「俺の名前は勇者アルバン! よろしくな!」
にこやかに宣言した少年を見下ろして、小汚いヒゲ面の男は面倒そうに言った。
「なあに言ってんだ、ポン太」
「ポン太じゃねえよ、アルバンつってんだろがゴラァ!」
拳をカウンターに叩きつける少年から、手元の書類に眼を戻し、男は一つため息をついてそれを指先でピンと弾き返す。
「登録用紙だってタダじゃねえんだ。ラクガキすんなよ」
名前:アルバン、職業:勇者、特技:万能と書かれた紙が、ヒラヒラと宙を舞うのを見て少年は慌ててそれを掴む。
「なにすんだよっ!」
「おっちゃんもな、ヒマそうに見えるかも知らんが、これでも仕事してんだ。遊ぶならよそでやってくれ」
シッシッと手を振られた少年は悔しそうに顔を赤らめ、地団太を踏む。
「なんだよっ! 何が悪いってんだよ! 冒険者ギルドの登録は偽名でもOKなんだろ!」
「ポンちゃん、やめようよう…」
血気盛んな少年の隣から、気弱な声で友人と思しきもう一人の少年が袖を引いた。子供にしては大柄な体躯であるが、周囲からの生暖かい視線がいたたまれないのか、首を縮めてなるべく小さくなろうとしている。
「アルバンだっつってんだろ! 何度も言わせんな! 俺はアルバン、お前はシルバー。勇者パーティ『炎の牙』のメンバーだ!」
眉根を下げて情けない顔をする少年を見かねて、窓口の男が言った。
「おい、ポン太。ダチを困らせてんなよ。お前、紙代もコッパーに出してもらったんだろうに。1¥(いやん)稼ぐのがどれだけ大変か、そのトシになって知らんわけでもあるめえし」
「俺はちゃんと書いたじゃねえか! いちゃもんつけてんのはそっちだろ! 登録しないなら金返せ! 俺の2¥返せ!」
「だからお前の金じゃねえだろうが…」
男はふかーくため息をつき、カウンターの上で手を組んで、語りの体勢に入った。
「いいか、ポン太。ここには、困っている人が集まってくる。命に関わる依頼も少なくねえ。子供の遊びに付き合ってるヒマはねえんだ。みんな真剣なんだよ」
「俺だって真剣だっ!」
「だったら、大嘘ぶっこいてんじゃねえ。お前の名前はポン太。職業はド素人。特技は早食いだ。樵の親父の仕事の手伝いすっぽかして、ダチの金使って勇者ごっこやっちまおうなんてどうしようもないふてえ野郎だ。お前が依頼を失敗して、ここに仕事を頼みに来た人に迷惑かけたら、それは全部お前の名前に返ってくる。良いことも悪いことも全部名前に乗るんだ。薬草を間違えて取ってくるアルバン、約束の時間に遅れてくるアルバン、金払った護衛の依頼人が気にいらねえからって殴りかかるアルバン、そんな悪評立てた後で、やーめたっつって名前変えてドロンされちゃたまんねえのさ。俺はそんな奴に仕事を頼もうなんざ思わねえし、人様に頼まれた仕事をそいつに斡旋しようとも思わねえ。有名人の名前を騙るバカなガキは星の数ほどいる。どの偽アルバンが、庭のリンゴを盗んだかなんて言われてもわかりゃしねえ。本当の名前じゃなくてもいいが、どこの誰だか特定できないんじゃ意味がねえんだよ。ポン助でもポン蔵でもポン衛門でもいいが、パン配達の途中で、品物ちょろまかして食ったと苦情が来たときに、誰の頭を殴りゃいいのか、わかる名前にするんだ」
「ちぇー」
「勇者やら、万能やらも受け付けんぞ。それはお前が何の仕事をするか、何の仕事に向いてるかアピールする欄だ。そのままじゃさっぱりわからんからな。便利屋の雑用係にするぞ」
「コッパー、お前もだ。偽名のシルバーはいいとして、職業:せんし、特技:料理ってこりゃなんだ。ゴブリンの丸焼きでも作るつもりか。喧嘩もろくにできずにビイビイ泣かされてばかりのクセに、よく戦士になろうなんて思ったな」
「ポンちゃんが、ボクは身体おっきいから前衛で盾になれって」
それを聞いた男は二人の頭をゴチゴチと殴った。
「イテッ」
「いいか、これは遊びじゃねえ。本気で命の危険がある仕事も、ギルドに登録したらまわされちまうんだ。俺はお前らの事も、お前らの親父の事もお袋さんの事も良く知ってるから、今ここでこうやって止めてやれるが、一度登録しちまったら、一度もお前らに会ったことのねえ奴が、お前らの自己申告を信じて、お前らを化けモンの前に送り込むことだってあるんだよ。子供だから手加減してもらえると思うな。そういう余裕のない奴が、ここへ仕事を頼みに来るんだ」
「わかったよ、書きなおしゃいいんだろ!」
「本当なら、2¥追加で新しい紙を買わせるところだが、心優しい俺のありがたいお情けで、二重線訂正でいいことにしてやろう。自分に何が出来るのか、じっくり考えてでなおし…」
「これでどうだ!」
「お前、俺の話本当に聞いてたのかよ」
男は舌打ちしながら書き直された書類に目を走らせた。名前:ポンアルバン、職業:斧使い、特技:スタミナ。
「このなま…」
「名前は譲れねえ!」
男は気の毒なものを見る目で少年を眺めると、差し出されたもう一枚の紙に視線を移した。名前:コッパー、職業:商人見習い、特技:料理と算盤。
「お前はシルバーじゃなくていいのか」
問われた少年は困ったように言った。
「呼ばれても、誰の事だか忘れちゃうから、返事できないよ」
「ま、自分に出来ること、出来ないことわきまえてんのは長所だな」
男はため息をつきながら首を振った。
「いいか二人とも。ここから先は俺たち大人の目は届かねえんだ。お前達が自分で自分の手綱を握るしかねえんだよ。バカ丸出しで魔物に特攻して殺されるのも、強引なダチに引っ張られて巻き込まれるのも、お前らが自分でなんとかふせがにゃならんのだ」
「例え15の子供でも、自分に何が出来るかわかってて、どんなつまらない仕事でも頼んだからにはキッチリやりとげてくれるってんなら、冒険者ギルドは歓迎だ。だが、知人の息子が遊び感覚でモンスターに食われにいく手伝いなんて俺にさせてくれるな。俺はお前らの親父に、お前らが死んだことを伝えに行って、どうして止めてくれなかったと泣かれるのはごめんだよ」
「余計なお世話だ! 子ども扱いすんな! 自分のケツぐらい自分でふけるっつってんだろ!」
男は少年の顎を掴んで目を覗き込んだ。
「…俺はお前のその言葉を信じるぞ。俺にお前を大人扱いしたことを後悔させるな」
「…お、おう。まかせとけ…」
「じゃ、待っとけ。今カードを作ってやる」
窓口の男は、奥の棚から金版を組んで活字を作り、火魔法で熱して木の板に焼き付ける。少年達は魅了されたようにそれを見ていた。
「ホレ、無くすなよ。革紐かなんかで首に吊るしとけ」
斧使いポンアルバンは、ひったくるようにその板を奪い取った。
「よっしゃー! これで魔法屋にいけるぞ! モタモタすんなコッパー!」
「おい待ておまえらちょ…」
「ポンちゃん待ってぇぇぇ!」
ドタドタと駆けていった小柄な少年を追って、テコテコと大柄な体躯に似合わない軽い足音をたてながらコッパーが扉の外へ出ていく。
窓口の男は眉をしかめながらそれを見送り、やりとりを聞いていた他の冒険者が肩をすくめて笑った。
「あれは死ぬな」
−
「と、いうわけで、俺達の初仕事はここの『スライム退治』だ」
仁王立ちで洞窟を見下ろすポン太の後ろで、コッパーは首を捻った。
「え、でも、ここのスライムって魔物のランクは『C』だよ。ボク達まだ最低ランクの『F』だから、申請しても依頼の受付はしてくれないよ」
「バカだなあ。受付なんか通さなくても、すでに依頼を完了したことを証明できた場合は、金はもらえるし、ランクも上がるだろうがよ。勝手に倒しちまえばいいのさ」
「でも、受付してもらえないってことは、相手が強いからでしょ?」
「心配無用! 俺にはオヤジの形見のこの斧と、勇者の魔法がある!」
「…ポンちゃんのパパ、まだ死んでないし、仕事道具勝手に持ち出されてきっと怒ってるよ」
「黙れコッパー! いくぞ!」
ポン太は斧を構えて洞窟に飛び込んだ。コッパーも、実家の商品棚から持ち出した(代金は小遣いの中から払った)『導きの杖』を握りしめて、おそるおそる後に続く。ちなみに、この杖は、道に迷った時に52%の確率で正しい道筋を示してくれる便利な代物である。
五、六歩ほど歩いたところで暗闇の石に足元を救われて転倒し、鼻血の出る顔にコッパーから回復魔法をかけてもらった後、斧を松明に持ち替えて、ポン太は奥へ進んだ。
しばらく進んで広めの空間に出たあたりで、二人は、ぼんやりと発光するスライムの姿を見つけた。
「見つけたぜ! 魔王の手先ども! 勇者ポンアルバンが成敗してくれるわ!」
松明をコッパーに持たせて、再び斧に持ち替える。
「くらえ! 秘剣! 一刀両断唐竹割りスラッシュ!」
勢いよく振りおろした刃が、スライムの胴体を縦に裂いた。ブシュ、と粘着質な音をたてて、青緑色の粘液が飛び散る。ポン太はニヤリと笑った。
「フッ、またつまらん物を切ってしまった」
切り裂いたポーズで呟いた後、斧を肩に担ぎあげたポン太は、ドサリと音をたてて地面に落ちた斧の刃を、怪訝そうに見下ろした。柄はしっかり握ったままだ。斧の刃だけが洞窟の湿った土に刺さっている。
自分の掴んでいる柄の先を眺めると、こびり付いたスライムの体液が、ジュウジュウと音をたてて木の棒を腐食させているところが目に入った。
「ウワワワッ!」
慌てて放り投げた木片を、半分に裂かれて分裂したスライムが、目にもとまらぬ動きで意外に素早く受け止める。ジュルリ、と飲み込まれた斧の柄は、水に溶ける塩のように消えてなくなった。
「ポ、ポンちゃん…」
「う、うるせえな! 情けねえ声出してんじゃねえよ! これでも食らえ! 『オメガサンダー』!」
掛け声と共にポン太の右手から放たれた青白い稲妻が、意志を持った龍のようにスライムを捕らえ、閃光と共に一瞬にして焼き払った。これこそが、かつて勇者アルバンの得意とした雷系呪文の最高峰である『アークサンダー』の劣化版である初級呪文の『サンダー』に、勝手にオメガをくっつけたポンアルバンの最強の魔法である。その威力は、まったくの魔法の素人であっても目の前の敵を消し墨に変えてしまうほど強大で、一発放てば大抵の人間は魔力をほぼ使い切ってしまうほどであり、まさしく必殺の切り札といえるだろう。
ちなみに、ただの樵の息子であるポン太は、特に魔力量の才能が他人より抜きんでているということもなく、自分に習得できるぎりぎりの範囲でもっとも威力の高い魔法を選んだだけであるが、もしかすると、武器を失って魔力を使い切ったこの行動が、この後の彼の運命において大いなる影響を及ぼす結果になるかもしれない。しかし、それをこの時点で結論づけるのは早計というものだろう。なぜなら彼は一人ではなく、幼き頃から心を通じ合わせた仲間がいるからだ。
「うわあああん! ポンちゃん助けてええええ!」
振り返ったポン太の視界に映ったものは、天井から降ってきた粘液にからめとられたコッパーの姿だった。松明の炎が飲み込まれ、洞窟の中の光源は、薄気味悪い蛍光色に輝くスライムのみになる。
「『ヒール』! 『ヒール』! 『ヒール』!」
ダメージを負う前から回復呪文を連発する親友を落ち着かせる為に、ポン太は叫ぶ。
「バカ! お前無駄遣いすんな! もっと別の魔法使え!」
コッパーは泣きながら親友の求めに応じる。
「『クイックモーション』! 『ディフェンスアップ』! 『レジストアップ』! 『ファイアコート』! 『アイスコート』! 『サンダーコート』! 『アンチポイズン』! 『アンチパラライズ』! 『オートマッピング』! 『ナイトビジョン』! 『エネミーサーチ』! 『フードリザベイション』! ええと、『ディフェンスアップ』! 『ディフェンスアップ』! 『ディフェンスアップ』!」
非常に燃費が良く様々な場面で役に立つ使い勝手の良い魔法のラインナップに、ポン太はうなった。
「攻撃しろ攻撃!」
「だって! だってえええ!」
魔法を唱える度に七色に輝くコッパーを、丸ごと包み込んだスライムは、あっというまに装備を全て溶かしてしまった。ぼんやりと燐光を放つ粘液の中で、全裸に剥かれた少年の白い肌が照らし出される。
その気になれば、少年自身をも一気に消化してしまえるはずのスライムが、なぜ服だけを溶かして、残しているのか、スライムがいったい何を考えているのかを理解することは難しいが、もしかすると、一見関係ないある例え話をもとに予想することは出来るかもしれない。そう、ときに人間の中には、チョコレートコーティングされたアーモンドの、チョコ部分を舐めた後、中のアーモンドだけをいつまでもしゃぶっているタイプの者がいるのだ。とはいえ、その行為にどんな理由と意味があるのか、私たちに知る術は無い。
「ひいいいい!」
親友の悲鳴を聞いて、ポン太は決断した。
「うわあああ!」
脱兎のごとく洞窟の入り口を目指し、親友を見捨てて逃げ出した彼の判断は、薄情ではあるが、この日の彼の行動の中では、もっとも賢明なものであったと言えるだろう。だからといって、それが彼の安全を保障するわけではない。
物陰に潜んでいたもう一匹のスライムが、反射的に食腕を伸ばして、逃げるポン太の尻をつかんだ。勢い良くつかまれたズボンが下着ごと足首までずりさげられ、足をからませた少年は転倒する。スライムは、フルチンの勇者をズルズルと引きずり戻して、自分の中に取り込んだ。ポン太の服もまたチョコレートのように拭い去られる。
「ひいいいい!」
ポン太もまた、親友と同じ情けない悲鳴をあげて、なぜ彼がそんな声を上げていたのかを理解した。少年の縮みあがったペニスの先端から、スライムが中にどんどん入ってきているのである。それにどういう意味があったとしても、アーモンドの味の濃い部分をチュウチュウと吸い上げるのと大差ない予想しか我々人間にはできず、それが、今、前の穴をレイプされている二人の童貞少年を、助ける役に立つわけでもない。
ぼんやりと光る粘液の中で、蠢く二人の少年の裸体は、一種芸術的でもあった。
コッパーは裕福な商人の息子らしく、不自由なく食事をして育った大柄な体躯を、きめ細やかで滑らかな白い肌で包んでいる。ほどよくふっくらと丸みを帯びた下腹部を、なんとかスライムの魔の手から守ろうと両手で押さえつけて、股を必死で閉じ合わせ、顔だけでなく胸から上の肌を真っ赤に染めて悶える様は、人の嗜虐心をそそるものがある。
かたや、樵の息子のポン太は、小柄ながらも日々の労働で引き締まった健康的な肉体を、やんちゃな子供らしく細かい傷だらけのよく日に焼けた肌に包んで、スライムの横暴な仕打ちに対して、何とか一矢報いようと、じたばたと暴れている。悔し涙を目に浮かべながらも、歯を食いしばって抵抗する姿を見ると、これもまた別種の支配欲を呼び起こす。
しかし、人間の脳とはまったく異なる機構で活動するスライムの核にとって、二人の少年の姿そのものは、おそらく何の意味も持たないだろう。少なくとも、このアメーバ状の物体は、ただ本能に従って、餌を弄んでいるだけとしか考えられなかった。
「あぅ…」
コッパーの口から、切ない喘ぎ声が漏れた。彼の大柄な体躯に見合った年の割に立派なペニスは、今や両手でも隠せないほどに、大きく張りつめていた。尿道への無理な侵入で、包皮がまくれあがって、淡いピンク色の亀頭がのぞいている。鈴口に注目すれば、そこが二つに裂けそうなほどに押し広げられて、人差し指が軽々と差し込めそうなほどになっているのがわかるだろう。少年は必死に隠そうとしていたが、それでも隣のポン太は、コッパーの『チンコの内側』が見えることに恐怖を覚えて、更にもがいた。
それでも、尿道と膀胱の中で暴れまわるスライムの感覚は、萎えていたポン太のペニスを、限界まで勃起させるのに充分な刺激だった。
「アッ、アーッ!」
ポン太の腰がガクガクと痙攣して、少年の陰茎から白い煙が吹き上がる。それは海底の貝が水中に砂を吐きだす様子に似ていた。違いがあるとすれば、その若いエキスの味に狂乱したスライムが、少年達の精液を絞り出す作業に夢中になり、彼ら二人が泡を吹くまで、少年達の尿道を擦り始めたことだろう。最初は間欠泉程度の間隔だった彼らの射精は、やがて常にもやもやとした体液を垂れ流す状態になり、そのうち彼らの股間周辺は、霧がかかったように白く濁って、彼らのペニスは外から見えなくなった。
それでも、かろうじてスライムの外に出ている二人の顔つきを見れば、彼らの中身をまさぐる粘液の手は、休みなく動き続けているのが明らかであった。二人の少年は、男に媚びる娼婦にも勝る嬌声を上げて、無垢な純情を掻き出され続けるのであった。
やがて、味が薄くなってきたと感じたスライムは、少年達の肛門の中をも犯し始めた。直腸内の風味はお気に召さなかったようだが、ある部位を強く突くと、前の方の味が少し濃くなることに気づいた途端、どんな冷酷で自分勝手な強姦魔ですら、二人に哀れを感じるような強引な突き上げが始まった。
「…パパ…ママ…」
息も絶え絶えにすすり泣きながら呟くコッパーの枯れた声を聞いて、強がっていたポン太からも、両親に助けを求める声が溢れ出た。
「うえええん、父ちゃん、母ちゃーん!」
二人はもはや射精も出来ないのに、ひたすら絶頂に突き上げられながら、延々と犯され続けた。そのうち少年達は、自分達のペニスに、なにも感じなくなった。前の穴に大人の腕を突き入れられて擦られるようだった強い刺激が、もうわからない。白く濁ったスライムの中で自分達の股間がどうなっているのかは見えなかったが、ポン太は自分がもう溶けてしまったのだと悟った。
ポン太は父親が激怒している様子を想像しようとしたが、代わりに脳裏に浮かぶのは、ギルドで言われたように、泣くコッパーの両親の前で地に頭を擦りつける父親の姿だった。ポン太はギュッと目をつむり、霞む意識の中で何度も何度も謝った。
ごめんなさい、ごめんなさい。神様、コッパーだけでも助けてやってください。あいつはなんにも悪いことはしてないんです。全部俺が悪いんです。
「ポン太!」
少年の耳に、彼を呼ぶ父親の声が聞こえた。ああ、これで最期かと、薄眼を開いた少年の網膜を閃光が焼いた。
「『アークサンダー』!」
いままで泥沼を漂うように浮いていた少年達の身体が、急に沈んだ。顔まで粘液の中に埋まって、弱々しくもがくポン太の腕を、がっしりとした人間の手が掴んで引き上げる。ポン太は、ゲホゲホとむせながら、痛む目をこらして、自分を救いあげた人間の顔を信じられない思いで見つめた。
「…勇者…アルバン…」
「大丈夫か? まだ意識はあるようだな」
左右の腕で少年二人を引っ張りあげた村一番の有名人は、せき込む二人を乾いた地面に下ろした。
「ポン太!」「コッパー!」
青年の後ろから二人の父親たちが腕を伸ばし、それぞれの息子達を抱き寄せる。
「こんなところで何やってんだ、このバカ野郎!」
「ごめん、父ちゃん」
「説教は後です、先にここを出ましょう。他にもういないとは限りません」
勇者は、父親たちを急きたてて、洞窟の入口まで殿を務めた。父親の肩に、俵のように担ぎあげられながら、ポン太はあこがれの勇者のその姿を眺めていた。
−
洞窟の外では、コッパーの母親と村の教会の神父が待ち構えていた。すぐに二人に治療の呪文がかけられる。しかし、少年達の股間を見て、神父は顔をしかめた。
「これはひどい」
少年達が下に目をやると、そこには、ビロビロに引き延ばされて裏返った『ペニスの皮』だけがあった。
「戻らねえんですかい?」
ポン太の父が聞く。
「どこまで溶かされているかにもよりますが、これは…」
神父はコッパーの包皮をつまみ上げ、中をのぞいてみた。そこに亀頭は、ない。ポン太の父親が、同じように息子の包皮を広げてのぞき込んだ後、ズブリと指を突っ込んで、中を探った。決して細いとはいえない樵の指が、突き入れた本人が驚くほど軽々と中に入り込む。指先は玉袋の中まで届き、彼は祈るような気持ちで中を掻きまわしたが、睾丸に触れることはなかった。
「カラッポだ」
樵は首を振った。それを聞いたコッパーの父親も、自分の息子の息子に指を入れて見ようとしたが、直前で指を震わせてためらっている。度胸のない夫を見かねた母親が、腹をくくってコッパーの睾丸の有無を確かめ、やはり残念そうに首を振った。
「どういうこと? オレ、死んじゃうの?」
うるうると、目に涙をにじませたポン太に、父親は何というべきか困った顔を見せた。
「死にはせんだろうが…」
口ごもる親たちの代わりに、神父が告げた。変な想像で子供を怯えさせるよりは、真実を教えておくべきだと思ったからだ。
「君たちは、自分の子供を作ることが出来ません」
15の少年達にとって、自分自身の子供という存在は、まだ現実感のないものであったから、彼らの理解は抽象的な面からのものだった。
「父ちゃんみたいにはなれないってこと?」
あまり頭の良いとはいえない子供の、拙い表現ではあったが、それが真実を射抜いた言葉であったので、大人たちは頷いた。
ポン太は、自分の子供が出来ない、という事柄には実感が及ばないものの、自分にもいつか訪れるはずであった、父のような人生が、失われたのだということをじわじわとかみしめ、目に涙を浮かばせた。
その時、脇に控えていた勇者が、声をかけた。
「一つだけ、何とかする方法があるかもしれません」
一番に反応したのはコッパーの父親だった。
「それはいったい?」
「皆さんに受け入れられるかは分かりませんが…」
青年はポーチの中から、白く輝く二つの玉を掌の上に転がした。
「これは、彼らを捕まえていたスライムの、核です」
コッパーの母が悲鳴を上げた。
「早く破壊してください!」
勇者は、手で制して皆を落ち着かせた。
「今のところ核だけですので、再生するにはまだ時間がかかります。こいつらもかなり弱っていますから。今なら、たとえ素人であっても、方法を間違えなければ『テイミング』できるでしょう」
「息子の金玉の仇を飼って、どうしろってんですかい」
アルバンは、玉の一つを持ち上げて、その白く濁った色をよく見せつけた。
「かなり特殊な色に変わっているところをみると、このスライムたちは、やんちゃ坊主たちからかなりの量の精液を、吸収したようです。もしうまく調教できれば、彼らの望む状況下で、飲み込んだ子種を吐き出させることができるかもしれません」
ポン太の父が、吐き出した痰を再び飲み込めと言われたような顔で、確認した。
「そりゃつまり、マンコの中にスライムをねじ込むということで? 失礼」
彼は、コッパーの母と神父の二人に言葉を謝罪したが、二人ともその質問自体の正当性は認めたので、咎めることはなかった。
「そんな男に嫁に来ようという女は、さすがにいないんじゃないかね…」
コッパーの父が自分の妻の顔色をうかがいながら発言する。彼女は、自分がそれをされるのかのようにぶるぶると首を振った。
「通常のセックスのように見せかければ、誤魔化すことは出来ると思いますよ。二人とも皮は残っているみたいなので…」
二人の父親たち、そして神父も、ぎゅっと目をつむって、それを想像し、背筋を震わせた。
「つまり…」
「カラッポになった玉袋の中でスライムを飼って…」
「セックスの時に、勃起に見せかけて触手を伸ばさせ…」
「射精の代わりに子種を仕込ませる…」
いろいろな意味で真の勇者である男は頷いた。
「そんな感じです」
「そんな無茶苦茶な」
「一応、私の知っている良い『ビーストテイマー』を紹介しますよ。私が口添えすれば、彼らが弟子入りするのも断りはしないでしょう。そこから先、細かな調教が出来るかどうかは本人達の努力と才能次第ですが」
大人たちはむっつりと黙り込み、子供たちは困惑して戸惑っていた。
「ただ、一つ問題が」
勇者の言葉に全員が身を震わせた。
「なんです?」
「非常に申し訳ないのですが、こういう状況になっていると地下ではわからなかったので、核を二つとも適当にポーチに投げ込んで戻ってきたんですよ。なので、どっちがどっちの精液を吸ったスライムなのか、わからなくなってしまっているんです」
「つまり…」
「うまく女を孕ませたとしても…」
「どちらの子供が産まれるのかわからない…」
「そんな感じです」
「そう軽く言われますが…」
「しかし、彼らが自分の子孫を持つ方法は他にないと思います。『テイミング』の契約をするなら今しかありません。この核がこのまま活動を再開すれば、吸収された精液は完全に消化されてしまうでしょう」
ぐ、と親達は息を飲んだ。
「どうしても正しい父親の組み合わせを知りたいというのであれば、ある程度調教してからゴブリンでも捕まえて妊娠させて、産まれた子供がどちらに似ているかを確かめるという方法も…まあ、ものの例えですので、もっと良いやり方を思いつくかもしれません」
神父がものすごい顔をしているのを見て、勇者も流石に言葉を濁した。
「わかりました。問題が起こった場合は、やめればいいんですよね」
商人であるコッパーの父が、一番に決断を下した。
「そうですね。モンスター契約の破棄はいつでもできます」
それを聞いて、彼の妻も、ポン太の父も、そして神父も、しぶしぶながら頷いた。当人である子供たちは、まったく口を挟めなかったが、この時点では大人たちの意見に従っておくのが無難だと、なんとなく察していた。
−
改めて手当てを受けた二人は、魔力の回復を待って、『テイミング』の儀式を行った。
本物のアルバンの監修の下であったので、飲み込みの悪いポン太でも契約は無事に成功し、二匹のスライムは、無事に二人の少年の新しい睾丸になったのである。皮だけになったペニスの先から中に転がされたスライムの核は、ひんやりとした違和感を与えながらも、少年達の陰嚢の中に収まった。
将来的に交換する可能性もあるので、二人は二匹のスライムと二重に契約を重ね、時々飼い主に慣らす為に、玉を交換する約束をした。いつまでも親友で居続けることに異論はなかったものの、定期的に自分の睾丸をほじりだして、交換するという考えが、二人を辟易させたのは言うまでもない。
名前:ポン太 職業:ビーストテイマー 特技:スライムソード
名前:コッパー 職業:ビーストテイマー 特技:スライムシールド
光り輝く変幻自在のチンコを振り回して戦う、新しい二人の勇者の物語が始まるかどうかは、まだ、誰も知らない。
-
投稿:2013.09.30
ポンコツ勇者VSスライム
著者 自称清純派 様 / アクセス 11326 / ♥ 2