昔々、遥か遠くの雪国には、豪雪と突風で人を寄せ付けない、険しい山脈地帯が延々と続いていたそうだ。
環境の厳しさから外界と完全に遮断された山には、いつしか鬼が住んでいると言い伝えられるようになった。吹雪の起こす風鳴りの音は、鬼の吠える声のように麓の村落へ響き渡り、長老から赤子まで全ての村人を怯えさせた。
その音にちなんで、村の周囲の山々は鬼吠山と呼ばれるようになる。
事実、鬼吠山には確かに鬼が住んでいた。とは言っても、彼らは角こそ生えて入るが鬼というには可笑しいくらい温厚で優しく、決して人間に危害を加えるような乱暴者はいなかったという。
彼らは天然に形造られた洞窟を掘り繋げ、小さな集落を形成して暮らしていた。人間との生活での接点は勿論ない。極々たまに雪山で遭難して凍死した人間を埋葬してやることぐらいだろうか。
生まれてから一度も人を見たことがない者も、若い鬼のなかには多い。その中に一際人間への興味を示す若者がいた。
「長老、おら、人の村に降りてみたい。」
「何と言ったゴショウよ。人とは関わってはいかん。」
「成人まで待ったんだ。おらはいくぞ。」
長老の反対を無視して、ゴショウは下山の為の荷物をまとめた。彼の幼馴染であり、婚約者であるホタンがゴショウの腕を引く。
「やめて! あなたが子供の頃からずっと岩の上から村を見てたのは知ってるわ。でも嫌な予感がするの……。」
「大丈夫大丈夫。たとえ雪崩がこようとおらは頑丈だしな。」
むん、と力瘤をつくってみせたゴショウは、吹雪によって鍛えられた引き締まりの良い肉体でホタンを優しく抱きしめた。
「帰ってきたら、その…おらの子供を、産んでほしいんだ…。ホタン。」
「結婚が、先でしょう…馬鹿。」
涙ながらに未来の夫を送り出したホタンは、残念なことにまだゴショウと身体を重ねたことはなかった。
もっと早く二人が結ばれ、ゴショウが彼女に種を付けていたなら、これから起こることに対して少しは慰めにもなったであろう。
出発した日の夕方頃、麓に降り立ったゴショウに出会った村人は、その額に生えた二本の角を見て悲鳴を上げた。
「お、鬼じゃあ! 鬼吠山の人食い鬼じゃあぁ!」
「ひ、人食いって、そんなおらは……。」
ゴショウが弁解する間もなく、村人たちが家の中にまるで鼠が逃げるかのように引っ込んだ。雨戸が閉められ、隙間からは怯えた瞳がこちらを向いている。
「そ、そんなして、逃げなくてもいいのに……。」
いきなりの拒絶に寂しさを覚えたゴショウは、下山の疲れも溜まって道端の地蔵前に腰を下ろした。
「ふあーあ、まあ仕方ないか。明日から徐々に馴染んでいこう。」
よほど疲れていたらしく、ゴショウが大あくびをしてから顎をこっくり落として眠りに入るまでそう時間はかからなかった。
「やい、起きろこのやろう。」
村人から頭から水を被せられたゴショウはびっくりして目を覚ました。いつの間にやら夜は更けて、あたりは烏が僅かに鳴いている。
古びた寺のお堂の柱にゴショウは太い縄で括りつけられていた。
自由を完璧に奪われ、何が何だかわからないゴショウを、農具で武装した農民が取り囲んでいる。大人も子供も合わせ、全ての村人がお堂に集まっていた。
「なな何なんだ! これをほどいてくれよ!」
「むう…悪鬼め、口を閉じるがよいわ。」
寺を預かる和尚がずいと前に進み出る。しゃらしゃらと数珠を鳴らす和尚の瞳は血走っていた。
村人たちが和尚にすがりつく。
「和尚様。どうかこの鬼めを法力にて退治してくださいませ。」
「うむ、任せておけ。」
「ちょっと、待ってくれ。俺は悪いことなんてしてない!」
聞く耳持たん、と和尚は一喝した。
「村人たちよ。まずは悪鬼の服を全て剥ぎ取るのじゃ。」
縛られて抵抗できないゴショウの衣類を、村人は縄まで斬らぬよう引き裂いていく。
あっという間に褌すら取られ、丸裸になったゴショウの股間を、和尚は杖で村人に突き示した。
「見よこの鬼の股ぐらを。このようなふてぶてしい棍棒を隠し持っておったわ。」
縄を抜けて褌の下から落ちてきた巨根を村人たちはまじまじと見物した。
それは牛馬の一物を彷彿とさせる太さ、長さを持った名器であった。人のそれを遥かに上回るたわわに実ったものが、椎茸の先をつけたような亀頭をぶらぶらさせている。
「やっ…見るなっ! 見るなよおまえたち!」
「このような悪根、断じてあってはならん。村の衆よ、力を合わせてこの悪鬼を調伏いたすぞ!」
おお! と村人の声が上がる。冬の寒さのものではない悪寒がゴショウを襲った。
「いやだぁ! やめろっ! うぐぐ…ぐ…。」
猿轡を嵌められ、ゴショウがうめき声しか出せなくなると、村人たちの調子は次第に上がっていった。和尚が唱える念仏に合わせ、刃物を研ぐ音がゴショウの後ろから聞こえてきた。
恐ろしい存在だと思われてきた鬼が、動けぬように縛られ、服を剥かれ、猿轡をはめられて何の抵抗もできないで目の前にいることで、普段から上流階級に虐げられてきた農民たちの加虐的欲求に火がついたようだった。
「へっ、鬼やろう。こうなればもう片なしだなぁ?」
「全くひやひやしちまったよあたしは。何だい、よく見ればいい顔かまえじゃないか。」
「んんふぅううっ! げふぅううっ!! あっあぐっ!」
男どもはゴショウの身体にあちこち蹴りや殴りをいれ、ひどい痣を作った。女どもは逆に筋肉質な体の弱い部分をくすぐるように撫でまわしてゴショウが悶えるのを楽しむ。
大人の責めを受ける上半身に背が届かない子供たちが、彼の下半身の中で一番目立つ場所に集まってきた。
「うわー! チンポコむちゃくちゃでけえ…。指入れてみよっと。」
「……がっ、っがぁあああああぁっ!!!」
好奇心旺盛な男の子が、汚い爪の生えた人差し指を、何の遠慮も無くゴショウの狭い尿道に突っ込んだ。
みるみる内に内部の組織が破れ、血が噴き出す。裂けた己の尿道が痛みの悲鳴を上げた時、ゴショウは失禁して口から泡を噴いた。
「うっわ、小便だ。ばっちいなあ…。」
不幸なことに、激痛を浴びたことで男性機能の危機を感じたゴショウのペニスは勃起を始めた。おかげで尿道の痛みは倍増する。
「鬼さんのタマタマおおきいね。わあ、卵みたいで毛むくじゃらだぁ!」
女の子が二つの玉が入った袋を掴みめちゃくちゃに引っ張る。睾丸が捻じれ、その器官を持たない者には理解できないだろう苦痛に、ゴショウは悶絶した。
こりこりと弄ばれる双球は何度もひしゃげ、何度も平たく掌の間でこねられる。力加減を知らない少女の手の中で、ゴショウの立派な睾丸に詰まった精子は次々絶命していった。
「これこれ子供たち、村の衆。そんなに責め立てては儂の出る幕がないでのう。」
「へへ、すいやせん和尚様。で、それは?」
和尚が手にしていたのは鋭く研がれた業物の刀だった。その切れ味はぎらりと光る刃縁が証明している。
「羅切刀じゃ。これでこの鬼の悪根を絶やしてくれようぞ。」
修行僧が煩悩を断ち切る為に使われるという、魔羅切り専門の刀。しかしながら和尚も実際に使ったことはなく、長い間土倉にしまってあったものをわざわざ取り出してきたのだ。
こうなってはもう穏便な種族だとか何とか言ってはいられない。ゴショウはありったけの力で縄をほどこうとする。
しかし村人に妨害され、遂にゴショウは赤ん坊のようにおんおんと泣き出した。
和尚や村人たちにとってそのような姿は逆に加虐心へ更なる火をつけるだけであった。
羅切刀が当てやすいよう、下腹部の茂みが草刈り鎌で剃られる。
根元に和尚の数珠が巻き付けられ、強制的に勃起が続くよう締め付けられるゴショウのペニスが、びくびくと震えた。
透明な雫が、指の形にこじ開けられた痛々しい鈴口からとくとくと溢れだす。まるで両の目からでは出しきれなかった悔恨の涙が流れているようだった。
(なぜ、こんなところに降りてきてしまったのだろう…。)
村で最も大柄な男が羅切刀を手に、ゴショウの傍に近寄った。白い刃がその天を突かんとばかりに勃起した巨根の根元に擦れ、少しだけ血が滲む。
と同時に、二人の男がゴショウの髪を引っ張り上げ、二本の角のそれぞれに鋸を当てて引き始めた。
鹿の角でも斬るように削り粉を散らしながら折れた角がゴショウの目の前に落ちてくる。
神経は通っていないので痛みは感じなかったが、ゴショウにとってはまるで魂を折られたかのような衝撃だった。
「折った角は、悪しき種を作ってきたその卑しい玉に一本ずつ打ちたてよ!」
ゴショウの睾丸がまな板の上に乗せられ、そして自らの角がその上に釘打たれた。
「ひぎぃいいいぃあっあああぁあああっ!!!」
食い縛る歯がみしみしと砕け、猿轡が噛みちぎれてゴショウの悲鳴が漏れた。太い角はぼたもちに似た睾丸の中心を二つとも貫き、まな板を赤く染めていく。男そのものを潰される阿鼻叫喚の光景に、村の男たちまでもが股間を縮みあがらせた。
「だっだずけでぇっ…。いやだ、いだいぃ…。ぎるなぁあ…。」
「観念せい悪鬼め! 一体何人その悪根で犯して孕ませたのだ! その邪悪な魔羅も子種袋もひとまとめに調伏してくれる!! 」
大変な言いがかりだった。ゴショウはまだ童貞なのだ。ましてや強姦など、性格上出来る訳もない。
村人全員が叫び出した。憎たらしい鬼の下から禍々しくそそり立つ、悪しき男根が聖断されるその瞬間を今か今かと待ちわびて、村人の興奮は最高潮に達していた。
「斬れきれ! ばっさりいけ!」
「鬼の小便臭いチンポコなんて、犬みたいに去勢しちゃえ!」
「己自身を失い、悔い改めるがいい! さあ、今だやれ!」
「おあ、ひぎいっああぁああああっっーーーー!!!!」
力強い振り降ろしだった。羅切刀は寸分違わずゴショウの男性器の根元に食いこみ、肉を裂いて尿道や血管を断ちながら、玉袋ごとその見事な巨根を肉体と離別させた。
羅切刀がまな板に突き刺さって止まる。木を打つ軽快な音が堂内に響いた頃には、ゴショウは目を見開いて涎と鼻水を垂れ流していた。
うなぎのようにしなるゴショウの大きなペニスが前に倒れると、真っ赤なまな板に向かってびゅるびゅると、玉に残っていた白い精をひり出すようにして射精が始まった。
「ぎゃあっ! こ、こいつ、汚いものを吐いたぞ!! 恥を知れ!」
「待たんか、調伏された鬼の精は薬の元にもなるんじゃ。粗末に扱うのは惜しい。」
去勢の瞬間ゴショウが暴れたせいで、粉々に潰れた睾丸から、血まみれの角が抜かれた。小さな壺の中へ逆さまになるよう吊り下げられると、そこが女の膣内だとでも思ったのか嬉しそうに切り取られたペニスは吐精のペースをあげる。
「ははは、遂に鬼を退治したぞ! 村の衆もよう頑張ってくれた!」
「おい見ろよ。この濃い子種、まだまだ出るぞ。流石は鬼の太魔羅じゃわい!」
それはゴショウが許嫁のホタンと子供を為す時に備えて自慰を禁じていたからだった。
ゴショウは幼いころに温泉で見たホタンの裸体を思い出した。あの小さな乳房はどんなふうに育ったのだろう。自分を受け入れるはずだった柔らかな割れ目をもう知ることはできない。
ホタンとの間に生まれるはずだったわが子の顔が次々と想像されたが、男を奪われたゴショウにとってそれは悲しい幻想でしかなかった。
子作りに使うはずだった濃厚な精液が和尚の壺を満たす頃、主を失った真っ赤な鬼の棍棒は萎びて冷たくなった。その残骸は天日干しされた後、和尚によって桐の箱に入れられ鬼退治の証として保管された。
人間の手によるあまりの仕打ちに涙も枯れ果てたゴショウだったが、地獄の集団狂気はまだ終わらなかった。
彼ら村人はゴショウの手足を鋸で切り取って更にそれを魔よけに使った。
村の隅には彼専用の檻が造られ、ゴショウは村人共通の玩具としてしばらく飼われた。彼は一日中、子供から年寄りに至るまで様々な村の人間に苛め抜かれた。
手足も無く、仰向けになれば這って動くこともできないゴショウの身体は常に汚物でまみれていた。
隆々とした逞しい腹筋の下に、あるべき男の印はない。その姿は筋肉の付いた達磨そのものであった。
一年が過ぎた頃、ゴショウを飼うことに飽きてきた村人たちは彼を鬼吠山に帰してやった。
全裸で新雪に沈みながらも懸命に這って行く鬼の後ろ姿を、村人たちはいつまでも嘲っていた。
吹雪の中を進むゴショウは遂に故郷へとたどり着いた。そこには一年前と変わらずゴショウを待っていたホタンがいた。
ホタンは許嫁の変わり果てた姿を見た途端、気絶してしまった。ゴショウもまた、全身を凍傷で腐らせ、手当てを受ける間もなく永遠の眠りについた。
いつしか吹雪の音は鬼の吠える音ではなく、啜り泣くような声に変っていたという。
それからだ。鬼吠山と呼ばれていた山々が、鬼泣山と呼ばれるようになったのは。
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投稿:2010.11.03
鬼泣山
著者 モブ 様 / アクセス 12898 / ♥ 2