前触れもなく、冷たい風がピュウッと吹いたらご用心。
それは、妖怪・玉イタチかもしれません。
あるの夜のことです。
浩一郎は、尿意を催して目を醒ましました。
「ぶるっ……。寒いなぁ。トイレまで行くの、何だか面倒くさいよ」
トイレは、浩一郎の部屋から、廊下を伝って突き当たりにありました。冬の夜、素足で冷たい木の床を歩くことを想像してみてください。
浩一郎じゃなくとも、きっと「嫌だなあ」と思うに違いありません。
「ううっ、でも我慢できないやっ。もう、窓からしちゃえっ」そう言うと、庭に面した窓を、ほんの少しだけ開けて、隙間からオチンチンを突き出しました。
緊張した膀胱を緩めると、庭先の枯れ草の間で、チョロチョロとオシッコの滴る音が聞こえ始めます。
「ふうーっ、きっもちいーっ!」
オシッコの勢いがだんだん弱まって、オチンチンの先っぽから雫がポツン、ポツン、と垂れ始めた時です。
それまで、そよとも吹かなかった風が、ピューッと音を立てました。
「熱っ!」浩一郎は小さな悲鳴を上げ、思わず股間を手で押さえます。「あっ、ぼくの——ぼくのキンタマが1個足りないぞっ。なくなってる!」
浩一郎の玉袋は、何か鋭い物で、真横にスパアッと切られた跡がありました。そこから、男の子にとってかけがえのないキンタマが、一瞬にして盗み取られていたのです。
不思議なことに、一滴の血も流れませんでした。刃物で傷つけたのではないのです。
そんな事ができるのは、妖怪・玉イタチをおいて、他にはありません。
みなさん。夜中にオシッコがしたくなった時には、トイレで済ますことをお勧めします。
決して、夜風には当てぬよう、お気をつけ下さい。
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投稿:2012.10.26
玉イタチ
著者 豆ぽん太 様 / アクセス 8921 / ♥ 2