魔の海域 ◆F 毒クラゲ
僕は喉の渇きを押さえ込みながら、
必死に岩場へ向かって泳いだ。
すると、突然腕が重くなった。
よく見てみると、海の色が違っている。
どうやら、僕は海の中を横切る潮の流れに突っ込んでしまったらしい。
みるみるうちに、東の方へと流されていく。
このままでは、遠く沖まで運ばれてしまう。
僕は必死に泳いで海流から抜け出そうとした。
そのとき、チクリと右手のひらに痛みを感じた。
なんだろうと、思ったのもつかの間、
突然全身が痺れて動かせなくなる。
おぼれるかと思って僕は慌てたが、
全く力が入らない僕の身体は、海面にプカプカと浮かんだ。
なにがなんだかわからないまま、潮に押し流されてしまっている。
そんな僕の身体に、シュルシュルと細いひものような何かが巻き付いた。
首も動かせない僕は、自分がどうなっているのかわからないまま、得体のしれない恐怖を感じていた。
ひもの数はどんどん増えて、全身にからんでいく。
ようやく、僕の顔の前に、その正体が映り込んだ。
この透き通るようなひもはクラゲの触手だ。
僕は毒クラゲに刺されたに違いない。
正体に気づいた僕は、絶望した。
助かる方法が思い浮かばない。
僕はこのまま、このクラゲにゆっくりと食べられてしまうのだ。
ふと、最初に刺された右手が、じんじんと腫れあがっている事に気づいた。
それから、クラゲの触手にからめとられた全身の皮膚が、そこかしこで熱を持ち始めている。
全く動かすことはできないくらい痺れたままなのに、
痛みだけは感じるなんて、ひどい話だ。僕は泣きたくなった。
触手に縛られた肌が、痛いような痒いような、もどかしい苦しみに責められる。
いっそ、気を失うことが出来て欲しかった。
その間にも、僕にからまる触手の数はどんどん増えていっている。
僕は、何本かの触手の先が、服の下に潜り込んでいくことに気づいた。
そこだけは、と慈悲を祈ったところでクラゲに通じるわけもなく、
性器にも触手がからみつくのがわかった。
敏感な皮膚に細かな毒針が刺さり、腫れあがって熱を持つ。
岩に擦り付けて、ペニスを削り落としてしまいたくなるような痒みを感じ、
僕は、喉も自分の意思で動かせないため、心の中だけで絶叫した。
股間に温かいものが広がっていくのを感じた。
どうやら失禁してしまったようだ。
するとクラゲは尿の成分を感じ取ったのか、
明らかに股間に群がる触手の数が増えた。
過剰な刺激に、ペニスが勃起するのがわかった。
からまっていたひもの中で竿が膨らみ、
縛られたハムのように触手が食い込む。
ペニスが燃えるようだった。
くびれのシワの一本一本に沿って触手が絡みついているのが感じられ、
ペニスに血が流れ込むたびに、性器の皮膚と触手が「こすれあう」。
自分の意思で身体を動かせない僕には、そのわずかな動きが全てだった。
触手の一本が、亀頭の先を何度かつつき、
やがて、痙攣して開閉する尿道の奥に潜り込んできた。
細い管をゆっくりと犯されていくにしたがって、
中の粘膜を次々と毒針がひっかいていく。
焼けた金串を突き入れられているようだが、
のけぞって叫びながらペニスを引き抜きたくても、指一本動かせない。
触手の先が、前立腺近くに届いた時、僕はようやく射精できた。
勢いよく精液が飛び出すと、
尿道の中の触手が、竿に巻き付いている触手が、
腫れあがった肉にこすれる。
もどかしさに狂いそうになっていた僕は、その刺激に救いを感じた。
それから何度も、何度も射精した。射精だけを頼りに、長い時間を過ごした。
−
いつの間にか、僕は海流に乗ってどこかの遠い海へ運ばれていたようだ。
通りかかった船が、波間に漂っていた僕を発見し、
水死体かと思われつつ僕は引き上げられた。
水夫が海面に手を伸ばして僕の腕をつかんだとき、
僕はあまりの強い刺激に絶叫して気絶した。
死体と思われていた僕が叫んだ上に、
僕を掴んだ水夫が、クラゲの毒で麻痺して海に落ちたため、
船は大混乱になったらしい。
僕は医務室に運び込まれて治療を受けたが、
全身の皮膚がボロボロにただれ、
性器はすでにズボンの中でドロドロに溶け崩れて跡形もなくなっていた。
たとえ残っていたところで、僕は自分からかきむしって引きちぎったに違いない。
僕は、何もなくなった股間を床に擦り付けながら、
後遺症で敏感になった全身の肌を撫でまわす。
全身に包帯を巻きつけてこのもどかしさに耐えながら一生を暮していくのと、
あのまま海の中に溶け消えていたのと、どちらが幸せだったのか、僕にはもうわからない。