狂っている国の安全な場所を滑るように駆け抜けてく男は、冴えないが善良な男だった。
男は、狂っているこの国で会社員をやっていた。
代表は、ソビエトの元盟主たるロシア人、経理兼副代表は元東ドイツ人、その下で働く社員は過去ソビエトから脱出してきたスラヴ人。
表向きは普通の会社であり、強いて他の会社と違う所は皆軍で中東等を体験しているところだ。
この国は、最初からは狂っていない。
ソビエトの威信が崩れ、政府が東欧革命を見ていて国の内部にいた民族主義者を弾圧出来ずに狂っていったのだ。
男は、善良だったが、民族主義者の弾圧を見ても心を今の今まで動かされなかった。
しかし、男は一昨日、会社の商品を見てしまった。
無論、男が普段扱っていた“表”の商品では無い。
その商品は、ビデオだった。ご丁寧に東側の映画やらアニメやらのパッケージをしている。
その商品の行き先は、イタリアだった。フランスとイタリアは、西側では大きな共産党があり東側の御用達だったから、男は、不思議に思わなかったのだ。
商品の中か昔見た懐かしい題名があり、ついつい見てしまったのだ……それが、後戻り出来ないと知らずに。
最初は美女とソビエト軍人がナチスと戦うありふれたソビエト映画だったのだが、途中で映像が切れてしまった。
再び映像が入ったかと思うとアメリカの男の軍人二人が椅子に縛り付けられて軍服を来た男と裸で泣きわめく女と薄暗い部屋にいた。
男は、さては西側の好き者に高く売り捌く非合法ビデオと思った。
男には、特殊な性癖は無い。このビデオを消そうと思った矢先に。
『アァァァァァァァァァァ!!』
男声甲高いが部屋に流れた。
何事かと男は、慌ててテレビを見た。
そこには……
『今より簡易裁判を始める。裁判長は私、セルゲイ・ヤーコフ。この女性に乱暴したのは君たちだろ。』
軍服を着た男ヤーコフは、本物の乗馬用の鞭でアメリカ人二人の股間を振り抜いた。
『アァァァァァァァァァァ!!』
また二人から先程と同じ声がした。
『しゃべる気は無いのかね?ならば、我が祖国に帝政ロシアから続く拷問を味あわせてあげようかな。』
ヤーコフは、ひどく興奮した声で後ろの女性が悲鳴をあげているにも関わらずに話を続ける。
『安心しろ。強心剤等はある。これでも、モスクワでは救いの男で通っているからな。』
それからも拷問は続き、見ていた男は吐き気を覚え、実際吐いた。
『もう、こんなに成ってしまって可哀想に……私は優しく信心深いから改宗したら解放してあげよう。改宗するかね?』
ヤーコフの目は、優しかった。
『Yes!yes!yes!』
アメリカ人二人は狂ったように頷いた。
『じゃあ……その為に…去勢しようか!!』
ヤーコフの先程の優しい目線は何処へやら歓喜に目を動かしながら表情なしに言った。
『何だと!聞いて無いぞ!!』
アメリカ人の年長の様なのが騒いだ。
『去勢教と言うのは聞いたことないかね?同意したんだから諦めろ。』
ヤーコフは、手にメスを持つと二人のズボンを脱がした。
『止めろ!!止めろ!!止めろ!!』
二人で騒ぐが悲しきかな、ヤーコフのまるで一流のダンサーの如く見事なメス捌きの前に、二人の“ご自慢のモノ”は綺麗に、切り裂さかれ、余りの痛みと精神的衝撃に失神した二人をよそに、顔を興奮に赤く染めロシア国歌を大声で歌いながら肉をこねくり回して女性器を作っていた。
袋を被せられた女性の様な二人が激しく、ヤーコフの後ろにいた女に責められながら罵倒されていた。
『元男なのに抵抗は無いのか!』
女は、二人の乳首に着いたピアスを引っ張っていった所でやっとビデオを止めれた。
男は、更に吐いた。が、彼の中に義務感が生まれた。他のビデオも確認しなければと。
次のビデオは、姉弟の性器を交換すると言うものだった。これも、ヤーコフが出ていた。
また次のビデオは、輪姦され続けた幼い女の子がヤーコフに諭され一族の男達を去勢させられ最後にヤーコフが笑いながら、その女の子を褒めて娘にすると言う内容だった。
またまた、次のビデオもヤーコフが登場し男が犬に責められ続けて最後にヤーコフが犬を殺し、男からぺニスを切り落とし、男のぺニスと犬の尻尾で、作ったモノで男に自慰させているものだった。
こんなものを見たからには、善良な男は動かない訳にはいかなかった。
男は、その日の夜から人がいない場所を伝いイギリスに告発しに行こうとした。
次の日から同僚に、男は、追われた。
「ビデオに出て貰う。逃げるな!!」
口々にそんな事を言って追ってこられた。
そして、今に至る。
「はぁはぁ。冗談じゃない。」
男は、転けそうになりながら町を走る走る走る。
だが、逃げ切れず路地に追い込まれた。
「ビデオに出てもらわないと困るんだ!!」
同僚のイワンが言った。
「ふざけるな!」
男は、何か無いかとコートを探り見覚えのある“刃物”を出した。
「ここで撮影させるつもりか?機材も無いぞ。」
イワンが苦笑しながら言った。
「どういうことだ!!」
これはと男が続けて言う前に女の子の声が聞こえた。
「お父さん。」
見覚えのある女の子だった。男は、手に持った刃物をもう一度見た。
「イワン、患者は何処だ?」
男、ヤーコフは、いつもの張り付けた冷酷な笑みを浮かべた。
ヤーコフは会社に帰りがけにマンホールに住む男の子を捕まえて、あっという間に玉を抜きあのビデオに出ていたピアスを乳首に着けさせて、ピアスの装飾に抜いた玉を付けて、女性ホルモンを打ち、もはや男ではない男の子に呟いた。
「……やはり、忘れて思い出した後の作品は素晴らしい……お前は19000ドルで売れそうだ」と……。
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投稿:2014.07.22更新:2014.07.22
革命とその後
著者 東側 様 / アクセス 7951 / ♥ 0