陰茎癌で切除、チンチンが無くなったことを初恋の幼馴染にバカにされる
病院の薄暗い待合室で僕は震えていた。母さんが優しく肩に手を置くが、その温もりさえ感じられないほど緊張していた。
「健太くん?検査結果が出ました」
若い女医さんの声に振り向く。白髪混じりの年配医師が後ろに控えている。診察室へ案内されると、母さんは不安げな表情で隣に座った。
「早川さん、息子さんにしっかり説明してください」父さんが後ろから静かに言った。
「結論から申し上げますと……陰茎癌です」
一瞬、頭が真っ白になった。
「治療の可能性は高いです。ただし、完治を目指すには……」
若い女医さんが何かを言いかけたとき、年配医師が代わりに口を開いた。
「陰茎の全切除が必要となります」
その言葉が耳に入った瞬間、血の気が引いていくのを感じた。
「でも!まだ高一なんですよ!」父さんが思わず立ち上がる。「他に方法はないんですか?」
「化学療法や放射線治療もありますが、完全な除去には外科的手術が最も確実です。ただ……」医師は少し言葉を選ぶように続けた。「再発率を考えれば……」
家に戻る道すがら、誰も口を開かなかった。重苦しい沈黙の中、僕の頭の中では「全切除」「陰茎」「癌」という言葉がぐるぐると回っていた。
「お風呂入る?」母さんが気遣うように声をかけてくれるが、首を振って自分の部屋へ駆け込んだ。
ベッドに横たわり、スマホで「陰茎癌」「全切除」と検索する。出てきた画像と説明に胃液が込み上げてきた。「尿道は会陰部に移設」とある。意味がよくわからないが、もう普通の人とは違う体になることは理解できた。
「童貞のまま終わるのかよ……」
つぶやいた言葉が壁に吸い込まれていく。セックスについて妄想することはあっても、まだ実際に経験はない。でも高校生活はこれからだ。大学に行って、彼女を作って……そんな未来が粉々になっていくようだった。
翌朝、学校に行くと友達は何も変わらない笑顔で迎えてくれた。昨日までの自分なら自然に応じられたのに、今は彼らの何気ない話すら重荷に感じる。
「今日の放課後カラオケ行かね?」
「ごめん、用事があるんだ」
嘘をついた瞬間、胸が痛んだ。このままみんなと違う道を行くのかと思うと怖かった。
放課後、医師からの詳しい説明を受けに再び病院へ行く。手術の詳細図を見せられながら、「睾丸は残ります」「性的機能も一部は……」という説明が耳に入るが、ほとんど頭に入らない。
「健太くん」父さんが厳しい目で見つめてくる。「生きるか死ぬかの問題なんだぞ」
その言葉にハッとした。死ぬかもしれない。それなら……。
「手術……受けます」声は震えていたが、確かに答えた。
帰り道、夕焼けが街を赤く染める。命と引き換えなら仕方ない。でも……本当にそれでいいのか?
夜、ベッドの中でスマホの検索履歴を見つめる。そこには「陰茎癌 治療」「陰茎切除 生活」といった言葉が並んでいた。答えは見つからない。ただ一つわかっているのは、明日から新しい現実が始まるということだけだった。
手術前の夜は眠れなかった。明かりを消した部屋で天井を見つめながら、僕は自分の選択を何度も問い直していた。
「死ぬよりはマシだろ……」
そう自分に言い聞かせても、心のどこかで納得できない自分がいる。同級生たちと一緒に体育の授業で着替え、プールの授業、修学旅行の風呂は絶対にバレるから無理か……今まで当たり前にあったものが全て特別なものになる。
「健太くん、頑張って」
翌朝、手術室に向かうエレベーターの中で震える足に気づいた。看護師が優しく背中をさすってくれるけど、恐怖は収まらない。
母さんの涙ぐむ声が遠ざかっていく。
麻酔が効いて意識が薄れていく中、「これが最後の感触かも」と思った。自分自身の存在そのものを失うような感覚が押し寄せてきた。
「痛かったら我慢しないで言ってね」という麻酔医の声が途切れ、僕の世界は闇に包まれた。
目が覚めた時、下半身に違和感があった。痛み止めが効いているはずなのに、鈍い痛みが広がっている。看護師がカーテンを開けて声をかけてきた。
「おはよう。調子はどう?」
言葉が出なかった。まだ自分がどうなったのか実感できていない。ゆっくりと視線を下に向ける勇気が出ない。
「トイレの練習は明日からね。最初はちょっと戸惑うかもしれないけど……」
その言葉で現実が押し寄せてきた。僕の体はもう違う。もう元には戻らない。
手術の翌日、点滴を受けながら病室のベッドで横になっていた。看護師がやってきて「そろそろ排尿を試してみましょうか」と言う。その言葉に背筋が凍る思いがした。
「あの……どうやって……」
言葉を濁す僕に、看護師さんは慣れた様子で説明してくれた。
「座ってやってもらいます。最初は難しいかもしれませんが……」
車椅子に乗せられてトイレまで連れていかれる。便器の前に座らされたが、どうすればいいのか全く分からない。
「ゆっくりと力を抜いて……そうです」
看護師さんの指示に従いながら必死に尿を出そうとする。だがうまくいかない。いつもと違う角度に尿が飛んでしまい、床に水滴が落ちる音が響く。
「大丈夫です。練習すればできるようになりますよ」
励ましてくれるが、僕の心は砕けていた。数分かけてやっと排尿を終えると、便器から立ち上がることができない自分に気づいた。
ベッドに戻る途中、廊下の窓ガラスに映る自分の姿が目に入った。手術着の上からも分かる身体の変化。それは外見以上に内面の何かを奪われたような気がした。
「これがこれからの僕の日常になるんだ」
帰った後も眠れずにいた。月明かりに照らされた天井を見つめながら、今日の出来事がフラッシュバックする。
『座っておしっこをする』『新しい尿の出口』
全てが現実離れしていて、でも紛れもない自分の体のことなのだ。ふと立ち上がり、病室の小さな鏡の前に立つ。手術着の裾を少しめくり上げる勇気が出た。そこには……もう何もなかった。想像していたよりももっと直接的に「自分自身の欠如」を目にした瞬間、
「あぁ……」
声にならない嗚咽が喉から漏れ出した。涙が次々と溢れ出し、床にぽつぽつと落ちていく。手で拭っても拭っても止まらない。
「なんで……こんな目に……」
退院してからというもの、僕の日常は大きく変わってしまった。
まず何より不便なのが排泄だ。座って小便をするのはやはり慣れなかった。
家ではまだいい。ただ学校のトイレで誰にも気づかれずに個室に入るのが難しかった。クラスの男子たちが当たり前のように並ぶ小便器の前を通り過ぎ、わざわざ奥の個室へ向かう自分の姿が情けなくて仕方がなかった。ドアが閉まるまでのわずかな間に誰かに見られていないか、いつもビクビクしていた。
体育の授業も地獄だった。着替えの時間は他の男子に背を向けて慌てて着替えたが、下着を穿くときの違和感と、腰回りのスッキリした感覚が「失ったもの」をありありと思い出させた。水泳などもってのほかで、「病み上がり」と偽ってずっと見学していた。
**何より辛かったのは、夜のオナニーができなくなったことだ。**
かつては一日に何度も勃起しては一人で慰めていたのが、今は何をしても何も起こらない。股間には「何もない」のだ。ただ、腹の奥底で燻る欲求だけが残り続けた。
「……久しぶり、健太」
放課後の教室で一人、机に突っ伏してうとうとしていた時だった。突然声をかけられ、跳ね上がるように顔を上げると、そこには紛れもなく幼馴染の千佳が立っていた。ロングの黒髪と、昔から変わらない悪戯っぽい笑みが眩しかった。
「千佳……なんでここに?」
「たまたま通りかかったの。相変わらずぼーっとしてるね」
彼女はそう言うと、僕の前の席に逆向きに座り、背もたれに両腕を乗せて顔を近づけてきた。「なんか最近、元気なくない? 顔色悪いし、休み時間もずっと一人だし」
千佳の鋭い視線に思わず目を逸らす。
「実はね……従姉のお姉ちゃんが病院勤務なの。そしたら偶然アンタのカルテを見ちゃったんだって」
心臓が跳ね上がる。逃げられない。
「手術したんでしょ?全部取っちゃったんでしょ?」
彼女の笑みが恐ろしかった。
「もしバレたら恥ずかしいよね?だから……見せてよ」
「は?なにを?」
「決まってるじゃない。なくなったトコロをよ」
その言葉に血の気が引いた。冗談じゃない。だが拒否したら……。
渋々ズボンを下ろすと、千佳の顔色が変わった。
「うわ……本当にない……気持ち悪い……」
予想通りの反応だった。だけど次の一言は予想外だった。
「でもさ……せっかくだから公平に行こうよ」
「え?」
「私も見せるからさ」
そう言うと千佳はあっさりと下着を下ろし、イスに腰掛けた。生まれて初めて見る生身の女性器。しかも初恋の相手の……。もし以前の体なら勃起していただろう。
「どう?これで満足?」
「……」
言葉が出なかった。性的興奮はある。でも応える器官がない。この残酷な現実が一気に襲ってきた。
「あははっ!健太が泣いてる!男の子なのに女の子のアソコ見て泣くなんて変じゃん!」
千佳が笑い転げる中、俺は膝を抱えて泣いた。屈辱と羞恥で涙が止まらない。
「いいもの見せてもらったね……可哀そうだけどもっと面白い表情が見てみたいな」
千佳がスマホを取り出すのを見て凍りつく。まさか録画していたのか。
「これ見たい人いっぱいいるんじゃないかなー?」
次の日の教室は地獄だった。
「おい見ろよこれ」「マジでヤバくね?」
クラスメイトたちの囁きと視線が刺さる。皆のスマホの画面には動画や画像が表示されていた。昨日の自分が泣いている動画や自分の股間の画像だ。
「なんでこんなことできるんだよ……なんで……」
震える声で千佳を見る。彼女はニヤリと笑った。