又作は快感に苦しんでいた。
かっかと熱くなっている下腹をどこかにこすり付けたいが、
囚われの身ではそれもままならぬ。
もう何日、こうやって天地さかさまに吊るされているのか、
又作にはすでにわからなくなっていた。
裸の尻が風に吹かれて鳥肌が立つが、
その不快さえ勝手に湧き上がる性感を殺してはくれぬ。
又作は隣にぶら下がる兄のまだ血の滴る身体を見た。
とすれば、それほど兄の死から時が流れたわけではないようだ。
それに比べて、捕らえられてすぐ死んだ弟の死体は
もはや、かさかさに干からびきっている。
ぶるりと陰茎が震えて、ダラダラと精液が零れ、
もう避ける気力もない又作の顔面にかかった。
それでも性器は萎えてくれず、精魂尽きて事切れる予兆もなく、
ただ頑丈なばかりに産み落としてくれた両親を
又作は少し恨んだ。
漏らした汁の匂いを嗅ぎつけたのか、
パラパラと子蜘蛛が寄ってくる。
虫どもは又作の男根から顔面までまっすぐ流れた体液に、
行儀良く並んで群がり、キチキチと音を立てて啜った。
兄の男根を引き裂いて産まれたこの蜘蛛達は、
食に意地汚く、騒がしく、到底上品とは言えぬ食いぶりであったが、
尿道の穴にこびりついた最後の雫まで、残さず舐め取る几帳面さは、
どことなく、生前の兄を思い起こさせた。
結局のところ、兄の子であるのだから、兄に似るのも当然なのだろう
と、考えて、兄を殺して食ったこの生き物を
甥っ子扱いしている自分がおかしくなり、又作は笑いたくなった。
もちろん、無駄な声を上げる体力など残ってはいなかったが、
穴の中に虚しく響く己の笑い声を聞いていれば、
もう何も考えなくなれるかもしれんと、又作は思った。
再び、快感の波が下腹を痙攣させ、勝手に蜘蛛らへの乳を搾り出す。
親蜘蛛の牙で尻の穴に打たれた毒を、強精薬と銘打って売れば
一儲けできるやも知れぬと、又作はくだらないことを考えた。
全身を糸にからめとられ、陰部を快感に震わせる他指一本動かせぬ又作には、
考える以外に出来ることがなかった。
兄が生きていた間は、射精の合間を縫って会話をすることで
お互い慰め合っていたものだが、
強面のわりに気の弱いところのあった兄は、
恐怖と快感に耐えられず狂い、
こわいこわい、くるしい、キモチいい、たすけて、おっかあ
とぶつぶつ呟くばかりで、又作の声にも答えぬようになった。
兄のふくれあがった陰茎の皮膚を突き破り、
アケビの実を割るように避けた尿道から、
わらわらと黒い蜘蛛が這い出すのを見て、又作は絶叫をあげたが、
兄自身は、ただ気持ちよくてたまらないとばかりに、
激しく抱かれる女のような嬌声を上げてよがるばかりで、
それが余計に又作の恐怖をあおった。
股ぐらから血と精液を流しきり、
もともと虚ろだった瞳から光を消して兄が動かなくなった後も、
兄の断末魔のよがり声だけは、耳にこびりついて離れなかった。
いつも剛毅なフリをしていたが、
細かなことを気に病み、くよくよと思い悩むのも、
三兄弟では長の兄が一番で、
蜘蛛につかまり、三人が前の穴を犯されて、
筒の中に卵を産み付けられたときにも、
メソメソと泣いたのはやはり兄だった。
心優しい幼い末弟が、泣くなと叱りつけていたのを思い出す。
自分も怖いだろうに、自分が兄や達を助け出すからと、
口だけは頼もしく言い放っていた。
打たれた毒が身体に合わず、真っ先に死んだのは幸か不幸か、
おそらく幸せだっただろう。
ついこの間、夢を見ながら褌を白く汚し始めたばかりの弟には
この尻の奥に火かき棒を突きこまれたような激しい熱は、強すぎたのだと思う。
最初の頃は時々様子をうかがう様に親蜘蛛が姿を見せ、
母が腹の我が子を愛おしむ様に、兄弟の勃起の収まらぬ肉棒を撫でさすって、
むやみやたらと射精に導かせることを繰り返していたが、
死んだ弟の体液を吸い尽くした後ぐらいから、
とんとその毛深い姿を見なくなった。
寿命尽きて死んだか、他の獲物を見つけて別の巣を作ったのか。
どちらにせよ、自分が赤ん坊蜘蛛の子宮で、揺りかごで、乳房であることは
変わるわけではなく、又作は、
いっそ自分の性器に宿った蜘蛛も、はやく産まれてくれないものかと願い、
またぶるりと精を放って、兄の子蜘蛛を呼んだ。
このまま延々と子蜘蛛のために精を吐き出し続ける刻が続くのかと危ぶんでいると、
どこかから、人の声が聞こえてきた。
これで助かると、とたんに明晰になった又作の脳裏で
よくぞ俺が死ぬ前に来てくれたという喜びと、
なぜ兄弟達が死ぬ前に来てくれなかったという怒りが鬩ぎあい、
一瞬の躊躇いの後、自己保身が勝った。
しかし、それが助けを求める声であることがわかると、
この期に及んで、自分可愛さに、心の中で兄弟達を見捨てたことが
恥ずかしくなり、悔しくなり、情けなくなった。
しばらく姿を見なかった親蜘蛛が、新しい獲物を引きずってきた。
死んだわけではなかったらしい。
渇いた口は音を出せぬが、又作は舌打ちした。
岩穴の向かいの壁に、逆さの大の字にして貼り付けられた新しい男は、
又作たち三人を見て怯え、泣いてもがいた。
そこにかつての自分の姿を見て、またぬか喜びをさせられた八つ当たりで
又作はかなり冷たく、他人事のようにそれを眺めた。
大股開きで固定された男は、おそらく同じ村の見知った顔なのであろうが、
もはや日常の平和な記憶に霞のかかった又作には、誰やらも思い出せない。
大蜘蛛は男の褌を切り裂くと、尻の割れ目に顔を突きこみ、がぶりと噛み付いた。
痛みに男が悲鳴を上げたが、それがすぐに快感に変わり、
更にそれが果てしない苦悶に変わることを又作は知っていた。
予想通り、萎え縮こまっていた浅黒い陰茎は、
まもなくむくむくと膨れ上がり、
不本意だと嫌がりながらそむける男の顔にどくどくと精液を吐きかけた。
準備が終わったことを知った大蜘蛛は男の股間に覆いかさぶり、
震える男の萎えぬ肉茎をまさぐりながら、
先端の細い穴へ、醜い己が性器を差し込んだ。
女の膣と違って、華奢で軟弱な穴を犯され、
男は声を上げて泣き喚いた。
屁をひるような音を立てて、親蜘蛛が男の魔羅に卵を産みつける。
それでも快感に射精を続ける自分の身体を男が罵っているのが聞こえた。
これから孵るまでの間、男は種汁を、蜘蛛の卵と自分の顔に浴びせ続けることになる。
案外、産まれる子蜘蛛達は、本当に俺達の種の宿った子なのかも知れぬと、
又作はそのとき思った。
ちょうどそのとき、自分の生殖器の中で、自分の身体とは別のものが
モゾモゾと動き出すのを又作は感じた。
どうやらそろそろ産まれるらしい。
新入りの男と話す機会が全くなかったのはもったいないが、
早々と気が狂ったほうが相手も楽になるだろうと、それほど残念には思わなかった。
小さな蠢きは大きなうねりになり、男根の中身を食い進まれて、
又作は今までにない強烈な快感が全身を貫くのを感じた。
血の混じった桃色の粘液を、腫れてめくれあがった尿道から噴き出しつつ、
いつのまにか兄の漏らしていたような甘い声を、自分が出していることに気づく。
向かいの男が、狂った男を見るかのように又作を見ていた。
そのうち、お前にもわかる。
期待に反して自分がまだ狂っていないことを、又作は頭の隅で理解していた。
陰部の蠢きは、ふぐりの方にも広がっていて、
金玉がむさぼり食われているのが、いちいち感じられ、
それがまた快感を呼ぶ。
やがて、見覚えのある亀裂が裏筋を割り、
ぱっと勢い良く、小さな蜘蛛達が走り出た。
そこを、先に兄から産まれた少し身体の大きな子蜘蛛達が待ち構え、
従兄弟か腹違いの弟かわからぬが、
出てきた赤ん坊どもを片っ端から捕らえて食った。
兄の子が自分の子を殺していくのを見て、
又作は無性に腹が立った。
テメエら、仲良くしやがれ!
赤子の一匹が、陰茎の残骸から垂れる雫に乗って落ちてきたのを
又作は口で受け止めた。
そして隠すように唇を閉じてかくまった。
子蜘蛛が舌に噛み付くのがわかったが、
又作は、好きにかじらせておけば良いと思った。
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投稿:2012.06.16
子守り唄
著者 自称清純派 様 / アクセス 8538 / ♥ 4