家に帰ると、母親が「お風呂が故障しちゃったの。今日は銭湯に行ってきてちょうだい」と言った。
前に銭湯に行ったのは幼稚園の頃だったから、ずいぶん久しぶりだ。
浴場に入って髪を洗っていたら、となりに同い年ぐらいの子が座った。鏡越しに見える姿は男の子っぽいのに、よく見ると、おちんちんがない。でも、女の子の割れ目でもない。
「ねえ、あの…あなた、女の子?」
「男だよ。おちんちんないから変だなって思ったんでしょ?切っちゃったんだ、おちんちん」
「そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いて」
「ううん、ぜんぜん気にしてないから平気。切ったのちっちゃい頃だし」
「なんで女湯に入ってるの?」
「おちんちんのない子は、男湯に入っても女湯に入ってもいいんだって。男湯に入ってほかの子のおちんちん見ると、やっぱりちょっとだけうらやましくなるときもあるし、女湯がよっぽど混んでるとき以外は男湯にはあんまり行かないんだ」
体を洗い終え、湯船に入って並んで座る。
「あのさ、なんでおちんちん切ったの?」
「お母さんが切っちゃった。“おねしょばっかりする悪いおちんちんは、ちょん切っちゃいます!”って」
「えー、おねしょしてたの?」
「だから、ちっちゃいときだよー。それに、おちんちん切ったらおねしょ治っちゃった」
「ふうん」
いけないと思いながら、どうしても湯船の中で揺れている股間に目が行ってしまう。隠す風もなく、こちらに見えるように足を広げている。なんだか申し訳ないように思えてきて、自分も手で隠すのをやめて足を広げた。
「おちんちん切るのってショックだった?」
「ぜんぜん平気ってわけじゃなかったけど、もともとおちんちんなんかいらないって思ってたから、ちょん切るって言われたときも、まあしょうがないやって。でも、台所に連れて行かれて、お母さんが包丁を出したときは、やっぱり怖かったけどね」
「わたしはもともとおちんちんないから、欲しいなあって思ったことあったけど、おねしょするおちんちんだったらちょっとヤだなあ」
脱衣所に出て体を拭き、服を着る。
「ねえ、いつもここのお風呂来てるの?」
「うん」
「また会える?おちんちん切ったときの話とか、もっと聞きたいな」
「いいよ。いつも同じぐらいの時間に来てるから」
「うん、じゃあ、また明日」
「また明日」
次の日、同じ銭湯に行ったけど、その子には会えなかった。次の日も、その次の日も、会えなかった。そうこうしているうちに家の風呂が直り、それっきり銭湯に行くきっかけもなくなり、結局あの男の子には二度と会えなかった。
もう今となっては本当にあったことかどうかすらわからない。あの子は、幻だったんだろうか…。
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投稿:2003.11.15
銭湯
著者 kangan(2ちゃんねる過去ログより) 様 / アクセス 15667 / ♥ 68