その日、紀夫は上機嫌で帰路についていた。面倒な仕事が一段落して、明日は休み、しかも休日の予定は久しぶりのデートだというのだから、気分も浮き立つというものだ。いまだ、恋人は最後の一線を越えることを許さず、二人は身体の関係を持っていなかったが、明日こそはという思いもあり、この一週間は自慰も控えて溜めていたので、紀夫は軽い興奮状態にあった。気を抜くと下着に擦れる少しの刺激で勃起してしまうため、どうにも股間から意識が離れない。帰り道もそわそわとポケットに突っ込んだ手で、さりげなく位置を整えながら、人目をごまかそうとしていた。
そんな中でふと、紀夫は尿意を催した。駅から自宅までの通い慣れた通勤路には、公衆便所はないことを紀夫は知っていた。そこで、人気のない路地裏の電信柱に、引っ掛けることにした。もちろん軽犯罪ではあるが、なんともいえない解放感があることも事実だ。紀夫はスラックスのジッパーを下ろすと、刺激を求める剛直を引っ張り出した。
勢いがつきすぎて服にかからないように気をつけながら小便を迸らせると、紀夫は空を見上げた。夜空には雲もなく、いくつかの星が瞬いている。こんなふうに星を目をやるのは子供のころ以来で、なんだか懐かしい気持ちになった。星座についての知識には乏しく、オリオン座くらいしか覚えていないが、夏の今は見えないことくらいは知っている。なにか知ってる形が見えたりはしないかと空を探っていたとき、紀夫は妙な動きをする光点を見つけた。最初は飛行機かと思っていた紀夫も、光がやがて一見でわかるほどに大きくなったのを見ると、あんぐりと口を開いた。
UFOだ!
股間の性器をしまうことも忘れて、呆然と輝く円盤を見つめていた紀夫は、やがて、その物体が自分に近づいてきていることに気づいて慌てて逃げ出そうとした。
しかし、時すでに遅く、紀夫の頭上で静止した円盤は、緑色の光を紀夫に向けて放つ。突如視界が緑に染まり、身動きが取れなくなった紀夫は、自分の身体が宙に浮き上がるのを感じた。そして、それきり紀夫の意識は途切れた。
−
目を覚ました紀夫は、最初自分が病院にいるのかと思った。体中がだるく、金縛りにあったように自分で動かせない上に、視界に映るもの全てが白だったからだ。紀夫は近未来的な造型の、円形の部屋の中にいた。顔が動かせないのでよく見えないが、天井に電球や蛍光灯らしきものは見当たらないのに、部屋全体がほんのりと照らされている。
そこではじめて、紀夫は自分が丸裸な事に気づいた。目を下に向けると、勢いよく屹立した亀頭部が、半分ほど包皮の剥けた状態で見える。空調がよく効いているのか、寒さを感じなかったが、それにしても股間を覆うシーツくらいはかけておいてくれてもいいではないかと、姿の見えぬ医師や看護婦に毒づいた。
その音に反応して紀夫が目覚めたことに気づいたのか、突然部屋の明かりの量が変わった。眩しいと感じるほどではないが、陰茎を伝う血管が、ちゃんと識別できるほどだ。そして、音もなく紀夫の寝かされていた寝台が動き出す。半分ほど上体が起き上がったところで、特に縛られている様子もないのに、身体がずり落ちたりする気配がないことに気づいた。何かが妙だと思いながらも、大股開きで、局部と尻の穴を晒した格好が気になり、思考が定まらない。
やがて、目の前の壁に丸い穴が開いて何者かが入ってきたとき、紀夫は麻痺した身体で、股間を隠そうということだけをまず考えた。そして、入ってきた人影に目をやり、思わず大声で叫んだ。
細い、細い、銀色の生物だった。ひょろりとした四肢をぎこちなく動かしながら、二体の影が、紀夫に近づいてくる。そこではじめて紀夫はさきほど目撃した空飛ぶ円盤のことを思い出した。
「な、なんの冗談だよ! ドッキリならよそでやってくれ!」
震える声で抗議をするが、実際のところ紀夫は、これをドッキリだと望んではいたが、信じてはいなかった。なにより恐怖をあおるのは、片方の小柄な一体がその手に抱えてる機械だった。紀夫の知識にはない金属質の物体だが、どう見てもその形状と持ち方が銃だ。生命体の細く白い指が、引き金のようなものにかかっている。紀夫は逃げ出そうとしたが、やはり動くのは首から上だけだった。いや、もう一箇所…
二体の謎の生命体の前で、挨拶をするように、紀夫の男根がぶらぶらと揺れた。銃を持っていないほうの生命体が、興味を示したように、その肉棒に手を伸ばす。
体温を感じない冷たい指に、敏感な組織をつかまれて、紀夫は悲鳴を上げた。恐怖で陰嚢が縮み上がる。
「やめろ! 触るな!」
暴れようにもぷるぷると筋肉が震えるばかりで、指一本動かない。ガラス棒を思わせる指先に尿道口を擦られ、思わずうめき声がもれた。トロリと、相手の指によく似た色合いの汁がこぼれる。身体が動かない分、感覚だけは妙に敏感になっているらしかった。そのうち、剥けかけだった包皮を完全にめくり下ろされる。ピンク色のカリが外気に触れて震えた。
「手を離せ! この変態野郎!」
叫んだ瞬間、紀夫は後悔し、口をつぐんで真っ青になった。もう一体が銃を持ち上げて、その先端を紀夫に向けたからだ。たとえ宇宙人にレイプされたとしても、虹色の光線に焼かれて死ぬよりはマシだ。
紀夫が銃に気を取られている間に、大きいほうが別の機械をどこからか取り出していた。蛍光色の輝きに目を向けると、青く光るカプセルが、紀夫の陰茎の根元に当てられる。チクリとした痛みの後、何かが注ぎ込まれるのを感じて、紀夫はそれが注射器であることを知った。目の前で、自分の生殖器にぞっとするような色の液体が注入されるのを見ながらも、紀夫は銃の前に涙ぐんで大人しくしているしかなかった。そもそも身体が動かないのだ。みるみるうちに、紀夫のペニスは、蛍光色のブルーに光るようになった。どういう原理か、身体本体には広がらず、陰茎のみが、夜店のライトスティックのような安っぽい色に光り輝いている。明らかに身体に良くないと思われるその色を、紀夫は恐怖に怯えながら眺めた。
やがて、もう一つのカプセルが取り出された。やはり毒々しい蛍光色で、今度はグリーンだ。宇宙人は、それを紀夫の睾丸に当てた。小さく泣き声を漏らしながら、紀夫は自分の精巣内部に侵入してくる圧迫感を感じていた。玉袋が透き通るように、左側の睾丸が光りだす。
漠然と、放射能で自分の精子が殺されているんだと、紀夫は感じた。子供が作れなくなる。少し前までは、いつか恋人に己の息子を孕ませて家庭を作ることを考えていたものだが、その夢よりも、去勢されて男の矜持を奪われることよりも、今の紀夫にとっては死への恐怖が全てに勝った。生きて帰りたい。それだけだった。
丁寧に、右側の金玉にもグリーンの液体がそそぎこまれた。青く光るマラに緑に光る二個のタマ、まるで悪趣味なクリスマスのオブジェだ。涙と鼻水を垂らしていた紀夫は、やがて睾丸に、焼け付くような熱を感じ始めた。温度を感じない光と裏腹に、煮えたぎるような熱さが下腹を襲う。紀夫は腹筋をビクビクと痙攣させて身悶えた。そして、勢いよく射精する。精液が顔面を打ってはじめて、紀夫は自分が達したことに気づき、うっすらと目を開いた。恥毛の茂みや貧弱な胸毛にからまって糸を引いているザーメンは、ほのかな蛍光グリーンに輝いていた。
「ひ、ひいっ!」
のけぞってもがこうとした紀夫に、銃が押し付けられる。紀夫が思い出して動きを止めたにもかかわらず、宇宙人は紀夫の局部を手に取り、銃口を亀頭に向けた。
「やめてくれ! 助けてくれ! それだけは!」
チンポコをふっとばされる! その考えに取り付かれた紀夫は、宇宙人が引き金を引く瞬間まで、哀れな嘆願を続けていた。
銃口から出てきたのは、弾丸でも虹色の光線でもなく、細い管と小さな指のついたマニピュレーターだった。拍子抜けした紀夫の性器に、その小さな管があてがわれる。いまや、紀夫はその機械を見て、別のものを連想するようになっていた。
ガソリンスタンドの給油ノズルか…歯医者の吸引器!
尿道に管が差し込まれた。敏感な粘膜内部を、自ら意思を持つかのように自在に曲がる金属のチューブが、荒々しく擦りながら奥まで潜りこんでいく。禁欲生活を送っていた紀夫に、陰茎の内側への摩擦は刺激が強すぎた。
「あ、あああーっ!」
ドクドクと放出される蛍光グリーンの精液を、宇宙人の抱えるノズルはジュルジュルと音を立てながら吸い込んでいった。一通り射精が終わって、精液の出が悪くなると、宇宙人はまた奥まで掘るようにノズルを押し込み、かきまわす。荒々しい扱いでありながら、それは紀夫にとって未知の快感しかなかった。それ故、恐怖がこみあげる。
睾丸の焼けるような熱は引かず、海綿体内部をほじられる感覚に、いつのまにか紀夫は小さく腰を振りながら嬌声を上げていた。もし、身体が麻痺していなかったら、更に激しく淫らに踊り狂っていたことだろう。
どれだけ時間がたっても、何度射精しても、それでも紀夫の男根は萎えなかった。やがて水分が果て、絶頂自体が苦しみとなっても、まだ解放されない。それどころか、放出される体液の蛍光色が薄くなってくると、宇宙人はもう一度あのグリーンの液体を睾丸に注入して補充さえしたのだ。紀夫は、宇宙人の構える機械のグリップ部分に、自分が放ったエキスが、すさまじい量でドロドロと溜まっているのを、定まらない視線で眺めた。そんなものを溜めて、何に使うのかなどと考える余裕は、紀夫にはもうなかった。
紀夫の反応が弱々しくなってきたのを見て、宇宙人は何やら今までとは違うボタンを押した。すると、尿道の奥深くまで差し込まれていたマニピュレーターの小さな指が動き出し、内部の組織を探りながら、目的の器官を捕らえた。前立腺だ。今にも抉り取って、ペニスの先から引きずり出さんばかりの勢いで、敏感な臓器を直接つかんだ金属の指は、ダメ押しのように先端から電流を流した。
紀夫の身体が跳ね上がる。もはや拷問でしかない快感が、強制的に紀夫の体液を分泌させ、搾り取る。果てしなく続く乳搾りに、紀夫は魂が吸い出されるような感覚を受けていた。もう何時間射精を続けているのかもわからない。意識がかすみ、何度前立腺に電流を流されても、尿道口がヒクヒクと開閉するだけで、先走りの一滴すら漏れることも無くなった頃、背の高いほうの宇宙人が、紀夫の青く輝くペニスをその手でつかんだ。
そして、股の付け根に、なにやら先端から光を放つ細い棒を近づける。紀夫がうつろな瞳でそれを見ていると、棒の先から一直線に皮膚まで青白い光が伸び、下腹部の肌を切り裂いていった。皮下の脂肪が覗いているというのに、不思議なことに出血もない。紀夫は痛みも感じないまま、むしろ、射精の拷問が止まって安らかな心地で、自分の股座が切り刻まれていくのを見ていた。
宇宙人は、紀夫の陰茎海綿体を、根元から引き抜くように、丁寧に恥骨から引き剥がしていった。いまだに痙攣を続けている前立腺ごと、生殖器を掘り起こされても、紀夫には自身の体内に関する詳しい知識はない。ただ、今度こそ自分が男根をえぐられ、去勢されているのだという意識だけが、脳の隅にぼんやりと浮かび、延々と強制的な快感を受け続けた紀夫にとって、それは救いだった。
弱々しく喉の音から漏れるため息ともうめきともあえぎともつかぬ音が、ズルリと完全に引き抜かれる男性器がたてた音をかき消した。今まで人肌の肉があったところになにもない、そのため、紀夫は股間に寒さを感じてブルリと震えた。
陰毛の生えていた周辺の皮膚ごと、ごっそりと切り離された紀夫の局部組織は、透明のビンの中に入れられて、何かの液体の中を浮かんでいた。ふわふわとクラゲのように漂う見慣れた器官を眺めていると、風呂に入ったときに自分の股座を見下ろしているような気分になった。それが今、もはや自分の身体につながっていないということが、なにやら実感のわかない不思議な感覚だった。
二人の宇宙人は、紀夫の陰茎を指差しながら、何かを話し合っているように見える。今更のように、紀夫は羞恥を感じた。根元から切り取られたにも関わらず、紀夫のペニスは猛々しくそそり立った状態のままだ。紀夫は力の入らない声を振り絞って囁いていた。
「恥ずかしいから、あんまり見ないでくれ…」
無意識に口が動いていた。
「地球人は、勃ったチンコを見られるのは、恥ずかしいんだ…」
背の高いほうの宇宙人が、意味が通じたとも思えないが、パクパクと口を開閉する紀夫に気づいて、目蓋のない大きな瞳で紀夫の顔を覗き込んだ。黒く平らな眼球面に反射する生気の抜けた青ざめた顔を、紀夫は一瞬誰のものか判別できなかった。
そのうち紀夫は、宇宙人の漆黒の眼球を見つめるうちに、中に吸い込まれていくような錯覚を覚え、やがて溶けるように意識を失った。
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その日、美香は苛立ちながら帰路についていた。休日明けに早速再開されたセクハラまがいの上司の言動に疲弊し、真剣に転職を考える。世界中の男が敵に思えた。倒れている人影を見てもただの酔っ払いかと無視して通り過ぎようとしたのは、その為だ。
遠目にその人物が全裸らしきことを見て取ると、美香は引き返して別の道をいくべきか、走って横を駆け抜けるべきかで悩んだ。むくりと相手が起き上がろうものなら、確実に引き返していただろうが、倒れている男らしき人影はピクリとも動く気配がない。そこで初めて相手が怪我人だったらどうしようという考えにたどり着いた。それでも、面倒だから関わり合いになりたくないという気持ちのほうが強い。
近づくにつれて美香の意識は、少しずつ何かの違和感を感じ始めた。何かがおかしい。
あら? 男かと思ってたけど…
一瞬、美香の脳はなぜかその人影の性別を判別できなくなった。女性が裸で倒れているとあれば、それは大問題である。美香は駆け寄って助けようかと目を凝らした。
しかし、顔を判別できるほど近づいてみれば、かすかに不精ヒゲを生やした明らかな男性である。美香はなぜ見誤ったのか釈然としないまま、しかし、明らかに酔っ払いの赤ら顔ではなく、青ざめた死人のような顔色に、ただ事ではないと感じて、携帯を取り出し救急を呼ぼうとした。
ふと、その股間に目がいってしまう。着衣であれば視線を向けようなどと思いもしないが、全裸となればどうしても気になってしまうのが自然な人間の反応だ。
美香は携帯を取り落として、夜を引き裂くような悲鳴を上げた。
紀夫は女の悲鳴を聞いて、目を覚ました。そして彼女の驚愕の表情を見て、安心したような表情を浮かべた。
帰ってきたんだな。
のろのろと手を伸ばすと、腕が動くのがわかった。安堵のあまり、緊張していた全身が脱力弛緩し、膀胱が緩んで尿がもれる。女の目が自分の股間に釘付けになっているのを見て、紀夫は恥ずかしくなった。そして、陰部を隠そうと手を股間に伸ばす。いつもならサオの先に触るところで、何も手に当たらなかった。だからもっと下まで伸ばす。
そのとき、腹腔に開いた大きな穴に手が入り、中に溜まった小便の池に指が漬かった。紀夫は自分に起こった出来事を思い出す。
「そうか、オレ去勢されたんだっけ」
紀夫は一人呟いた。
「よかった、女のコにチンコ見られちゃ、恥ずかしいもんな」
紀夫の頭に浮かぶのはそればかりであった。
悲鳴を聞いて、人が集まり始めていた。全裸の紀夫は、股間を吹き抜ける風に身を震わせた。空には、星が瞬いている。自分のペニスは、今頃あの星のどこかに行ってしまったのだろうかと、紀夫は、そんなことを考えた。
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投稿:2011.08.16更新:2011.08.18
UFO
挿絵あり 著者 自称清純派 様 / アクセス 14231 / ♥ 4