ある日の夕暮れ、太陽にかかる雲を吹き飛ばすかの如く汽笛がなり、一隻の船が出港した。
その船は世界でも随一の豪華客船だったのであるが、その美しさと反比例する様に、客船に乗っていた人間は汚れていた。
室内娯楽施設では、カジノに酒とお決まりの取り合わせだったが、カジノの掛け金代わりに“ペット”も使われていた。
この“ペット”は、様々な種類がおり、愛玩用、性処理用等が主だった。
“ペット”は、彼ら金持ちに追い詰められた最下級層の労働者達の成れの果てや中には、誘拐された者、親が“ペット”だった為に成った者など多種多様である。
何が可笑しくて何が可笑しくないか…正気を失ったここにいる人間には、分からないだろう。
金欲、肉欲、欲と名のつくモノなら全てこの船で、済ませられるのだ。
獣姦部屋やスナッフビデオに出てくる事をするためだけの部屋等々、世界一を誇る巨大な船体だからこそ出来る仕様だ。
船員も客に、チップを貰えば事をする最高級の売春婦や男娼ばかりである。しかも、様々な人種や年齢を揃えていて中にはシーメールや肉体改造したビアンもいて客の我が儘にも答えている。
こんな、塩にされそうな船に危機が迫っているとは誰も知りもしなかった。
「えー、この東地中海産女児の処女1万ドルから。」
「さぁ、この3ヵ月前に女性に成ったばかりの元男の前の権利3万ドルから。」
金持ち達が、見るからに低俗そうな、まるでストリップバーのお立ち台に釘付けだった。
皆セリをする時は、ヴェネチィアンマスクを付けて参加する仕組みらしい。
黒服は、金持ちを見ながら哀れんでいた。金により、ここまで人が狂うのかと。しかし、自分もこんな職場に勤めている時点で、同じかと笑いやショーの準備を進める。
「それでは、お待たせしました。自分の欲望をぶつける相手は見つけましたか?」
会場に笑いが起こる。
「では、始めていきましょう。第一幕、開演です。」
黒服の声と共に今まで閉じられていた幕が開き、本来ならばオーケストラやサーカスを呼ぶ位に広い舞台が、人目に晒された。
それは、とても舞台とは思えなかった。その理由は、張り巡らされた柵である。
「一回戦目は、ゲオルグとユリアです。お互いの首輪に付いた鍵は、お互いの性器の内側に、移植されており、制限時間内に開錠しないと薬が打たれ四肢切断となります。負けた方は、勝負の後…」
時間は流れた、ショーは中盤に差し掛かり一番の目玉がやって来たのであった。
「いや、先程のショーは、いかがでしたか?」
それに答える拍手が鳴り響いた。中には、ペットや船員を弄くり声を出させるものもいた。
「中々のご満足の様ですが、次は謎の名医ヤーコフによる手術です。」
この発言により、一層の拍手と熱狂が辺りを包んだ。
白衣に身を包んだ男と手術台に、固定された男女一組とまだ年端もいかない男の子と女の子が、こちらも手術台に固定されて舞台の床下から姿を現した。
「今回、Dr.ヤーコフに執刀していただくのは、ご覧の目麗しい一家です。彼等は、アメリカで手術代を払えなくて此方に来ました。破産する前は、まるで話の中でしか存在しないほどの幸せな家庭だったそうです。」
黒服が、そう告げた途端に会場は黒い笑いが支配した。
観客の家庭は、こんなところで欲を解放するしか無いほど問題だらけで、それに輪を掛けた様に、本人達は壊れていた。
誰かに愛してほしい、認めてほしい等の欲望に満たされている人間ばかりだ。中には単純に理由なく、退廃的な違法行為が好きなだけと言う者もいるが。
手術台に固定された男性を一閃の元に去勢した。
しかし、見るものが見たら落胆するであろうことは、明らかだった。
ヤーコフのまるで最初から存在しなかったかの様な美しい断面図は、無くただ腕の非常に良い医者止まりの切除後そして、何より“歌って”いないのだ。
妻もさらっと去勢させると、黒服が部下を呼び夫婦を別室に移動させた。
次に息子に移った。
(主よ、我らをお救いたまえ。)
そんな息子の祈り虚しく刃は、股間に向かうかと思われたが、大方の予想を裏切り息子の胸へ刃は、突き立てられた。
「ここで、クイズをしましょう。君が正解出来れば、君と妹は、何もされないよ。」
黒服の厭らしいにやけ面が、ステージの照明と無影灯に、照らされ怪作と称される絵の様な妖しさを醸し出していた。
息子は、口の拘束具を外された。
「この客船に、乗っているお客様の国籍を15個答えたまえ。」
黒服が微笑みながら問題を出した。
しかし、彼は答えれなかった。
前日に、彼が脱走を企てた為に、麻酔を打たれてた事と舌の筋を改造されていたのだ。
「うぉう!うぉう!」
まるで犬が鳴いているのような声に会場は笑いに包まれた。
「怖すぎてまともに喋れないかしかたないな。約束は約束だ。」
黒服の煽るようなしゃべり方に会場は盛り上がった。
少年は手術台に連れていかれ、妹と対面するかのような位置に連れていかれた。
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投稿:2014.10.14更新:2015.12.28
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著者 東側 様 / アクセス 8605 / ♥ 0