男は自宅から一時間ほどの小高い丘に立っていた。
「ふんふん♪」
鼻歌交じりに作業をすすめる。テントを広げ、簡易コンロをセット。スープを温め、地面にシートを引く。男はシートに腰をおろすと、スープを飲みながら空を仰ぐ。
「今日はいい星空だ」
天体観測。男は満天の星空を眺め、満足そうな笑みを浮かべた。この美しい空を何時間でも見ていられると思った。
「……ふわぁ」
が、実際には、そのまま2時間ほど経過したところで、眠気に襲われた。男は、睡魔に負け、シートの上に大の字に手足を広げ、眠りについた。
ふと、股間に妙な違和感を感じて目を覚ました。
「ん?なんかちんこが痒い」
痒みだけじゃない。何かがちんこの上を這いずっているような感触がする。
「いてっ」
チクッとした感触がする。噛まれた、男は直感的にそう思った。
男は咄嗟にズボンとパンツを下ろし、自分の股間の状態を確かめる。
「うわぁ!」
そこにいたのは虫だった。股間に見たこともない虫がついていた。体長5cmほどのムカデに似た虫が、ちんこに齧り付いている。
男はちんこに手を伸ばし、その虫をつかむ。
「あっちいけ!」
そのまま、遠くに虫を放り投げ、自分のちんこを確認する。
「……!」
男は自分の目を疑った。ちんこが欠けている。男から見て亀頭の右側が、ごっそり抉れたように欠けていた。
男は近くにあった懐中電灯で自分のちんこを照らす。
「うそだろ……?」
欠けたちんこの断面は、青紫色に変色していた。その青紫色の部分が、今のたった数秒の間にも徐々に拡がっていくのが分かった。
「壊死してる……?」
欠けた部分は壊死していた。そして、その壊死した範囲は猛烈なスピードで拡がっていっている。
「まさか、あの話で出てきた虫か……!?」
男は天体観測を趣味とする知り合いから以前聞いた話を思い出す。
最近ある虫が日本で発見されたらしい。その虫は、男性のペニスに噛みつき、その部分を壊死させる。さらに恐ろしいことに、虫が分泌する毒により、壊死は猛烈なスピードで進行していき、毒がペニスから体内に侵入すると、毒が血管を通って脳に行き、数秒のうちに死に至るという。その虫に刺されたときに死から逃れる方法は、たった一つ。
「ちんこを根本から切り落とすこと……!」
単なる噂話だと思っていた。まさか現実に自分の身に降りかかることになるなんて。
毒は三十分もしないうちに回りきるという。救急車を読んでいる暇はない。
「ナイフ……!」
男はテントに駆け込み、バーベキューで使うつもりだったナイフを持ってくる。簡易コンロの火でナイフを炙り、出血対策を施す。
男はナイフを自分の股間の根本に押し当てる。
「くっ……!」
男は咄嗟に目をそらす。
その虫に噛まれたらちんこを根本から切り落とすしかない。壊死した部分以外にも毒が広がり、一時的に治ったと思っても再発する恐れがあるからだ。
切る場所を間違えれば、もう一度、ちんこの根本を切る苦痛を味わうことになる。男は目を見開き、ミスをしないために慎重に自分のちんこの根本にナイフの刃を触れさせる。
「っ……!」
ナイフを横に滑らせる。わずかにちんこに切れ目が入ったことがわかる。ふとももに一筋の血が伝わる。熱せられたナイフに焼かれているため出血は少ない。
「ふうっ、ふうっ!」
ナイフをさらにちんこに押し付ける。ちんこにできた切れ目が広がっていき、ついにナイフはちんこの外径の3分の1ほどに達する。
「うくっ!」
ここで不思議なことが起きた。ちんこの付け根にくいこむ、ちんこの内側から感じるナイフの冷たさを意識した瞬間、脳に快楽が走った。気持ちよさで一瞬痛みを感じなくなる。しかし、すぐに痛みは戻る。
「ぐっ……!」
男は奥歯を噛み締め痛みに耐える。ちんこの三分の一までナイフがくい込んでいる光景にめまいを覚える。
それでも男はナイフの刃を、ちんこの中心に向かってすすめる。
「……え?」
ナイフを半分まで進めたところで、ちんこ全体の感覚が失われる。根本の痛みはまだあるが、そこより先の感覚がまったくない。どうやら神経が切断されたようだ。
「ふぅ……っ。いくぞ……!」
男はそこで覚悟を決め、一息でナイフを切り進める。ナイフはちんこの外形の半分……8割……9割と進み。
「くっぅ……」
ついにちんこは切り落とされた。男から離れたちんこは、重力にひかれボトリと地面に落下する。
切断面は、ドクドクと脈打ち、不思議と妙な快楽を脳に伝えてくる。
「うっっく」
男の瞳から涙があふれる。自分自身の手で、自分のちんこを切り落とした。その事実が涙を次から次へと流れされる。
我を忘れて、切り取られたちんこを拾い上げ、切断面に何度も押し当てる。しかし、当然くっつくことはなく、ぺちゃぺちゃと音を立てるだけ。
「ふぐっ」
しかし、これで開放されたわけではない。男が友人から聞いた話には続きがある。
その虫に噛まれた場合、陰嚢にも毒が貯まり、時間差で体に回ることもあるから、陰嚢も切り落とさなければならない。
「ふっ……!」
男は覚悟を決め、陰嚢の根本にもナイフを突きつける。そしてひと想いにナイフを振り抜く。
「あぁ……」
男の陰嚢は地面に落下し、男の股間はついに平らとなった。
後日談
丘から降りた男は、病院に向かい手当を受けた。数日後、ちんこの断面からの痛みもなくなったころ、病室に友人が訪ねてきた。
「おまえ……!ほんとにちんこ切ったのかよ!」
開口一番、友人はそういった。
「あぁ、おまえが以前話してくれた噂話のおかげで命だけは助かったよ」
男は笑顔で友人に感謝を伝える。ちんこを失ったのは残念だったが、命があれば今後楽しいことはいくらでもある、男はそう思った。
「あの噂話、俺が適当に考えた嘘だぞ……」
「は?」
ちなみに、このあと持ち帰っていた切断されたちんこを確認したら、まったく欠けていなかった。虫の毒で、黒く変色したちんこに動揺して、欠けていると思い込んだだけらしい。男は、今も友人に同じ目に合わせてやろうと計画している。
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投稿:2017.07.12
虫の毒(初めての投稿です)
著者 ゲオルゲ 様 / アクセス 7845 / ♥ 2