自分は小さいころから目立たない存在で、友達はほとんどおらず、クラブ活動等もせず、いつも一人だった。
中学2年の春のこと。塾からの帰路、近道をしようと普段通らない薄暗い道を通っていたところ、高さ50cmほどの段差に気づかず自転車ごと飛び降りてしまい、転倒はしなかったものの股間を激しく打ち付けてしまった。
家に帰って風呂で見てみると、陰嚢の後ろから肛門の前まで、一直線に赤くなっていた。
「腫れてるなあ」
大した痛みでもなく、その時は「どうせすぐ治るだろう」とさほど気にもせずそのまま放置していた。
数日後、学校のトイレで違和感に気付いた。普段通りペニスを出して構えているにも関わらず、漏らしたようにパンツの股間が湿る感触があった。
トイレには他に誰もいなかったので個室に入り、ズボンを下ろして確認してみると、パンツの一番底の部分に染みができていた。
股間の赤みのことを思い出し、便器に座って前かがみで覗き込んでみると、気づかないうちに溝状に凹みができていた。指を押しあててみると、奥は粘膜状になっているようだった。
(なんだこれ…なんか奥の方がぬるっとしてる)
奥の方を指で探っていると、ピリッとした痛みが走った。
「痛ッ…」
指を出してみると、わずかに血がついていた。
(なんかやばいかも)
そのとき、先程出始めで止めたせいかまた尿意を感じたため、とりあえずおしっこを出し切ってしまうことにした。
便器に座ったまま括約筋を緩めると、出始めた感覚はあるのにペニスの先からは何も出てこない。と同時に、陰嚢の裏側が生暖かくなった。
凹みの奥からおしっこがあふれ出てきていた。
(いったいどうなってるんだ…?)
おしっこが出切ったが、やはりペニスの先はしずくすらついていない。股間をトイレットペーパーで拭うと、おしっこでびっしょり濡れていた。血はついておらず、出血はすぐに治まったようだった。
何か大変なことが起こっているという恐怖感はあったものの、場所が場所だけに誰かに相談することを躊躇してしまった。
そのとき以降、おしっこは座ってせざるを得なくなった。
いろいろ試してみたところ、陰嚢とペニスを下腹部に押し付けるように持ち上げるとびしょ濡れにならずスムーズに斜め前に向かって出ることはわかったものの、それでも凹みの周りは濡れるため、紙で拭かなければならなかった。
学校や塾のトイレでは毎回個室に入らざるを得なくなった。周りの生徒は誰も何も言わなかったが、遠巻きになにか噂されているようだった。休み時間ごとに人目を避けて遠くのトイレに走ることになった。
おしっこ同様、オナニーの時の精液もペニスの先からではなく凹みの奥から飛び出すようになっていた。右手でペニスをしごきながらティッシュを持った左手をお尻の方から股間にあてがって精液を受け止めるという、おかしな格好でのオナニーになっていた。
凹みの奥がどうなっているのかという好奇心がないわけではなかったが、血が出た時のことを思い出すと広げたりいじったりする気にはなれなかった。
さらに何日か後。塾を出る前にトイレに入り、いつものように陰嚢をぐっと持ち上げたところ、睾丸がぐりっと奥に入る感触があると同時に、凹みから何かがぬるっと出てくる感触があった。
股間を覗き込むと、凹みの奥から白っぽいオタマジャクシのような塊が垂れ下がっている。
「…なんだこれ?」
塊はそのままつるりと滑り落ち、便器の水たまりにぽちゃんと落ちた。
ズボンを下ろしたまま立ち上がって振り返り、便器を覗き込むと、それはオタマジャクシなどではなく、白っぽくて丸い塊から血管のようなものが伸びたものがふたつ、便器の水たまりに浮かんでいた。
(これまさか…)
陰嚢をまさぐると、そこには睾丸が入っている感触はなく、しぼんだ皮の袋だけになってしまっていた。
(これまさか…キンタマが出ちゃった?!)
その瞬間、トイレの自動洗浄機能が働いて水が流れはじめてしまう。
「ちょっと!待って!」
あわてて便器に手を突っ込もうとしたが間に合わず、それは流れる水に巻かれて便器の奥に吸い込まれて消えてしまった。
(そんな…そんな…)
大急ぎで自宅の部屋に戻り、服をすべて脱ぎ棄てた。股間を鏡に映しながらまさぐるが、やはり陰嚢はただ皮がたるんだ袋が垂れ下がっているだけで、どれほどまさぐってもその中に睾丸は見つからなかった。鏡に映った陰嚢の後ろの凹みは、気のせいか以前よりくっきり深くなり広がっているようにも見えた。
(キンタマが出ちゃうなんてそんなはずない!何かの間違いだ!たぶん何かの拍子に体の奥に入っちゃってるだけだ!またすぐ出てくるはず!)
(この凹みもそのうちふさがるはず!)
睾丸がなくなったわけではない、女になったわけではないと自分を納得させるために、オナニーを始めた。
ペニスをしごくと今までと変わりなく勃起し、ほどなく絶頂に達して、股間に当てたティッシュに精液があふれ出た。
(ほらちゃんと出る!キンタマがなくなったわけじゃない!)
そのとき、ティッシュの上に溜まった精液の中に赤いものが混じっているのに気づいた。血かと思ったが違った。BB弾ほどの大きさの、赤い粒だった。
(これ…赤い…玉…)
もう一度、とペニスをしごいたが、先ほどとは打って変わってまったく勃たなかった。一晩中しごき続けたが、結局勃つ兆候すらなかった。これまでなら、一回出した直後でも連発とは行かないまでもすぐ半勃ちぐらいにはなっていたのにもかかわらず、どれほどしごこうが、スマホでどんなエロ画像や動画を見ようが、まったく勃たなかった。
そしてその日以降、ペニスと陰嚢は急激に萎縮しはじめ、しごくどころかつまむことすら難しくなっていった。一方、凹みはどんどんと深くなり、萎縮したペニスは凹みに埋もれ、1週間ほどで股間は女の子のような一本の割れ目だけになってしまった。
このまま女性化していくのかとも思ったが、骨格が変わるわけでなく、胸やお尻が膨らむわけでなく、生理が始まるわけでなく、股間以外には何の変化も起こらなかった。外見上は冴えない男子のままだった。
体のことがばれるのが怖くなって登校拒否となり、高校にも進学せずそのまま引きこもって、もう3年になる。
このまま一生この中途半端な体のままなのか、いつか元に戻る日がくるのか、それとも女になってしまうのか…。
どうしていいのかわかわらず、ぼんやりと考え続けた。小さなガラスのビンに入れて残しておいた、あの時の赤い粒を眺めながら。
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投稿:2016.06.10
凹み
著者 kangan 様 / アクセス 12145 / ♥ 3