先日、母上のご友人が我が城に参られた。母上がこの国に嫁いでくる前からの親友に当たる人で、その美しさときたら海を越えた他国でも有名だそうだ。
しかし僕はご来城のその日、直接その人を拝顔できてはいない。僕は生まれつき病弱に出来ていて、その日もまた熱を出して寝室に閉じこもっていたからだ。
傍らにはメイド長と、近衛隊長のアンティノがいるだけだった。
「剣術のご稽古はやはりおやめになった方がよろしいかと、殿下・・・。」
アンティノは僕の虚弱な身体のことをいつもひどく案じていて、こういうときには誰よりもずっと傍にいてくれる。
先の戦乱で未亡人となった母上に育てられた僕にとっては、アンティノは亡くなった父上のような存在だった。
「アンティノ、僕は大丈夫だぞ。アンティノが剣を教えてくれるおかげで、結構体力もついてきたし・・。」
そう言いながら僕は血咳をぽたぽたと毛布にこぼしてしまった。なんとも情けないことだ。
メイド長があわてて替えの毛布を取りにいった。
「ですが殿下・・・先ほどもご稽古中に倒れられましたし、御身に何かありましたら私たち臣下の者も困ります。」
アンティノの言うことももっともだった。しかし僕にはそれ以外、外で何かする機会などないのだ。
生まれてから10数年、四角い箱のような部屋で寝て過ごしてきた僕にとって、外界のもつ魅力は果てしないものだ。だからアンティノやメイドたちが外の話を持ち込んでくるのは嬉しい反面、窓から見える城下の景色をより一層恨めしく見せた。
「アンティノは頑丈そうでうらやましいや。僕もアンティノと同じ男の筈なのに背も伸びないし、肉なんかげっそり落ちちゃって、まるで骸骨みたい。」
「殿下・・・。」
メイド長が帰ってきて、母上がアンティノをお呼びになっていると言ってきた。アンティノは残念そうな顔で席を立ち、僕の寝室から姿を消した。
それからアンティノの姿はしばらく見なかった。
僕の体調は3日後ようやく立ち直った。母上はその日、親友とのディナーパーティーを催し、僕は初めて彼女に拝顔できた。
「お初にお目にかかりますわ、殿下。」
実に綺麗な人だった。母上より20も30も若く見える。実際は母上と同世代だそうなのだが、言われてみても信じられない。
「エーナ、私の息子があなたを見て困っているわ。ささ、お食事に戻りましょう。」
「ええと、何の話で盛り上がっていたのかしら?」
外からの客人をもてなすのは、父上が亡くなってから数えるほどしか経験していない。僕は何を話せばいいのか分からず、つい率直な疑問を口走ってしまった。
「あ、あの、エーナ様は何故それほどまでにお美しいのでしょうか?」
エーナ様はちょっと間を開けた後、くすくすと口元を隠してお笑いになった。
「あなたの母君にも近日お話ししたのですが、私は美を永久に保存していく方法を発見いたしましたの。」
リンゴのように紅い唇を弾ませて、エーナ様は語った。
発見はメイドがエーナ様の整髪をする際、誤って自分の指を切ったことから始まったそうだ。その時かかった血で手をこすると、瞬く間にその部位が瑞々しい肌に変化し、エーナ様は大変驚かれたらしい。
「私は確信いたしましたの。若く、そして処女である娘の血が老衰を極限まで抑え、高級なる美を肌に刻み込むことを。」
「でもエーナ、どれだけ勧められても私にはちょっと出来かねますわ。血を見るだけでめまいがしてしまいますのに。」
「まあ残念、でも機会があればお試し遊ばせ。私なんて国にいるときは毎晩一娘分の血に浸かってつやつやになっていますのよ。」
あまりの会話内容に、僕はげろげろ吐いてしまった。メイドたちが慌てて始末にとりかかり、母上はおろおろと席を立ってこちらにやってきた。
「申し訳ないわ、軽い冗談話でしたのよ。でもお食事中にする話題ではありませんでしたわ・・・。」
「いいえ、生まれつき病弱なのよこの子。」
僕はまた気分が悪くなって、寝室に戻ることになった。
涼しい夜風が窓から入ってくる。アンティノに会いたかった。アンティノはどこにいったのだろうか。
次の朝、エーナ様は馬車に乗ってお帰りになった。部屋の窓から母上がお見送りに出ている。何かエーナ様と話しておられるようだった。
僕は本を読むのに戻った。アンティノは今日も僕の寝室に来ない。先日僕が少しうんざりしたような態度をとってしまったからなのだろうか。
「殿下、失礼します。」
扉が開いた時、アンティノかと思ったが、そこにいたのはメイド長だった。
「奥方様が薬浴をご用意されたので、いまから湯浴みをせよと仰っております。」
「薬浴?」
湯浴み、と聞いて、僕は昨日のおぞましい会話を思い出さずにはいられなかった。いつの間にそんな準備を整えたのだろうか。
浴場はむせかえるような刺激臭で溢れていた。若干緑がかった乳白色の薬湯に、幾種もの見たことがない薬草が束ねられて浮いている。処女の血、という訳ではなさそうなので安心した。
流石に見た目が怪しげなもので、つい茫然と立ち尽くしてしまったが、メイドたちはそそくさと僕の着衣を奪っていく。
「肩までしっかりお浸かりください。10分ほどしましたらお召し物を持ってまた参りますので。」
しぶしぶ裸になった僕は、ゆっくりと湯に身体を入れた。皮膚が炭で炙られているようだ。薬湯は柔らかいドロを溶かしたような粘り気があり、身体にまとわりついて離れない。
本当に10分たったのだろうか、メイドたちが帰ってきた頃には、僕はぐったりと疲れていた。
その晩、効果があったのかどうかわからないが、僕は咳一つすることなくぐっすり眠れた。アンティノは今晩もとうとう部屋には来てくれなかった。
次の日も、また次の日も薬浴は続いた。不思議なことに、それまでどんな高名な医者が手を尽くしてもよくならなかった僕の病状は、薬浴を始めた日を境に克服の兆しを見せていた。
いつまでたっても慣れない激臭に鼻を押さえながら、僕はどうやってこの秘湯が作られているのか気になってしょうがなかった。
湧き出し口のある壁に耳を当てる。僅かに地鳴りのような音が聞こえるが、よく分からない。時折、湧き出し口から新しい薬湯が流れてくるだけだった。
その時、壁に寄り掛かっていた手が沈んだ。湯飛沫に当たって老朽化したのか、レンガが何枚か、ひび割れて抜け落ちようとしている。
僕はそっと一枚レンガを抜くと、奥の様子を確かめた。
狭く、窓のない部屋の真ん中に、大きなすり鉢状の穴が掘ってあった。そこは並々ならぬ量の白濁した液が入っていた。
その巨大な穴の前には、苦痛にあえぐアンティノがいた。僕は思わず口を塞いだ。
アンティノは裸だった。訓練で鍛え抜かれた兵士の肉体にはロープが何重にも巻かれ、後ろ手で縛られている。椅子に座っているようだが、彼の太い股は大きく広げられて固定されており、その真ん中に生えた、僕が初めて見るアンティノの性器は異常なことになっていた。
「アンティノ・・・!」
アンティノのペニスは歪に膨れ上がっていた。もう一本足が生えているかのごとく長さも太さも変化していて、重みで前のめりになっている。普段の姿など知る由もないが、元の10倍は大きくなっているように見える。
僕は生唾を飲んだ。アンティノの巨大な亀頭は薄皮一つかぶっていない。あれが大人の成熟した男性器なのかと思うと、僕の未熟な性器も興奮して勃起してしまった。
子供の指ならゆっくり飲み込めそうな尿道口がぱくぱくと開閉し、その度彼は白い塊を噴射していた。そのペースは速く、一旦出し切ったかと思えばすぐにまたペニスが震え、次の射精が始まる。
陰茎が上下に揺れる度、アンティノは苦しいのか気持ちいいのか複雑な表情で首を振った。射精が行われる度に、あの屈強な近衛隊長が泣いている。
アンティノの睾丸に対する仕打ちは残酷なものだった。
彼の打ち震えるペニスの下には二対の万力が設置されており、それぞれ片方ずつアンティノの睾丸を締めあげていた。
彼の睾丸も肉茎同様に異常な膨らみを見せており、アンティノが大きく股を開けた格好なのにも関わらず窮屈そうにお互いを圧迫しあっていた。
万力はどういう仕掛けが施されているのだろうか、ゆっくりと螺子が回りながらアンティノの巨大な双球をしぼり上げていく。そして螺子がしまる程、アンティノは狂ったように泣き叫び精を飛び散らした。
「近衛隊長殿、どうかね調子の程は?」
部屋に一つしかないドアが開き、見知らぬ老人がずかずかと入ってきた。アンティノは身を一瞬こわばらせたが、すぐにまたあえぎだした。
「ああ、そろそろお前さんでも限界かのう。続けてもう一週間にもなるかえ?」
老人はアンティノの石彫刻みたいに硬そうな亀頭部分を、皺だらけの手で包みしごいた。アンティノはさらに苦悶の声を出す。
「で、殿下の、身体をお治しする、お役に立てれば・・・どうということ、ありますまい。たとえ近衛が務まらない身体になり果てようと、かまいませぬ・・。」
「そうか、なら最後までしっかりと絞り出すのじゃ。」
呼びかけに応じるかのごとく、節くれだったペニスから吹きだす汁の量が増える。
「エーナ様の場合は生娘の生き血じゃったが、お主の大切な殿下を丈夫な男にするには、お前様のような豪胆な男の、ねっとりと濃い種水が大量に欠かせぬのじゃからな。」
老人は得体のしれない針を取り出し、アンティノのペニスに次々刺した。まるで遠い砂漠の国に生えるサボテンのような有り様になったアンティノの男根は、さらにむくむくと禍々しい伸長を始める。
いまや両足よりも存在感あるものになったペニスは、これまで以上に激しい吐精を開始した。勢いよろしく陰茎に刺さった針の束が揺れる。
アンティノの首ががくがく揺れる。気力体力ともに限界を迎えてしまったようだ。
「やれやれ、どんなに可愛い殿下かは知らんが、自分のイチモツまで賭けて尽くそうとするかね?自ら勧んで志願するとは、わしにはやはり理解できんよ。」
老人は自動で動く万力の螺子に手をかけて一気に捩じり回した。
ぐちぃぃぃぃーーーー。
ひどい破裂音がした。万力が完全に閉じ、挟まれていた肉の玉が二つとも形を失くした。
睾丸を潰された瞬間、隙間風のような細く甲高い悲鳴がアンティノの喉から漏れた。彼は天を仰いでいた。上を向いた口の端から細かな泡がこぼれて落ちた。
やがてアンティノが力なく首を前に落とすと、彼はぽっかり口を開けたまま白目をむいて失神していた。
木端微塵に玉を潰されたアンティノのペニスは、なおも不規則に白い塊を流しだしている。途切れなく白いクリーム状のものがぶるぶると吐き出されていく。
「よう頑張った・・・と言いたいのじゃが、まだ終わってないでの。」
アンティノの縄を解いた老人はそう言うと、今度はきらりと光る刃物を取り出した。精を絞り出し終えた陰茎から針をてきぱきと抜き、それをむんずとつかむ。
「ぎゃああああああ!!」
アンティノは絶叫とともに覚醒した。老人が何かを持ったままアンティノの傍から離れた。
その姿を見た僕に、心臓がくしゃくしゃに丸まったような衝撃が走った。アンティノの肥大した男性器は、跡形もなく彼から切り落とされてしまっていた。
アンティノは腹筋の割れた逞しい腹部を何度も何度も確認するように激しく触っていた。そこは悲惨な傷口がぱっくり開いているだけで、もはや彼が男だと証明するものは何も残っていない。そのシンボルは今、老人が手に掴んでいる。
アンティノは何度も狂ったように虚空を掴んでいたが、そこにあるはずのペニスがないことを認めると力なく手を落とした。
「こんなに薬で膨れさせてしまっては、どのみち腐り落ちるだけじゃ。切らんと仕方ないし。」
老人が悪びれる様子もなく言った。そしてアンティノのペニスだったものを麻袋にしまう。
「おーい、助手共、『元』近衛隊長殿を運んでいけ。」
3人の若い男が、淀んだ目のアンティノを引きずっていく。股間からはたくさんの血が溢れ、頑丈さが売りの筈だったアンティノの身体は真っ青だった。歩くことすらおぼつかないように、引きずられて部屋から出されていく。
僕はそっとレンガを元に戻し、湯船に戻った。
アンティノにはもう二度と会えないだろう。そしてまた母上は新しい生贄を使って、僕の為に薬湯を作り続けるに違いない。
その後、僕は幾度となく薬浴をさせられ続けた。僕の立場ではとても母上には逆らえないし、あのとき見たことを打ち明ける勇気もなかった。
今でも時々、僕は壁の向こうでまだアンティノが苦痛に呻きながら大事な玉を潰されているのではないかと心配になって、もろいレンガを外し奥をのぞいてしまう。
そして、そこに縛られて号泣する逞しい男たちがアンティノでないことが分かると、僕はどうしようもなく悪いとは思いながらも、ひどくほっとしてしまうのだ。
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投稿:2011.05.08
禁じられた薬浴
著者 モブ 様 / アクセス 13317 / ♥ 4