種無草 第百九段
高名の玉抜きといひし男、人を掟てて、浮気男に登せて、玉を切らせしに、いと危く見えしほどは言ふ事もなくて、玉引く時に、切り終えるばかりに成りて、「あやまちすな。心して閉じよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、焼き切るとも切れなん。如何にかく言ふぞ」と申し侍りしかば、「その事に候ふ。血吹きだし、胡桃割り危きほどは、己れが恐れ侍れば、申さず。あやまちは、安き所に成りて、必ず仕る事に候ふ」と言ふ。あやしき下半なれども、聖人の戒めにかなへり。鞠も、難き所を蹴出して後、安く思へば必ず種残つと侍るやらん。
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投稿:2009.02.20
種無草
著者 ホログラム 様 / アクセス 14305 / ♥ 5