3. 食事
部屋に入ってきたカオリは、まず拓弥の後ろへ回り、持っていた鍵で、首輪から鎖を取り外した。
「さあ、拓弥、ご飯を持ってきてあげたわ」
「...」
「たくさん食べてね。体力つけないと、楽しめないから」
「...」
押してきたワゴンに乗っているポットを取り上げると、カオリはカップにミネストローネスープを注ぎながら言う。ワゴンには他にも、豚肉のソテーに温野菜を添えた一皿、パン、フルーツなどが乗っている。カオリは、次々とそれらを拓弥が座っているマットレスの前の床に置く。だが、ナイフやフォークはない。拓弥がそれを用いて自死することを、カオリが恐れているためである。逆に拓弥が、それらでカオリを傷つけることについては、全く心配していない。その可能性はあるかも知れないが、カオリは拓弥に殺されることを恐れてはいないのだ。それはカオリの望みですらある。だが、まだその時ではない、まだ自分は満足していない、とカオリは思うのだ。だからどんな食事であろうと、カトラリーを添えることはない。
拓弥は、手づかみで食べ始める。カオリは、拓弥の横のマットレスに座り、拓弥が食べるのを黙って見ている。拓弥の咀嚼音と嚥下音だけが部屋に響く。カオリは、食べる拓弥の裸の背中に顔をもたせかけ、そろそろと背筋に舌を這わせる。うなじから耳の後ろの匂いを嗅ぎながら手を前に回し、拓弥の乳首や股間を指先で刺激する。拓弥は、ときおりびくっと体を震わせるが、かまわず食べ続ける。拓弥があらかた食べ終え、スープを飲み干してフルーツに取りかかろうとすると、カオリが
「これは、私が食べさせてあげる」
と笑い、拓弥の手からボウルを取り上げた。中には、カットされた桃やキウイなどが入っている。カオリは一片の桃を取り上げると口に入れ、噛まずに舌ですり潰すようにする。拓弥の顔を引き寄せると唇を重ね、そのまま口移しで与え始める。拓弥もカオリの舌に舌を絡ませ、潰れた桃をカオリの口から舐め取るようにして飲み込んでゆく。二人の口からこぼれた桃と唾液の混合物が、カオリの白いワンピースの胸元を汚す。そのようにして、カオリは全てのフルーツを口移しで拓弥に食べさせた。拓弥が最後の一片を食べ終えるころには、それが食事なのかセックスなのか、あいまいに感じるほどに、二人の体は昂り始めていた。
4. 射精
カオリは右手の甲で口を拭うと、ワンピースを脱ぎ捨てた。下には、小さな白いパンティ以外、何も身につけていない。二人は向き合う形で床に立つ。拓弥の足首のアンクレットが、シャランと乾いた音を立てる。二人の身長差は大きく、カオリが背伸びをし、拓弥に口づけをする。互いに舌を絡め合う。拓弥の右手が、カオリの小振りの乳房を揉みしだく。カオリは、拓弥の股間に手を伸ばし、陰嚢をゆっくりと揉んで刺激する。
「ふふ。どう?勃起した?」
カオリが上目遣いで拓弥に尋ねる。拓弥は、屈辱感に顔をゆがめながらかぶりを振る。
「そうよね。あなたには、もうおちんちん、ないんだもんね!」
カオリは、長い舌をひらひらさせて拓弥の乳首を舐め、右手で陰嚢を揉んで刺激しながら笑う。さらに左手を拓弥の股の間に差し込み、中指で肛門をいじる。しかし、拓弥には、カオリの言葉通り、そのような強烈な性的な刺激を受けた男なら当然、股間に硬く屹立しているべきものが、どこにもなかった...
「!!!!!っっ」
拓弥は何かを言おうとするが、声帯が失われているため声は出ず、肺からふいごのような音を立てて息が漏れるだけである。
「でもね、ペニスがなくても、感じるのよね?」
「あなたの体のどこが感じるのか、私は全部知ってるもの」
そう言いながら、カオリは手を後ろに回して立っている拓弥の乳首を舐め、陰嚢を揉みしだき、肛門に指を入れて中を刺激する。
「どう?じれったい?やりたいでしょう?私とセックスしたい?私のオマンコに、もう一度、あなたのあの逞しいペニスを突き入れたいでしょう?」
「でもダメね。もうあなたにはないんだから!もう一生、私のオマンコには入れられないんだから!」
「ペニスがないのにタマタマはあるから、苦しいでしょう?」
「女を見てムラムラしても、こんな惨めな、情けない体じゃね?」
「誰も相手にしてくれないわよ?」
「私くらいのものよ、こんなあなたを愛せるのは!感謝しなさい!」
カオリは笑い、容赦なく拓弥に言葉責めを加える。拓弥は恥辱に顔から胸まで真っ赤にしながら、乳首と陰嚢と肛門を責められる快感に耐える。それは、まさに気が狂うほどのもどかしさを伴う快感だった。確かに強い快感はある。だが、ギンギンに勃起したペニスをしごくこともできず、亀頭に自分の先走りをなすりつけてこすり上げることも、拓弥にはもう永久に叶わないのだ。拓弥は屈辱感、絶望感と快感がないまぜになった感覚に身をよじり、さらに容赦ないカオリの責めによって昂り、絶頂へと向かおうとしている。
拓弥は、大柄で均整の取れた体つきをしている。カオリが過去に、何度も肌を重ねてきた筋肉質な体は、手足が長く、しなやかで柔軟性がある。もともと拓弥のペニスは標準よりかなり太く、かつ長かった。だが今の拓弥には、その引き締まった下腹にペニスはなく、ただ陰嚢がぶら下がっているだけである。カオリの所有物になることを受け入れて数年ほど経ったころ、外科的に切除されたのだ。予告が与えられることもなく、拓弥が寝ている間にガス麻酔が施され、手術は始まった。そして、拓弥のペニスは根元から切断された。手術の傷跡が癒えた今は、陰嚢の上に、やや盛り上がった切り株状の突起が残っているだけである。古来、ペニスを切除された奴隷に施されたのと同様、残された尿道には、排尿を助けるための銀のパイプが挿入されている。その姿は、見るものに不安と恐怖、そして蔑みと嘲笑が入り交じった、ある種独特な興奮を引き起こした。
ペニスは切除されたが、睾丸は、拓弥の旺盛な性欲を保つため、故意に温存された。また、前立腺や精嚢、カウパー氏腺も残されたため、性的な刺激を受ければ、絶頂感を伴う射精をすることも可能である。
「イキそう?ねえ、イキそうなの?」
「恥ずかしい!ペニスがないくせに、イッちゃうの?」
カオリは責め続ける。ペニスを刺激されて感じるそれとは全く異なる快感が、拓弥の陰嚢と肛門、乳首から湧き上がってくる。その背筋がゾクゾクとするような感覚はもどかしく、それに意識を集中していなければ、すぐにふっと遠ざかってしまい、絶頂へ到達することは難しい。拓弥は、射精感を得たい一心で歯を食いしばり、眼を閉じてその快感に意識を集中した。しばらくすると、拓弥の切り株に挿入された銀のパイプの先から、透明な液が溢れ始めた。カウパー氏腺液である。
「あら、いやらしい液が出てきてるじゃない!」
カオリは乳首から口を離し、切り株から突き出た銀のパイプを咥えると、拓弥の愛液をチュウチュウと吸い始めた。尿道が陰圧でつぶれ、拓弥は今まで経験したことのない感覚を覚える。痛みを伴う快感。
「おいしいいわ、拓弥。ペニスの先から出てたのと、同じ味がする」
カオリは拓弥の切り株を丸ごと口に含み、ベロベロと舐める。だが、そうされても拓弥には快感がない。切り株周辺の神経は切断されているため、感覚が鈍くなっているのである。拓弥は両手でカオリの頭を股間から引き離し、身振りで乳首を舐めてくれるようカオリに懇願する。
「まあ、乳首のほうが感じるのね?いいわ!」
カオリは再び、拓弥の乳首を音を立てて舐める。片手で拓弥の陰嚢をさすり、もう片方の手の中指を肛門に奥深く入れ、前立腺を指の腹でグリグリとマッサージする。拓弥は、下腹から快感の大きな波がうねり始めるのを感じ、首を反らせて大きくあえぐ。
「ううっ!あはっ!」
「そうよ!イッていいのよ!その、何もない切り株から、ドロドロの液をいっぱい出していいのよ!」
そう言うなり、カオリは拓弥の乳首を、ちぎれるほど強く噛んだ。その瞬間、拓弥の頭の中で何かがはじけた。
「!!!!!っっっっっ!」
拓弥は大きく息を吐き出すと、体をビクビクと痙攣させながら射精した。切り株となった拓弥の根元から、大量の精液が迸る。それは、銀のパイプから噴水のように飛び散り、カオリの体を汚した。拓弥は、体を震わせながら足を折り、マットレスの上に仰向けに倒れ込んだ。胸が大きく上下している。カオリはその姿を見下ろし、微笑むような、ややあいまいな笑みを浮かべている。そして、ゆっくりと自分の体に飛び散った拓弥の精液を掌に集め、すべてを舐め、飲み下した。
5. ディルド
「イッちゃったわね...」
「どう?気持ちよかった?」
カオリは拓弥の傍らに尻をついて横座りになり、拓弥にキスをした。拓弥は、カオリを押しのけるように起き上がると、両手で顔を覆い、肩を震わせて泣いた。
「ね、良かったわね。ペニスがなくてもイケて」
「凄く熱かったわよ、あなたの精液。おいしかった...」
拓弥は、絶望と屈辱と喪失感にさいなまれ、涙を流している。
「ね、今度は私が楽しみたいの」
そう言いながらカオリは傍らのワゴンを引き寄せると、下の引き出しを開けて何かを取り出した。
「拓弥、今日はね、いい物を持ってきたのよ」
「ほら、見て!素敵でしょ!?これに見覚えはない?」
笑いながらカオリが拓弥の目の前に掲げたものは、勃起したペニスの形をした、太長いディルドだった。だが、それは妙になまめかしく、色も形も本物そっくりだった。何かがおかしい...拓弥がカオリの手の中にあるディルドを凝視する。何だか見覚えがあるような...と思った次の瞬間、拓弥はそれが何であるか気づいた。
「あっ!がぁっっっっっっ!!!!!!」
拓弥は両手で頭を抱え、天を仰いで叫ぼうとしたが、声帯を奪われたその喉からは、ひゅうひゅうと息が漏れる音がするだけだった。拓弥は、鬼の形相でカオリにつかみかかると、カオリの手からディルドを奪い取った。そして、必死にそれを自分の股間にあてがおうとする。何度も何度もディルドを股間にあてがった末、拓弥は絶望してディルドを取り落とし、床に突っ伏して号泣した。カオリが近寄り、ディルドを拾い上げる。カオリの杏型の眼はキラキラと光り、異様な性的興奮をおぼえているのがわかる。カオリは口をすぼめ、ディルドの先端にチュッと音を立ててキスすると、泣きじゃくる拓弥を見おろし、ささやくように言った。興奮で声が震えている。
「まあ、嬉しい再会じゃない?」
「自分のペニスが、素敵なディルドに生まれ変わって戻ってきたのよ?嬉しくないの?」
カオリは、悄然とする拓弥を見おろしながら、ディルドの先端を口に含み、ペロペロと舐める。
「プラスティネーション、って知ってるかしら?」
「生体の構成成分を、特殊な樹脂で置き換えて恒久的な標本にする技術なんだけど、それを、切り落としたあなたのペニスに施したの」
「しかも、最大限に勃起した状態で固めたわけ。どう?いいでしょう?」
「これであなたの素敵なペニスは、永遠に私のものになったのよ。嬉しいわ...」
憔悴しきった顔でカオリを見上げる拓弥に、畳みかけるように言う。
「今日は、このあなたのペニスで、私を喜ばせて欲しいの。ね、お願い」
そう言いながら、拓弥の目の前で、見せつけるようにパンティを脱ぎ捨てる。すでにカオリの性器は分泌液でグチャグチャに濡れており、パンティは白濁した濃いゼリー状の下り物で、ドロドロに汚れていた。
「ねえ、入れて...自分で入れるんじゃなくて、あなたに入れて欲しいの。お願い!」
カオリはマットレスの上に仰向けになると、両手で両膝の裏側を持ち上げ、足を高く左右に開いた。カオリの、愛液に濡れそぼった性器と肛門が露わになる。それは、たまらなく淫靡な光景だった。
6. 喪失
拓弥は、カオリから手渡された、自身のペニスから作られたディルドを凝視した。暖かさはないが、樹脂で固められたそれは、かつて自分の股間に硬く屹立していたモノと色や形、弾力が全く同じであり、全く同じ手触りがした。呼吸が速く、浅くなり、パニック発作が襲ってきそうな目眩を感じる。
拓弥は、かつて自分の一部だった物を見つめ、永遠に失われた「あの」感覚を思い出そうとした。頭の芯まで真っ白に焼き尽くすような、灼熱の喪失感が襲ってくる。気が狂いそうだった。
もう、もう、もう、オマンコには入れられないんだっっっっ!俺の、俺の、俺のが何で...!もう、俺には、俺には、俺には...くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、クソォッッ...ああ、ああ、これは嘘だ...悪い夢だ...夢だっっっ!...あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!ああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!
唇がワナワナと震え、拓弥は荒い息を吐く。青ざめた拓弥の顔に、絶望と苦悶の表情が浮かぶ。
「俺のが...」
と言おうとしたが、喉がくぐもった音を立てるだけである。
「さあ、早く、入れて」
カオリが促す。
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」
拓弥は喉から声にならない声を絞り出すと、ディルドを握りしめたまま、両腕を突き上げて、大きく体を反らせた。勢いをつけ、力任せに両手の拳をマットレスに叩きつける。ディルドが床の上を遠くへ飛んでゆき、転がる。拓弥はそのままマットレスに突っ伏すと、全身をよじって泣き叫んだ。
このまま死んでしまいたいと思った。両腕を伸ばして太股の間に差し入れ、両手で股間を押さえてヒイヒイ泣きながら、全裸で転げ回る拓弥。まともな精神の持ち主であれば、とても正視することのできない、痛ましく無残で、悲惨な姿だった。
「...」
だが、カオリはそんな拓弥を見、異常に昂った様子で、目をキラキラと輝かせている。呼吸が速い。泣き叫ぶ拓弥の哀れな姿が、カオリの嗜虐の性を極限まで刺激し、昂らせているのだ。カオリの性器はさらに大量の愛液を分泌し、尻の下に黒いシミを作った。カオリは、両足を上げて広げた姿勢を解き、拓弥を見ながら自慰を始める。
片手で乳房を鷲掴みにし、もう一方の手で性器をこすり上げる。すでに昂っていたカオリの肉体は、容易に絶頂を迎える。その余韻にひたりながら、カオリはマットレスにうつ伏せに寝そべった。上体を起こして肘を曲げ、開いた両手のひらの上に顎を乗せる。じっと拓弥を見つめる。のん気に、膝から下を交互にパタパタさせている。
拓弥はまだ泣いていたが、体の動きは徐々に緩慢になりつつあった。やがて、両手で股間を押さえたまま、横向きで背中を丸め、動かなくなる。拓弥の眼からは光が失われ、表情は虚ろである。
それを見て、カオリはゆっくりと立ち上がると、跳ね飛んだディルドの所まで歩いて行き、拾い上げた。
「もう、乱暴なことして。折れちゃったらどうするのよ」
「代わりはないんだからね」
カオリは独りごちる。ディルドをペロペロと舐めながら、横向きに倒れている拓弥の所へ戻り、その顔を覗き込むようにしゃがむ。拓弥は動かない。表情もない。
「壊れちゃったかな...」
カオリはやや心配になり、話しかける。
「拓弥、大丈夫?落ち着いた?」
「ペニスがなくなったくらいで、少し大袈裟なんじゃない?」
「だってほら、さっきちゃんとイケたでしょう?」
「射精もできたし」
「気持ちだって、おちんちんあったときと同じくらい、良かったでしょ?」
「だからね、そんなに落ち込まないで」
拓弥は何も答えない。カオリは拓弥の顔を覗き込んで言う。
「拓弥、お願い。愛してるわ。だから...」
拓弥の瞳がゆっくりと動き、カオリの顔に焦点が合う。
----------------------------
この小説は、r18.novelist.jpに掲載された、三蔵法師の文章の一部を転載したものです。
-
投稿:2018.12.26更新:2018.12.26
拓弥とカオリ(抜粋)
著者 三蔵法師 様 / アクセス 5601 / ♥ 2