その日は朝から吹雪いていた。
与助と父の源蔵は、寒さをしのごうと山で集めた薪をくべた。
山神の吐息はガタガタと戸板を揺らし、びうと風切る音が谷を渡る。
すきま風に鳥肌を立てた与助は、身を震わせて縮こまった。
「おっ父、もっと火のそばへ寄らんか。凍えちもうぞ」
何やらそわそわと、外の様子を気にしていた源蔵は、息子の声に我に返り、土間から囲炉裏の傍へ戻った。
「どうしたな、おっ父。落ちつかんで」
源蔵がそれでも尚、外を気にしている様子を見て、与助は怪訝な顔をした。
「……いや、前にもこげな様に雪が降りおってな」
源蔵は遠い目をして言う。
「そんとき、なんかあったんか」
「ああ、うむ……」
与助が尋ねると、源蔵はなにやらばつの悪そうな顔をして、口を濁した。
煮えきらぬ父の様子に首をかしげながら、与助は更に木っ端をつぎ込む。
ようやく人心地がつくと、与助の目蓋は重くなってきた。
うつらうつらと舟をこぐ息子を見て、源蔵は言った。
「与助、寝とれい。火はワシが見とろうに」
「むう、頼まあ、おっ父。後で代わる」
与助は裏返りそうな目をこすりながら答えた。
炉辺に引いた蓑藁の上に丸くなった与助は、すぐに深い眠りに落ちた。
目が覚めたとき、小屋の中は冷え切っていた。
火は完全に消えて、あたりは薄暗い。
(おっ父も寝ようたか。年じゃけんの)
顔を起こした与助は、小屋の入口の扉が開いていることに気づいた。
驚いて目を見開き父親の方を慌てて探った与助が見たものは、薄闇の中でぼうと淡く光る、女の裸であった。
肌は雪の白。髪は宵闇の黒。氷から削りだしたように美しく滑らかな身体は、上下の律動の合間でも熱を感じさせぬ様子であった。
着崩して左右に割れた着物の狭間から、淡い色の乳首と、慎ましくくぼんだ臍と、浅黒い男根を銜え込んだ割れ目が、村の娘なら羞恥で隠すべき大事なところが全部見える。
女は淫らに肌を晒して、横たわる裸の父の腰にまたがっているのだった。
仰向けに腹を晒した源蔵には、抗う様子はなかった。青褪めた唇の隙間から、弱々しい吐息が、白い霧となってこぼれ出る。不思議なことに、与助自身と、源蔵からは白い息が漏れているというのに、女の唇は、なんのぼかしもなく、くっきりと微笑んでいるのが見えた。
美しい女であった。
装いも仕草も淫靡極まりないものであるのに、まるで温度を感じさせぬ平然とした顔色と穏やかな微笑に、与助は魅入られた。獣なら息を荒げ、人ならば羞恥に頬を染めるところを、何ら変哲もない仕草のようにまぐわう姿は、人ならぬ摂理によって動く者を思わせた。
毛むくじゃらの父の股間は、霜が降りたように陰毛が凍りつき、銀色に輝いていた。女が静かに腰を揺らすたびにシャリシャリと微かな音が聞こえる。
「……う、あぅ……」
源蔵が弱々しい喘ぎ声とともに身を震わせた。色の薄い襞に挟まれたどす黒い性器も、与助から見えるのは根元だけだが、びくびくと痙攣し、膨らむのが判る。
一層、空気が冷たくなったように思えた。
パキリ、と音がして、父がまた切ない声を上げる。
ゆっくりと女が立ち上がった。与助の目は女の股間に釘付けであったが、自分の見ているものを理解するのには時間がかかった。
女はゆっくりと自分の秘所に手を伸ばすと、その細く白い指先で優雅に襞を割り開いた。与助はそれまで閉じた割れ目しか見たことがない。まじまじと覗き込む与助の前で、女は自分の膣に突き刺さっていたものを引き抜いた。
それは男の勃起した陰茎であった。そちらは与助にとっても見慣れたシロモノであるから、たとえ、『それだけ』が指先でつまみあげられていても、見間違うことはない。
女の掌に乗せられた性器は、父の身体につながってはいなかった。
張り詰めたように勃起したままで、父の男の証は根元から折れてしまっていた。ただ切り落としただけなら血飛沫が噴き出し、はがれた玉袋もぶらぶらと力なく揺れていただろう。しかし、源蔵の魔羅は凍りついていた。そそり立つ棹も、縮み上がった陰嚢も、血の一滴すら垂れる余地もなく、鉄棒のように固まっていた。
よく見れば亀頭の先から、飛び出した白い種汁が、溢れる絶頂の瞬間のままに形をとどめているのがわかる。与助自身ですら、自分の射精の瞬間を、じっくりと眺めたことなどなかった。
女は悦楽のまま時の止まった男根を口元へ運ぶと、飴を舐めるように舌を這わせた。
そして、股を広げたまま動かない源蔵の上に再び屈みこむと、その顔先に、浅黒い飴を差し出した。
弱々しい息を吐きながら、己の男根を眺めた源蔵は、夢を見るような目つきをしていた。女がゆっくりとそれを源蔵の口元へ突きつける。意図は明らかだった。
流石に自分の魔羅を銜えるのには抵抗があったのだろうか。源蔵は少し躊躇い、辺りを窺うように視線を動かして、そして与助と視線が合った。
息子に見られていたことに気づいた源蔵は、うろたえた様に眉を下げ、視線を踊らせる。与助も気まずさを感じたが、目をそらすことなど出来なかった。
女は容赦なく源蔵の唇に男根の先を押し付ける。源蔵は恐る恐る口を開いて、産まれてずっとぶら下げていた己の魔羅を唇の間に挟んだ。女はそっと自分の唇もそこへ寄せて、二人の口で亀頭を挟み込んだ。
徐々に、肉をはむ源蔵の唇の動きが鈍くなっていき、やがて僅かな胸の動きも止まった。
立ち上がった女は、それまで全く目に入れていなかった与助に顔を向けた。
びくりと身を震わせた与助は、女が肌を隠さぬまま近づいてくるのを、怯えた目で見上げていた。
女の手が伸ばされる。
褌の膨らみを握られた瞬間、与助は氷を突き入れられたような冷たさと、燃えるような熱さを同時に感じて、自分が痛いほど勃起していたことに気づいた。
冷たい指先が与助の男根をなぞり、ぞくぞくとした感覚が背筋を這い上がる。全身に鳥肌がたった。冷気か快感か、それとも恐怖か、与助にはわからなかった。
びしゃりと音を立てて、与助は褌の中に精を放った。
「かわいい子ね」
鈴の音のような透きとおった声で女が言った。
「……お、俺の事も殺すんか」
自分の声を聞いて、与助はその恐怖に震え上がった響きを情けなく思った。
女は微笑んだ。
「助けてあげるわ。あなたは若くて、私が溶けてしまうもの」
それを聞いて、心のどこかで残念に思っていることに、与助はすぐに気づいた。何故だかぼろぼろと涙が溢れてくる。
「怖がらなくてもいいのよ。でも私の事を誰にも言っては駄目」
与助が頷くと、女は着物の前を整えて肌を隠し、胸元へ凍った男根を挟み込んだ。
女は与助の顎を取ると、唇を寄せて合わせた。痺れるような冷気が与助の肺の中に吹き込まれる。
目の前が暗くなり、与助は意識を失った。
目覚めると既に朝になっていた。
吹雪は止み、日の光が戸板の隙間から差し込んでいる。褌の中に精液を漏らしたいつもの感覚があり、与助は夢を見ていたのかと思った。
「おい、おっ父。火が消えたせいで変な夢を……」
父に呼びかけた与助は息を呑んだ。
唇を紫色にして横たわる源蔵は、息をする様子もなかったからである。
辺りを見回すが、扉には内側からつっかい棒が渡されたまま。囲炉裏の灰にもまだ温もりが残っていて、なにより部屋の中自体がそこまで冷え切っているわけではない。
源蔵自身も、昨晩眠る前と変わらぬ様子で、しっかりと服を着ていた。
鼻の前に手をやってみたが、やはり息はない。
ひとしきり慌てた後、与助は恐る恐る、父の褌をほどいてみた。夢であったかどうかが、それでわかる。
与助はごくりと、息を呑んだ。
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投稿:2012.12.11更新:2012.12.11
ゆきおんな
著者 自称清純派 様 / アクセス 9823 / ♥ 3