「吹雪いてきたな。今夜はここに泊まるよりしかたない」窓の外を眺めながら、ぼくは憂うつになった。
日帰り登山でやって来て、うっかり道に迷ってしまった。だんだんと日が傾いて、とうとう雪までぱらつきはじめる。どうしよう、と焦りはじめたころ、偶然、この山小屋を見つけたのだった。
雪はやむどころか、ますます激しくなってくる。
小屋の裏で薪を見つけられたのは幸いだった。暖炉に放りこみ、持ってた雑誌を火種にして、どうにか火をおこすことに成功した。
パチパチとはぜる暖炉は体を暖め、周囲の様子を浮かびあがらせる。
ずいぶんと古い小屋だった。最後に使われたのは、いったい、いつのことだろう。空き瓶や缶が、床の上に散らかり放題だ。
部屋の隅には毛布が積んであった。ひどくカビ臭いが、なにもないよりはましだ。こいつを体に巻いて、暖炉のそばで寝れば、凍えずにすむ。
薪をありったけくべ、ぼくは早々に休むことにした。明日の朝は雪がやんでいることを願いながら。
どれくらい眠っていただろう? あまりの寒さに目を醒ました。
暖炉の火はいつの間にかくすぶっていて、小屋のなかは薄ぼんやりと暗い。それでも、かたわらに座りこむ者の姿がはっきりとわかった。
「だれだっ?!」ぼくはうわずった声をあげた。体がまったく動かない!
「…起きちゃった?」高校生くらいに見える、白い着物一枚のみを身にまとった女の子だった。
ぼくは、ズボンを下ろされ、下半身をむき出しにされていることに気づいた。
彼女は、あろうことか、ぼくの大事なところを両手で握りしめていた。ひどく冷たく、氷のようだ。じんじんとかじかんでくる。それなのに、固く、そそり立っているのだ。
「だれなんだ? なにやってるのさっ!」ぼくは怒鳴った。
「いままでで、いっちばん気持ちのいいことしてあげるっ」屈託のない笑顔で答えると、ぼくの袋に手を滑りこませきた。
「冷たいっ!」痛いといったほうが正確かもしれない。次第に、なにも感覚がなくなっていく。
「あなたの大事なところは、すっかりカチンカチンね」
恐怖のあまり、声も出ない。
少女は、ぼくのモノをゆっくりとしごきはじめた。こんな状況であるにもかかわらず、次第にとろけるような心地よさが全身を満たしていく…。
「気をつけてほしいの」彼女はいう。「もしもイっちゃったら、あなたはもう、男じゃなくなってしまうから」
股間のあたりから、ピキ、ピキッ…と不吉な音が聞こえてくる。ウィスキー・グラスのなかでひび割れる、ロック・アイスのような。
「ま、まって…。おねがい—」
ぼくは絶頂に達した。尿道を伝って、キラキラと輝く氷の粒がほとばしる。その快感に、つかのま意識が遠のいた。
そのとき、涼やかな破裂音を耳にした。ああ、袋が粉々に砕けたのだな。
股のあいだに、なにかが転がり落ちた。
少女はそれらを拾いあげ、ぼくに見せた。
「終わっちゃったね…」クルミでも扱うように握りしめる。その小さな白い手のなかで、二つとも微塵になった。
ぼくの…ぼくのかけがいのないもの。ごめんね、守ってあげられなくって…。
喉の奥がじわっと痛くなり、とめどもなく涙があふれ出てきた。
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投稿:2011.08.17
「雪ん子」
著者 豆ぽん太 様 / アクセス 9051 / ♥ 0