男のあだ名は早撃ちマック。黒光りするマグナム銃を自慢げに見せびらかし、町中をぶらついていた。
酒場へ顔を見せれば、トラブルを恐れる弱気な客は、こそこそと姿を隠す。カウンターへ向かえば、海を割るモーゼのように人が離れた。自分の店であるように、まっすぐ中央に座ったマックは、ものも言わずカウンターを指で叩いて酒を要求する。
重苦しく静まり返った店内にぼそりと誰かの呟きが響いた。
「ケッ、早漏野郎め」
マックの鋭い視線が声のした方へ向けられるが、目を合わせようとするものはいない。
「聞き捨てならねえなあ……」
マックは不吉な笑いを浮かべながら、目だけは鋭い眼光を放ったままで、立ち上がった。
「俺の射撃の腕をしらねえ奴がいるようだ」
その瞬間、目にも止まらぬ素早さで、マックの右手が腰にぶら下げていたマグナムを取り出し、誰にも動く隙を与えぬまま構え、そして再び下ろした。
一瞬誰も何が起こったのか理解できなかったが、マックがその砲身の先端から白い残滓を振り払っているのを見て、初めてマックが既に撃ち終わっていることに気づく。
彼らは辺りを見回し、ちょうどその場にいた六人の女達、各自別の席で、それぞれの男の腕の中にいたはずの女達、その股間を、マックの放った白く輝く弾丸が撃ち抜いていたことを知ったのだった。
絹を裂くような悲鳴を上げた後、女達はバタバタと倒れる。連れの男の一人が、顔を真っ赤にして怒鳴り上げた。
「テメエ! 俺の女になにしやがる!」
マックは冷ややかに鼻で笑った。
「お前のヘナチンじゃ満足出来んだろうから、俺のタマでイカせてやったんだ。有難く思いな」
「ふざけんなコノ野郎! ぶっとばしてやる!」
禿げ上がった頭頂まで赤く染めた男は、カウンターの上に片足を乗り上げ、隠し持っていた丸太のように巨大な得物を服の下からつかみ出すと、それをマックに向けた。
しかし男が引き金を引くより速く、マックは華麗に身をかわしながら男の銃身を蹴り上げる。
強引に向きを変えられたショットガンは、豪快な音を立てながら見当違いの方面にバラバラと弾をたたきつけ、あわれ巻き込まれた客を打ち倒して、汚い染みを床に滲ませた。
錯乱した男はろくに狙いもつけぬまま、店中に散弾を何度も撒き散らす。悲鳴と怒号が吹き荒れた。
マックは冷静に再びマグナムを抱えなおし、男の両目を一発ずつ正確に撃ち抜いた。
「ぎゃああああ! 目が! 目があああ!」
顔面を押さえて転げまわる男を見下しながら、マックはカウンターの上でポーズを決めた。
「射撃で俺に張り合うなんざ、百年早ェぜ」
誰もが怒りと屈辱に身を震わせながら、諦めとともにそのセリフを受け入れようとしていたとき、酒場のマスターが、カウンターの上に今の騒ぎで割れた酒瓶をガンと突き立てた。
「いいかげんにしやがれ」
マックは目を見開いた。自慢の銃が、抱えていた指もろとも酒瓶の中へ閉じ込められていたからである。鋭いガラスに切り裂かれた断面から血が吹き上がる。
「うおおおお! 俺のマグナムがああああ!」
マックは叫びながら傷口を押さえてうずくまった。
酒場の客達は、ポカンとそれを眺めていた後、何が起こったのかを理解すると、沸きあがるような歓声を上げて喝采した。
こうして混沌の町に平和が訪れ、『酒瓶詰めの早撃ちマックのマグナム』は、酒場のシンボルとして店の中央に飾られたのであった。
Fin.
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投稿:2013.01.30更新:2013.01.30
昼間の決闘
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