女児が欲しかった
彼女は科学者であり、母親であり、完璧な女児を夢見る女性だった。
胎児を確認した瞬間、男児であることを知る。しかし、彼女の研究室には既に「胎児期ホルモン操作」の技術が存在していた。倫理など無視し、彼女は実験を開始する。
胎児期から高濃度のエストロゲンを投与し、抗男性ホルモン剤も併用。精巣の発達は阻害され、外性器は女性的に近づき、脳の性分化も女性型へと変わっていった。胎内の子は、科学者の理想像へと「形を変えられて」いた。
出生後、男児として生まれたはずの子は、すでに女児的外観を帯び、乳房も発達を始めていた。思春期に近づくと、母はさらに女児化の手術を施す。外見は完璧な少女だが、子宮は存在せず、精巣は不完全で、体内のホルモン環境も異常を帯びている。
子は母の「理想」という檻の中で育つ。性格は女性的に形成され、温和で共感的、しかし内面には曖昧な違和感と自己認識の混乱が芽生える。母はその矛盾に気付かず、実験の成功に陶酔する。
やがて子は15歳を迎える。外見は完全に少女だが、身体の内部は決して「女児」ではない。性機能も生殖能力も欠如している。科学者の理想は達成されているが、そこに「人間」としての自由も意思も存在しない。
母の理想は、子の人生を完全に支配した。だが、子の心の中に芽生えた違和感は、やがて母の支配を揺るがす存在になることを、誰も予想できなかった。
15歳の誕生日、少女は母の研究室で偶然、埃をかぶった実験ノートを見つけた。
ページをめくるごとに、彼女の目は恐怖に見開かれる。そこには胎児期からの投薬記録、ホルモン濃度、手術の詳細が克明に記されていた。自分の人生は、すべて母の理想のために設計され、操られていたのだ。
胸の奥がざわつき、怒りと悲しみが交錯する。彼女は決意した――元の自分に戻るのだ。
まず思春期の体に必要な男性ホルモンを補充し、外科手術で陰茎や精巣の再形成を試みる。しかし、体はすでに完全に女児化しており、骨格や筋肉、脂肪分布は女性的に固定されていた。ホルモンを与えても骨や乳房、骨盤の構造は変わらず、声も高く、皮下脂肪は減らなかった。
増えた男性ホルモンは筋肉をわずかに増やすが、既存の女性ホルモン環境とのアンバランスを生み、身体は不快な張りや痛みに包まれる。声は中途半端に低くならず、胸の膨らみも残り、歩くたびに違和感が体を支配する。鏡に映る姿は、もはやどちらでもない「中途半端な自分」だった。
心理も追いつかない。かつての母の愛に応えようとしていた少女は、今は怒りと絶望の渦中にある。自由を得ようとした試みは、身体と心の両方を破壊した。
その夜、彼女はベッドに倒れ込み、泣きながら後悔する。母の理想に沿う人生を拒んだ代償は、思った以上に大きかったのだ。
母はそのとき、研究室のドア越しに少女を見守っていた。しかし、もう手を差し伸べることはできない。科学が生んだ“完璧な少女”は、今や自らの身体と人生の制御を失い、苦悩の中に囚われていた。
完璧を求めた理想は、彼女に自由を与えず、幸福を奪った。科学の暴走は、母の手を離れ、少女の人生を無慈悲に縛りつけていた