「え?」
「無くすんじゃない、残すんだよ。」
覚悟を決めた後だった。玉と棒が無くなる。それでいいと結論を出したんだ。
「違う。残す。」
納得いくまで聞けというから、腹は座っていたが聞くだけ聞き込んだ。成り行きで3時間。なにやってんだろう自分・・・
「あのな、袋があるよな。そこに何か入っている。それが子種の元で、人間みんなそれで代々やってきた。」
「当たり前ですよね。」
「でもな、袋に何も入っていないからといって、袋は残しておいていいんだよ。」
いい加減疲れてきた。
「何か入っている。それを無くすことを求められ、お前は応じている。」
はいはい、そういう状況ですね。
「だからひと思いにスッパリ消してしまえ!というふうに勝手に決めつけてはしないか?そんなものはそちらのヤケクソ根性でしかない。」
「消したいとは思ってないけど、消えることには合意してます。なぜこれで話がまとまらならない感じになっているのかわかりません。」
嘲笑・・・とは明らかに違う。簡単な物事をどういうわけかどうしてもわかってくれない子供に言い含めるように続ける。
「玉はいらない。袋は要る。袋にこそ価値がある。」
「え?」
「うるさい。無駄口叩かなくてもいいから構造を考えろ。」
玉がある。袋がある。棒がある。かたや、玉がない、袋がない。棒がない。そうか?
違う。玉がない。袋がある。棒がある。
「やっとわかってくれたか。意思を問うてるんだ。そろそろ食事して、風呂に入って、着替えて寝ろよ。服はたくさん揃えてある。明日決めてくれ。」
硬い床を細い靴底がリズミカルに打ち付ける。カウントダウンに聞こえ、慌てて返事した。
「後悔してないんですか?」
よく通る声が響き渡った。
「全然。これが日常。普通。当たり前。」
約束があるからと時は雪崩のように進んだ。何着て寝ようか。
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投稿:2014.04.16
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