「葛城さーん。お目覚めですかぁ?」
白い世界。
俺はどこに……?
「葛城さーん」
目が霞む。女性の顔。二重のかわいい顔。白衣をきている。
ここは……?
そうだ、俺はバイクで白河インターをおり国道を猪苗代方面へ走っていた。夜中街灯のない山道。深夜で人気もなかった。コーナーを攻める。後輪のミューが薄くなって、ドリフト。コーナー開け、ドリフトから路面へエンジンからのトルクを伝える。アクセルを開け次のコーナーへ。
頭の奥が痺れるような興奮。スピードを上げていく。
電灯が立っていた。バス停を照らしている。緩やかな右カーブだったが、ほぼ直線だった。俺は加速した。
電灯を過ぎたその瞬間。黒い物体が目の前にいた。牛? 黒毛の牛だったと思う。
その後は覚えていない。
「両脚大腿骨骨折。右鎖骨、手首そのほかもろもろ骨折。左上腕筋断裂、尺骨骨折。軽いむちうち……とまあ、これだけの怪我をしておきながら、脳、内臓、共に異常なし。バイクのエアバックも効果があるのだろうね。幸運だよ君は」
十六歳の夏。入院二ヶ月。全治五ヶ月。
長い夏休みが始まった。
入院初日。
「葛城さん。どこか痛むところありますか?」
そりゃ痛い。手足がどこも痛む。だけど何もできない。痛む所を摩ることはもちろん、姿勢を変えることすらできない。首だってコルセットで固められて、天井を見つめることしかできない。
「起こしますねー」
ベッドの角度が上がる。看護婦の三浦さんが来ないと視界すら変えることができなかった。痛み止めの錠剤を口に放り込まれる。ガラスのきゅうすのようなもので水を飲ませてもらう。しばらくこのままが良いと言った。格子線の入った天井をずっとみていると、目がおかしくなりそうだから。
「それにしても大変ね。ご家族はアメリカなんでしょう?」
俺の家族はカルフォルニアに住んでいる。父親の仕事で母と妹と三人は向こうに行ってしまった。俺は地元の高校を中途で辞めたくなかったから、一人で残ることにした。よって見舞いに来る人もいない。
「それじゃ、お小水しましょうね」
大腿骨を骨折した俺は泳ぎ着かれたカエルのようにされていた。そういえばこの格好でどうやって用を足すんだろう? と言われて気づく。
俺が戸惑っているのを他所に、三浦さんはシーツをめくる。ペニスに触れられた時にはひゃんと裏声で叫んでしまった。三浦さんがふふっと笑った。
「はい。いいですよ」
尿瓶を股間にセットしてもらい。俺は放尿を促された。もう恥ずかしくてどっかにいってしまいたかった。
「ゆっくりで良いですからね」
と言われてもなかなか出ない。三浦さんは俺が出すまで根気良く待ってくれた。いったん出始めると止まらなかった。寝ながらする不安。人に小便を持ってもらう情けなさで気がめいる。
小便が済むと、三浦さんは俺の腰を持ち上げて枕を入れた。どうやら俺はシーツの下は裸らしい。三浦さんの手が直接、お尻に触れるのが分かった。顔が熱くなる。
それにしてもなんでこんなことをするのだろう?
嫌な考えが浮かび、そのまま的中する。
「便意はどうですか?」
朝のお勤めである。
「便秘気味なら、浣腸しましょうね」
嫌だとは言えない。彼女も忙しいのだし。
俺は浣腸液で緩んだ便を三浦さんの敷いてくれたマットの上に出した。三浦さんはテキパキとそれを包む。今まで少しは積み上げてきたと思う自尊心が、僅か三十分で木っ端微塵にされた気分だった。
それに追い討ちをかけるように、三浦さんはシーツを剥いで俺を丸裸にした。いや両手足ギブスと包帯だから完全な裸とは言えないのだが、隠したい所ほど無防備に露出した。三浦さんは丁寧に体を拭いてくれた。夏、空調が整った部屋と言っても、他の患者に優しくするため冷房は弱め。体は軽く汗ばんでいた。
首、脇の下、胸、お腹と順に拭いてくれる。ベッドの上に乗り、膝を背中の下に入れてゆっくりと上半身を起こし、背中も満遍なく拭く。そして股間。この時、俺は初めて陰毛が無くなっていることに気づいた。つるつるだった。大腿骨をボルトで繋いだ時、剃ったと言う。
ペニスもカリ首も丁寧に拭かれる。陰嚢もさっき汚した肛門も綺麗さっぱりだ。
「若いから、新陳代謝も多いし、一日一回じゃ気持ち悪いかもしれないけど、我慢してね」
毎日こんなことをされるのか。俺は三浦さんの奴隷になった気分だった。
俺にオシメをして三浦さんは出て行った。
食事を運んでくれるのは、佐伯さんという人だった。おどおどとして、頼り無さそうだ。聞くと佐伯さんは研修中の新人看護婦で、三浦さんが指導員なのだそうだ。二十歳になったばかりというが、見た目はどう見ても俺より年下だった。
彼女は時々来ては、床ずれしないように俺の姿勢を変えてくれた。
「葛城くん、部活は?」
入っていない。中学の時はバスケ部だった。
こんな感じで徐々に会話が増えていった。裸にされても話しかけられると少しは気が紛れる。
「彼女とか?」
いないと答えると。彼女達は驚いた。
「もったいなーい。この子と付き合ったら?」
三浦さんが佐伯さんに体の拭き方を教えながらの会話だった。
佐伯さんは晩生らしい。
三日が過ぎると痛みも和らいできた。もちろん少しでも体を動かそうとすると激しく痛むのだが、何もしないでいる分には楽にしていられる。
四日目の朝は、佐伯さん一人だけだった。
おどおどした手つきで、ペニスを何度も取りこぼす。それがむず痒く、そして俺の官能のスイッチを入れた。いつかはこうなるだろうと思っていた。手足以外まったく元気なんだから。
佐伯さんは初めびっくりしたようだ。
俺はと言うと、顔じゅうの血管が沸騰しそうだった。
一度勃起してしまうとなかなか治まらない。看護婦さんがかわいらしい女性で、ペニスを生で触られたら誰だって反応してしまう。
佐伯さんは何事も無いように、勃起したペニスを拭いてくれた。丁寧にしゅっしゅっと何度も拭いた。陰嚢も包んで丁寧に拭く。
このあと、数時間は勃起したままだった。
次の日は三浦さんだった。
「あれ? 今日は元気じゃないの?」
何のことかと聞くと、昨日は勃起したのでしょう? と言った。
どうやら佐伯さんが三浦さんに相談したらしい。
「あら。言ったそばから」
意識してしまった。
「しかたないなぁ」
そう言って、体を拭いてくれる。勃起したペニスも丁寧に。
「なんか、かわいいね」
ぎゅっと掴まれた。俺は悲鳴を上げた。
三浦さんは右手でペニスを扱いた。やめてと言っても止めなかった。
「葛城くんって童貞?」
にゅちゅっ、にゅちゅっとペニスから染み出した粘液が三浦さんの手に滴り、音を立てた。
「そっか、童貞かぁ。じゃあいつもオナニーしてるんだ。こうやって?」
ねちゅっにゅちゃっ。
「週三だったらそろそろ出したいのかな?」
ぐちゅぐちゅになる。ペニスも頭の中も。
「ふふ。だめだよエッチなことしたら。ここ病院だよ? 」
ぐちゃぐちゃに濡れたペニスから手を離し、そう言うと、三浦さんはいつもの三浦さんに戻った。
佐伯さんが姿勢を変えに来た。
俺の勃起したままの股間を見て、赤くなった。この日、俺は股間がうずいてなかなか眠れなかった。
次の朝は三浦さんと佐伯さん二人で現れた。
「葛城君。ゲームしようか?」
俺が佐伯さんの看護中、勃起した罰ゲームだという。
「もし葛城くんが入院中、我慢できなくなって「射精させてください」と言ったら、ペニスを取ってしまうの」
何かの冗談かと思ったが、どうやら本気らしい。「下の世話をしてもらった人に失礼でしょう? 一ヶ月や二ヶ月我慢できないの?」と妙に説得力のある言葉についハイと返事してしまう。それにペニスを取るなんてできるはずが無いと思っていた。
「よし。じゃあ、誓いの印。ここに拇印して」
右手の親指は辛うじてギブスから出ていた。そこに朱肉を付けられる。
大げさだなぁと思いつつ。紙を握るように捺印した。それに何が書かれていたのかすら分からなかった。
「よしよし男らしい。ふふ。でも二ヵ月後も男らしいかどうかね」
三浦さんと佐伯さんに二人で体を拭いた。
「こら。勃起してるよ」
「勃起したら、扱いちゃうからね」と言って、三浦さんがペニスを掴んだ。
やめてと言っても扱き始める。
たちまち粘液でぬるぬるになる。ゆっくり優しく扱く三浦さんの手は気持ちよすぎた。
射精させてくださいなんて言わなくても、してしまう。
ぐちゅぐちゅにされ、何度もカリ首を強く擦られる。
だめだ、いっちゃうと思った瞬間。ぴたりと手が止まった。
「もういっちゃうの? やっぱり若いと早いのかな?」
どうやって知ったのか、三浦さんは絶頂の手前で扱くのを止めてしまった。拍子抜けした俺を尻目に、淡々と体を拭いた。
「あ、それとこの紙は手術許諾書なの。これを陰茎の病気に見立てたカルテと一緒にして、外科手術室の前に君を連れて行くとどうなると思う?」
「うちの外科はね、ここだけの話、診断と執刀が分業なの。データ崇高主義っていうのかな。良くないんだけど、忙しいと書類だけで手術しちゃうのよね。効率は良いし、腕も良いんだけど、患者さんなんてぜんぜん見ようとしないの。きっと君のあそこもさっぱり切ってしまうわ」
ちょっと嘘でしょ?
ほんと? 三浦さんも佐伯さんも目が笑ってない。
やばいものに捺印したものだ。
「だけど、射精させてくださいって言わなければ大丈夫」
そりゃそうですけど。
それから、勃起していたら扱かれることが勝手に決まってしまった。
佐伯さんでさえ、姿勢を変えに来たときなどに、「また勃起してますね」と言ってペニスを扱くのだ。俺としては「また」ではなく「まだ」である。
佐伯さんは肛門から人差し指を入れながらペニスを扱いた。
三浦さんに射精させない為の方法を教わったそうだ。射精の気を前立腺で知るのだという。ホントにそんなことができるのか疑わしいが、実際できてしまっているから信じるほかしょうがない。
このゲームが始まって三日目。
佐々木さん。上手くなってます。
ぐちゅぐちゅに濡れたペニスを、高速で扱きあげる。いく、いっちゃうと思うとぴたっと手が止まる。
「ふふ。イキたいですかぁ?」
ここでイキたいなんて言うと大事なものが無くなってしまう。
俺はブンブンと首を横に振った。
「ほんとに?」
再び扱きが始まる。くちゅぐちゅ。にゅちゅにゅちゅ。しゅっしゅっしゅっ。
俺はひいっと叫んだ。
こんな日が続くと勃起が治まらなくなった。体の痛みは完全に治まった。ただ手足は動かせない。手足を動かせるようになるのは少なくとも一ヶ月後、だけど自分一人じゃ起き上がることすらできない。ペニスを除いては。
「葛城さん。病室を変えますね」
いままでが特別だった。たまたま一人部屋があてがわれていたが、今日から相部屋になる。で、移った先はと言うと、うら若き女の園だった。六人部屋の俺を除く全てが十代から二十代の女性だった。
「あれぇ。男の子? どうして?」
そんな声が聞こえる。
喘息の子。虚血性貧血の子。若い妊婦さんX3。
俺は注目の的である。
「はいはい。ちょっと場所が無いので置いてあげてね」
三浦さんがそんなことを言う。
うそだ。絶対嫌がらせだと思いつつも抵抗できない。
部屋の真ん中に置かれた俺は、四方から来る視線に曝され続ける。シーツ一枚の股間で勃起したペニスが丸見えである。
いやだ。こんなとこ居たくない。と言っても、三浦さんは他に場所が無いと言う。
そしてこうなってもゲームは続いた。なぜか同室の全員がそのことを快く了解した。
俺は公開処刑される気分だった。
ぐちゅぐちゅう。
「みて。すごい真っ赤」
「大きな睾丸。野球ボールみたい」
ぐちゃぐちゃっ!
い、いくぅ。
ピタッと三浦さんの手が止まる。
「最近早すぎない? もう限界なのかな?」
その通りです。
「ふふふ。いいよ。いつでも射精させてあげるよ?」
俺の目を見て、手の平をゆっくりとお腹から股間へと這わす。
のどの先まで言葉が出かかった。
失くしたくないものがある。男としてゆずれないものがそこにはある。
俺は必死に堪えた。
限界の境界線を綱渡りするように三浦さん手がペニスを扱く。
恥ずかしいのにひいひいと声が出てしまう。
二週間が経過。
勃起したペニスが白い液体を吐き出すようになった。何もしていないのに、じわぁっと染み出てくる。股間が重たい。何のせいだろうと思ったら、自分の睾丸だった。ごろっと肥大した睾丸は一つが鶏の卵みたいになっていた。
「あなた……この点滴なんなのか知ってるの?」
隣の妊婦さん。切迫性流産の気があるからって入院している。
「これ、うちの旦那も使ってたけど、一番強力な男性不妊用のお薬よ。タマタマこんなに大きくしちゃって、大丈夫なのかしら」
ええっそうなの?
俺がそのことを言うと、三浦さんは「もう、鈴木さんバラしちゃだめでしょう」と怒った。何かが間違っている。
「大丈夫よ。タマタマが大きくなって精力が増えるだけ。副作用は無いから。ふふふ。これだけ大きくなったらいっぱい出せるわよー。女の子を一発妊娠させること間違いなし。もちろんおちんちんがあってこそだけどね。あと一ヶ月がんばってね」
そういって、俺のペニスを扱く。
矛盾してる。
「ふふ。もう我慢汁が真っ白」
いっしゅんで臨界点へ。
いぐうう。
ぴた。
「いかせないよ。射精させてくださいって言ってごらん」
いかせてー。
俺は心の中でさけんだ。
「ほら。もう腰、動かせるでしょう?」
ペニスの上で手で筒を作る。これにペニスを入れろと言うのだ。
屈辱的なそんな誘い。絶対乗るもんか……。
だめだ。我慢できない。
俺は腰を突き出し、三浦さんの手の中にペニスを擦りつけた。
「ふふふ。かわいい」
必死に腰を浮かせ、くちゅっきゅちゅっと擦り続ける。もうちょっと。あとちょっと。
「いく? いっちゃう? ふふ。だめぇ」
三浦さんはぱっと手を広げた。いかせてー。
三浦さんと佐伯さん。それに同室の患者さんまで加わり俺は責められ続けた。
俺はそれに耐え、耐え続けた。
そして退院する日が近づいた。右手のギブスを取り、レントゲンを撮る。
「うん、大丈夫そうだね。簡易サポーターに切り替えてリハビリしよう。……それと。我慢できなかったらしていいからね」
先生は勃起して濡れ濡れの股間を指して言った。
恥ずかしいけど、喜んでそうさせてもらいます。
やっと不自由な生活から逃れられる。右手も動く。もう我慢する必要もない。
まだ両脚が不自由なので、ストレッチャーに寝かされる。
三浦さんがストレッチャーを押しながら「良くがんばったね」と言った。そうでしょうとも。
「三浦さんちょっといいかしら」
そう婦長さんに呼ばれた三浦さんは「ちょっと待ってて」と俺を置いて離れる。
五分ほど待つと、ストレッチャーが動き出す。あれ?っと思っていると、見知らぬ部屋へ。マスクで顔を覆った人たちが三人。俺をビニール張りのベッドへと移す。吸入マスクが顔にあてられ「ハイ。大きく息をすって」と言う言葉と共に俺は意識を失った。
「葛城くーん」
頭がボーっとする。
「葛城くん」
焦点が合うと、三浦さんがいた。
なぜか、顔の前で手を合わせている。
「ごめん」
え?
「ほんとごめん」
おわり
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投稿:2006.06.17
ミザリー(笑)
著者 エイト 様 / アクセス 24646 / ♥ 31