自己断種の後悔
【注意事項】
・陰茎の切断や、睾丸の摘出はありません。
・精管切断のみの生殖能力の喪失になります。
・こういった話は、この場にそぐわないと言うのであればご指摘ください。
・書き殴ったものになります。誤字や脱字、誤った知識などあるかもしれません。
・それでもよろしければお願いします。
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俺は医者だ。
医師となって暫くは大学病院で様々な症状を見てきた。
しかし診療所を経営していた叔父が病気でリタイアし、俺が診療所を引き継ぐ事になった。
医者の不養生などと言うが、俺は健康的な肉体の維持には気をつけている方だ。
診療所を引き継いでから暫くして叔父は亡くなった。
あれだけ健康だった叔父が?、と思うと俺はどの病のリスクがあるのか?と気になってしまった。徹底的にやらないと気が済まない俺の性分だ。
アレルギーから遺伝子検査まで全てやれることは行なった。
すると、俺にはいくつかの遺伝病の因子があることが判明した。
かつて勤めていた医局での事。
俺の患者のうち、初めて亡くなったのがその病気によるものだった。家族の希望もあり、延命の処置がとられたが、苦しんだ最後だった。
「俺の子供にはあんな目にあってほしくない。自分の血筋を残さない様にしよう」と結論を出す。
そこからの行動は早かった。
数日後。明日からは大型連休となる。
診察が完了し、職員が誰もいなくなった午後8時。俺が勤務する診療所で行う事にした。
静まり返った診療台の診察室。
メス、鉗子、ピンセット、膿盆、麻酔薬…。
俺は様々な器具や薬品の準備を済ます。今から行う正気ではない行為を思うと自重からかため息が出た。
それは、精管結紮術という精子の通り道を切断する手術。いわゆるパイプカットと呼ばれるものだ。
普通に病院で手術を受けるとなると、子供がいない若い男性は断られることが多い。
断られるたびに医院をしらみ潰しにあたるなど効率が悪い。
手術の心得も技術もあるのだから、自分でやればいいのではないかと思いったったのだった。
診察台の前に立つと、俺はベルトの金具を外しパンツごとズボンを脱ぎ下ろし、器具を用意した診察台へと座った。
股を大きく開き、じっと見る。
俺の陰茎は先端まで皮が被さり、ドリルの様に余っていた。清潔にしているにも関わらず悪臭を放ち、割礼の方が先ではないかもと思える。
睾丸も縮こまり胎内へと逃げ込んでいる。
普段はこんな情けない事は無い。陰茎も睾丸も人へ見せても恥ずかしくない大きさだ。包皮だって普段ならば尿道口が見える位には剥けている。
頭では冷静なつもりだが、どうやら緊張して縮こまっている様だ。
性器と周囲に消毒液を塗り込み、縮こまった陰嚢から睾丸を探り出し掴む。
そして自身の陰嚢に麻酔注射器を突き立てる。
「うぐっ…」
痛みに情けない声が漏れる。
まず1箇所、睾丸に薬液を浸透させ効果が現れるのを待った。次に2箇所目だ。この頃になると痛みも軽くなりすんなりと薬液を注入する。その後も数箇所に麻酔を行い薬液が浸透するのを待った。
そして数分後、陰嚢を触ってみると感覚がほぼ無くなっていたようだ。
一呼吸し覚悟を決めると自身への施術を開始。
左側陰嚢の上から精管を探り当て、鉗子と呼ばれる器具で陰嚢の上から精管を固定する。
自身の陰嚢にメスを突き立てる。
麻酔をしているとはいえ、鈍い痛みが走った。
メスの先端から流れる血に、取り返しのつかない事をしている自覚が芽生え全身から汗が吹き出し呼吸が荒くなる。
俺は呼吸を整えると、慎重にメスで自身の陰嚢を切開する。表皮が切り裂かれると膜の様な組織が現れる。改めて別の鉗子で精管を固定し、幕の組織も切開していく。
すると白い管が姿を表す。これは俺の輸精管だ。
俺の睾丸が作り出した精子が、この輸精管を通って精管膨大部へと運ばれる。精嚢から分泌される精囊液と、前立腺から分泌される前立腺液などと混じり合い射精されるのだ。しかし、俺はそれを切断し自らの種を断とうとしているのだ。
俺の精管が体内に戻らない様に、鉗子で2カ所固定し。体外へおよそ5cmほど精管を引き摺り出し剥き出しにする。
こうして切断の準備は整った。
鉗子によって固定さた精管と体内との間の空間に鋏を差し込む。額から汗がたらりと垂れ、顔からぽつりとこぼれ落ちる。先ほどよりも呼吸が荒い。
俺は子供が好きだ。家庭生活にも憧れがある。愛おしい女と愛し合い、生まれる筈だったわが子を思うお、「まだ取り返しがつく」と思うと施術の手が止まってしまった。
数十秒は硬直していただろうか。
ふと、目の前の机に目をやると机上の鏡に映る自身と目が合った。
下半身を露出させ、自身の性器を切り裂き顔面蒼白となっている。
その滑稽な姿を見て、かえって冷静になり意を決する。俺には子供はいらない。命を育て育むよりも、命を救う事を生涯の糧としよう。
鋏を持つ手を動かすと、俺の精管に鋭い刃が食い込みスパッと切断される。そしてもう1箇所、今切った場所とは逆の末端に鋏を入れ、精管を3cmほど切り離した。
切断した精管は感染性廃棄物として処分しなければならないため、膿盆へと置く。
管というだけあって、中には空洞があり精子の通り道となっている。
切り離した精管は勝手に再生する事もあるという。なので、縫合糸で結紮しなければならない。
結紮のために睾丸に手をやると、麻酔のため感触がなく強く握ってしまう。すると精管の切断口から白濁した体液がぷくりと噴き出す。
これは女と愛し合うでもなく、自身を慰め快楽を貪るでもなく、ただ物理的に睾丸から搾り出され体外へ放出され命をつなげる事なく死んでいく俺の哀れな精子だ。
それはまるで自分の体が断種行為に抗議している様に感じた。
そのぽたぽたと滴れる量に我ながら生き汚い遺伝子を持つ物だ、と呆れる。
精管の切断面から垂れる白濁の液を拭き取とると、俺は切断した睾丸側の精管を手に取り、管を折り曲げる。そして縫合糸できつく結紮を行なった。これは自己再生の可能性を無くす処置だ。
もう片方の尿道に繋がる精管には、切断面を電気メスで焼き潰し、こちらも縫合糸で結紮。
そして精管を固定していた鉗子を取り外すと、露出していた左の精管がある程度は俺の胎内へと戻っていく。陰嚢の皮膚を引っ張り、精管を元の位置に戻すと切開した陰嚢を縫合し左睾丸への処置は終わった。
そして右の睾丸にも同じ様に処置を施し、俺は自己への断種を終えたのたった。
一息入れると処置の片付けを行なった。明日から数日の休診を挟むとはいえ、器具を放置はできない。
医療機器や、止血に使ったガーゼなどの処分を行う。
膿盆を手に取るとそこには2本の肉質的な白い管が乗っていた。これは俺の体内で睾丸からせっせと使いもしない精子を運んでくれていた管だ。
この瞬間にも俺の睾丸は精子を作りづけている。しかし輸精管を切断したため、射精しても陰茎から精子が出る事はない。絶頂を迎えても前立腺液や精囊腺分泌液といったものが吐き出されるだけで、生殖機能は持っていないのだ。それらを精漿と言うが、精漿を吹き出す行為を射精と言えるのか?。そんな事を考えていると、役目を果たすことはなかったが健気に働いてくれた俺の一部を取っておこうか、と思い保存溶液を探し出し容器に注ぐとそこに俺の精管だったものを沈め、なんとなく診療机の引き出しの奥にしまい込んだ。
その日から数日、痛みが引かず連休前に行なって心底良かったな。と痛みで思考が働かない頭で考えていた。
一週間後、自慰をした。
未だ続く陰嚢の鈍い痛みから性欲は沸かず、決して欲情からの行為ではない。確認のためだ。
あの日から縮こまったままの、ドリルの様な陰茎を刺激する。排尿時にも剥かなければいけないため苦労している。
官能的な事を思う心の余裕は今はない。機械的に陰茎を摩擦していく。
陰嚢の痛みからか普段より時間がかかるが、それでも体は反応する。
包皮を剥き、亀頭を露出させ、包皮を被せ、また包皮を剥く。この繰り返しを行うと陰茎に血が満ちてくる。ゆっくりと確実に勃起する俺の陰茎。
女を抱くことに不自由のない大きさだ。俺の自慢だった。どんな相手も満足させる自信があった。
忙しさからか暫くこれを使ってやる事はなく、「処置」してしまった。俺は俺の分身が別の人格を持っているのではないか、と感じ不便に思う。
余った皮を亀頭冠の下でこねくり回す。
尿道からカウパー腺が溢れる。
自慰の際、ローションを使ったことなどない。友人たちとの猥談で知ったが、俺はカウパー線の分泌が多い方らしい。
尿道から裏筋に伝うカウパー腺を亀頭へ塗りたくり、指で輪を作り亀頭冠を中心に刺激する。
指の動きを徐々に早め、溢れ出るカウパー腺を陰茎全体へと伸ばし陰茎を摩擦する。
久しぶりの快楽行為に「オカズ」などいらなかった。ただひたすらに性器から感じる快楽に身を任せる。はねる心音、荒くなる呼吸。
「いつものように」睾丸へと手をやり揉みしだく。 ここにはもう排出することが叶わなくなった俺の哀れな精子たちが閉じ込められている。
お前たちは睾丸の中で死んでいくしかないんだ。そう思うと俺の睾丸がなぜか愛おしく思えた。
自分で行った断種行為にも関わらず、深い自己憐憫に陥り、俺は絶頂を迎えた。
陰茎からどぷりどぷりと精液が噴き出す。
徐々に落ち着いていく心臓の音。呼吸も整っていく。いわゆる賢者タイムが俺に訪れる。
カップで精液を受け止めるつもりでいたが、それも忘れて快楽に浸ってしまった。だが、それも不要だった様だ。
尿道を押し出す様に陰茎の根本から指を動かすと、鈴口からはまだ精液が滴ってくる。
一週間以上に及ぶ禁欲からか、黄色みがかった濃厚な精液が排出されていた。心なしか普段よりも鼻につく臭い強い。
鈴口から採取した俺の精液を溶液と混ぜ、電子顕微鏡にセットすると拡大された映像がモニターに映し出される。
そこにはおびただしい量の精子が蠢いていた。
一週間前に作られた精子は、まだ俺の中で蓄えられており体内に存在するらしい。
医学生の時に触れた知識程度で、生殖医療には詳しくないが、おそらく俺の生殖機能は高い方だったのだろう。これが卵子と結ばれれば子供になるはずだったのか、と思うと後悔がないわけではない。
だが、もう断種は敢行した後だ。再吻合という手もある様だが成功率は高くない。
もう、おれは子供を持たない。そう固く誓った。
その後、何度も自慰を繰り返した。
子を持ち暖かい家庭を築きたかった。その後悔を精液と共に搾り出す様に、未だ生殖機能の残る性器を扱き続けた。何度も何度も、一日中、自慰をした。陰茎には度重なる摩擦によって痛みが生じていた。だが、まだ体内に精子が残る以上、手を止めるつもりはなかった。
そしてその日の最後。かつて愛した女のことを思い出し絶頂した。
息も絶え絶えに行なった自慰行為をやめると、最後に射精した精液を電子顕微鏡で確認する。
するとモニターには精子は一つたりとも存在しなかった。
これで、俺にはセックスでは子供を作ることができないことが確定した。俺は種無しになったのだ。
だが、陰嚢を切り裂き、睾丸から精子を直接採取し、人工授精する事で子を持つ事もできる。
しかしそれも睾丸が精子を作り続けていればの話だ。精子の排出がなくなった事で、睾丸が衰え造精機能に影響する事もあるらしい。
精液を事前に保存しておけば、と考えが脳裏に過ぎったが、そもそも俺は女への負担の大きい人工授精してまで子供が欲しいと思う事は無いだろう。
それから数ヶ月。仕事に忙殺されていたが、閑散期に肌の温もりが恋しくなり、「そういう店」へと足を運ぶ。
部屋で待機すると、「嬢」がやってきた。
挨拶もそこそこに「時間がもったいないよね」と俺を脱がす。サービス精神が旺盛な娘らしい。
下半身を見ると「お兄さん勃起してなくても大きね」と俺の陰茎を褒める嬢。
テンプレートなやり取りに冷めそうになるもの愛想笑いを返し、早く抱かせてくれと嬢とのやりとりを進めていった。
厳密に言えば俺の陰茎は生殖器の役割を持たない。
だが、勃起し雄々しく聳り立つ。もはや雄ではないというのに。
手淫によって固くなった俺の陰茎。そこに嬢は避妊具を口でつけていく。
いや、俺に生殖機能などもうないのだから、これは避妊具ではないな、と苦笑する。
もちろん、パイプカットをしていても粘膜をやり取りするのは性感染症のリスクがある。
だからそれの予防の為だ。
愛し合う真似事をする俺と嬢。
偽りの睦合いの中で既にローションで滑りの良くなった女性器へと陰茎を押し当てる。コンドームを通して育む臓器の体温を感じた。
そして一息に愚息をズプリと雌の胎内へと挿入した。
俺は生で性行為をした事がない。
きっとこれからも俺の陰茎は膣のひだを、膣の粘膜を直接感じる事は無いだろう。俺はもう生殖行為を行わないのだから。そう思うと悲しみと共に妙な興奮を覚えた。
俺の陰茎は長い方だ。付き合った女から奥に届いて痛いと言われた事がある。
深く差し込むと、嬢が顔を歪める。
おそらく子宮に当たってしまったのだろう。
こういう職に就いているとはいえ、いずれ愛する男と命を繋ぐ彼女の大切な臓器だ。
借りている身ならば、加減しなければならないな。
小刻みに腰を打ちつける度に、わざとらしく喘ぐ嬢。…とは言え愛らしいと感じる雌の声が、俺の中の雄を刺激する。それに久々の体温の伝達は心地よく、愛がなくとも繋がれば気持ちいい。
しばし久々の膣の感触に身をゆだる。
ふと、彼女の顔を見つめると、かつて愛した女を思い出してしまった。
こんなふうに乱れ、喘ぐ女だったな。
あれは演技だったのかもしれないな…などと、思いっていると嬢の膣がきゅうきゅうと締まる。
それが彼女の技術なのか本気なのかはどうでもいい。俺は自身の絶頂に向かいスパートをかける。
腰の動きを早めると、陰嚢が陰茎の根元へと迫り上がってくる。
昇りつめてくる絶頂の感覚に「出すぞ!」と声をかけると、嬢は甲高い声で「だめ!赤ちゃんできちゃう!」と叫んだ。
俺はその時、俺の中で何か乖離する感覚に陥った。
絶頂は止める事はできず、俺の肉体は快楽に応え、俺の全身の筋肉が激しく爆発する。
「赤ちゃんできちゃう」との嬢の声が脳裏から離れない。
俺の陰嚢が、俺の前立腺が、俺の精囊が、筋肉によって収縮する。
腹の下で喘ぐ雌を孕ませんと、俺の生殖器が全力で稼働しているのだ。
だが、俺の睾丸は応えることはできなかった。
睾丸の筋肉が収縮し、副睾丸で成熟した精子が輸精管を遡る。だが、その先は行き止まりだった。
生殖機能の奔流が、切断され結紮された輸精管の行き止まりで遮断される。
生殖の機会と思い込んだ俺の生殖器だったが、俺の遺伝子を乗せた生殖細胞だけが俺の体内に取り残されているのだ。
俺の膀胱の下で、精嚢分泌液と前立腺液が混ざり合い激しい勢いで尿道を出口に向けて奔り出す。
俺は唸り声とも雄叫びとも取れぬ声と共に、雌の奥底へ叩きつけるかの如く、尿道口から激しく「精漿」を吐き出す。それは1分にも渡るかに思える会陰の躍動だった。
迫り上がっていた睾丸が、ゆっくりと降りていくのを感じた。
結紮痕によって堰き止められた精子も精管を下り睾丸に戻っていくのかもしれないな。と絶頂の余韻のぼんやりとした頭で考えた。
排出される事がなかった精子は、自己免疫細胞によって分解されると言う。となると、俺の睾丸では俺の子供になっていたであろう命の素が、自らの細胞によって殺されているんだろう。と思った。
一息つくとオーガズム直後の刺激に敏感な陰茎をゆっくりと膣から引き抜く。
すると大量の「精漿」で膨らんだ「避妊具」の重みに負けて、俺の陰茎はボロンとこぼれ落ちた。
気だるそうな嬢がそれを見ると、「お兄さん出し過ぎ。こんなに出す人なんて見た事ないよ」と無邪気な顔で笑い、陰茎からコンドームを外し口を縛った。
嬢は「お兄さんカッコいいからサービスしたくなっちゃう」と言うと、俺の尿道に残った残液を口淫で吸い取っていく。
未だ敏感な陰茎の感覚。刺激が強く、俺は曇った声を発して身を捩る。
嬢から「なんでお兄さん泣いてるの?そんなに気持ちいい?」とケタケタ笑われてしまう。
この行為の中で、やはり好きな女と愛し合って子供を作りたい。自覚してしまい後悔した。だから泣いてしまった。
だが「そうだね。気持ち良すぎて泣いちゃったんだよ。」と俺は答えるしかなかった。
そして、部屋を後にする時間となった。
ふと、ゴミ箱に捨てられたコンドームが気になり持ち帰る事にした。「そんなものどうするの」と嬢には笑われたが、「いっぱい出した記念だよ」と言うと、嬢は交換用のゴミ袋の袋に包み渡してくれた。
なぜか帰宅する気になれず、そのまま診療所へ向かう事にした。
足を運んだ診察室。いつも使う椅子に座り、しばし上の空で虚空を見つめていた。
ふと、持ち帰ったコンドームの中の体液を顕微鏡で覗いてみたが、そこには何も動いていなかった。
診療机の引き出しの奥から一つの容器を取り出す。揺れる保存溶液の中で、精管だったものが俺を嘲笑うかのように踊っていた。
俺を斬り落としたのはお前だ。と語りかけて来るように感じた。俺は泣いた。
またそれからしばらくして、日本でも有数の泌尿器科で再吻合手術を受ける事になった。
しかし俺の陰茎から精子が出る事はなかった。
俺は、セックスして女を孕ませる事は出来ない。