやかの口の中に吸い込まれた。
「んんっ!?」
口の中であやかの舌が絡みつき、激しく蹂躙される。
あやかの唾液が流し込まれ、それをこくこくと飲み込む。
一弥にとって初めてのディープキス。一弥がしたことのある、子どものキスとは全くの別物だった。
凄まじい興奮に、鼓動が激しく脈打ち、陰茎がビクンと跳ねる。
既に反り立っていた陰茎が、更に膨張した。
あやかの顔が離れ、下の方へと移動する。
あやかの顔が、今度は陰茎の目の前にある。
「一弥くんの…おちんちん、…食べちゃうね」
蒸れた匂いを放つ陰茎が、あやかに咥えられた。
あやかの口内で、皮が完全に剥かれ、亀頭の下、えらの敏感な部分を舐めまわされる。
「ふわぁっ!?あっ、あっ!」
あまりの気持ちよさに勝手に声が出た。
咥えられたまま、上下にストロークされ、二つの睾丸が優しく揉み転がされる。
経験したことの無い刺激の連続に、快感が高みへと押し上げられていく。
射精感がどんどん高まっていく。
「あああっ!」
ついに射精する、その直前に、あやかは身体を離した。
一弥の陰茎が射精を求めて、ビクンビクンと脈動する。
「まだ、出しちゃ駄目だよ…?出すなら、お姉さんの中に…直接出して?」
一弥の胸が激しく高鳴る。
綺麗な大人の女性、あやかさんとセックスができる。
もしかすると、セックスまではさせて貰えないかもしれないと思っていた。
それが、……できる。
しかも、中で……出させてもらえる。
嬉しい。嬉しい。
彼の陰茎はこれでもかという程に興奮した。
「だけどその前に、…お姉さんね…、お願いがあるの」
「……?はい、どうしたんですか…?」
「お姉さん、ちょっと変態でね…、男の子を縛るのが好きなんだ…。
一弥くんの、両手と、両足、しばっちゃってもいいかな…?」
あやかは、恥ずかしそうに、申し訳なさそうに呟いた。
趣味嗜好は人それぞれだ。
一弥にも、人には言えない恥ずかしい秘密はたくさんあった。
寧ろ、恥ずかしそうに性癖を打ち明けるあやかが、とても可愛く、いじらしく思えた。
「僕は、大丈夫です。全然変なことじゃないと思います」
「ありがとう。一弥くんってやさしいんだね……」
あやかは嬉しそうに微笑んで、リュックの中から拘束具を取り出した。
一弥はぎょっとする。
ロープか何かで縛られるものと思っていたが、取り出された物は本格的な拘束具。
重厚感のある黒いベルト。その先にジャラジャラと金属の鎖が付いている。
一弥のその驚いた表情に、あやかが顔を伏せる。
「あ…、ごめんね…。やっぱり変だよね…。こんなの…」
あやかの悲しそうな表情に一弥が慌てて声を発する。
「あ、大丈夫です!ちょっと、そういうのを見たことが無くて、少しびっくりしただけなので…。
僕は大丈夫です…。縛ってください」
「ほんとにいいの?怖くない?」
「はい…、あやかさんだから、平気です」
本当は、少し怖かった。でもあやかとセックスできるのであれば、中に出せるのであれば、そんなことなど些細な問題だった。
彼の両手両足が頑丈なベルトで締め付けられ、そこから伸びた鎖がベッドの四方の足へと繋がれた。
ピンと大きく伸ばされ開かれた両手足は、完全に固定され、最早びくともしない。
彼の運命は、決まってしまった。
全く動かせない手足。一弥は一瞬後悔しそうになった。
しかし、これであやかとセックスが出来る。そして、膣内に解き放てる。
大きな期待が後悔を飲み込んだ。
拘束されている中、元気をなくしかけていた陰茎が、期待でまた悦び始める。
(好きな子がいるくせに、ほんとに最低なおちんちん……)
自分の運命を知らぬ哀れな陰茎に、あやかの秘所から、更に愛液が滲み出る。
あやかは一弥の目の前でシャツを脱ぎ捨て、その巨乳を曝け出した。
色素の薄く、大きな乳輪の中央に、太目の乳首が存在を主張している。
「……っ、すごい…」
一弥はあやかの乳首を目に焼き付ける。陰茎が悦び、ぴくぴくと揺れる。
次にタイトなスラックスを長い脚から脱ぎ捨て、濡れたショーツが糸を引きながら下ろされる。
初めて見る大人の女性の股間部。
自分とは違い濃く、整えられた陰毛。その下に見える割れ目。
見入る彼に、あやかは悪戯な笑みを浮かべ、一弥の顔のすぐ真上で、脚を大きく開いた。
「うわぁ……」
愛液が顔に垂れる。
一弥の鼓動が速まる。
これから自分の陰茎が挿入る場所。精液を注ぎ込む場所。
これ以上ないほどに、限界まで膨張した陰茎の先からは、先走り汁が溢れていた。
あやかは陰茎の真上で腰を下ろし、濡れそぼった膣口を、亀頭に触れさせる。
陰唇で、亀頭をぬりぬりと撫で回す。
「あっ、んん、一弥くん……、挿入れるよ?」
挿入れたい。
「いっぱい…、膣内に出してね?」
出したい。
「せーのっ」
「ぅあああああっ!」
訪れる快感を予想して、一弥の口から喘ぎ声が漏れ出てしまった。
しかし、予想していた感覚は一向に訪れない。
あやかがにっこりと笑顔を浮かべて一弥を見ていた。
「嘘だよ。お姉さんとえっちできると思った?」
「え……?」
あやかはリュックの中から、ごそごそと撮影スタンドを取り出し、スマホをセットする。
作業をしながら、言葉を続ける。
「キミとはえっちできないよ。だってキミ、つき合ってる子がいるでしょ。
なつみちゃんだっけ?
お姉さんが知らないとでも思った?なつみちゃんが知ったら泣いちゃうよ?」
一弥の鼓動が乱れた。
「ぁ…え?…でも、どうして…」
「お姉さんね、そんなえっちなおちんちんには罰が必要だと思う」
あやかの手に、銀色に光る何かが握られていた。
刃物だった。
一弥に戦慄が走った。恐怖で身体が震えだす。
一弥は息を荒くしながら言った。
「……罰って……何を、しようとしてるんですか……僕に……」
「キミがこれから女の子を悲しませないように、この悪いおちんちんを切っちゃうの」
一弥の背筋が凍った。
逃げようと、必死に手足を動かし拘束を外そうとする。
しかしビクともしない。
あやかはそんな彼の陰茎の根元に、細く強い糸を巻きつけ、止血する
「やめてくださいっ!僕が悪かったです!もうこんなことしませんっ!」
注射器を取り出し、針先を陰茎の根元へ刺し込む。麻酔が陰茎の内部へと流れ込む。
「ああっ!うぅっ…」
「キミには無理だと思う。なつみちゃんがいるのに、嘘ついてお姉さんとえっちしようとしたでしょ?ずっとおちんちん勃起させて……。
キミは、顔がかっこいいから、これからもいっぱい女の子にモテると思う。
その度に、このおちんちんをいやらしく悦ばせて、裏切って、色んな女の子とのえっちを、求めちゃうと思う」
一弥は懸命に首を横に振りながら涙を流す。
「お姉さんと、えっちしたいって思った時点で、キミのおちんちんの運命は決まってたんだよ」
「いやっ、やめてっやめてっ…、お願いです…」
一弥の全身から汗が噴出す。
「ううん、駄目…。キミは童貞のまま、女の子の中を知らないまま、おちんちんがなくなるの。
もう一生、可愛い女の子たちとえっちできなくなるの。
おちんちんがなくなるって、モテるキミには、とっても辛いことだと思う。
でも、もうその運命は変えられないの……。
諦めて」
陰茎の根元に刃物が当てられる。
あやかの呼吸が荒くなる。
「あっやだっやだあっ…お願い、お願いします……!」
「おちんちんに、……さよなら、しようね……」
刃物が往復し、陰茎の内部へ侵入していく。
血液がピュッと飛び散る。
「うああああっ!あっ!あっ!あっ!あああ……」
先程まで、大きな期待ではちきれそうな程に膨らんでいた陰茎は、魅惑の快感を味わうことの無いまま、身体との繋がりを絶たれた。
たった数回の往復で、小学6年生の男の子の快楽が、永遠に失われた。
彼は、その現実に耐え切れず、切断される直前で、ショックにより気を失った。
だが、残酷な現実は、決して消えてくれはしない。
目を覚ましたとき、少年の苦悩にまみれた、長い、長い、残酷な人生が幕を開ける。
施術が完了した。
一弥君は気を失ったままだ。
彼の陰茎があった部分は、きれいに縦に縫い合わされ、尿道は会陰部に、新たに作られている。
股間には、取り残された金玉だけが、むなしくぶら下がっている。
私は縫合術と、尿道の形成術を独学で会得した。
最初の頃はうまくいかず、少年達にはかわいそうな事をしてしまった。
しかし、私は悠斗くんと同じ股間を、この手で造りたかったのだ。
「やったね悠斗くん…、仲間が増えるよ。…あははっ」
私はスタンドからスマホを取り外し、撮影した動画を確認する。
「うん、今回もよく撮れてるね」
今後何度もお世話になるであろう動画。
私はスマホを抱きしめ、幸せそうに微笑んだ。
私は意識を失ったままの一弥君に近づく。
「一弥くん。可愛くて、えっちだったよ。…ありがとう」
取り残されてしまった、可哀想な金玉を優しく撫でる。
「これからキミはたくさん、たくさん、辛い思いをすると思う…。
いっぱい、いっぱい、泣いちゃうと思う…。
それでも、立ち直って…、精一杯、人生を生きて欲しい。
お姉さん、応援してるよ…」
哀れな股間を見ていると、また身体が熱くなってくる。
私は一弥君の股間に顔を埋め、これから彼を苦しめ続けるであろう金玉を口に含み、愛おしく舐めまわした。
大量の弾丸を所持しているのに、それらは発射を許されない。
弾丸が通る筈だった銃身は失われ、円筒が塞がれてしまっている。
もし無理に撃とうとすれば、出口を塞がれた銃は圧力により、自身を負傷させ、最悪死をもたらす。
満足した私は、それから手際よく後片付けし、一弥君をそのままに、犯行現場を後にした。
二階からロビーに降り、駐車場へと出た瞬間、パトカーのサイレンが聞こえた。
「っ!!」
慌てて駆け出そうとして、思い留まる。
「…いや、無理だよ…」
ああ、もうこれでお終いなんだと、全身から力が抜けた。
サイレンが聞こえてから、ほんの十数秒だった。
「日本の警察って優秀だよね…。…ってことは、何年も捕まらなかった私って、めちゃくちゃ優秀なのかな…」
目の前で停止したパトカーのドアが開き、警官達が歩いてくる。
朝霧あやかは逮捕された。
彼女の手によって、計23名の少年達の、無垢な陰茎が切断された。
最初の犯行から、およそ5年の年月が経っていた。
日本を震撼させた、犯罪史に永久に刻まれるであろう、少年陰茎切断事件はここに幕を下ろした。
政府は、危険な政策を実現する為に、体内チップの導入を進めている。
AI技術の発展により、様々なものが、急速に高度化している。
人体用マイクロチップの機能もそうだ。
生体認証や決済だけでなく、個人の健康状態、運動量や睡眠時間、ストレス値など様々な生体情報を国に管理される。
他にも危険な機能が数多くあると憶測されている。
プライバシーも何も無い。
しかしチップを埋め込めば、進学や、就職など様々な場面で有利に働く。
危険性を訴える者も多い。
しかし、もう間もなく、全国民がチップを埋め込むよう義務付けられるだろう。
そして近い将来、全国民が国家により、清潔に管理され、監視され、抑圧された、自由を許されぬ、純白の世界になる。
「それってもう、檻の中と一緒だよね…」
刑務所の中で、あやかが呟く。
浅見一弥君は体内チップを埋め込んでおり、陰部の激しい損傷を感知し、事件性があるという事で、警察が動いたようだ。
「世も末だと思ったけど、私みたいな犯罪者がいなくなるなら、悪くないのかな」
だけど、そんな世の中、生きていて楽しいのだろうか。
刑を終えて、ここから出たとしても、もう男の子達のおちんちんを切り取ることは出来ないだろう。
おちんちんが切れないなら、もう生きてる意味はないんじゃないかな。
檻の中でも、外でも変わらない。
「死んだら、悠斗くんに逢えるかなぁ」
無理だろう。
悠斗君は天国にいるだろうし、私は確実に地獄行きだ。
もう十分楽しんだ…、とも思う。
23人もの男の子たちが、私の所為で、毎日涙を流しながら、ずっと苦しむんだ…。
「……ああ……すごい……」
考えるだけで身体が熱くなる。
顔も、名前も、全員覚えている。
そしてそれぞれの、切りとられる瞬間の涙、声、表情を覚えている。
一人一人違う、その甘美な光景を思い出し、私は刑務所の中でも相変わらず、快楽を貪った。
刑務所の中で、二年の歳月が流れた。
「朝霧、面会だ」
私は首を傾げた。
…誰だ?
母だろうか?……いや、絶対にない。
そして、その母親も親族から絶縁されている。
面会を希望する人物に、全く心当たりが無かった。
確か、家族か親族以外は面会できないんじゃなかったっけ?
面会可能かどうかの確認も一切無く、面会室の扉が開かれた。
そこに立っていた女性に、私は目を奪われた。
銀灰の髪に、美しい切れ長の目。スレンダーな長身に漆黒のスーツを纏っている。
浮世離れした容姿と、底知れぬ何かを感じさせる彼女に、あやかは惹きつけられた。
「初めまして、朝霧あやかさん。上月凛と申します。私、二年前にあなたが起こした犯罪事件について、以前から興味がありまして。
お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
微笑んでいるが、その目はどこか冷たく、異様なほど鋭く光っていた。
選別教育制度における裁断者、上月凛との出会いだった。
朝霧あやかは彼女の元で、断罪者として、数え切れぬほどの無垢な陰茎を切り落とすことになる。