そのスレッドは、大量に寄せ集められた掲示板に、そっと置かれてあった。
〔去勢の時間だヨ! 現役女子高校生による、まじ玉潰し〕
「お?」ツトムはカーソルをスレッドのうえに重ねると、慣れた手つきでダブル・クリックした。
この日も明け方までネットで「去勢」関連の情報をあさり、これといっためぼしいサイトもなく、そろそろお開きかな、とあきらめかけていた矢先だった。
〔みお〕 ○月○日 ○時○分
キンタマ蹴られたい男、大大大募集中!リアル女子高生が、本
気で潰してあげるよ。メール書いとくから、連絡よろしく!!
「どこかで聞いたようなタイトルだけど、ちょっと、おもしろそうじゃねえ? ま、どうせメールなんかガセだろうけどな」そうつぶやきながら、コメントを読む。
〔玉無しのぽん1〕 ○月○日 ○時○分
んじゃ、おいらの潰しちゃってーw
〔玉無しのぽん2〕 ○月○日 ○時○分
コラコラ、男のダイジナトコ潰しちゃだめヨ
〔玉無しのぽん3〕 ○月○日 ○時○分
おれ、こないだ、マジ、カノジョに潰されちゃったっす
けっこう盛りあがっている。
ツトムも面白半分にレスをつけ、ついでにホット・メールをそのメルアドに送ってみた。
〈はじめまして、ベンです。えっと、ぼくの玉も潰しちゃってください。お願いします〉
めったに使わないメールだし、でたらめなアドレスだろうから、すぐにエラーで返ってくるさ。
「ノリだよ、ノリ」
驚いたことにメールの返事がちゃんと来た。
〈はじめましてー、みおです。うわー、まじ、メールくれたんだ。ありがとう。次の日曜日、会えるかな? 場所は……〉
調べてみると、わりと知られた廃ホテルだった。ツトムの家からもそう遠くはない。
「まあ、行くだけ行ってみてもいいかな。こっそりようすを見て、やばそうだったら、そのまま帰っちまえばいいだけのことだしな」
日曜、少しドキドキしながらバスに乗る。
30分ばかり揺られると、あたりはもう山のなかだ。停留所からとぼとぼ、さらに15分ほど歩くと、崩れかけた建物が現れた。
(こんなさびしいところに、まさかほんとに来てたりしないよな……)われながら、なにをしているのだろうとあきれる。
はたして、ホテルの入り口付近には、女の子が独り、ぽつんと立っている。想像していた不良っぽさはまるでなく、どこにでもいる、ふつうの女子高生だった。
「まじかよ……」ツトムはちょっと緊張して、唾を飲んだ。
少女は、こちらに気がつくと、もじもじと歩みよってきた。
「ひょっとして、ベンさんですか?」
「あ、はい、えと、そうです、ベンですっ」ツトムは舞いあがってしまった。
「わたし、みおと申します。よかったあ、わたしのイメージ通りのお兄さんだった」
「はあ、ど、どうも。なんというか、まじで会えるなんて思わなかったっす」
「やだぁ−、わたし、うそなんていいませんよう」みおはちょっぴり、すねたような顔をしてみせた。それがまたかわいい。
「なかに入りましょうよ。見てほしいものがあるんです」
2人はならんで、廃屋へと入っていった。みおの髪がツトムの肩に絡みつく。かすかに香るシャンプーは、鼻の奥を心地よくくすぐった。
荒れ放題のエントランスを通り、大広間へと向かう。壊れたテーブルやイスが散乱して、ところどころ、床が抜けてしまっている。
足下に注意をしながら、突きあたりの壁のまえまでやってきた。
「ほら、これなんですけど」みおは壁を指さした。もとは白かったらしいが、スプレーやマジックの落書きで埋めつくされている。
その一画に、にわかごしらえとわかる、大小の皮ベルトが備えつけられていた。
「これ、なんなの?」ツトムが聞く。
「決まってるじゃないですか、コウソクグですよ」みおはわかりきったことのようにいう。「ベンさんが来てくれるっていうから、昨日、一日かけて作ったんですよぉ」
ツトムは、コウソクグとやらをまじまじとながめた。
両手を十字に広げた格好で固定されるようだ。ごていねいに、腰のあたりにも、太いベルトが取りつけてある。
よく見れば、留めているネジはガタガタにゆるんでいるし、皮など、いまにもちぎれそうなほどぼろぼろだった。拘束されてやるのはかまわないが、身じろぎでもすれば、たちまち自由になってしまうだろう。
「ベンさん、はやく、わたしに捕まっちゃってください」みおがうながす。
「けど、こんなんじゃ、すぐに壊れちゃうかもな」
「なら、できるだけ、おとなしくしてもらえます?」みおは困ったように、ツトムの顔をのぞき込んだ。
やれやれと思いながらも、壁によりかかって、両腕を横に伸ばした。みおはにっこりと笑い、その腕を縛りあげる。それから腰、最後に両足を。
(この格好で長時間いるのは、ちょっとつらいなぁ。でもまあ、まじ女子高生と知りあいになれたのは大収穫だったぞ)
コウソクグのできばえに、みおはすっかり満足したようだ。
「玉潰し、いきまーす」
お、来たな。お手やわらかに頼みますよ、ほんとうに潰されちゃかなわないからな。
みおがツトムの股間を蹴りあげる。
「うっ……」ツトムはうめき声をあげた。じつは、ほとんど痛くない。本気で蹴っているわけではないのだ。
2度、3度と蹴り続ける。そのたびに、苦しそうな演技をしてみせる。
「じゃあ、次は本気でいきますからぁ」みおはいった。
ツトムの急所につま先がめり込む。
「うっ——?!」こんどは演じる必要がなかった。目から数えきれないほどの星が飛ぶ。あえぎながら文句をいった。「ちょ、まっ……。いまのは、まじ、痛かったんだけど」
みおはきょとんとして見つめかえす。
「えー、でも、ベンさん、玉を潰してほしいんでしょ?」
「あれはぁ、冗談っていうか、ノリだっつうの! クウキ読めよなっ」ツトムはカッなり、コウソクグを引きぬいてやろうと、ふんばった。
(あれっ?)
びくともしない。ツトムはあわてた。うそだ、そんなはずはない! あんなにいいかげんな作りだったじゃないかっ!
「ざけんじゃねーよ、だったら、なんだってメールなんかよこしたんだっ」みおは真っ赤になって怒りだした。利き足を後ろに振りあげると、「オメエのキンタマはぜってぇ、ぶっ潰す! 今夜からは、ぺちゃんこになった玉袋をかかえて寝なっ!」
〔去勢の時間だヨ! 現役女子高校生による、まじ玉潰し〕
「お?」タケシはカーソルをスレッドのうえに重ねると、慣れた手つきでダブル・クリックした。
この日も明け方までネットで「去勢」関連の情報をあさり、これといっためぼしいサイトもなく、そろそろお開きかな、とあきらめかけていた矢先だった。
〔玉無しのぽん4〕 ○月○日 ○時○分
おれ、こないだ、マジ、カノジョに潰されちゃったっすwww
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投稿:2011.09.09
去勢の時間だヨ!
著者 豆ぽん太 様 / アクセス 22746 / ♥ 0