私は記録するのが好きだ。ことさら好きなのは血生臭い事象についての記録である。戦争の記録、領民の反乱の記録、罪人の処刑の詳細な記録・・・周囲の同輩貴族からはどうも変人扱いされているが、私はこの国で行われる様々な事象を長年記録にとってきた。
そんな私の元に、近々「獣狩り」が始まるという知らせが耳に入ったのは、春が夏に変わろうとする頃合いだった。
山登りの準備を整え、私は武装した猟団に同行することにした。私たちの接近を勘づかれてはならない為、森の景色に隠れる茶緑のマントを羽織り慎重に進んでいく。
「随分険しい道ですね」
猟団の狩人たちは屁でもないようだったが、貧弱な私の足腰にはなかなかこたえる山道だ。
「なあに、もうすぐでさあ。それに、険しい山に住んでる奴らの方が質がいいんでさあ。」
「見えますかね?貴族様。あそこが奴らの住処ですわ。」
私は遠眼鏡を鞄から取り出し、狩人の指差す方角に向けた。いくつかの粗末な小屋が山の斜面に密集して建っている。そこから出てきたのは人ではなかった。
「あれが獣人の集落ですか・・・。」
「そうですわ、うむ、この巣はなかなかにいい物がそろっているようで。」
獣のような体毛を生やし、獣耳や尻尾まで生えているというのに、人間のような体躯を持ち二足で歩いている。人とも獣ともつかない存在、ゆえに彼らは獣人と呼称されている。
獣人は野蛮な種族で、かつて悪魔が人間に獣の子供を孕ませて出来た生物だと私は聞いていた。野生の獣人はことさら気性が荒く、人を襲って食したりもするという。
「どうやって捕えるのですか?」
狩人の一人が私に毒よけの布を差し出した。私がそれを顔につけると、狩人たちは毒煙を撒き始めた。
白い霧のような毒煙が山肌を滑るように下っていき、獣人の集落をゆっくり包んでいく。そうして一面に毒が散布された集落に私たちが降りて行くと、獣人たちは全員眠りこけていた。
「布を外さないでくだせえ貴族様。ヒトにはきつい毒ですので。」
「わかった、私はもうちょっとここの記録を取っておきます。」
私が手記に獣人の集落がどういう風になっているのか記録している間、狩人たちは次々に昏倒した獣人たちを荷車に積んでいった。
翌日町に戻った猟団は、獣人を人気のない建物に運び込んだ。彼らはまだ眠ったままだ。
獣人を奴隷にする前に、ここで彼らの去勢を行うのだそうだ。人間と獣人の明確な区別をつけるためと、気性を少しでもおとなしくさせるため、半ば必須の作業らしい。
商人の男が神父を連れてやってきた。まだ若そうな神父は心なしかおびえているように見える。
「ああ、不浄なる生き物がこんなにもたくさん・・・。」
「神父様、そう怖がることはありませんよ。こいつらは後3日ぐらいなら何をしても目を覚ましませんので。」
神父はほっと溜息をついたが、相変わらず十字架を握りしめていた。
教会の礼拝堂ほどの広さがある建物内に何重ものベッドが連なって置かれている。一つとしてシーツが白いものはなく、黒ずんだ汚れが不潔さを際立たせる。
狩人が4人がかりで眠った獣人たちをベッドに寝かせていく。全部で50体くらいだろう。メスの獣人はもっと奥へと連れて行かれたので、ベッドに寝ているのは子供や大人様々だがみなオスの獣人だ。
狩人たちが手分けして獣人の原始的な服を破り剥いでいく。獣の独特な体臭が私の鼻を突いた。
彼らがこの町で二度と服を着ることはない。
「まずはこいつからにしよう。」
捕まった中でも一際大柄なオスの獣人にみなが集まる。硬く引き締まった肉体はほとんど人間そのものに近く、すこぶる健康的に見えた。
奴隷とする前に、商人が触診を始める。私も手袋を嵌めて加わった。上腕のあまりの太さに驚き、小さな肉球が手足にあることにも驚いた。。爪の鋭さ、尻尾の長さなども詳細に記録していく。
商人は深く割れこんだ腹筋を叩いて肉の締まり具合を確かめた後、獣人の肛門に指を差し入れた。「ウッ・・」獣人が僅かに呻いた。
「そんなところも調べるんですか。」
「はいな、きっちりと隅々まで調べつくしてから売りますんで。」
そう言いながら商人は「ちょっとした余興をやりましょうぜ、貴族様。」と、突き入れた指を動かした。獣人の表情が少し苦悶に満ちたものになったが、肉体に変化が訪れた。
体毛が逆立ち、そして股間からゆっくり彼の肉塔が立っていく。獣人のペニスが鎌首を上げながら勃起していく様子に私は見取れてしまった。
「な、なんと汚らわしい・・・禍々しい獣根だ。」
神父はそう言ったが、獣人のペニスは人間のものとそれほど変わっていないように見えた。
オスの獣人は気持ちよさそうに寝息を立てている。よく見れば結構人のよさそうな印象を受ける顔立ちだった。獰猛な種族には見えない。
「おう、これは玉も竿もデカくて精も濃さそうだ。いっそのこと手足の方を切っちまって種付け用にしちまいましょうか?」
狩人の恐ろしい提案に、商人は首を横に振った。
「いや、こいつにはもう買い手がついてる。質のいいやつだから、きれいに仕上げてくれよ。」
合点承知、と狩人は小刀を取り出し、獣人の陰毛と体毛を剃り落としていく。その傍では神父が聖書の文句を呟いていた。
「危険な獣と言えど、このようなことをするのは心が痛みます・・・。」
「なに神父様、こいつらは犬ッコロみたいなもんでさあ。人様のをちょん切るならともかく、犬のやつを取るくれえで神様もお怒りにはならんでしょう。」
獣人の股を強引にひらけ、狩人はそそり勃った獣根の亀頭をペンチで摘まんだ。小刀からよく研がれた鉈包丁に持ち替え、立派なペニスを引っ張り上げながら刃を当てる。尊厳を微塵も感じさせない、汚物を処理するような扱い方だ。
ペンチで絞められても感じるのだろうか、ペニスの先からはぬるぬるした滴が垂れていた。
「獣の分際でこんな生意気なもん持ってるのは癪に障るしな。ちゃっちゃと豚の餌にしてやろう。」
獣人の醜く太った陰茎が引き延ばされ、鉈包丁が玉袋の横から食い込んだ。痛みに反応してか、発達した全身の筋肉が盛り上がっていく。しかしながら目は覚まさないようだった。
「ち、血が、血が、・・・ああ私駄目です。」
一目散に逃げていった神父とは正反対に、私はその壮絶な光景を一心不乱に記録し続けた。
上下にスライドする包丁のリズムに合わせて、獣人のしなやかな腰は何度も跳ねた。その下半身は血まみれで、中心から伸びた大きめのペニスは、切られるたびに身体からひき伸ばされているせいか、より長くなっていくようだった。
その作業の様子は何かに似ていた。ちょうど、つりさげられた大きな肉を客の要望に答えて小分けに削いでいく肉屋での光景に近いかもしれない。
しかしながら、当の獣人が見せる寝顔は相変わらずのんきなものである。実に滑稽であった。なんと家畜的で、無防備な表情だろう。
自分からペニスを差し出すように四肢を大きく開け、その身を刃が走っていくのも知らず、へらへらとした笑顔すら浮かべている。ペンチで強く挟まれた肉茎は大きく勃起したままで、ついには不浄な白い精液が滲みだし始めた。
きっと生まれながらにして、この獣人は奴隷の性質を持っているに違いない。千切れかけの獣根を目の当たりにしながら、私は獣人が卑しく射精する様を如実に記録した。
そうして私がペンを忙しく走らせている間に、かの獣人に対する去勢が終了した。
最期は乱暴にその肉塊をペンチでひねり上げ、狩人は身体との接合部に何度も包丁をぶつけ、それを叩き折るように切り離した。そして千切れた獣根を傍らの汚ない樽に捨てて、清々したように血染めの手袋を剥がして投げた。
「しっかし、失礼かもしれませんが貴族様、こんなのがお好きだなんて結構恐ろしいお方ですなあ。」
「ははは、友達にもよく言われるのだが、やっぱり庶民にもそう映るか。」
狩人が焼き鏝を去勢の痕に押しつける。すぐに出血は止まり、尿の出る口を狩人が作った。更に、先ほど亀頭を掴んでいたペンチが洗いもされぬまま獣人の口に押し入れられると、骨の砕けるような音とともに、犬のような獣牙が何本も抜かれていった。
そこまでされても獣人は起きない。抜歯による血とよだれを垂らして幸せそうに眠っている。
狩人が抜いた牙を同じ樽に投げ捨てると、私たちはそろって次の獣人が眠るベッドに向かった。
次に寝かされているのは少年の獣人だった。人間でいうと12、3歳ごろだろうか。眉が太く気の強そうな顔をしている。時折、野犬のような異形の耳がぴくぴく動いている。
彼の去勢は私が執り行った。言われたとおりにまだ幼いペニスをペンチで摘まみ、洗った鉈包丁を根元に走らせた。
それは案外あっけないものだった。まるで硬めのステーキを切る時のような感触が手に残っただけだった。手にしたペンチを振ると、切ったばかりの可愛らしい獣根がぷるぷると震え、柔らかい感触が手に伝わってきた。
やんちゃそうな顔の少年はすやすやと寝息を立てていた。未発達の身体はもう雄として完成することはない。
後で聞いたところ、この少年は肉体労働用ではなく愛玩用として売られるらしい。人ではないが人に近しい形を持っているという点で、確かにその手の者たちには受けがいいのかもしれない。
我々の社会を支える奴隷たちがどのように生まれ、どのように家畜化されているか、それはとても興味深い事柄だった。
そう言えば、あの後少し経ってから町で獣人の奴隷が暴れているのを見かけたことがある。店の商品を勝手に盗み出そうとして憲兵たちに捕縛されたそうだ。
その商品というのが実に面白いもので、それは魔除けとして加工された彼らのペニス像だった。きっとあの獣人はその中から自分の股間にかつて当たり前についていたものを見つけたのだろう。
私は店主に掛けあい、危うく盗まれそうになったその逸物を購入することにした。それを見た瞬間、なるほど、と納得させられた。なにせそれは並ケタ外れて雄々しく、均整のとれた立派なものだったからだ。
この名器がえぐり取られたのを知った時、彼はどれだけ絶望したのか、この硬く張り詰めた魔除け像を眺める度に私はちょっと考えてしまうのだった。
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投稿:2011.05.08
獣狩りの記録
著者 モブ 様 / アクセス 14481 / ♥ 6