「ねえクララ。そこの人形を取ってちょうだいな」
「はい、お姉さま」
クララは、壁に兵隊の格好をして並んでいる人形の一体の手をとりました。
青い目の人形は、クララと同じくらいの背の高さで、まだまだあどけない顔立ちをしています。目が涙に潤んでいるようなので、ますます幼く見えてしまうのでしょう。りりしい兵隊の服は、あまり似合っていませんでした。
「どうぞ、お姉さま」
人形の手を、一番年上の姉に渡すと、姉は礼も言わずに、ぷいとテーブルに向き直ってしまいます。少し寂しい思いをしながらもクララが隣へ座ろうとすると、今度は二番目の姉が言いました。
「ねえクララ。くるみわりを忘れているわよ」
「あら、ごめんなさい」
それを聞いていた人形が悲鳴を上げて逃げようとしましたが、手馴れている姉は簡単に取り押さえて、兵隊服のズボンを膝下まで降ろしてしまいました。
「急いでクララ。待ちくたびれちゃうわ」
「ええ、今すぐ」
クララは小走りで壁に駆け寄り、棚の上においてある、くるみわり器を取り上げました。壁に並んでいる人形達が、恐ろしいものを見るように、クララの手の中の小さな道具に目をやります。
クララがテーブルに戻ると、二番目の姉は人形のペニスの皮を剥いて、紐で縛っていました。
「こうしておくと、くるみを割るのが簡単なのよ」
その先をテーブルの上の台に結びつけると、腰を引こうとする人形の力で、紐がピンと張りました。
そうして一番上の姉は、やはり何も言わずにクララからくるみわり器を取り上げて、自分だけでそれを使いました。
パキリ、と音がしてくるみが割れます。人形は金切り声を上げて泡を吹きました。股間にぶら下がる袋の片方が、みるみるうちに腫れ上がり、彼女はそれを指先で揉み解して、潰れたくるみの感触を楽しみました。
「お姉さま、交代しましょ」
二番目の姉は、ニコニコと微笑みながら、一番上の姉と場所を変わりました。彼女はわざと焦らすように、ゆっくりともう片方を押し潰します。紐で結ばれているペニスの先から、血がこぼれ出ました。
二人の姉は、その様子を見てクスクスと笑うのでした。
クララは、つまらなそうにテーブルの隣でそれを見ていましたが、姉達に名前を呼ばれて、自分も遊びに加えてもらえるのかと目を輝かせました。
しかし、姉達がクララに言いつけたのは、人形の後始末でした。
「クララ、もうこの人形は壊れてしまったから、ちゃんと捨てておきなさい」
クララはがっかりしながら、痙攣している人形のパンツを引き上げさせました。
そのとき、クララはポロポロと涙を零しながら震える人形を見て、このまま捨ててしまうのは可哀想だと思ったのです。
「ねえ、お姉さま。このお人形、わたしが貰っても構わないかしら」
二人の姉は、きょとんとした目をしてクララの言葉を聞きました。
「変な子ね。壊れた人形を欲しがるなんて」
姉達は首をかしげていましたが、人形を大事そうに抱えるクララを見て、やがて馬鹿にしたように笑って言いました。
「いいわ。好きにしなさい。でも、他の壊れていない人形に触っちゃダメよ」
「ええ。わかっているわ。ありがとう、お姉さま」
クララは喜んで自分の部屋に人形を連れ帰り、椅子に座らせて飾りました。股間がじっとりと血や尿に濡れているのに気づくと、端切れやボロ布を使って簡単に手当てをし、代わりの下着を作ります。
やがて夜になると、人形はようやく話せるようになりました。
「助けていただいてありがとうございます、クララお嬢様。あのままでは僕は殺されてしまうところでした」
クララはクスリと笑うと、人形の頬を撫でました。
「気にしなくていいのよ。あなたはもう、わたしのお人形さんなんだから。ちゃんとお姉様がくれるって言ったんですもの。わたしの始めてのお人形よ、嬉しいわ。かわいがってあげるわね」
汚れていた顔を丁寧に拭くと、クララはこの人形が、なかなかハンサムな顔立ちをしていることに気づいて、更に嬉しくなりました。
それからクララは、毎日その人形で遊びました。兵隊の帽子をかぶらせたまま、手作りの下着を目の前で脱ぎ着させ、姉達と同じように、くるみわり器で股間の袋を潰します。
人形も、既にくるみは潰れて粉々になっていたので、言われるがまま大人しく股を開いて、少女のくるみわりごっこに付き合いました。
そんなある日、思いつめたように窓の外を眺めていた人形が、突然クララに向かって言いました。
「クララお嬢様、僕を逃がしてもらえませんか?」
クララは驚いて目を丸くしました。
「僕は隣の国の王子なのです。この国との戦争に負けて、奴隷として捕まってしまいました。でも、僕の国では、今でも僕を探している者達がたくさんいるはずなのです」
人形はクララの前に跪いて頼み込んだのです。
「御礼は必ずします。どうか僕を、自分の国に帰してください」
クララは少し迷ったけれど、やがて力強く頷きました。
「いいわ、わたしがあなたを連れていってあげる」
人形の王子は、ぱっと華が咲いたように微笑んで喜びました。クララは彼の手を取ると、家の人たちに、人形を連れておさんぽに行ってくると言い置いて、外に出ました。
あまりにも自然に声をかけたので、誰もそれを疑うことはありませんでした。
「あなたのおうちはここから遠いの?」
「はい。でも奴隷仲間の噂話で、僕を探しに来た家来達が下町に潜んで隠れているということです。そこまでたどりつければ、きっと帰れます」
「わかったわ。じゃあ、道を教えてちょうだい。でも、わたしについてくるふりをしてね」
クララと人形の王子は手を繋いで街の外れまで歩いていきました。
途中で本物の兵隊さんに呼び止められたときも、クララは自分の兵隊を連れているから大丈夫と、王子を指差して堂々と乗り切りました。
「でも、君の兵隊さんは、お嬢ちゃんに危ないことをしないかい?」
「平気よ。だって、この子はもう、くるみを割られているんですもの」
本物の兵隊さんは、ほほうと王子の整った顔を眺めて笑うと、王子のズボンを脱がして中を確かめます。コリコリと袋を指で探っても、中にはなにもありません。
「ふむふむ、これなら安心だな」
でも、兵隊さんは、そのままパンツをはかせないように、とクララに言いました。
「一目見て、安心だとわかったほうがいい。お嬢ちゃんも、何度も呼び止められたら大変だろう」
「そうするわ。兵隊さん、ありがとう」
クララはにこやかに手を振って別れました。
そのまま王子の言う通りに、街中を歩くと、クララは目が回るようでした。今までそんなところにあることも気づかなかった階段や抜け道を通り、トンネルをくぐったり、扉をコツコツとリズムよく叩いて開けてもらったりしていると、まるで魔法の国に入り込んだように思えました。
やがて、小さな裏路地の先の広場に出ると、薄汚れたボロをまとった人たちが、急にクララたちを取り囲みました。
驚くクララを守るように王子が立ちはだかります。
クララは王子の裸の腰にしがみついて、お尻の後ろから様子をうかがいました。
「まさか、王子……王子殿下でいらっしゃいますか?」
ボロをまとった男の一人が、フードの下からボサボサのヒゲを覗かせて声を上げました。
「その声は大臣?」
王子が尋ねると、フードを取り払った男は、厳しそうな皺の寄った目から、ポロポロと涙を零して王子に駆け寄りました。
「おお殿下、御無事で何より……」
集まってきた男達は王子に駆け寄ると、口々に殿下と呼びかけ、号泣したのです。
ヒゲの大臣は、王子の前に跪き、その手を握りました。
「殿下さえ御無事であったなら、我らの悲願も果たされます。無き陛下の遺志を受け継ぎ、ぜひとも我等が故国の復興を……」
そこまで言ったとき、大臣は目の前にある、王子の丸出しの股間の違和感に気づきました。
まさか、と震える手で王子の股間を握っても、ぶよぶよと空の袋が触れるばかり。
大臣は絶望の色を顔に浮かべて天を仰いだのです。
「王家は滅びた!」
他の男達もガックリと項垂れました。
「しかし、僕はまだ生きている」
王子は諦めきれぬように大臣の腕を取ったけれども、大臣はそれを振り払いました。
「種無しの王子に何の価値がある! もはや陛下の血筋を遺すことは出来んのだ! 誰がそんな形ばかりの抜け殻についていくというものか!」
王子は力なく顔を落としました。
「そこまでだ!」
そのとき、クララたちのやってきた道から大きな声が聞こえ、バラバラと兵隊達が走ってきて、ボロボロの男達を取り囲みました。
「やっと見つけたぞ、反乱軍の残党共! エサを泳がせた甲斐があったわ」
そう声を上げたのは、先ほどクララを呼び止めた兵隊さんです。クララは手を振りました。兵隊さんも、にこやかに手を振り返します。
既に最後の希望も打ち砕かれていた男達は、抵抗することもなく縛り上げられました。
全員のズボンがその場で脱がされ、王子と同じように、男達のくるみは次々に押し潰されました。ぶちっと音が聞こえるたびに、低くくぐもった呻き声が響きます。ヒゲの大臣も、涙を流しながら股間を押さえて地面に転がっていました。
兵隊さんがやってきて、クララの頭を撫でました。
「お嬢ちゃん、お手柄だったね。よくやった」
クララは照れながら、はにかむように笑いました。
「お人形さんがいっぱい。きっとここが、くるみわり人形さんの国なのね」
涙を流す王子と手を繋いで、楽しそうに言うクララの言葉を聞いて、兵隊さんたちも楽しそうに笑いました。
クララは兵隊さんから、ご褒美にたくさんのお人形を貰いました。クララは喜んで自分の部屋にそれを並べました。もちろん、真ん中には王子の人形に似合わない兵隊の帽子を、王冠の代わりにかぶせておきながら。
人形の王子は、それから死ぬまで、パンツをはかされることはなかったそうです。
めでたしめでたし。
-
投稿:2013.06.30
くるみわり人形
著者 自称清純派 様 / アクセス 12324 / ♥ 5