1999年夏、性別に違和感をもつ子どもたちにとってそれはけして知られてはならない暗黒の時代だった
テレビは性同一性障害をオカマや変態と面白おかしくバカにし子どもたちはそれを当たり前に真似
大人たちもそれが日常であたりまえだった
拓哉はそんな違和感を感じる少年だった
スポーツは下の下、好きなものは音楽
歌を歌うことが好きだったが声変わりを契機にソプラノの声が徐々にかすれ、宝物を天に奪われたように感じていた
かわいらしい少年の見た目から男らしい見た目へ
そのすべてが受け入れるのは辛い現実だった
拓哉は吹奏楽部のクラリネット奏者だった
歌えなくなった声の代わりに必死と楽譜を読み歌を歌うようにクラリネットの音色を奏でていた
拓哉の小学校では唯一の男子部員だった
マーチングベルの練習が終わり拓哉はスカートの女子衣装をなんとなく見つめていた
そこに声をかけたのが由美先輩だった
拓哉着てみたいの?
唐突な問いに拓哉は困惑していた
由美はこう続けた
バレバレじゃん、拓哉女の子になりたいんでしょ
先生に行って衣装替えてもらえばいいじゃん
拓哉は顔を赤らめていった
そんなわけないじゃないですか
かわいいなと思いみてただけです
由美は言った
ふーん
まぁべつにいいけどさ
私は拓哉ってめっちゃ女子だとおもうけどね
拓哉は由美に心を覗き込まれているような気がした
その日の夜だった
夜中に輪ゴムでペニスをぐるぐるまきにして冷凍スプレーを5本用意しながらひたすたにかけまくっていた
なぜか涙もですにまっすぐ青紫色の血管が浮き出たの肉棒をただ見つめながら必死に全てかけきった
ペニスの表面は氷が付きザクザクっと触ると音がした
その日刺身包丁でいっきに体重をかけたが薄膜が切れただけで怖くなりハサミで緊縛をとき眠った
こんなことはもうしたくない
拓哉は学校の近くにある新戸部産婦人科の新戸部先生に昨日の傷を見せながら泣きながら言った
先生、僕は変態なのかな
新戸部医師はこういった
何人も見てきてるよ
変態でもなんでもないさ
ただ時代があまりに差別的なだけだよ
新戸部は続けた
君はどうしたい
ペニスは取りたいのかい?
拓哉は力なく恥じらいながら言った
はい
新戸部は迷いながらも決断した
このまま自傷行為を続けてもいずれ重大な結果に繋がるだろう
なら僕が彼の悩みを解決してやろうじゃないか
拓哉くん、ご両親を呼んでもらってもいいかな
君の秘密は守るから
拓哉の両親にこう続けた
拓哉くんは腫瘍からペニス全体に壊死が見られ斑点から早急な治療が必要と思います
どうかこの手術同意書に至急サインをいただけませんか
3日後、新戸部医院の手術室には拓哉の姿があった
エーテル麻酔を流し込み眠った拓哉に新戸部は安心して、よく頑張ったと声をかけた
ペニスにカテーテルを差し込んだ
彼のペニスに対する最期の医療処置だった
玉袋の中心から5cm,ゆっくと切開する
薄膜に包まれた玉をすこしずつ切開し袋の外へ取り出し
抜歯不要の溶ける糸で固く血管を結ぶ
声変わり前にできれば助けてあげたかったな
そう思いながら電気メスの電源を入れた
グォーっと音を立てながらメスを血管に近づかせジュクジュクと音を立てながら彼の玉はただの肉塊へと変わっていく
膿盆に赤色の玉が一個そして二個とのっていった
膿盆を一度下げ股間を見て心のなかで新戸部は言った
これで君はようやく男じゃなくなったよ
もう半分は女だよ
ただ、僕には造膣できる経験はないんだ
ごめんな
拓哉のペニス根元を切開し根元を深く切り出していく
ペニスの長さは1.2倍くらいになっただろうか
鉤状の縫合針を使い血管をぶっちん、ぶっちんと音を立てながら閉塞した
そして再び電気メスの電源を入れる
グォーっ
静かな手術室に電気メスの起動音が響く
ジュクジュク、ジュクジュク
煙を上げながらペニスの根元を6回往復しただろうか
カテーテルからペニスを少しずつ抜き取っていく
彼女を苦しめたペニスがすこしずつ彼女の股間から浮き、するするとカテーテルを登って抜けていく
抜けたペニスを先程の肉塊といっしょに膿盆へ乗せた
そして玉袋の皮を使いながら縫合し、玉袋を中心で2つに裂きながら陰裂を作っていく
ごめんね
見た目だけで僕にはここまでしかできない
君の苦しみを僕は完全には救えない
縫い合わせた少女の股間を見ながらメスを置き心のなかで謝った
手術が終わった
夏の暑い日だった
午後にひぐらしが鳴いていた
目を覚ました彼女に新戸部は言った
腫瘍で股間は全摘出せざる得なかった
病巣はすべて除去したが女の子になってしまったよ
拓哉は全てを理解し一言だけ言った
ありがとう、、、ありがとう
泣きじゃくる少女を前に新戸部は複雑な顔をしたままだった
手術室を片付けながら膿盆の肉塊をなんとなく切り刻んでいた
こんなに彼女が苦しむ道理がなぜあるのだろうか
細切れにした肉塊をさらに執拗に切り刻み、医療廃棄物のゴミ箱へと放り投げた
彼女はそれから10年、二週間に一度新戸部の医院で注射を受けている
高校生の頃、好きな男の子とセックスができない苦しみと見た目が女性なのに女性の幸せを味わえない苦しみを聞かされた
胸が苦しかった
彼女は今30歳になり、落ち着いた大人の女性へと変貌を遂げた
学術的には性分化疾患の子供たちと変わらず不完全な性を精一杯生きながら愛してくれる男性とともにいる
子供をもてない悩みと苦しみを聞き、子育てをする友人との差に悩みを抱えている
彼女の苦悩はきっと今後も続くのだろ
私は彼女を救えたのだろうか
新戸部は今も考えている
少しでも彼女が笑って暮らせたなら
大量出血をし異常な姿で少年のまま亡くならずに済んだのだから
果たして彼女は幸せになったのだろうか
私の不完全な腕で膣さえ作ってあげられなかったのに
今日も彼女が受診してくる
笑顔で入ってきた彼女にエストラジオール製剤を打ちながら僕はいまでも不安になる
私は神ではないが、一人の医師として苦しむ子供を救いたかった
彼女の未来に福音があらんことを願わずには僕はいられない
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投稿:2024.07.06
音楽室の福音
著者 ぽるけっと 様 / アクセス 2037 / ♥ 12