「今年度、ユヌンカの栄誉にあずかることになった真の勇者は…ジュマ!!この若者に、大いなる賞賛を!!」
石造りのユヌンカの大神殿の頂上で、褌一つの裸の少年を隣に据えた神官が声を張り上げる。
その途端に、大観衆から歓声が湧き上がる。
ジュマは、高い位置からそれを見下ろし、歓声を聞きながら感涙にむせんでいた。
この国では、男に生まれたからには、皆、ポグルと呼ばれる球技の選手になりたい、そして、ユヌンカの栄誉に与りたいと考え、ゴムの樹の樹液で作った手製のボールで練習を積み重ねている。
ポグルとは、サッカーとバスケットボールを足して二で割ったような競技だ。
ボールは、ゴムの塊で出来ており、その重さは3キロほど。
そのボールは、下半身…
しかも、腰から膝までで扱わなければならないという決まりだ。
一チーム6人で、ユヌンカの輪と呼ばれる石造りのゴールの高さは2メートルほど。
バスケットと違って、横ではなく縦に据え付けられている。
相手のブロックを交わしてボールをパスしあい、敵チームの壁か、敵チーム選手の腰より上かひざより下にボールを当てれば得点が加算され、中央ゲートの壁の外にボールを出したり、ユヌンカの輪の真下でブロックしたりすると失点する。
そして、5点先取したチームの勝利というルールだった。
ただし、相手側のユヌンカの輪にシュートを決めると、得点に関係なくその時点でシュートを決めた選手のいるチームを勝ちとしてゲームセットで、その選手は勇者として、ユヌンカの栄誉を授かることとなっていた。
また、ポグルに参加できるのは、15歳から20歳までの男性のみと定められている。
ポグルは、年に一度の「ユヌンカの祭り」に奉納される競技でもあり、女性たちは、それを見ることによって、女性は「ある理由」からポグルに参加できないことの理由を知り、納得とともに受け入れるのであった。
ポグルの選手として選ばれた者には、自慰と性交渉は厳禁とされている。
それがばれたら、ポグル選手としての資格を剥奪されるのみならず、その後一生、「犬」と呼ばれ、笑われ蔑まれる日々が待っていた。
自慰など絶対にしていないと言っておきながら、こっそりしていることがばれた者が、「大嘘つきのくそ犬」呼ばわりされるところだって目の当たりにしている。
選手に選ばれたということを知っておきながら誘う女も同罪だ。
ジュマも、「犬」と呼ばれるのだけは絶対に嫌だったので、その禁忌を忠実に守り、軽はずみな行動は慎み続けていた。
「稲妻」というあだ名を持つ、17歳になるジュマもまた、幼いころからポグルの選手になりたいと夢見、暇さえあれば練習に打ち込んできた。
「ユヌンカの祭り」でのポグルの試合を見るたび、そして、勝利したチームの、ゴールを決めた選手にのみ冠される「ユヌンカの栄誉」の儀式を見るたび、ジュマは心の中で誓いを新たにしていた。
(ポグルの選手になりたい、そして、最高神であるユヌンカの栄誉にあずかりたい…!!)
ジュマの体はすくすくと伸び、その脚は「稲妻」のあだ名にふさわしく、すらりとしていながら筋肉質であった。
もちろん、体全体も、筋肉がしなやかに覆っている。
ジュマの友人も両親もみんな言う。
「ジュマなら、絶対に間違いない!ジュマこそがユヌンカの栄誉にふさわしい!」と。
ジュマは、意気揚々と、ポグル選手の選抜会に参加した。
そして、その結果…
ジュマは、見事に合格した。
「やったあ!!」
それからのジュマは、同じチームになった仲間たちと、訓練や練習試合に勤しんできた。
今日、この「ユヌンカの祭り」に参加することを。
そして、「ユヌンカの栄誉」に与ることをただひたすら夢見て。
ユヌンカの祭りでは、ユヌンカの栄誉に与る者が一人も出ないままに終わる年も珍しくない。
なにせ、ゴムの塊である、3キロのボールを扱う競技だ。
ボールを受け損なうことによって、大けがをしたり、死に至ったりする者が出ることだって少なくないし、選手の疲労の度合いも大きい。
大抵は、1年おきにしか現れないが、なんと、4年にも渡って一人も現れなかったのだ。
これは、はっきり言って異常事態であった。
だからこそ、ジュマの蹴り上げた球が「ユヌンカの輪」をくぐったときの大観衆の喜びようは凄まじい物であり、ジュマ自身もその時、声を限りに歓喜の絶叫を上げたのだった。
「これより、ユヌンカの儀式を執り行う!!」
神官の声に、大観衆は水を打ったように静まった。
ジュマの体は、武者震いでがくがく震えだした。
ジュマの褌が、ゆっくりと取り払われる。
その途端に、褌の中身が、勢いよく跳ねあがった。
観衆から、どよめきの声が上がる。
ユヌンカの祭りに参加する直前、ポグルの選手たちは皆、神官によって恥毛を一本残らずそり落とされる。
ジュマもまた、例外ではなかった。
赤銅色の体から天を向いていきり立つそれの先端は、見事に露茎している。。
どくん、どくん、どくん…
血管を浮き立たせ、力強く脈動しながら跳ねる、ジュマの男の象徴。
その太さも長さも、「真の勇者」のそれにふさわしいものであった。
もちろん、そこに重たげにぶら下がる二つの肉球も。
「素晴らしい…!!」
「あれなら、ユヌンカもきっと満足なさるぞ!!」
「バカ、きっとじゃない、絶対だ!!」
「わしも長いこと生きておるが、今までの勇者の中で、ジュマの物が一番立派じゃ。」
群衆たちのささやきがジュマの耳を打つ。
それを聞きながら、ジュマはまさに感無量であった。
「ユヌンカよ!貴方様に、真の勇者ジュマを捧げます!!」
高らかに宣言した神官は、ジュマの股間のものを、双球もろとも鷲掴みにして、力任せに引っ張った。
その片手には、黒曜石のナイフが握られている。
そして、男の象徴の付け根に、刃が当てられた。
ジュマの絶叫が轟いた時、すでにジュマの男の象徴は、ジュマの体にはなかった。
神官が、その片手に、ジュマの男の象徴を高々とかざした時、群集の絶叫は最高潮に達した。
仁王立ちのままのジュマは、それを耳にしながら、滂沱の涙を流し続ける。
だが、それは、激痛の涙でも、男を失った悲しみの涙でもない。
ましてや、騙されたという悲しみのそれでも。
ジュマの心の中にあるのは、「自分はユヌンカと永遠に一体となれた」という満足、そして無上の喜びでしかない。
自分の男の証は、自分のものではなくユヌンカの物。
今まで、自慰も性交も我慢してきたのは、自分の男としての全てをユヌンカに捧げるという、ただそれのみのためであった。
この国の最高神であるユヌンカが生贄として求めるもの。
それが、「最も優れた男」の、一度も女との交わりも持たず、快楽としての射精も知らぬ、一点の穢れもない男性の象徴と、そこから流れ落ちる鮮血なのだから。
ジュマの体と、切り離された男の証から流れ出る鮮血が、ユヌンカの大神殿を紅く染める。
そして、男の証その物は、祭壇へと捧げられた。
ジュマの下腹部全体には、脈動にあわせて激痛が走っていた。
だが、それさえも彼にとっては「自分がユヌンカと一体化した」という充足感を伴う、確かな証でしかなかったのだった。
傷の手当てを受け、担架に乗せられて担ぎ出されてゆくジュマの耳に、自分を賛美する群衆の声が雷鳴の如くに轟く。
ジュマは、その声をいつまでも聞いていたいと思ったが、その意識は次第に遠のいていった。
-
投稿:2012.03.22更新:2012.03.22
ユヌンカの栄光
著者 真ん中 様 / アクセス 11407 / ♥ 47