「ねぇ、パパ。男がはきたくなるパンツってどんなの?」
聞くが早いか、パパは逃げ出した。何故だ!
「いや、変な発明の実験台にされるのかと思って」
む、失礼な。ボクの発明は『変』じゃないぞ。
でもさすがにボクの父親だけあって、なかなか勘はするどいらしい。でも安心していいよ。今回のターゲットはパパじゃないから。
事の発端はケンちゃんの悩み相談だ。最近、ケンちゃんところのママが機嫌が悪くて、おやつのクッキーが二枚から一枚に減ってしまったらしい。50%の供給減、大問題だ。
これの原因がケンちゃんのいたずらだったら自業自得なんだけれども、どうやらそうじゃないらしい。ケンちゃんのママとパパが喧嘩してから、おばさんはピリピリしはじめたそうで、だったら、そんなとばっちりはムゴいよ、ということで、ボクが問題の解決に乗りだしたワケさ。
とはいえ、原因がわからないことには解決のしようもない。
だからボクはリサーチを開始したのさ。フィールドワークは久しぶりだなあ。
「教授!」
「おお、真一君か。健二と遊びに来たのかね? 君のところに行くと言って出かけたような気がするが…」
「うん、ケンちゃんには会ったよ。ちょっと教授に聞きたいことがあって」
「ふむ、かまわないよ。わかることなら何でも答えてあげよう。最近の研究は量子力学だったかな?」
やっぱりね、わからないことがあるときは教授に聞くのが一番さ!
「ケンちゃんのパパとママなんで喧嘩してるの?」
とたんに教授の顔が曇った。急に言葉の歯切れが悪くなる。
「健太郎と京子さんかの? うむ…ワシには二人とも仲がいいようにみえるがの…ハハ…ハハハ…」
「絶対知っててごまかそうとしてるよね。左見てるし」
「それは100%確実な方法では…」
「じゃあこの『強制神経接続回路変換装置』で…」
「う、浮気じゃ浮気! 健太郎の浮気で京子さんが怒っておるんじゃよ」
ポケットから電極を取り出すとアッサリ教授は白状した。チッ、実験のいい機会だと思ったのに。せっかく出力上げてパワフルになったのになー。
「うわき?」
「う、うむ。わが息子ながら困ったもんじゃの」
そーか、浮気かー。よくあると言えばよくある話だなこりゃ。
「じゃあおじさんが浮気しないようになれば、ケンちゃんのママの機嫌も直るんだね」
「そりゃそうじゃな」
「うーん、浮気をやめさせるにはどうすればいいんだろう」
「そうじゃのう、こればっかりは夫婦二人の問題じゃからのう」
夫婦二人の問題、か。じゃあやっぱり、当事者の話を聞いてみるべきだな。
「ありがと、教授! またね!」
ボクは手を振ると、教授もほっとしたような顔をして手を振り返した。ケンちゃんのパパは会社だろうから、おばさんの方を探さないとね。
「あらシンちゃん、いらっしゃい」
「こんちは、おばさん。ケンちゃんのパパが浮気しておばさんが怒ってるって本当?」
「あらやだ、健二が喋ったの?」
「ううん、教授」
「お義父さんったらまったく…」
おばさんはため息をついた。
「あまり他の人に言わないでもらえないかしら。外聞のいい話じゃないから…」
「僕は言わないよ。それでね。おじさんの浮気をやめさせるにはどうすればいいのかなって思って。ボクも何か協力しようと思ってさ。ケンちゃんも困ってるみたいだし」
「ありがとうね、シンちゃん。うちのヤドロクにもその言葉そのまま聞かせてやりたいわ。健二にもつらい思いさせちゃってるわね」
涙ぐむおばさん。いつも豪快で明るい人なんだけどな。
「でも、そんなに簡単にやめさせられるようなものなら苦労はしないわよ。もう貞操帯はめさせるくらいしか思いつかないわ」
「ていそうたい、って何?」
おばさんはしまったという顔をして頬を赤らめた。
「えーっと、浮気をしないようにする道具のことよ」
なんだ、そのものズバリの品物があるんじゃないか。
「どんなの?」
「どんなのって…その…鉄のパンツかしらね」
鉄のパンツ…なぜ鉄? 頭の中で超鉄人ZX号がゴゴゴと立ち上がる。
「よそのおうちに行って女の人の前でパンツを脱いだりしないようにするのよ」
えー…ケンちゃんのパパそんなことしてるんだ…悪趣味…
でも、これならボクの得意分野だ。鉄のパンツを作ればいいんだね!
「わかったよ、おばさん。ボクにできることやってみるから、ケンちゃんのおやつ減らさないで上げてね」
おばさんも、パンツの話題からそれてほっとしたようだった。
「ありがとう、シンちゃん。ドーナツあるから、持って帰って健二と一緒に食べて」
やったね! 人助けはするもんだなあ。
と、いうわけで、ボクは貞操帯をつくることになったのさ。
ちょうどインドの学会で発表された形状記憶合金の論文があったから、それを発展させて試作品を作ってみた。うーん、マーベラス。
でも、すごいはき心地悪そう…これじゃおじさんにはいてって頼んでもはいてくれないよね。というか、おじさんはよその人の前でパンツを脱ぎたいんだから(何がいいのかわからないけど)自分から貞操帯をつけてはくれないだろうな。
じゃあ、貞操帯だってことは内緒にしつつ、おじさんがはきたくなるようなパンツにしなくちゃだめか…どんなのだろ。
そこで、大人の男代表としてうちのパパに聞いてみたわけさ。自分に危害が加えられないと知ったパパは、鼻をほじりながらアンケートに答える。
「男のはきたくなるパンツなあ…べつにムレなきゃなんでもいいんじゃねえか?」
ムレない…吸湿性と通気性か…鉄のパンツには難しい注文だな…しかしもっともだ。
「あとは汚れにくくて丈夫なら、なんとかなんだろ」
「うーん、はきたくなる、ってのとはちょっと違う気がするけど、他には?」
「他にぃ? しらねえよ。チンポコでかくなるパンツとか、包茎直るパンツとかか?」
そんなのばっかり…ボクがあきれた目でパパを見ると、パパはにらみ返してきた。
「イチモツの形とデカさは男の最優先課題だ!」
まだ、タイムカプセルの時のこと根に持ってるな…
しかし、貴重な意見には違いない。ボクは参考にメモを取った。隣にいるケンちゃんに聞いてみる。だっておじさんが包茎じゃなかったら包茎を直すパンツ作っても仕方ないよね。
「ケンちゃんのパパって包茎?」
「ほうけいって何」
「おちんちんの先に皮がかぶってるの」
「よくわかんないけど…皮がはがれちゃった人とかいるの?」
なんか、スプラッタな想像してるみたいだな。しょうがない。この前の実験のときのパパの写真がこのへんに…タイムカプセルに入れる前と、二度目の復元後と…
パパがそれを見て騒ぎ出そうとしたので脛をけって黙らせる。
「こっちが包茎、こっちがそうじゃないほう」
「じゃあこっち」
ケンちゃんは包茎のほうを指差した。
「でもうちのパパこんなにおっきくないよ。お風呂で見たけど、もう一回りくらい…」
それをきいてうちのパパがやたら得意げな顔をしている。品がないよ、パパ。
「なんだお前ら、包茎直すパンツでも作るのか?」
「うーん、ケンちゃんのパパへのプレゼントなんだけど」
「そうか、そうか。うっかりチンポコちょんぎれるパンツなんか作るなよ。いくら短小包茎でも、無くなっちまうのは気の毒だからな」
パパはのんきに笑いながら去っていった。パパは人生二度目の包茎手術を受けた後なので、自分にはもう関係ないからか余裕の態度だ。
失礼な言い草にボクは怒った。馬鹿にされちゃ困る。おちんちんが千切れるパンツなんて絶対に作るもんか!
そして一ヶ月の試行錯誤を経て、ついに完成したのがこれだ!
改良した形状記憶合金を細く糸状に編み込んで作った究極金属繊維貞操帯Mサイズ!
ケンちゃんの話によるとおじさんはブリーフ派らしいのでブリーフタイプにしてみた。見た目や手触り、重さなんかは普通の布地と変わらない。ほどほどに伸縮するので身体の動きも妨げない。
ボクはケンちゃんにパパを実験室まで連れてきてもらった。
「へえ、これが噂の研究所か。大したもんだな」
キョロキョロとあたりをみまわすケンちゃんのパパは人のよさそうな極めて普通のおじさんだ。とても、他人の前でパンツを脱ぐのが趣味の露出狂には見えない。人は見かけによらないって言うけど、ほんとだねぇ。
「で、真一君、俺は何をすればいいのかな?」
ボクは貞操帯を取り出した。
「これはいてください」
「…なんだこれ…ケツワレ?」
「それは、『おちんちんを1.2倍に大きくして包茎を直すパンツ』なんです」
「…なんでまたそんなものを…幼稚園児が…」
「うちのパパが男が喜ぶのはそれしかないって」
「しょうがない人だな加藤さんは…」
とはいいつつも、微妙に興味はあるらしく、目が釘付けだ。うーむ、認めるのは悔しいけれども、パパの言うとおりか…しょうがない人たちだな…大人の男ってのは。
「で、おじさんに試してほしいんです」
「なんで俺? 君の親父さんでも…」
「うちのパパ包茎じゃないから参考にならなくて」
おじさんはそれを聞いて少し悔しそうな顔をした。うーむ、そんなものなのか。
「これにはきかえればいいのかい?」
「はい」
案外アッサリとOKが出た。まあ、貞操帯だってことを知らないからね。
「ここで?」
「記録とりたいんで」
「…写真撮るの?」
「研究の一環だから」
「あんまり、変なところにバラまかないでくれよ」
と、言いながらすでに服を脱ぎ始めている。うちのパパの往生際の悪さと比べて、この違いは何だろう。やっぱり、おじさんのパパが教授なワケだから、研究とか実験とかに慣れてるのかな? うちのパパにおちんちんの垢でも煎じて飲ませてやりたいね。ちょっと採取しとこうか。
「全裸?」
「の方が見栄えがいいし」
「恥ずかしいなあ。顔モザイクかけてくれよな」
とても協力的だ。そっか、おじさんって脱いで見せたい人なんだっけ。この調子で他の女の人の前でも脱いでるんだな。困った人だ。
「じゃあここに脚を通してください」
写真撮影をケンちゃんにまかせておじさんに例のパンツをはかせる。太ももまで引っ張りあげたところで、声をかけた。
「あ、ちょっと待ってて。そこからちょっとややこしいの」
「そか、包茎用だったな。この紐先っぽに引っ掛ければいいのか?」
背が届かないので踏み台を持ってくる。ちょうどおじさんのおちんちんの高さにあうくらいにして、と。よし。ボクはおじさんの持っているバルーンカテーテルを受け取った。
「これはね、尿道に入れるんだよ」
おじさんが、ぎょっとした顔をした。
「これで海綿体に内部から刺激を与えて成長を促進するんだ」
「…尿道プレイは危ないんだぞ」
おじさんがボソッと呟くのをボクは聞き逃さなかった。被験者が不安がっている。ここは安心させてあげなければ!
「大丈夫だよ! 膀胱のバルーンで抜けないようにしっかり固定できるし、急に揺れても尿道口が裂けたりしないように、亀頭先端を包み込むラバータイプの留め具つきだから。感染対策も抗菌加工でバッチリ!」
「そ、そうか…(幼稚園児にどういう教育をしてるんだ)」
「じゃあ入れるから、皮むいてて下さい」
「お、おう」
顔をちょっと赤くしながら、おじさんはおちんちんの根元を持って皮を引っ張った。ピンク色の肉が飛び出るのを見て、ケンちゃんが目を丸くする。初めて見たらしい。撮影の手が止まっていたので合図をすると、あわててパシャパシャとシャッター音が響いた。
「あっ…あッ…んンっ…」
丁寧に挿入してはいるんだけど、やはり男性の尿道は直線ではないので、どうしても中を引っかいてしまう。おじさんは腰をぷるぷる震わせながら唇を噛みしめていたけど、ときどき情けない声を漏らしてしまっていた。
「わ、なんかパパのチンチン変だよ」
ケンちゃんがカメラから目を放して言ったので、ボクとおじさんもあわててチェックする。
「どこが?」
「急にボコッて膨らんじゃって…」
「ああ、なんだ。勃起のことか」
「シンちゃん、ボッキって何?」
「うーん、今デリケートな部分だから集中したいんだよね。おじさん説明してあげて」
「お、俺かよ…う…むぅ…大人のチンチンっていうのはな(アヒッ)、その…触ったりすると、こんな(ァッ)ふうにでかくなること(ッ…)があるんだ。べ(ェッ)つにおかしいことじゃない」
おじさんは汗だくになっていた。そこへズボッと貫通した手ごたえがきた。おじさんはウオッと叫び声をあげる。
「できたよ、おじさん。痛いところはない?」
「あ、ああ。少し落ち着かないが大丈夫だ…」
「じゃあもう一本入れるね」
「も、もう一本!?」
「うん、二本ないと大変なことになるから。さっきのより細いから大丈夫だよ」
「しかし、今もうだいぶパンパンで…ェッァハン!」
「動いちゃダメだよ。傷がついたら大変だもの」
おじさんは目を閉じて必死に耐えていた。トロリとおじさんのおちんちんの先から透明の汁が垂れる。それを見てケンちゃんが言った。
「パパ、オシッコ漏らしちゃダメだよ」
「ケンちゃん、これオシッコじゃないよ。カウパー腺液って言うんだ」
「なにそれ?」
「おじさん、説明よろしく」
「☆@%〜*#д↓↑!!」
ケンちゃんはちょっと不満そうな顔をしたけど、ボクらがそれどころじゃないことはわかってくれたみたいだ。ボクは二本目のカテーテルを所定の場所まで差し込むと、おじさんのおちんちんのさきっぽにキャップをはめて、にっこりと笑いかけた。
「終わったよ」
おじさんは、ほっとした顔をしてうなずいた。ブツブツと半ば放心状態で独り言を呟いている。
「変な趣味に目覚めたらどうしてくれるんだ…」
「じゃあこの前の袋の中におちんちんつっこんでください」
おじさんが腰を突き出す。ボクは布地を引っ張っておじさんのサオを包んだ。
「よし、パンツ全部はいちゃって。で楽にできる位置を探しておいて」
「はいはい、チンポジチェックな。今勃っちまってるけど上向き収納でいいのか?」
「そういう設計です。じゃあ両手を上げて」
「了解」
ボクは用意しておいたスプレーを手に取り、固定液をタップリ、パンツ全体に吹き付けた。
「うお、なんかピッチリ引き締まってきたな」
「15分くらいで固まるんで、それまでラジオ体操でもしてて下さい。動きにくい形にならないように」
「…固まる?」
「あ、えーっと、先っぽの皮が戻らないように固定するんデス。アハハ」
そんなもんか、とおじさんは素直にラジオ体操をはじめた。…あぶない、あぶない。これがうちのパパだったら急いでむしり取ってたよね。
15分後、おじさんのパンツには銀色の光沢があらわれていた。おじさんのおちんちんの膨らみがクッキリでている。
「なんかカッチョイイな」
「うん。パパ、ヒーローみたい」
ほのぼのと親子の会話をしている様子を見ながら、ボクはほくそえむ。
「あ、真一君、ちょっとこれ脱いでトイレ行ってきていいか? ションベンしたいんだけど」
「ああ、オシッコなら、そのままで出来るよ。おへその前辺りから出てる左側の紐、カテーテルにつながってるから、先っぽのバルブひねると…」
「これか?」
いきなり開いたので、膀胱から直接ドバッっとオシッコが流れ出す。
「わ! パパ汚い!」
「うおっ、これどうすんだ!」
「閉めて閉めて!」
研究室にアンモニア臭が漂う。ボクはトイレ用消臭スプレーをふった。時々薬品の調合に失敗したりしたときに便利なので常備してあるのだ。もちろん、換気扇も回す。
「そのトシでお漏らしはないよパパ…」
「すまん、まさか勝手にあふれ出るとは…」
雑巾で床を拭きながらおじさんは謝った。
「しかし、はいたままションベンできるパンツってのもあれだな。ケツがあいてるからウンコもこのままできるのか。ハハハ。後は風呂に入るときだけだな」
「お風呂もそのまま入れるよ」
「そりゃそうかも知れないが、チンチン洗えなくて汚れがたまるだろう」
「大丈夫。バイオファブリックに仕込んだ酵素が勝手に汚れを分解するから、一生はきっぱなしでも清潔なままなんだ。洗濯の必要もないよ」
おじさんは感心したように声を上げた。
「へぇー、さすが噂の天才少年。そんなすごい発明もしているのか」
うふふ。いやー、パパと違ってそんなにストレートにほめられるとテレちゃうな。
「おじさんの為に開発したんだよ。はきっぱなしでも困らないように」
「俺の為に? なんで?」
おじさんは、ケンちゃんをにらんだ。
「お前、友達に変なことを吹き込んだのか? 俺が何日もパンツをはきかえずに過ごしてるとかそんな嘘を言ったんじゃないだろうな」
「言ってないよ!」
「パパのチンチンが包茎だとか喋ってるじゃないか。あんまり人のパンツの中身のことを外で話すなよ。見せびらかすようなもんじゃないんだからな」
ケンちゃんは顔を真っ赤にして怒った。
「見せびらかしてるのはパパじゃないか! よその女の人の前でパンツ脱いでばっかりだから、脱がなくてもいいパンツをシンちゃんに作ってもらったんだよ! 悪いのはパパだい!」
今度はおじさんが顔を真っ赤にした。
「こ、子供が大人の事情に口を挟むんじゃない!」
ケンちゃんは、顔をくしゃくしゃにして泣きはじめた。ボクも悲しくなってしまう。ケンちゃんがあんまりかわいそうだ。
しばらくおじさんはムッツリと黙り込んでいたけど、やがてケンちゃんの肩に手を伸ばして抱き寄せた。
「…わかったよ」
くしゃりとケンちゃんの頭をかきまわす。
「悪かったよ。もう浮気しないよ」
ケンちゃんはおじさんを見上げた。
「ほんとに?」
「ああ、約束だ」
「ママと喧嘩しない?」
「…してもすぐ仲直りするようにがんばるよ」
「喧嘩はするんだ」
「お前だってママと喧嘩することあるだろう」
「…うん」
「うちに帰ったらママに謝るよ。だから泣き止んでくれ」
「…うん」
ケンちゃんは目をごしごしこすった。
…あれ?
感動の場面に気を取られて忘れてたけど、これって…
ボクの発明、無意味じゃない? せっかく一ヶ月かけてつくったのに。
「ボ、ボクの貞操帯が…」
ショックを受けているボクの独り言を聞いて、おじさんは再びぎょっとした。
「貞操帯!?」
あわてて股間を見下ろす。おちんちんを包む銀色のラインをながめたおじさんは、やがて大声で笑い始めた。
「なるほど、金属柄のパンツな。そうか、それで俺にコイツをはかせようとしたのか」
「…ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。悪いのは俺なんだから。ってことは包茎が直るってのは嘘かい?」
おじさんは少し残念そうに尋ねる。
「いや、それは確実に直るよ。こうやってカテーテルにモーターを接続して刺激を与え続ければおちんちんの大きさも半年ほどで最低でも1.2倍に…」
「うっひぁっ! わ、わかった止めてくれ」
話の途中であわててリモコンを取り上げられる。低周波バイブ機能の説明がまだだったのに…
「ペニスローターつき貞操帯か。せっかくだから、もらっておくかな」
どうやら、発明品自体は気に入ってもらえたようだ。まあ、今更返品するなんていわれても困るんだけどね。
「じゃあ、もう浮気はしないと約束するから、今日のところはもう脱いでもいいか? そろそろ帰らないといけないし」
おじさんは自分のおちんちんを指差しながら答えた。
・・・・・
?????
沈黙しているボクを見つめておじさんの眉の両端が垂れる。
「ダメか?」
「…ダメっていうより、脱げないよ。それ」
「は?」
「脱げたら貞操帯じゃないでしょ」
「いや、たしかにそうだけども…」
おじさんはそう言いながら腰のバンドをつかもうとするが、金属繊維のバンドは完全に肌に密着して指の入る隙間もない。後ろも前も完璧な美しいフォルムで張り付いているので死角なし。
「え…これどうやって外すんだ?」
「だから外れないんだってば。そういう風に作ってあるんだから」
「いや、でもこれ貞操帯だろ?」
「だよ」
「貞操帯は外れるもんだろ」
「貞操帯は外れないもんでしょ」
「いや、だから、よその相手の前では外れなくても本命の前では外れなきゃダメだろ」
「そうなの?」
おじさんの顔色が急に悪くなって慌てはじめた。
「じゃあ、これ取りたくなったらどうすればいいんだ?」
「だからもう取れないって言ってるじゃない」
「もう取れないって、い、いつまで?」
「…死ぬまで」
「ま、またきつい冗談を…」
フクロの部分をつかんだり、ヒモの部分をひっかいたりしてるけど、極薄の生地に引っかかる場所はない。
「ちょっ…ハ、ハサミか何かないか! 悪いけど切るぞコレ!」
「…ハサミじゃムリだよ」
だって特殊合金の金属繊維だもん。ダイヤモンドカッター使っても傷もつかないと思う。おじさんはボクの話を聞かずにカッターを使ってガリガリと引っかき始める。
「イッ…テェ!」
貞操帯自体には毛ほどの傷もつかないけれど、周辺の皮膚はただの人体なのでそりゃ切れる。
「気をつけてね。変なところに傷つけちゃうと治療が面倒だよ」
「脱げなかったらどうするんだよ!」
「脱げなくても生活できるようになってるよ」
「な、な、ヤルときはどうするんだ!」
「やるってなにを」
「女を抱くときに決まってるだろ!」
「…抱けばいいんじゃない?」
「チンポ出せなかったらマンコにハメられねえだろ!」
「…ハメなくてもいいんじゃない?」
「お、おい。コレだけ頭いいなら、赤んぼの作り方くらい知ってるよな?」
「知ってるけど…まだ作るつもりなの?」
「いや、そうじゃなくても…」
「人工授精のキットも用意するよ。左側はオシッコ用だけど右側のカテーテルは前立腺まで通ってるから、一応精液さえ採取すればなんとか…」
おじさんはものすごい叫び声を上げてメチャメチャにカッターで貞操帯を突きはじめた。やばい、おじさんがブチ切れちゃった。ボクとケンちゃんは、このままでは危ないと判断して研究室の外へ大人を呼びに行った。
一時間後、ボクのパパは鉄のゴーグルをかぶって回転ノコギリを構えていた。目の前の台にはおじさんが大股開きで縛り付けられていて、腰を突き出した状態で小刻みにブルブルと震えている。股間の貞操帯は無傷で、血みどろの肌は、ボクの『皮膚再生シール』で手当てされていた。パパがノコギリの電源を入れて、ブーンと刃が動き始めると、おじさんの身体がビクリとはねあがった。
「おい、動くな。変なところが切れちまう」
おばさんがおじさんの手を握って励ます。パパはおじさんの股間を見下ろしたまましばらくためらっていたけど、やがておちんちんの膨らみの隣にノコの刃を押し当てた。
「あ゛ー!!!!」
おじさんの悲鳴にあわてて手を引くパパ。しかし、当然のことながら貞操帯は無傷だ。自分の手でおじさんのおちんちんの膨らみをペタペタと触って、熱くすらなってないのを確かめると、パパはおじさんに向かって言った。
「怖いのはわかるが我慢しろ。アンタを助けるためなんだから」
再びノコの刃が先ほどと同じ場所に押し付けられる。おじさんがまた悲鳴を上げたが、パパは聞こえない振りをして力いっぱい切りつけた。火花がバチバチ飛ぶ。
チュイン、と銃弾が跳ねるような音がして、何かがパパのゴーグルをかすめた。次の瞬間、ガリガリと音がして、亀裂の入った電ノコの刃がバラバラに砕ける。
「うおっ、あぶねっ」
壊れたノコギリを放り出すと、パパはガスバーナーを手に取った。溶接に使う高出力タイプのものだ。青い炎が勢いよく噴き出す。
「あなた、金属のパンツなんでしょ? 脱げる前に中の肉だけ焼けてしまわないかしら」
ボクのママが言うと、おじさんもおばさんも不安そうな顔でパパを見る。パパはボクのほうを見た。
「その程度の熱なら中には伝わらないよ。完全に遮蔽できるもの」
パパはゆっくりとバーナーの火をおじさんの股間に押し付けた。変化はない。
「あっうっ…!」
貞操帯本体はともかく、バーナー周辺の空気が作り出す熱波が耐熱繊維に保護されていない太ももやおへその周りなんかを焼いてしまった。
火傷になってしまうと面倒なのでパパはバーナーの火を止める。銀のパンツは勇者の鎧のごとく炎を跳ね返して光り輝いていた。今度この繊維を使ってヒーロースーツ作ろう。
教授がボクの設計図と、使用した金属繊維の組成表なんかの資料をにらみつけながら、渋い顔をしてうめき声を上げた。
「うーむ、見事なもんじゃが、しかし…これは…」
「その、破壊できるモノなんですか?」
ボクのパパがおそるおそる尋ねる。
「現代の人間の科学では不可能じゃな…たとえ核爆弾が直撃しても、おそらくパンツとその…健太郎のナニだけ無傷で残りよるわい」
「まあ…核爆弾でも…困ったわね…」
「ブラックホール並みのエネルギーをコントロールして一点に照射できれば分解すること自体は可能かもしれんが…次の瞬間、中身の方も跡形もなく吹っ飛ぶじゃろうな。細胞一つ残さず」
「しばらく食事を抜いてお痩せになったら、パンツだけ脱げないかしら」
ボクのママが言った。さすがボクのママだけあって、冴えてるね。でも、やっぱりボクにはかなわないよ。それくらいのことは想定済みだもの。
「癒合した体組織の状態を感知して、痩せても体型にあわせて収縮するようになってるよ。陰茎白膜組織の応用だね。もともと勃起しても大丈夫なように考案した技術だけど、全体を同じ材料で構築してあるからさ」
「…なら逆にものすごく太ったらたくさん伸びるのね?」
「伸びるけどその頃にはズレないように皮膚と融合してはがれないようになるよ」
「…いったん太ってから皮膚ごとひっぱがしたら脱げるのか?」
「まあ、あなた…それは…」
「一生ヤレねえよりマシだろ」
「うーむ、皮膚表面だけならともかく、内部まで管を通してあるからのう…無理にはがしてしまうと、泌尿器全体をえぐりとって摘出しなければいかんようになるのう…」
ケンちゃんのママと、ボクのママとパパが並んで渋い顔をした。おじさんはおばさんの胸に顔を埋めて泣き叫びながら、意味不明の音でわめき立てている。
「じゃあその…どうすればいいんでしょうか…」
「…どうすればいいのかというより…どうすることも、できんのう…日常生活だけはこのままでも問題なく送れるようじゃから、このまま…」
「つまり、一生SEXはなし…と」
「妻ともできんことを除けば完璧な貞操帯じゃからの。自慰だけならなんの親切かバイブ機能がついておるが…」
みんながいっせいにため息をついてボクを見た。そんなに注目されるとテレちゃうよ。
おじさんは、子供のように泣きじゃくりながら、おばさんと教授とケンちゃんに引き取られていった。偉大な発明をしたにもかかわらず、なぜかボクはメチャクチャ怒られ、しばらく研究室の使用を禁止されてしまった。ひどい話だ。
しかし、ボクは負けない。この失敗をバネに、いつか一定の条件で状態の変化する実用的で完璧な貞操帯をこの手で作り出して見せる。必ず!
今日は科学の進歩の踏み台となった尊い犠牲に祈りを捧げよう。
ナンマンダブ、ナンマンダブ…
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投稿:2011.05.09
続・天才少年Dr.
著者 自称清純派 様 / アクセス 11935 / ♥ 1