WARNING-AGAIN
[ゲイ(バイ?)][両性具有][グロ][殺人][食人]
中途半端なままでいつまでも残しておくのもなんだかな、と思ったので
初期構想に立ち返り、中間のエピソードを全部削って短くまとめ直しました。
そのため、以前死んでいたキャラクターが生きていたり、
昔登場人物に載せていたキャラの出番が結局無くなったりしています。
(なので古い「5(仮)」は消しています)
最初の投稿からはもう10年以上立っています。
まだ待っていてくれた人がいるかはわかりませんが、けじめということで。
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黄金の太陽 − 登場人物一覧
黄金の一族
『黄金』 一族を率いる偉大な長。飛びぬけた強さを誇る。
『暁』 若いが長に次ぐ実力を持った戦士。長の寵愛も厚い。
『影』 古参の戦士。今は三番手。母としては石女。
『夕暮』 『暁』の母が父として産ませた腹違いの弟。村の警備官
青の一族
『雫』 『暁』の最初の妻。医術の知識を持つ一族の末裔
『流水』 『暁』の最初の息子。母の助手として働く利発な少年
緑の一族
『若葉』(グルグジュ) 森の一族の長の末息子。捕虜から『暁』の妻となる
『大樹』(ゼゼップラ) 身体は大きいが気が弱い。『影』の妻となる
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前回までのあらすじ
両性具有の種族が住む世界、『黄金』の一族には、
敵対部族の若者を去勢し、子を産ませる風習があった。
若き戦士『暁』は、家族と共に、村を襲う赤の一族に戦うが、
妊娠中で動きの鈍っていた『暁』と腹の子の命を救うために、
長の『黄金』が身代わりとなって大怪我を負う。
そして『暁』の存在を疎ましく思っていた『影』が、次代の長として台頭し
『暁』は村での立場を失った。
『黄金』の去勢と処刑は、次の白銀の夜、3つの月が揃う晩に行われる。
−
空は雲一つなく晴れていた。
三つの中で一番速い緑の月が、太陽と入れ替わりに沈もうとしている。これから丸一日かけて地の裏を巡ったその月は、夜には他の二つに追いついて再び空に並ぶだろう。
広場では、儀式の準備が行われていた。『黄金』と『影』の決闘、形ばかりの寸劇の後で、先代と次期長の公開セックスが行われ、一族の宝と呼ぶべき睾丸とペニスが新しい長に引き継がれ、食されることになっている。
『影』の横暴は、既に誰もが知るところとなっていたが、不穏な空気を感じながらも、それが自らの身に降りかからぬことを頼りに、皆見て見ぬふりをしていた。
それでも、人々はまだ覚えていた。『黄金』の時代を。たとえ今終焉を迎えようとしていても、それはまさに栄光の日々だった。
だからこそ、彼らはその男の歩みを止めなかった。決意に満ちたその姿を見て、魅入られたように足を止め、迷いなく一直線に村の中央へと進む足取りを見守って、それから熱に浮かされたように、その後を追った。少しずつ、人の波は増えていく。彼らは理解していたのだ。これから見届けなければならぬことが、起こるということを。
『影』は、取り巻きと打ち合わせをしている最中に、彼らが急に押し黙ったことに気づいた。急な沈黙の原因を探り、彼らの視線を追って振り向く。
「来たか、『暁』」
広場の入り口では、堂々と胸を張った『暁』が、『影』の姿を見据えていた。大きな腹を抱えた妊婦でありながら、『暁』の眼光には覇気があった。誰もがその鋭い瞳に呑まれ、立ち竦んでいた。
「俺が長になるのを見に来たのか?」
『暁』は、それに答えず、手に持っていたものを『影』の足元に投げつけた。
苦悶の形相の生首が、地面から『影』を睨み付ける。燃える赤毛は、山の一族の証。無言の『影』の周囲で人々がどよめいた。
表情一つ動かさない『影』に、『暁』は静かに言葉を続ける。
「お前の友人だ。花でも手向けてやれ」
『暁』の横に『夕暮』が進み出た。身体中に真新しい傷が刻まれている。
「私は『影』殿の指示に従い、愚かにも山の一族と通じて兄を失脚させんとこの村を危険に導きました。『影』殿がこの村で配り歩いた睾丸も、この村を襲った山の一族が、他の対立種族と争って得たものを塩で買い取ったものです。私が『影』殿と共に、村を襲う計画の合意に立ち会いました」
彼は自らの罪を懺悔し、同時に『影』の罪も告発した。血の滲む傷は贖罪の印、彼が自ら相手の首魁との決着をつけてきた証拠だった。
「ずいぶんな言いがかりだな。お前の弟がお前のために言う言葉など誰が信じる? 全てお前が『黄金』の地位を狙って、弟と共謀して追い落とすために企んだことだろう」
それを聞いて激高した『夕暮』が『影』に吠えかかる。
「貴様、白を切るつもりか!」
『影』は、それを聞いて苦笑した。
「しかし、起こった現実はそういうことだぞ。長である『黄金』を再起不能にしたのは、結局の所、お前たち兄弟だ」
憤る『夕暮』と対照的に『暁』もまた穏やかに首を振って苦笑した。
「そうだな、確かにどうでもいいことだ。お前が山の一族と通じていようと、村の備蓄をひそかに横流ししていようと、仲間に毒を盛って敵の手引きをしようと、その罪を私の弟に擦り付けようと、そんなことは、今から私が行うことに何の関わりもない」
『暁』は一歩広場に進み出て、村全体に響き渡る大声で、告げた。
「『影』よ! 私はお前を我らの長とは認めない! この偉大なる一族を率いるのにふさわしいのはこの私だ! よって今、この時! お前に決闘を申し込む! 正々堂々と立ち会え!」
誰もが息を呑んだ。『暁』の声の木霊が響き渡る沈黙の中で、『影』だけが声を上げて笑い始める。
「何を馬鹿なことを。その膨れた腹で戦いをいどむだと? 笑わせてくれる」
『暁』はその反応を予想していた。自分ですら、妊婦が決闘を挑むなど、滑稽に過ぎると感じる。だから、煽った。
「なぜ躊躇う『影』よ。全てお前に都合の良いことばかりではないか」
不敵な笑みを浮かべる『暁』を見て、『影』は怪訝そうに片眉を持ち上げる。
「『黄金』殿の威光失われし今、お前の権力にとって最も脅威であるのはこの私のはず。本来控えの三番手であったお前が今大きな顔が出来ているのは、私が身ごもり一時的に動けないからに過ぎぬ。私がこの子を産み落とし、平時の力を取り戻されて困るのはお前であろう。だから、その心配を取り除いてやろうというのだ。お前の手間を省いてやる」
『暁』は、指で『影』を招いて挑発した。
「今ならお前ごときでも私を殺せるだろう。まさかこの妊婦を怖いと思うのか? それとも、臆病なお前は、陰謀によって以外で敵を屠る術を知らんのか」
相手が顔をしかめたのを見て、『暁』は叫び畳みかけた。
「わざわざ私と子のために他人を巻き込むような卑劣な罠などこれ以上仕掛けてもらわずとも結構! 私は黄金の一族の戦士! お前の奴隷になるよりも誇り高き死を選ぶ!」
そして『影』もまた叫び返した。
「『黄金』に殉じて死ぬか、良かろう! 俺が殺してやる!」
『影』が『暁』の挑戦を受けた時点で、他の誰一人、彼らに手を出すことは禁じられた。
かつての『黄金』の侍従が、まっすぐに『影』の元に歩み寄り、その股間の前に跪いて『影』の身に着けていた首飾りや腰紐を受け取り、しきたりにのっとって全裸とした。同様にして、『雫』が『暁』の前に腰をかがめ、わずかな衣をはぎ取った。
人々の視線が、その腹に集まる。輝く黄金の陰毛にふちどられた下腹部は、見間違うこともなく臨月の妊婦のものであった。決闘の場に臨むにはまるでふさわしくないながらも、その堂々とした立ち姿に、人々は息を呑んだ。全身に生傷を浮かべながらも、尚溢れんばかりの生命の輝きを漲らせた『暁』が発する殺気は、不用意に近づけば首筋を噛み裂かれるような獣の荒々しさを感じさせた。
対して迎えるのは浅黒い肌を漆黒の剛毛に包んだ闇の化身である。溢れる野心と絶対の自信は、若く激しい光でさえも軽く飲み込む覇者の威厳を感じさせた。油断なく場を見渡すその視線は老獪であり、冷徹である。暴力に慣れ、平然と人を破壊する事に慣れた『影』は決闘の場においても静かであり、まさに死神であった。
二人は広場の中央に進み出た。お互いに、一糸まとわぬ裸である。緊張が場を包み、陰と陽が睨み合う。
先に仕掛けたのは『暁』だった。
村の者たちの視界から、身重とは思えぬ俊敏さで掻き消えたかと思うと、一瞬で『影』の懐に飛び込み、その心の臓めがけて貫かんばかりの拳を繰り出していた。なめした革を鞭打ったような破裂音が広場に轟いた。
胸を狙った『暁』の拳を払って宙を切らせた『影』は、飛び込んできた相手の顔面を狙って逆の腕を繰り出していた。そして、その拳を『暁』がこれも自分の掌に正面から受け止める。
見ていた者たちのほとんどが、鳴った音の出所を把握する前に『暁』は次の動きを終えていた。『影』の放った追撃を腹の重みを使って姿勢を下げながら躱し、素早く脚を回して相手の軸足を払う。『影』は払われる直前に体重を逆の足に乗せ換え、上がった足を振り下ろして『暁』を踏み潰そうとした。『暁』は転がるようにそれを避け、素早く『影』から身を離す。
観衆も、また『影』自身も、妊婦にあるまじきその機動力に舌を巻いた。なまじかつての『暁』が、その腕力を生かして無駄なく一撃で相手を叩き伏せるスタイルの戦法をとっていたことを知っていたため、手数で揺さぶりをかけてきたことに意表を突かれていた。『影』の想定していた、いずれ来る決戦とは、まるで異なる戦いになるのは間違いない。練り上げた戦術を捨てざるを得なくなった『影』は、しかし、こみ上げる笑みを噛み殺すのに苦労した。
確かに、速い。驚き、目を見張る程機敏な動きだ。『影』自身を含め、村の誰一人としてここまでの速さは出せないに違いあるまい。だがそれも全て、「妊婦にしては」の前書きが付くのだ。
今度は『影』から、飛び込んで拳を振りぬく。常人であれば首をへし折られているところを、『暁』は軽々と躱し、反撃してくる。霞んで見える拳の連打を右へ左へ弾いて反らし、大きく踏み込んで膝を叩き付ける。『暁』はその膝を掌で押すように後ろへ跳んで再び距離を取った。
ほんの数発のやり取りで、『影』は『暁』の異様なまでの素早さと、それが長くは持たないことを理解した。歪にバランスを欠いた肉体での高速機動。一見軽やかに見えるが、その実、体幹のブレを強引に力でねじ伏せた無謀な突進の連続。敵ながら天晴の膂力ではあるが、肉体にかかる負荷は想像を絶するだろう。一挙手一投足毎に『暁』の関節は軋み、筋肉は捻じれ、神経は摩耗し続けているはずだ。
『影』は再び踏み込んだ。相手を休ませないように調整しながら隙なく拳を繰り出す。フェイントをかけた一撃が顔に入り、『暁』は飛びのきながら血を吐き捨てた。それでも眼は殺気を湛えたまま『影』をとらえたままであった。さすがに頑丈だ。死にぞこなっているだけのことはある。『暁』は若い。鉄を貫くとされる腕力に機敏な反射神経、基礎的な肉体の強さにおいてはどの点でも『影』を上回る。年経た『影』には単純な力の振り回し程度なら受け流せるだけの経験があるが、その差を埋める戦闘の才覚も相手は持ち合わせているだろう。
もし『暁』の腹が空であったなら、防戦一方のまま蹂躙されたかもしれない。これを上回る速さで、これを上回る時間動き回られたら、手に負えなくなることは間違いない。それだけの素質を秘めた男だ。
スタミナ、ただその一点において、明らかに今の『暁』は『影』に劣っていた。相手の突きを払った腕が痺れるような重い打撃を連続してくるのは恐れ入る。しかし、それを躱しているだけで、『暁』の体力は勝手に削られていくのだ。なるほど、腹の子を守るためには、動きを止めて的になるわけにはいかないだろう。『暁』が短期決戦と心したのも理のない選択ではない。
しかし、それは『影』が致命の一撃を食らいさえしなければ、それだけで勝利は手に入るということだ。槍を持って軽々と敵の心の臓に風穴を開ける『暁』は確かに脅威ではあるが、自分とて素手の決闘において、そうやすやすと直撃を食らうような雑魚ではない。既に『影』は、『暁』の速度が落ちてきているのを感じていた。むしろ、まだ動けていることの方が不思議なくらいだ。しかし、その化物じみた高速機動にも終焉が見えている。五発に一度相手をとらえるだけだった拳が、三発に一度当たるようになる。
あとは冷静に処理するだけであった。相手の攻撃を確実に払い、当たらずとも相手を休ませぬように攻め、決定的な瞬間を待つ。
それは、渾身の一撃が急所に来るとわかっていても、避けることのできない瞬間だった。少しずつ遅れを見せていた『暁』の下腹に、赤子を抱えた子宮に、抉りこむような拳が吸い込まれる。『影』はその決定的な手ごたえを感じた。
『暁』の心は静かだった。呼吸は荒く、血の味が滲み、四肢の末端は徐々に感覚を失っていたが、心だけは静かに状況を見詰めていた。その一瞬を待っていた。自分が長く戦えないことを、知らなかったわけではない。妊婦がまともに格闘で張り合おうとすること自体に無理があるのだ。
格闘では『影』に勝つことが出来ないと、『暁』は知っていた。だから、待っていたのはその一瞬である。相手が自分にとどめを刺しに来るその一瞬。それだけを『暁』は休みなく誘い続け、待ち構えていた。下腹に『影』の拳が突き刺さるのを感じて、敢えて妊婦の腹を本命として狙い殴りつけるその悪辣さを、『暁』は憎みながら覚悟していた。
(耐えよ我が子よ! お前も『黄金』の血を引く戦士であるならば!)
『暁』は、その一撃だけは庇わなかった。正面から受け止めた。子宮を押しつぶす衝撃を踏みこたえた。そして、我が子の痛みに身を引き裂かれながら足を踏みしめ、『影』の腕を絡めとって、投げた。
宙を舞った『影』の身体が地面に叩き付けられる。何が起こったのか理解していない観衆が目を丸くしている。そして、投げられた当の『影』は脳を揺らされ平衡感覚を失っている。
もちろんこれは二度は通用しない手段だった。このような手があることを知れば当然うかつに懐に飛び込むことはしない。もはや、『暁』に動き回る体力は残されておらず、手堅く削り続けるまでもなく、力尽きるだろう。そして、たかが一回投げ飛ばされた程度で、人は死なない。
だからこれが用意できた唯一の隙であり、最後のチャンスであった。
『暁』は『影』の身体が地面に落ちる前に次の動作に入っていた。大の字に地に叩き付けられた『影』の身体に覆いかさぶる。かつて自分を強姦した男の股間に愛しげに口を寄せ、誰もが反応する前に素早く陰嚢を噛み破る。獣のように研いでおいた歯は、頑丈な浅黒い皮膚に紅白の裂け目を入れた。
『影』は陰部の激痛に危険を感じ、素早く立ち上がって逃れようとした。転倒から平衡感覚を取り戻すまで数拍の間しかなかった。ここで逃がすわけにはいかない。『暁』は腕を伸ばして追いすがる。腰に縋るようにしがみつき玉袋を握りしめる。
『影』の拳が『暁』の顎をとらえ、音高く殴り飛ばした。それでも『暁』は握った拳を離さず、引き寄せる。身を離そうとする『影』と、引き寄せようとする『暁』の力で、『影』の睾丸は噛み破られた陰嚢から絞り出された。ズルリと音を立てて、精索が腹腔から引きずり出され、『影』は勢い余って後方によろめく。
『暁』は、握りしめたその二つの睾丸を、大気を震わせる雄叫びを上げながら全力で地面に叩き付けた。グシャリと粘着質な音を立てて、血と泥と砕けた組織が飛び散る。『影』は絶叫を上げながら、『暁』の肩を蹴り飛ばした。
左肩の関節が音を立てて外れ、『暁』は血煙を上げながら倒れこむ。『影』は泡を吹いて苦痛に悶えていた。ようやく起こった現象に理解が追いついた群衆の中からざわめきが沸き上がる。
萎びた『影』の陰嚢からぶら下がるのは、千切れた二本の精索だけだった。二人の間の地面に広がる小汚い染みが、もはや、この男の子種の全てであった。
「き、貴様…なん、なんということを…」
呆然とした呟きの中には非難が含まれていた。それもそのはず、『暁』の行ったのは最大の禁じ手である。
『暁』と『影』が行ったのは「長」を決めるための決闘である。「長」とは、一族の最強の戦士ではあるが、それ以前に一族の全ての戦士達の夫であり、父なのだ。「長」になるための争いで性器を傷つけあうなど、本末転倒も甚だしい。
しかし、その究極の掟破りを承知の上で、『暁』はこの賭けを始めたのだ。
『暁』は既に呼吸も荒く、ボロボロである。これ以上臨月の身体を動かす体力は残っておらず、無理をすれば確実に流産するであろう。『影』は砕け散った精巣を抱えて呆然としているが、気を取り戻せば『暁』を縊り殺す力は充分残っている。当然だ。
最初から、格闘で勝ち目がないことはわかりきっていた。だからこそ。
「これでもまだこの男を長と仰ぐつもりか!」
『暁』は叫んだ。
「お前たちはもう知っているのだろう! この男が守るべき村の子供たちをも巻き添えにして私を葬ろうとしたことを! 結果『黄金』がその偉大な肉体を汚されたことを! この男は必ず同じことを繰り返すぞ! この男が衰え、その座にふさわしい力を失った後でさえ、この男は陰謀によって若き優秀な血筋を葬り去るだろう! この男はお前たちを守りはしない! それでもお前たちはこの男についていくのか!」
人々は絶句していた。許されない。こんな決闘は許されない。あってはならない。しかし現に、すでに、『影』は一族の長たる第一の資格を肉体的に失ってしまっていた。
たとえ『暁』を排除したところで、睾丸を砕き散らされた『影』が、一族の父として立つことが可能かといえば、答えは否、だ。
動揺する人々に、『暁』は更なる言葉を叩きこんだ。
「私なら、お前たちに望むものを与えることが出来る」
ゆらりと、『暁』が立ち上がる。
「光り輝く『黄金』の血統だ」
無事な方の腕で膨らんだ下腹の陰毛を撫でる。人々の視線が吸い寄せられるように集まり、傷だらけの肌の奥から発せられる壮絶な色気に、彼らは生唾を飲んだ。堂々と仁王立ちになった『暁』の背後に栄光の象徴であった『黄金』の姿が被る。
そう、『暁』の胎の中には『黄金』の子がいる。偉大なる英雄が、若く美しい戦士に孕ませた種が、あの恥毛の奥に根付いている。
「この私と『黄金』の間に生まれる子の種を、お前たちは欲しいとは思わないのか! 自分の血に組み入れたいとは思わないのか!」
『暁』が群衆を睥睨すると、あるものは勃起し、あるものは内股を濡らした。
「選べ!」
『暁』の恫喝に人々は背筋を震わせた。
「誰を己の長として仰ぐのか! お前たちの手で、決めるがいい!」
言葉を理解した者たちは目を見開いて呆然としていた。
それまでの常識では、長とは最強の人材が否応なく全てを支配するものだった。そこに何の疑問も躊躇もなかった。彼らはただ見守り、従う者。彼ら自身が自らの長に誰を望むかなど、真剣に問うたことは無かった。しかし、いざその言葉を突きつけられたとき、彼らの本能は、光り輝く血統を己の子宮に欲して疼いていた。
「さあ選べ! 種も無くただ消え行くのを待つばかりの薄汚れた影か! それとも今まさに生まれ出でようとする黄金の太陽か!」
『暁』の指が中天を突いた。
天に燃え上がる太陽が群衆の目にその姿を焼き付ける。人々はその力強い光に股を震わせた。輝く閃光の中に、父祖の代から彼らを炙り焦がしてきた灼熱の欲望を感じ、それが今また彼らの子宮に火をつけた。彼らは本能で悟った。人などただの器に過ぎぬと。その中に宿る命の灯こそ、真に価値のあるもの、彼らの求むるものなのだと。
母が『黄金』に抱かれてきたように、己が『暁』に抱かれることを、また自分の息子が『暁』の腹の子に抱かれることを、彼らは本能で欲した。受け継がれる太陽の系譜が、己の身にも流れ込み、眩い光に包まれることを願った。
「我が忠誠を太陽の王に!」
毅然とした声で、『雫』が叫び、『暁』に向かって膝をついた。
驚くようにその姿を見つめた『流水』は、すぐにその意図を理解し、続く。声を上げて人々の流れを作ろうというのだ。
「我が忠誠を太陽の王に!」
『流水』の視線を受けて他の仲間たちも膝をついた。
「我が忠誠を太陽の王に!」
芝居がかった仕草を面白がるように『若葉』が、恥ずかしそうな顔で『大樹』が、それぞれに誓いの言葉を唱える。そして、自らの立場を恥じながら『夕暮』も。
「我が忠誠を太陽の王に!」
はじめは、『若葉』に連なる村の生き残りたちだった。次に『雫』と同郷の末裔たち、そして、かつて『黄金』の一族に組み入れられた様々な出自の者たちが、『暁』に集う「色」を見て、その先に光を見た。
「我が忠誠を太陽の王に!」
かつての『黄金』の威光を懐かしむもの、『影』の横暴に憤るもの、現在の地位から成り上がる野心を持つもの、単純に『暁』の気迫に魅了されたものがそれに続く。
「我が忠誠を太陽の王に!」
そして、このまま静観すれば後の立場が不利になるということに気づいた者たちが次々と慌てて膝をつき始めた時点で趨勢は決した。
「我が忠誠を太陽の王に!」
わずかに残ったのは、既に『影』に重用された中でも、今更掌を返すことを周りに許されぬほど横暴の一端を担いできたものばかり。その人望のない集団でこの場の流れをせき止めることなど明らかに不可能だった。
自分の立場の不利を悟った『影』の手下達が雄叫びを上げて槍を振りかざす。彼らがその穂先を『暁』に向けて広場になだれ込もうとした時、先頭の男の額を一本の矢が穿った。
崩れ落ちる男の次の相手の額にも続けて矢を放った『若葉』は、村の中の緑の同胞たちに号令をかけた。
「全隊撃て!」
『若葉』の小隊はかつての長の忘れ形見に従い、その手の弓を『影』の残党に向けた。流れるような手さばきで弓を引き、次々と狙い撃つ。放たれた矢は、吸い込まれるように相手の急所に穿たれ、確実に敵の数を減らす。そして、それを見ていた者から、抵抗しようとする気力を奪った。
「跪け!」
『暁』が叫んだ。そして、男たちは、吹き荒れる弓の暴力の嵐が狙うのは、立ったままで恭順の意を示していない者に限られていることに気づく。彼らが尿を漏らして震えながら、その場にひれ伏して命乞いを始めるまで長く時間はかからなかった。
己の手駒が瞬く間に制圧されたのを把握すると、『影』は溢れ出る怒りと憎しみを込めて、自分の黒髪をかきむしり、その中から、隠していた骨片を引き出した。
「死ね『暁』!」
駆け寄る『影』の手の中に骨のナイフを見出したものの、既に『暁』にはそれを避ける体力がなかった。吸いこまれるように骨片が『暁』の腹の子を狙い――。
『大樹』に突き刺さった。
二人の間に壁のように立ち塞がった『大樹』の胸に、『影』は血に濡れた拳を叩きつける。
「どけ! このクズめ」
『大樹』は『影』の首を片手でつかんで黙らせた。『影』の身体が持ち上げられ、顔が紫に染まる。
誰もが場の喧騒に目を奪われる中で、『大樹』はかつての夫を、産まれなかった子の父親を、たとえ相手は全くこちらを覚えていなくても、心の中で気にし続けていたのだった。だから、『影』の動きに誰よりも早く気が付いた。
『大樹』もまた、この時をずっと待っていたのだ。我が子の父親に相対する瞬間を。我が子を殺した男に伝える時を。
「お前、きらいだ」
『大樹』は全力で『影』の顔面に拳を叩きつけて振りぬいた。顎が砕け、折れた歯が飛び散り、『影』の身体が吹き飛ぶ。
「ゼゼップラ!」
かけよった『若葉』の腕の中に、『大樹』は倒れこんだ。『流水』が急いで止血を始める。
「しっかりしろゼゼップラ!」
「えへへ、坊ちゃん。ちゃんとオレたちの旦那さん守ったよ。もうウスノロって誰にも言わせないんだ」
『大樹』は満足そうに笑った。
「バカ! ホントに要領のいい奴はそこで自分が刺されたりしねーんだよ!」
焦る『若葉』の容赦ない声に『大樹』は拗ねたような顔を見せる。だが、のぞき込む『若葉』の目に涙が滲んでいるのを見て微笑むと、その頭に手を伸ばして優しく撫でた。
「坊ちゃん、赤ちゃん沢山産んでね。オレの分もいっぱい産んでね」
「縁起でもないこと言ってんじゃねーよ、ゼゼップラ」
「…坊ちゃん、オレの名前『大樹』って言うんだよ」
幸せそうに言う『大樹』を見て、『若葉』は息を呑んだ。
「かっこいいよね。『若葉』もいいけど『大樹』もいい。ここの名前、みんなかっこいいよね」
生まれ持った名前には、馬鹿にされ邪険にされた記憶が纏いつくのだろう。『若葉』にとって古い友人はいつまでもゼゼップラのままだったが、彼が生まれ変わることを選択するなら、もう、そうは呼べなかった。
「…ぜぜっぷらって、なんだかまぬけだと、おもってたんだ…」
クスリと笑った後、『大樹』は目を閉じ、深い、深い眠りについた。
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つづく
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投稿:2021.10.04
黄金の太陽-5
著者 自称清純派 様 / アクセス 7717 / ♥ 18