「美味いなぁ。毎日こんなメシが食えて、オレは幸せだ」
熱々のステーキを頬張ると、赤ワインで一気に流し込む。
金網の上で食材がびぃと鳴いた。
「こら待て、お前はまだナマ焼けだ。動くんじゃないよ」
ケツの穴に突き刺してある火かき棒をつかんで、炭火の上に連れ戻す。引っ張った拍子に皮がベロリとめくれて肉汁がしたたった。
「アイタタ、もったいねぇ」
慌てて舌で受け止める。溶けた脂肪の香りが鼻に広がった。ウマウマ。そのとき食材がションベンを漏らした。ヤバイ、水抜き忘れてた。ジュッと石炭の上に蒸気が立ってガキ臭い匂いが充満する。オレは一旦肉を火から下ろすと、しまりのないチンポコを結んでみようとした。だが長さが足りない上に慌てたせいか、イチモツは途中でブチッと千切れちまった。
「しょうがねえな、もう」
今更やっても遅い気もするが、オレは小指で肉の下っ腹にズブと穴を開ける。ちゃんと膀胱も割れたはずだが、穴から垂れてくるのは肉汁ばっかり。
「チッ。結局もう漏らしきってんじゃねぇかよ」
手の上に乗っかる萎びたチンポコを口に放り込んでクッチャクッチャ噛みながら、開けた穴からこれ以上汁がこぼれないよう慎重に火に戻す。ジタバタと再び肉が暴れだしたので、オレは仕方なくもう一本火かき棒を出して肉の首を貫いた。
穴の開いた喉元からゴポゴポいう音がするようになったが、骨はちゃんと折れたようなので胴体は大人しくなった。本当はピチピチ動いているほうが食べてて面白いが、自分で料理するときは、こっちのほうが楽だ。
「ひでえ匂いだな。赤髭よォ」
「オメエのケツほどじゃねぇよ」
生っちろい肌の青髭がオレの小屋を覗き込む。
「あーあ、もったいねぇ。またそんな台無しの焼き方しやがって」
「うるせぇよ。食うのはオレだ。グダグダ言うない。どうせお前にゃやんねえよ」
すると青髭はフフンと妙な薄笑いを浮かべた。
「ほーぉ。いいのかなぁ? そんなこと言っちゃってぇ」
「あン?」
「せーっかく、親友がこーんな土産を持ってきたのになぁ。…そうか、赤髭君はオレっちの親友じゃなかったか」
ヤツはそういうと、後ろ手に隠し持っていた物をわざとらしくチラチラと見せびらかした。
「オオッ! 子持ちじゃねぇか! 最近食ってねえ!」
オレが手を伸ばすと、ヤツは薄情にも子持ちのメザシをついと遠ざけた。膨らんだ腹がたぷんと揺れる。多分もうすぐガキをひり出す頃だったんだろう。
「わかったよ。ヤルよ。さあお前も食え」
オレは自分の焼いていた肉をつかんであいつの前に突き出した。
「いらねぇよ、そんなションベンまみれのサカリの過ぎたオスなんか。ピチピチの柔らけえ子持ちメスに吊りあうわけねぇだろ」
オレはムッとしながら、肉を投げ戻した。悔しいが、確かにヤツの言うとおりだと認めざるを得ない。
「じゃあなんだ、ただ見せびらかしに来ただけか? ア? 死ね! 死んで腐れこの青瓢箪!」
青髭は肩をすくめて首を振った。
「話聞けってばよ。まったくあいかわらずバカは治んねえな」
「ナンだよ、テメエがトロいんだよ! サッサと言うか消えるかしろってんだ」
「しょうがねぇ。お前硫黄味噌まだ持ってるか? こないだ黒の大将がくれた奴。オレ全部舐めちまってよぉ。温泉鍋にしたいんだけど残ってねえんだわ」
「いじ汚ねぇヤツだな。もう食っちまったのか」
オレは奥に大事にしまってある極上のピリ辛味噌を横目に少し考えた。
子持ちメスと硫黄味噌なら味噌のほうがやや貴重だ。が、子持ちメスと硫黄味噌を合わせれば、最高に美味くなるには違いない。いつまでも残していてもしかたないのだから、美味く食えるときに食っておくべきかもしれない。
「しょうがねえな。煮るのはお前がやれよ。オレは食うだけ、味噌のほうが手に入りにくいんだからな」
「わかってるっつの。せっかくの食材をそんな萎びたションベン焼きにされてたまるか」
青髭はデカイ鍋を勝手に取り出すと、井戸から溶岩を汲み上げて準備を始めた。ヤツがフンフンと鼻歌を歌いながら持参の調味料を鍋に投げ込んでいくので、オレは隠しておいた壷を引っ張り出して青髭に渡す。
「つまみ食いすんなよ」
念を押すと、ヤツは渋い顔をした。まったく油断も隙も無い。ヤツがメザシの顔から縄を引き抜いて丸ごと鍋につけると、例のごとく肉はキャンキャン鳴き始めた。
「よしよし、何言ってるかわからんが、ちゃんと頭までつからんと味がしみこまねえだろ」
オレは青髭の横から頭を押さえつけて鍋の中に沈める。
「謝ってんだよ」
何かの干物をすりつぶしながら青髭が言った。
「謝るぅ? こんなに美味くてごめんなさいってか?」
オレが言うと青髭はそりゃ傑作だと大口を開けてガハハと笑った。
「旦那を殺したのは自分と腹の子を守るためでしかたがなかったんだとよ」
「お前、肉の言葉わかんのか! スゲエな!」
「どいつもこいつも似たような事しか言わねえからな。生肉捌いてりゃすぐ覚えるさ」
「ふーん、じゃあなにか? こいつは何か悪いことしたせいで、今なんかこういう目にあってると思ってるワケか?」
「らしいな。何故かはよくわからんが」
「ふーん、そっか、そっか。ま、どうでもいいけど」
オレは鍋の中でもがいているメスの頭を撫でてやった。
「安心しろよ。美味く食ってやるからな。よしよし」
「そろそろ味噌だぞ」
オレは待ってましたと手を鍋から抜いた。壷から刺激臭の漂う塊がドロドロと零れ落ちる。あっという間にスープに粘りが出て、沸き立つ音がゴッポゴッポと小気味よいものに変わった。
「うへあ、ウンマソ」
おもわず涎が垂れ落ちる。
「よっしゃ、完成だ」
「食うぞ、食うぞ」
オレは小躍りで鍋の中に手を伸ばした。その手を青髭がピシャリと叩く。
「ちゃんと半分ずつにわけてからだ」
「チッ、めんどくせえヤツだな」
しかし、丸ごと噛み付いてどっちが一口多くかじったともめるのは確かにまずい。
「そっちの脚持てよ。半分に裂くから」
「おうよ」
鍋の淵にメスの脚を引っ掛けさせて、大股開きで押さえつける。煮上がったマンコが表面に浮かび上がり、青髭はとがった爪を前の穴に差し込む。メスがビチリとはねた。
「こらこら、動くなよ。まっすぐ切れないだろうが」
青髭は、クィンクィンと肉の鳴き声を真似してなだめながら、さくさく股ぐらから縦に腹を裂いていった。
「お前しゃべるのも出来んのか。肉語」
「適当だよ、適当。お前のあ〜じはう〜まいぞっと」
ハリのある肌は、少し切れ目を入れると、力を入れなくてもきれいに切れた。花開くように黄色い脂肪と、ピンクの筋肉、そして赤い臓器が咲き乱れる。待ちきれずに腹の虫がグゥと鳴る。オレは鍋の中でユラユラ揺れているマンコのヒダを片方千切ると、口に投げ込んだ。
「あ、コラ!」
「いいじゃねぇかオレの半分なんだから」
プリプリの肉が舌の上でおどる。やーらかい。ああ、やーらかい。
モグモグと数回噛むと、もう溶けるように形をなくす。なんだか消えてしまうのがもったいなくて、そのままつるんと飲み込んだ。オレの顔を見ていた青髭は、我慢しきれなくなったのか、もう片方のヒダをえぐりとってしゃぶりついた。ヤツはとろん、と酔ったような目つきになると、顔をテカテカさせて気味悪く微笑んだ。オレもあんな顔をしているのかもしれない。
オレが二口目を頬張ろうとすると、青髭に止められた。
「だから、切り終わるまで待てって。真ん中食ったら、わかんなくなっちまうだろ!」
ヤツはオレが食ったマンコ側の腕を肩から引っこ抜くと、オレに渡した。
「それ齧っとけ」
オレは素直に受け取って、二の腕のプリプリにくらいついた。プツプツと繊維が切れる音まで瑞々しい。オレは夢中になって頬張った。骨を齧るかどうか少し迷ったが、その楽しみは後に取っておく事にした。スープの中に骨を戻す。こうしておけば、更に味がしっかりしみこむというものだ。
青髭がガキの入った袋を手にとった。
「ガキも二等分だぞ」
「わかってるって」
袋を破ると、きれいなピンク色の赤ん坊がヒクヒクいいながら顔を出す。よく火が通った証拠だ。
突然鍋の中から、メスが残ってる方の腕を伸ばして、ガキを持っている青髭の腕をつかんだ。
「そうあせるな、ちゃんと仲良く食ってやるから」
青髭はなだめるようにメスの手首を噛み砕く。ポリポリと指の骨を齧りながら、ヤツは赤ん坊を母親の袋から引きずり出した。
「ガキはオスだな」
「そうかそうか。おうおう、可愛いチンチンぶら下げやがって」
青髭が指ではじくと、一口にも満たないような小さな突起がプルリと揺れる。美味そうだが、物足りなさそうでもある。百匹分くらい集めて一気に食いたいものだ。
「チンコはお前食えよ」
青髭がオレに言った。
「いいのか?」
「半分に裂いちまったら、味わう分も残らねえだろ。味噌はお前のだからな。あ、でも金玉は一個ずつだぞ」
オレは胸の奥が熱くなるのを感じた。持つべき者は親友だ。こうなったら、オレも腹の広いところを見せにゃならん。
「しょうがねぇ、今日は特別に秘蔵の酒を分けてやる」
「そんなもんあんのか?」
「イッシッシ、誰にも教えたこたぁねぇからな。しかし、美味い鍋に見合った酒がないのは許せんだろう」
オレは穴蔵の中をかきまわして、徳利を取り出し、青髭の前にドンと置いた。
「これぞ本格派『鬼殺し』!」
「ま、まさか、そいつはお前のおやっさんの…」
「そうよ、親父の金玉をドップリ漬け込んだ濁り酒よォ。効くぜェ」
猪口に注いで青髭に渡すと、ヤツはおそるおそる口元に運んだ後、覚悟を決めてグイとあおった。途端に顔をクシャリと歪めて叫び声をあげる。
「ゥオォ! しびれるゥ!」
「ヘッヘ、どうだ。キツイだろう」
ヤツは目元に涙を滲ませて、クハァと荒い息をした。
「しかし、スゲェ上物だ。さすが、天下無双のおやっさんの出汁だぜ」
「そうだろ、そうだろ」
オレはニコニコしながら自分も杯を干した。トロリと流れた粘液が喉元を熱く焼く。
「クァー、たまんねぇ!」
オレはメスの乳房をむんずとつかむと勢いよくもぎ取った。出産間近の乳腺は、いまだに乳を滲ませている。オレは手のひらの上で卑猥に揺れる脂肪の塊へ、顔を埋めるようにしゃぶりついた。熱で溶けた脂が酒に焼けた喉を撫でる。
ホクホク言わせながら舌鼓を打っているオレを見て、青髭が言った。
「一人で食ってんじゃねぇって何べん言わせる気だ!」
「お前がトロいからじゃねえかよ。いつもニブいんだオメーはよ」
上機嫌のオレは憎まれ口を叩きながらも、ヤツの杯に酒を注いでやる。それを解体の間にチビリチビリと舐めながら、ヤツは羨ましそうな目で徳利を見た。
「オレも親父の金玉でつくっときゃあよかったな」
「全部はやらねーぞ。こりゃオレの親父の酒だ」
「わかってるっつうの。ホレ!」
ケツから真っ二つに裂けた赤ん坊がデンとオレの前の皿に盛られた。ちゃんとチンポコのついてる方の半分だ。几帳面に鼻先から玉袋まできれいに切り分けてある。色ツヤのいい内臓の上に味噌の効いたスープがかけられて硫黄色に輝いた。
「母親のほうも切ってあるからな。自分で取って食え。乳と腕のないほうだぞ、間違えんなよ!」
「わかってるっつの、そこまで卑しいこたぁしねぇよ」
さっそくガキのチンチンを引っこ抜いて、かち割ってある頭蓋骨の中の脳味噌に軽く絡める。少し考えた後、母親の方の味噌もすくい取って息子の頭の中で混ぜ合わせる。せっかくの親子鍋だからな。指でつまんで口へ運び、舌の上で転がすと、まだ感覚が残ってるのか、小さな竿が小刻みにモゾモゾ震えた。なんだか勿体無い気もしたが、結局オレはそいつを奥歯に挟んで噛み潰した。プチリとつぶれた組織が口の中に飛び散るのがわかった。
波に乗ったオレは、ガキのふとももをねじ切って、痙攣する脚の裂け目をむさぼった。脂じゃなくて繊維のはずの赤身がフワッと溶けて甘ったるい後味を残す。骨まで柔らかく、サクサクした軽快な食感だ。母親の方とはまた違ったタイプでありながら、しっかりと血縁を感じさせる調和の取れた味のハーモニー。
フッ、オレとしたことが、うっかりグルメを語っちまったぜ。
そのとき、どこから匂いをかぎつけてきたのか、緑髭が小汚いツラで寄ってきた。
「ヨォ、美味そうなもん食ってんじゃあネェかよ」
「お前にゃ関係ねぇヨ。失せな」
「そういうなよ。こんないい匂いプンプンさせといてそりゃないぜ」
「お前の為じゃねぇヨ。消えな」
オレも青髭も口をそろえて緑髭を追い払う。青のヤツがこっそり目立たないようにオレの『鬼殺し』と猪口を見えないところへ隠した。なかなか気の利いたダチだ。
「一口くらいイイだろう? ほら、そこのメスの脛だけでもさ」
「味噌はオレので肉はコイツのだ。竃はオレので料理したのはコイツだ。お前はナンもしてねぇし、なんも出してねぇ。お前にやる理由がねぇよ」
「そこを頼むよ。温泉鍋なんてもうナン年も食ってねぇんだ」
「オレの知ったことか。とっととどっかへいかねぇとブッ殺スぞ」
「このドケチ野郎!」
オレはそれ以上相手にせずに、件の脛肉を踝を持ってもぎ取り、自分の口へ入れようとした。
そのとき、がいん、と音がして、脳天に激痛が走った。思わず取り落とした肉を、緑髭のクソボケがかっぱらって逃げていく。
「アイ、タ、タ、タ…」
足元に血のついた岩がゴロリと転がる。あのドグサレ、オレの頭を岩で殴っていきやがったな!
痛みに頭を抑えようとすると、何やらぶよぶよしたものが手に触れる。
「オイオイ、お前、頭カチ割れちまってるぞ」
青髭が目を丸くして言った。つられて様子を見ようと首を傾けると、なんと脳味噌がズルリとこぼれ出した。
「うおお、勿体ねぇ!」
青髭が素早く手を伸ばして、オレの脳味噌を受け止めた。頭の容量が減ったせいか、なんだかクラクラする。腰から力が抜けてその場に座り込む。
「あーあ…こいつぁ助からねぇぞ」
「…チクショウ…あのクソッタレ、絶対ブッ殺してやる…」
「そーだな。今度会ったら仇討っといてやるよ」
ヤツはそういいながら、自分の手に乗ったオレの脳味噌の欠片を舐めとった。
「コラ、テメェ、勝手に人の脳味噌食ってんじゃねぇよ!」
形ばかり怒って見せるが、そろそろ自分でもなんとなくもうダメなことがわかるようになってきた。まあ、最後に同じ鍋のメシを食った仲だ。もうどうでもいいか。
「お前にも脳味噌ちゃんと入ってたんだな。いい硫黄味噌になりそうだ」
「そうか? まあ、お前料理上手いからな。お前が作るならお前にやってもいいぞ」
「よし、まかせろ。最高の味噌にしてやる」
オレはカラカラと笑った。笑うと身体が揺れて、身体が揺れると頭も揺れる。また頭がグルグルとまわりだした。
「ついでにオレの酒も持ってけ。親父の形見だ。味わって飲めよ」
「ホントか?」
緑髭のクズなんかに飲まれちゃ癪だからな。と、言おうと思ったがなんだか口を動かすのがおっくうになってきて言わなかった。青のヤツは嬉しそうなのでまあいい。
「じゃあ、お前の金玉も一緒に漬け込んでいいか?」
願ったりだ。が、なんとも口に出すのが面倒なので、オレは首を縦に振った。また中身がゾロリと流れて動く。
青髭が慌てて落ちないように押しとめて、こぼれた分を中へ戻そうとする。ヤツの指がクチュクチュとオレの脳味噌をかき回す。なんだか妙な感覚が全身を貫いた。
「オイ…マテ…ヤメロ…」
手を上げてさえぎろうとしたが、どうにも腕が重くて、胸の前ぐらいまでしか持ち上がらない。
「ア…アッ…アッ…」
ヤツの指が突き刺さるたびに背骨の辺りがむず痒くなって、チンポコが盛大に勃ち上がった。痺れるような感覚が身体中に走る。
ヌチュ、と音がして、ヤツの指が一段と深いところへ潜り込んだ。同時に腰が痙攣して下っ腹にザーメンがぶちまけられる。それを最後にオレの意識は真っ白に爆発して、もう何もわからなくなった。
-
投稿:2011.11.07
ピリ辛味噌は誘惑のかほり
著者 自称清純派 様 / アクセス 8104 / ♥ 1