貧しい農村部に生まれた子供の将来など決まっている。男は二本の足で立ち歩き始めた頃から働き手として、女は初潮を迎える頃にはなるべく高い結納金を出してくれる家との縁談が決められる。
しかし女の体でありながら、陰裂の前部に陰茎を飛び出させている私には、どちらの将来もやってはこなかった。
(リィファ、お前の買い手が決まったぞ。日本人の金持ちだ)
連れて来られたのは見栄っ張りの日本人が住むには少々寂しい田舎ではあったが、そんな風景を忘れさせるほど豪奢な洋館。
(男でも女でもない体で生まれたお前を14の齢まで育ててやった恩を返すんだぞ。そこのお嬢様に気に入ってもらえれば、俺だってこんな暮らしから拾い上げてもらえるんだ)
財閥一家のお嬢様とやらは右頭部から頬にかけて立派な火傷の痕をお持ちで、つまり良家の子女として表に出られない憂さを晴らすための慰み者をご所望であらせられたのだ。彼女の前では私たちは、一切の衣服を身に着けることは許されなかった。私たち、というのは私の他にもう一人、ロゥエイという男の子がいた。年のころは12〜13歳くらいの彼には、両腕が無かった。生まれつきのようで、肩の先には纏足されたつま先のようなものが付いている。
お嬢様に私たちはまず色々な質問をされた。
「ねぇ貴方、女の子なのでしょう? 乳房も膨らんでいるし。なのにどうしてそんな物がついているのかしら。変な体ねぇ」
黒服の男が通訳をしているが、何を言われてるのかは顔を見ればわかる。嘲笑。
「ねぇ、お小水ははそこから出るの?」
黒服が「正直にお答えするように」と念を押す。もとより隠すつもりも無い。「見せろ」と言われればそれまでだ。
「いえ、丁度この裏側あたりでします」
こちらは、お嬢様の隣にいる赤服が通訳をする。
私の隣ではロゥエイ少年が顔をこちらへ向けるように頬を床にくっつけて、陰茎も同じく床に擦り付けている。どうやら私の体を見ながら自慰をするよう命じられたようだ。大きくもなく、皮被りの陰茎では手こずるようである。
「ふぅ、私なんだか疲れてしまいましたわ」
給仕らしき女が紅茶を運んできた。
「そうだわ。私が休んでいる間、貴方たちはお相撲をとって楽しませてくれないかしら」
黒服赤服の両方から相撲というものを教わり、私たちは向き合った。
「いいかしら? それ、ハッキヨーイ、ノコッタ」
私たちは組み合うが、ロゥエイには腕が無いのでなんともぎこちない。
「そら二人とも頑張って。そうだわ、勝った方はお父様に頼んで、我が高宮家の養子にしてあげるわ。日本の学校にも通えるのよ、素敵でしょう」
黒服が私たちに大声を出す。養子というのは信用できないが、ここでお嬢様の機嫌を損ねるのも得策ではない。ロゥエイも同じ考えのようで、私たちは真剣にやることにした。
「それノコッタノコッタ〜」
本気を出すのはいいのだが、腕の無いロゥエイは私の乳房に顔を押し付け、あげくに腰まで押し当てなくては力を入れられないのだから困ってしまう。陰茎同士をぶつかり合わせているうちについには二人ともが勃起してしまった。
「まあ、お相撲を見ながらチャンバラまで見られるなんて素敵だわ。うふふ」
びゅびゅっと私の膣口に何かが当たった。射精したロゥエイはそのままくず折れてしまった。
パチパチと手を叩きながら
「勝負あったわね。お二人ともなかなかのおすもうっぷりでしたわ」
どうやら機嫌を損ねる結果にはならなかったようである。
「それにしても…神聖なる土俵の上でおもらしをしてしまった力士はやはりチョンマゲを切らなくてはならないわよねぇ…」
赤服の手には庭仕事で使う鋏のようなものが握られている。給仕の女がロゥエイの肩を押さえつけ、黒服が足を開かせる。そして鋏を股座へ。ロゥエイは首を振って抵抗する。
「あらみっともない。こんなとき力士なら『ごっつぁんです』と一言あればいいのよ」
黒服が「言え」命じる。
「コ…コッチャンテス! ゴチャアンテス! コチャーンテス!」
『コチュアンテス』とは日本の許しを乞う言葉であろうか。いずれにせよこんなに何度も言っているのだからもうタチの悪い冗談はやめてやればよいのに。
「コッチュンテス! ゴッチュンデス!」
黒服が力を込めた。
「ゴッツァン…! デスゥ…ウッウゥ〜」
給仕の女が根元を縛って止血をしていると、黒服が切り取ったそれをお嬢様に差し出した。
「あら、私がいつそんなものを欲しいといいました? それに他人のものを勝手に盗ったら泥棒じゃないの。まさか貴方使用人の分際でこの高宮桜子を侮辱しているのかしら? さあはやく持ち主にお返ししなさい!」
黒服はあわてて焦燥したロゥエイの元へ戻そうとするが、手があれでは持たせることもできない。
「困ったわねぇ。そうだわ、お口に咥えていなさいな。大切なものなのでしょう?」
先刻は射精の快感を味わわせてくれていた陰茎を、ロゥエイは口に咥えた。
最早ただの肉切れとなった物に何の未練があるのか、歯を立てないように甘咬みをして泣きすさんでいる。
腕の無い少年のそんな姿を見て私は「なんて醜い生き物だろう」と思った。
涙など生きる希望のある人間しか流してはいけないものだ。生まれつき腕が無く、親に売られてそのうえ男も失ったお前になんの希望が残っている? それもわからない馬鹿だから奪われるんだ。
私は違う。私はきっとこの気狂い日本人に取り入って、生き延びてやる。
そうだな、それが出来たら今度はあの父親に『コチュアンテス』でもやらせようか。
ただ一人優しかった母さんの命日、茉莉花の咲く頃にでも…。
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投稿:2010.04.30
茉莉花の咲く頃に
著者 暫定初心者 様 / アクセス 10909 / ♥ 1