※ 途中まで弟視点、後半は姉視点です。
「よくきたな、悠希《ゆうき》」
おじいちゃんはそう言いました。おじいちゃんが言っているように、僕は悠希といいます。小学六年生で、来年は中学生です。
そして今日は八月の二日です。東京から高速道路を使って、ここ、長野までやって来ました。長野と言っても、市街地の方ではなく、山のほうです。
おじいちゃんの暮らしている山間部は、雨などが振ると土砂災害が警戒されたりするものの、基本的には空気が住んでいて、自然に富んでいて、凄くいい場所だと僕は思います。
それに、東京とは違った良さが此処には有ります。それは——。
「お久しぶりだね、ゆうくん」
僕の従姉《いとこ》に当たる、望海《のぞみ》さんの存在です。望海さんは、僕より七つ年上で、現在は長野市内の大学に通っています。でも、今の時期には里帰りということで戻ってきます。つまり、望海さんは寮生活をしているんです。
「あれ? おばあちゃんは?」
「おばあちゃんは病院だよ。事故に遭っちゃったみたいなんだ」
「そうなんだ」
「でも、お医者さんは命に別条はないって言ってたからね。ゆうくんは安心してね?」
「はーい」
僕はそう言って答えを返しました。でも、お父さんやお母さんが荷物を持っていたのを見たからか、おじいちゃんはそれを庇うようにして言いました。
「疲れただろうから、今に荷物置いたらスイカ食べなさい」
「えー」
僕はスイカは嫌いじゃないんです。でも、やっぱりメロンとスイカだとスイカはイマイチ好きではないんです。……やっぱり一番は梨だと僕は思います。あの甘さと白さがいいんです。
「お姉ちゃんは食べないの?」
「わ、私に振っちゃうのっ? まあ、スイカは嫌いじゃないけどなぁ……」
「じゃあ、お姉ちゃんが食べ——」
「そうだっ!」
「な、なにっ?」
僕は望海さんのことを『お姉ちゃん』と呼んでいます。一応、望海さんとは血が繋がっていないので厳密には正しくないのですが、望海さんは『お姉ちゃん』と言われることを嫌っているわけじゃないみたいです。むしろ、小さい時からそう呼んでいるので、他の呼び方が見当たらなかったりします。
「ゆうくんが一緒に食べてくれるって言ったら、お姉ちゃんも一緒に食べるよ」
「えー……」
僕がお姉ちゃんと会えるのは、年に今の時期を含めて二回か三回だけです。それに、去年のお姉ちゃんは大学に馴染むことや勉強が優先だったから、僕はお姉ちゃんに夏休み中、会えなかったのです。
だけど、今年はちょっと余裕ができたみたいなので、戻ってきた後も余裕みたいです。
「じゃあ食べる……」
「おお、ゆうくん空気読んでくれてありがとうね。お姉ちゃんの中の『ゆうくんゲージ』のレベルは5くらい上昇したよ」
「そ、そうなの……?」
昔はあまりお姉ちゃんのことで意識することはなかったんですが、今は凄いいい匂いがしたりして、正直心臓がバクバクしてます。僕もお姉ちゃんも一人っ子なので、こうやって会うと姉弟っぽく見られるみたいなんですが、そういう関係では有り得ない感情だと思うんです。
それに、僕が小さい頃はお姉ちゃんも小さかったのですが、今では凄くでかくなっていて、頬の左右から当たる柔らかくて温かなものが、更に心のバクバクを強くします。
「いやぁ、今年はスイカが豊作だったから、余ってたんだよ」
「ホント、帰ってきて早々スイカ渡すなんて、通常年なら有り得ない話だもんね、おじいちゃん」
「そうそう」
ハハハ、とお姉ちゃんとおじいちゃんは笑いました。でも、僕は便乗して笑うことは出来ませんでした。小学生の僕には、何処が面白いのかわかりませんでした。
「それじゃ、荷物置かせてもらいますね」
「ああ、自由に置いてくれ」
「それと、何処に寝ればいいですかね?」
「あー。取り敢えず、悠希は望海が寝てる部屋で寝ればいいとして、私の寝室を使うもあれだろうから、お前さんたちは居間か和室で寝なさい」
「それじゃ、和室で寝ますね。その方が、テーブルの片付けも楽そうですし」
「そうかそうか。それじゃ、そういうことになさい」
お母さんとおじいちゃんは、僕達一家が何処で寝るかを決めたみたいです。僕は、毎年のように一緒の場所で僕はお姉ちゃんと寝ているのですが、いま、凄くいい匂いがしているので、心のバクバクが大変なことになりそうで怖くなってしまいました。
「もう……。ゆうくんは、そんなにお姉ちゃんと寝るの嫌なの?」
「違うよ」
「じゃあ、なんでそんなに憂鬱なのさ?」
「言いたくない……」
「むう。そんなこというゆうくんは、お姉ちゃんがこうしてやるっ」
「ちょっ——」
お姉ちゃんは、僕がもう一〇歳を超えていることを忘れているみたいです。年末に来た時はこんなことがなかったのですが、何かお姉ちゃんにあったのかな? ——いや、そんなこと気にしている暇はないです。もう、本当に心臓に来ることしかお姉ちゃんがしてこないので、僕はやばいです。
「抱きつかないで……っ」
「小さい男の子は大好物なんだよ」
「それだと、お姉ちゃんは犯罪者みたいになっちゃう!」
「大丈夫だよ。変な意味じゃないからね。……もしかして、そういうふうなこと考えてた?」
「ち、違うよっ」
「ホントかなぁ?」
うっすら、お姉ちゃんは気づいていたんだと思います。聞いてきていた時、顔に浮かべていたのは疑問に思っているような顔じゃなくて、僕を馬鹿にしているような顔でした。つまり、悩んでいるような顔では有りませんでした。
「——まあ、スイカを縁側で食べるのもいいけど、ちょっとお話したいから、私の部屋で食べよう」
「う、うん……」
僕の心臓が大変になっていることなんて見向きもせずに、お姉ちゃんはそう言って僕を部屋に連れて行こうとします。でも、嫌じゃなかったです。僕も長い間、お姉ちゃんと喋ることが出来なかったので、お話をすることは嫌じゃなかったです。
「おじいちゃん、タッパ持って行っていい?」
「皿にのせて持って行きなさい」
「はーい」
おじいちゃんの言葉が入った後、手慣れた手付きでお姉ちゃんがタッパからスイカを取り出しました。そして、お皿の中に入れたと思うと、棚からフォークを二つ取り出して皿に一緒にのせました。
「ああ、おぼんも持って行きなさい。落としてしまうと悪いから」
お姉ちゃんは、おじいちゃんからそう言われると、「OK」と軽い返事を返しておぼんに二つのお皿をのせました。でも、お姉ちゃんはそれだけじゃなくて、他のものものせようとしました。
「ふふーん、これはなんでしょう?」
「あ、麦茶だ! それに、サイダーもある!」
「どっちが欲しい?」
「麦茶は夕ごはんの時に飲みたいから、サイダーにする」
「その理由、絶対裏があるよね?」
「ば、バレちゃった……?」
「バレバレだよ」
お姉ちゃんはそう言うと、おぼんを持ちました。僕のことを馬鹿にするつもりはなかったみたいで、さっき見せていた顔とは違う顔を見せていました。
「それじゃ、二階の私の部屋へ、Let's go!」
「は、発音いいね……」
「大学生だもん。当然だよ。——将来は、ゆうくんの方がお姉ちゃんより発音上手になると思うよ?」
「本当?」
「嘘かもしれないけど、ゆうくんが頑張れば出来るよ。お姉ちゃんがこうなったんだもん」
「そっか! そうだよね……」
自慢げな顔でお姉ちゃんはいいました。そんなお姉ちゃんの顔を見ていると、僕の中の負けず嫌いな心みたいなものが強くなってきて、「頑張ろう」という気持ちが大きくなっていきました。
そして、僕の心の中がお姉ちゃんに対する対抗心で燃やされていた時、お姉ちゃんは言いました。
「それじゃ、いくよ」
「うん」
本来、男の子が女の子にするべきなんだけど、何故かお姉ちゃんは僕の頭をポンポン、と叩きました。でも、やっぱり嫌な気分はしなかったです。そしていつの間にか、心の中のドキドキした気持ちも無くなっていました。
◆◇◆
階段を登っている時は特にそれといった話は何も喋りませんでしたが、世間話をしてたとき、凄い心が気楽でした。変にくっついてきたりすることもなくて、普通の従姉弟《いとこ》って感じで気楽だったんです。
「ささ、スイカを食べようか?」
「うん、食べる!」
「んじゃ、いただきま〜す」
「えっ……?」
私は言っていませんでしたが、私の食べるスイカというのは赤いスイカで丸っこいものですが、大きさは結構小さいものです。
「フフフ」
「ど、どうした……痛っ!」
「どう? 男の子を喪失した痛みだよ。……でも、大丈夫。これからは、私の可愛い従妹だもん」
「えっ……」
タマタマに歯を立てて、ガリっと行きました。当然ながら血が出てきていますが、私はそんなのは気にしません。それよりも、コリコリしているタマタマを食べたいのです。
「——」
コリコリしている二つのタマは、それから数分で私に食べられてしまいました。
血をタオルで拭い、なんとか止血が成功しました。なので、ようやく従妹を撫でれるようになりました。
「酷いよ……」
「大丈夫。男の子おしっこは出来るじゃん。——嫌なら、私が紹介してあげるよ?」
「何を?」
「性転換手術を受けるための施設だよ。どうする?」
「受ける! 受ける!」
「そっか。……それじゃ、今日の夜まで、お姉ちゃんと色んなコトしようね?」
「うん!」
そして、長い夜は始まりました。
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投稿:2014.08.14
真夏の小さな二つのスイカ
著者 フェードアウトC.T 様 / アクセス 9412 / ♥ 0