日暮れ時の坂道。小雨が降っている。寒い。俊雄はパーカーのフードを目深に被り、ジーンズのポケットに手を突っ込んで足早に歩く。傘は差していない。工場のラインでの単調な組立作業を定時で終え、退勤するところである。
「よお、久し振りに飲み行かねえか?」
ロッカールームを出ようとした帰り際、同じラインで働く隆臣に誘われたが、俊雄は断った。
「いや、用事があるんだ」
「用事?おほっ!もしかして、女?」
普段から、車と女とギャンブルのことしか頭にない隆臣が言う。
「まあな」
「まあな?おいおい、まんざらでもねえ口っぷりじゃねえか!ええ?で、どんな女なんだ?歳は?おっぱいデカい?」
隆臣は俊雄の肩に手を回し、顔をぐいっと引き寄せて覗き込みながら小声で言う。
「もうヤッたのか?」
「まあな」
俊雄は迷惑そうに顔を背け、答える。
「まあな?!このやろ!上手いことやりやがって!ニクいね、この色男!」
「まあ、そういうことだから」
俊雄は隆臣の腕を振りほどくと、バックパックを背負ってロッカールームを出る。
「今度、俺にも紹介しろよ!」
そう叫ぶ隆臣の声を背中で聞き流し、外へ出たのが10分ほど前のことである。
俊雄は会社が用意した、坂の途中の単身者用の寮に住んでいる。が、今はその前を通り過ぎ、坂道を下った先にある私鉄の駅を目指す。自販機で切符を買い、改札を抜けて下り線のホームへ向かう。夕方の退勤時刻で、ホームは混んでいる。下りの各駅停車が到着し、俊雄は乗り込む。新聞を広げると、周囲の客に迷惑がられるであろう程度の混み具合の列車に揺られ、二駅先で下車する。跨線橋を渡り、改札を出ると、駅前のゴミゴミとした飲み屋街を抜けてしばらく歩き、小さな公園の裏手にある古びた二階建ての木造アパートへ辿り着く。錆の浮いた外階段を登り、二階の一番奥の部屋の前に立つと、樹脂製のドアをノックする。ほどなくしてドアが細く開き、俊雄は中へ滑り込むと後ろ手にドアを閉める。ドア横の窓から、磨りガラスを通して廊下の明かりが差し込んでいるだけで、部屋の中は暗い。
いきなり、全裸の女が俊雄に抱きついてくる。俊雄はそれに驚く様子もなく、女の裸の背に手を回して抱きしめる。俊雄は、頭一つ分背の低い女の、漆黒の髪に顔をうずめる。女の体は暖かく、その髪は良い匂いがする。
「待ってた...」
女が言う。
「ずっと裸でいたのか?寒いだろう?」
「ううん、寒くないわ。それに、ほら!」
そう言うと、女は俊雄の手を取り、腰を浮かせて自分の股に導くと、性器を擦り付ける。柔らかい肉の襞が熱を帯び、愛液が太股を伝って溢れ出そうなほど潤んでいる。女は、切れ長の美しい目を輝かせ、艶然と微笑む
「だから、早く来て...」
俊雄の耳元に口を寄せ、女がささやく。俊雄は三和土に靴を脱ぎ捨て、キッチンの椅子の上にバックパックを置くと、その背に雨に濡れたパーカーを引っ掛ける。女に手を引かれ、俊雄はキッチンを横切って奥の六畳間に入る。畳の上に布団が敷かれているだけで、他には家具も何もない殺風景な部屋である。二人はそのまま、布団に倒れ込む。お互いの背に手を回したまま、舌を絡め合い、長い口づけを交わす。
ひとしきりお互いの舌を吸い合ったのち、俊雄は布団の上に起き上がって服を脱ぐ。女がそれを手伝う。俊雄のブリーフに女が手をかけ、引き下げると、半立ちになった陰茎が露わになる。
「ふふ...」
女は微笑み、俊雄の陰茎を両手で挟んで包皮をむく。亀頭を口に含み、丹念に舐め、吸う。舌先を鈴口に差し入れて刺激する。女の与える刺激に反応して、俊雄の陰茎が固く勃起する。女は濃厚なフェラチオを続けたまま、仰向けになった俊雄の上に跨がり、愛液で濡れそぼった性器を俊雄の眼前に突き出す。俊雄は女の性器を両手で広げる。あからさまな眺めが眼前に広がる。俊雄が女の固く尖った陰核を、口をすぼめ、音を立てて吸うと、女は一瞬びくっと腰を引くが、すぐにまた尻を落とし、女陰を俊雄の顔に押しつけてくる。淫らな女陰の匂いが鼻腔を刺激し、俊雄はより一層昂る。
女は、執拗に俊雄の陰茎を舐め続ける。亀頭も竿も陰嚢も、女の唾液まみれになる。俊雄も負けずに女の性器を貪る。
「あ、あれを...」
俊雄が、息荒く喘ぎながら女に声をかける。女は、俊雄が何を望んでいるかすぐに察する。フェラチオを中断して顔を上げ、俊雄を振り向くと、嬉しそうにニッと笑う。
「いいわ...」
俊雄は女陰を両手でぐっと広げ、愛液が糸を引く膣口に、深々と舌を差し入れる。
「あっ、ん...」
女が快感に背中を反らせる。女の膣奥の刺激的な味を味わいながら、俊雄は舌をうねうねと動かして刺激する。
(来る...)
女の膣の奥から長い「舌」のような突起物が出てき、俊雄の舌に絡みつく。俊雄は夢中になって女の膣口に吸い付き、女陰の「舌」をベロベロと舐める。「舌」を伝って流れ出る女の愛液が甘酸っぱい香りを放ち、鼻腔いっぱいに広がって、俊雄を淫らな酔いへと誘う。「舌」と舌が絡まり合い、こすれ合うたび、俊雄は言い知れぬ快感を覚える。
「ねえ、入れて...」
女は、俊雄の陰茎を欲しがる。俊雄は体位を入れ替えて女を仰向かせると、両腕で太股を押し開き、陰茎を女の下半身に押しつけ、こすり上げる。俊雄の陰茎は女の陰唇に挟み込まれ、俊雄が腰を上下させる度、にちゃにちゃと湿った音が響く。膣口から女の「舌」が延びて、俊雄の陰嚢から陰茎にかけ、蛇のように絡みつく。それだけで、俊雄の下半身から背筋にかけ、ゾクゾクとした快感が走る。「舌」は自在に動き、陰嚢と陰茎を締め付ける。俊雄は、それだけで気を遣りそうになる。
「ちょ...強烈すぎるよ。もう少し優しく」
俊雄が言うと、俊雄の顔を見上げる女は「ふふ」と笑い、「舌」がぞろりと腟内へ引き込まれる。俊雄は、再び女と口づけを交わす。
「入れるよ...」
密着していた互いの性器を離すと、混ざり合った二人の愛液が、長く糸を引く。俊雄は、陰茎に手を添えて、亀頭を女の膣口にあてがうと、ゆっくりと腰を進める。
「あ...」
女が甘い声を上げる。女の膣の中は暖かく、ぬめぬめとしており、俊雄は亀頭が内部の襞にこすれる快感を、目をつぶって味わう。陰茎が根元まで腟内に飲み込まれると、俊雄は女の背に両腕を回して上体を起こし、対面座位の姿勢を取る。そのまま動かず、結合部から下腹、胸までの肌をぴたりと合わせ、俊雄と女は眼を閉じて、互いの暖かな体温を感じ取る。顔の右側に、女の頭を右手で抱え込むように抱いた俊雄の肩を、女が甘噛みする。女の舌が、肩をチロチロと這う。俊雄は、鼻先を女のうなじへ押し当てて匂いを嗅ぐ。
俊雄が女にささやく。
「眼を閉じて、感じてごらん。俺のは、どこにある?」
「いちばん、奥...当たってる...気持ちいい...」
「俺も、気持ちいいよ。お前の中、すごく暖かい」
女は、両手と両足を俊雄の首と腰に絡ませ、さらに体を密着させると、
「はああああああ...」
と深く息を吐く。それに合わせるように女の膣が収縮し、俊雄の陰茎を強く握る。
「動くよ?」
俊雄は再び女を仰向けに寝かせると、女の両足を持ち上げて自分の両肩に乗せ、体重をかけて陰茎をさらに女の奥深くに送り込む。
「ああっ!深い!」
女の両足を抱え込み、俊雄は腰を前後させ始める。初めはゆっくりと、そして徐々に速度を上げて、律動的に腰を動かす。俊雄の陰茎が女の膣を出入りする、ぬちっ、ぬちっ、ぬちっという淫靡な音が響く。女の愛液が、脂肪分の多い粘稠な白濁液に代わり始め、俊雄の太く勃起した陰茎にねっとりと絡みつく。女は、顔を上気させ、イヤイヤをするように振って我慢する様子を見せる。が、ついに堪えきれず、
「あんっ!!!」
と声を上げると、女は堰を切ったように甘い鳴き声を上げ続ける。その声が、俊雄をさらに昂らせる。俊雄の腰の動きが速くなる。
「あっ!イクっ!」
女が体をびくりとさせて気を遣った瞬間、俊雄は、女の膣の最奥部から陰茎に沿って「舌」が飛び出てくるのを感じる。
「あっ!くぅっ!」
「舌」と陰茎が擦れ合い、捩れ合う度、俊雄は言い知れぬ快感に襲われる。「舌」は、陰茎を飲み込んだままの膣から外へ出ると、ひらひらとうごめいて俊雄の陰嚢に絡みつく。「舌」は全く別の意思を持った生き物のように動き、俊雄の陰嚢をベロベロと舐め回す。あるいは、陰嚢の根元にギュッと絡みついて、睾丸から精液を搾り取るようにしごき、締め付ける。さらに、俊雄の肛門をチロチロと舐め回して刺激する。俊雄は「舌」に与えられる異様な快感に耐えかねて、何度も射精しそうになるが、陰茎の根元に巻きついた「舌」の強い締め付けがそれを阻止する。俊雄は腰を激しく前後させながら、女に懇願する
「た、頼む!出したい!だ、出させてくれ!」
「まだ、まだよ!もっと、もっと突いて!」
「くぅぅぅぅっ!!!!」
俊雄は頭の中に閃光が走るような感覚を覚える。俊雄は女の膣と「舌」が与える感覚が、快感なのか、苦痛なのか、区別がつかなくなってくる。汗が滝のように流れ、息が上がる。俊雄は、胸から上を真っ赤にしながら、なおも腰を動かし続ける。女も、俊雄の下で手足を突っ張るようにして鳴き声を上げ、よがり続けている。
「ああ、あと少し、あと少しよ!」
女が切れ切れに言う。
「ぐうぅぅっ!」
「あっっっっっ!!!!!」
女がひときわ高く鳴いた瞬間、
バツン!
という大きな音が部屋に鳴り響いた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!」
俊雄は大きくのけぞると、そのまま後へ倒れ込む。白目を剥いて気絶している。その股間には、今まで女の中に挿入されていたはずの、固く勃起した陰茎がなかった。無残に切断された陰茎の切り株から、酷く出血している。と、同時に、切り株から大量の精液が噴水のように噴き出す。俊雄の体がビクビクと痙攣する。女が飛び跳ねるように上体を起こし、俊雄の切り株に口をつけて、溢れ出る血液と精液をゴクゴクと飲む。さらに飲む。
痙攣していた俊雄の体は徐々に動かなくなる。女が切り株から口を離したとき、俊雄はすでに事切れていた。
「ふふ。ありがと。おいしかったよ!」
女は微笑みながら、血まみれの口で俊雄にキスをする。
「こっちもね!」
女の膣から、長い「舌」が出てくる。腟内に残った、噛み切られた俊雄の陰茎を絡め取っている。
「あたしのオマンコに生えてるの、『舌』だけだと思った?」
「『舌』があるんだから、歯もある、ってどうして思いつかないのかしらねぇ?」
「最初に『舌』だけで遊んであげると、みんなコロッと引っ掛かっちゃうのよね」
「ま、人間の女では味わえない気持ちよさだもんね!無理もないか」
女はニッと笑い、膣口に生えた歯で噛み切られて血を失い、縮んで小さくなった俊雄の陰茎を弄ぶ。顔を仰向けると、あーんと口を開き、その中に陰茎を放り込む。チューインガムを噛むように、ひとしきりクチャクチャと顎を動かして咀嚼したのち、ごくりと飲み込む。
さらに女は、俊雄の股間に顔をうずめる。今度は、上の口で陰嚢を食いちぎり、中から血まみれの睾丸を一つ吸い出す。口の中で睾丸を転がしながら味わい、手のひらの上に吐き出して、うっとりと眺める。
「また一つ、いや、二つ、戦利品が増えたわね」
嬉しそうにつぶやくと、唇をすぼめ、睾丸をちゅるんと口中に吸い込んで、そのまま丸飲みにする。女は、もう片方の睾丸も、同じようにして飲み込んでしまう。
俊雄の返り血を浴びた女はふと振り返り、全裸のまま立ち上がると、ついとキッチンを横切り、玄関のドアを無造作に開ける。
「ひぃっ!」
廊下には、隆臣が腰を抜かしてへたり込んでいる。小便を漏らしていた。嫉妬半分、悪ふざけ半分の軽い気持ちで、俊雄の後をつけてきたのである。そして、一部始終を覗き見たのであった。
「あら、いい男!」
「あなたも美味しそうねぇ...」
女が陰惨な笑みを浮かべる。女の股の間から長い長い「舌」が出てき、べろべろと舌なめずりをする。その光景が、大きく見開かれた隆臣の両目に焼き付く。
(了)
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この小説は、r18.novelist.jpに掲載された、三蔵法師の文章を転載したものです。
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投稿:2019.03.21
舌
著者 三蔵法師 様 / アクセス 5138 / ♥ 3